バアル6
『お前、何をするつもりだ?』
アンドロマリウスが尋ねた。
「まあ、見ててよ。キーワードは思い込むこと。食べることができたんだ、吐くことだって可能なはずよ」
そう言うとウロコは大きく息を吸い込んだ。
『お前……まさか!』
次の瞬間、ウロコの開いた口から、勢いよく巨大な炎が放たれた。
『こいつ、炎を……はっ、そうか!』
ウロコの吐き出した炎は彼女の左腕に絡み付いた綱に引火し、炎は綱を伝って悪魔にたどり着き、激しく燃え上がった。
「よし、これで動きは止めた。後はどうすればいいのかしら?」
ウロコが尋ねた。
『簡単だ。力一杯ぶん殴れ』
「はぁ!? そんなんでいいの!?」
『それが最適解だ。ドラゴンを悪魔に変えてるオーラを吹き飛ばせば、奴らを元の姿に戻せる』
「なるほどね。そいつは……分かりやすくていいや!」
そう言うとウロコは右こぶしを握りしめた。
「悪いけど私は右利きなんだ。ちょっと揺れるかもしれないけど、力一杯やるためだ。こっちで行かせてもらうよ」
『構わん。さっきも言ったが別にアタシはお前の手の中にいるわけではない』
「そうなの? でもせめて、気持ちだけでもこの右手に置いといてよ」
『は?』
「ドラゴンを救いたいって気持ちをさ」
『……くだらん。置いてやるから、ささっとやれ!』
「へへ。了解!」
そう言うとウロコは力強く大地を蹴って、悪魔との距離を詰めた。
「悪いわね。寝覚めの一発……受け取りなさい!」
ウロコの繰り出した右拳の一撃が悪魔に炸裂した。
悪魔、否、ドラゴンを包み込んでいた邪悪なオーラは吹き飛び、ウロコの前に、一体のドラゴンが姿を表した。
「ふぅ、よかった。元の姿に戻ったのね」
ウロコはホッと胸をなで下ろした。
「ああ。上出来だ、よくやった」
再び姿を表したアンドロマリウスが言った。
「わっ! びっくりした。いつの間に」
「アタシのことはいい。それより」
アンドロマリウスはあごでドラゴンを指した。
ドラゴンは右手のひらから、紋章の刻まれた透明の札を生み出し、それをウロコに差し出した。
「え? くれるの、私に?」
ウロコが尋ねた。
ドラゴンは無言でうなずいた。
「……そう。ありがとう、大事にするわね」
ウロコはドラゴンから札を受け取った。
そして、ドラゴンはどこかへ飛びさって行った。
「さてと……これにて一件落着ね」
村人の手当てを終えたウロコが言った。
「アホか。まだ、71の内のひとつ目だ。まだ70残ってる」
アンドロマリウスが答えた。
「そんなの分かってるよ、アンマリ」
「ふん……ん? アンマリ? なんだそれは」
「何って、あなたのニックネームよ」
「はぁ?」
「アンドロマリウスだから、アンマリ。呼びやすくてよくない?」
「なっ!? ……こいつ、他人の名を勝手に」
「さてと、動いたら腹減ったし、何か食べに行こうよ。この世界のおすすめ、教えてちょうだい。アンマリ!」
「だぁ! そのふざけた呼び名をやめろ!」
二人は村を後にし、遥かなる旅路への一歩を踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます