第32話 作って欲しいもの色々
「お風呂の時にこれで体を洗うと、さっぱりしますよ。後で洗い流さないといけないですけれど。髪の毛も洗うと良いと思いますが、洗った後は必ず油を塗らないと髪がパサパサになりますね」
日本では皮膚につく寄生虫なんかはいないから、必ずしも体を石鹸で洗わないといけないってことはない。蚤とかダニはいるけど、これは石鹸で洗ってても関係ないしなぁ。
でも皮膚病予防にはいいのかもな。
一番効果があるのは、髪の毛につくシラミかもしれんね。現代でもシラミってよく聞いたしな。
「ぱさぱさ、かね。ふうむ。乾燥している状態のことかね?」
「あ、そうです」
しまった。カタカナ言葉って、この時代では馴染みがないんだった。でも意味は伝わったみたいだからいいか。
「なるほど、言い得て妙ですな」
ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、と和尚さまが笑った。
「髪につける油は何でも良いのですかな?」
「そうですねぇ。椿油が一番いいのですけど……」
圧搾機がないと、効率的に油が取れないんじゃないかなぁ。今でも椿油は流通してるけど、あんまりたくさん作れないから高級品なんだよな。
圧搾機があれば椿の種なんかはいっぱい採れそうだから、今よりは流通しそうだけどな。
信長兄上に製作を依頼してるけど、もうできたのかね。
俺は専門家じゃないんで、圧搾機をどうやって作るのかは分からない。だから前にTVの「剛腕でGO」で見た形をそのまま伝えている。
臼の内部を湾曲させないで真っすぐにしてそこに溝を作る。その溝に合わせた大きなネジを作る。臼の下には潰されて出た油とかが外に流れるように、小さな穴を明けておく。そして大きなネジを閉めていって、臼の中にある実を潰していく。
一応、イメージ画みたいなのは描いたけど、和紙に筆だからなぁ。ちゃんと伝わったのかは謎だ。
できれば鉛筆とノートが欲しいけど、それは無理だ。せめて鉛筆っぽいのがあればいいんだけどな。鉛筆の芯って、灰っていうか
それよりも和紙に描くならクレヨンみたいな物の方がいいかな。鉛筆だと和紙に引っかかってうまく描けなさそうだよな。大体のデッサンでいいなら、クレヨンの方が描くのには向いてないか?
クレヨンなら「剛腕でGO」で作ってたけど、蝋と顔料だけでいいんだよな。顔料っていうのは色のついた石を粉にした、色の元になるものだ。それなら今でも絵の具として使ってるから用意できる。
蝋ならハゼの実から取れるし、圧搾機ができれば、クレヨンもできるんじゃないか?
そしたら説明するのも楽になるなぁ。もっと複雑な構造の物も作ってもらえるようになるかもしれないな。
あれが欲しいんだよなぁ。手押しポンプ。ただ部品の種類が結構多くて、細かいんだよな。プラスチック製のパイプ部分は竹を使って、パッキンはゴムがないから皮で代用すればいいな。「剛腕でGO」でも古いポンプの修理の時に、皮を使ってたしな。
でも取っ手のところは金属じゃないと壊れそうだ。
原理自体は簡単なんだよな。あれだ。注射器で水を吸っても、こぼれないのと同じだ。手押しポンプは注射器のように水を吸った後に、下に蓋をしてこぼれないようにしてから、上のほうから水を出すだけだからな。
いや、実は手押しポンプって、一度作ったことがあるんだよ。
従妹がさ、なんだか演劇にハマっちゃって。一応小劇場で主役できるくらいには出世したらしいんだが、なんでも「奇跡の人」を演じるのに、手押しポンプが必要だから作ってくれって頼まれたんだよ。
当時、俺は暇な大学生だったから頼まれたんだろうけどさ。
「奇跡の人」はヘレン・ケラーを題材にした舞台で、目が見えず耳も聞こえなくて動物みたいに育ってた子が、サリバン先生っていう家庭教師のおかげで指文字を覚えて、人間らしさを取り戻したっていう感動的なお話だ。
でもって手押しポンプはヘレン・ケラーがポンプでくみ上げられて流れる「ウォーター」と、指文字で伝えられた「Water」という言葉が同じものだってことを理解する重要なアイテムなんだ。
で、従妹の実家は田舎で井戸があった。そして役作りに悩んでた従妹は、実際に手押しポンプの水を見れば何かつかめるんじゃないかと思った。周りをみたら、暇そうな大学生の俺がいた。
いや、そこで普通に手押しポンプ買えばいいじゃんとか思うよね? でも結構高いし、これからも使うかどうか分からない物に出すお金はないって言われて自作したんだよ。もちろん材料代はもらったけど、工賃は従妹じゃなくて料理上手な伯母さん手作りのカレーだった。
あれ? 俺、なんかいいように使われてないか?
でも結果的には今、その知識は役に立ってるんだし、良かったのか?
んん? どっちだろうな?
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