共益同盟

『コンコン』


 ビールが到着、


「来たばっかりで悪いけど、もう二ダースとソーセージの盛り合わせをお願い。ポテトサラダもね」

「サラミとカルパスも」

「それとフライドチキンとフィッシュ・アンド・チップスとシーザーズサラダ、ビーフステーキとペンネグラタンも」

「それにチキンハムロールとピザも」


 ビールといっても小瓶ですから、底なしと大ウワバミの三人ですから、見る見る無くなっていきます。


「どうも物凄いやり手の騎士団長が就任したみたいで、そこから騎士団の急成長が始まるのよ。その騎士団長が作り上げたのが共益同盟」


 やっと話がつながった。共益同盟の手法はまずその企業の活動範囲を決め、そこでの独占的な活動を認めたうえで、他の範囲への進出を禁じるというものだそうです。


「まるで中世のギルドみたいな」

「いやミサキちゃん、あれはギルドと言うよりマフィア、いやヤクザやテキヤ的なやり方よ」


 まず共益同盟は活動範囲、いやこれは縄張りと言った方がわかりやすいと思います。これを勝手に決めて企業に押し付けるそうです。企業は縄張り料を支払わされ、新たな分野に進出しようと思っても、そこの縄張りを買い取らなければならないとなっています。


「縄張り料は売り上げの二・五~五・〇%だそうだよ」

「それってボッタくりそのものじゃないですか。利益じゃなく、売り上げからそれだけ払わされたら商売になりません」


 そんなものに誰が加盟契約するかと思うのですが、会員は募集や会員ではなく指名だそうです。さらに信じられない事に、これまで指名された企業はすべて契約を結んでるってことです。


「それって何か脅迫を伴ってるとしか考えられません」

「そやろ」

「警察なりに訴えたら済む問題じゃ」

「それが、なぜかそうならへんのよ」


 シノブ専務の調査を以てしても難航しているようですが、その脅迫は強烈みたいで、こんな企業を破滅させかねない契約を結ばされるだけでなく、契約を結んだこと、ましてや契約内容すら怯えきってなかなか教えてくれないそうです。


「これって企業ゴロの悪辣なものです」


 ユッキー社長は名うての企業ゴロ嫌い。日本でもヤの付く自由業系や、右翼系、さらには総会屋系の企業ゴロはいます。クレイエールも綾瀬前社長の時代までは、これも『付き合い』として、みかじめ料を払っていたようですが、ユッキー社長は就任と同時にすべて絶縁にしています。

 ヤの付く自由業系や、右翼系の団体では実力行使もありましたが、ユッキー社長に手を出した者は大変な目に遭います。ユッキー社長はその連中をコントロールして警察に殴りこませています。警察襲撃なんかやらかせばそのまま現行犯逮捕で、所属組織まで捜査の手が回ります。

 コトリ副社長なんてもっと過激で、三宮で襲われた時なんか、余程虫の居所が悪かったのか海まで放り投げています。これは目撃者もいたので警察沙汰にまでなったのですが、


『三宮から海まで放り投げられる人間がいると考える方がおかしい』


 この弁護団の主張を誰も覆すことはできませんでした。ちょうどその時にルームサービスが来て、


「うっひょ、ステーキだぞ」

「このフライド・チキン、けっこうクリスピーで美味しい」

「ミサキちゃん、ピザはどう」

「なかなかです」


 さすがはプリンセス・オブ・セブン・シーズでルームサービスの質も一級品です。テーブルも賑やかになり、ビールも補充されたところで。


「やはり相手は神を考えてられるのですね」

「だからコトリもユッキーも行くんやないか」

「でも神なんて殆ど残っていないはず」

「そのはずなんやけど」


 確認出来る範囲で神と言っても、エレギオンの五女神とユダとそのカード、あえて付け加えてもアラぐらいしか思いつかないのですが、


「神の起源はアラやユダの話を信用すると一万年前じゃない。そこからわたしやコトリの記憶が始まるまで五千年よ。長過ぎるのよ」

「どういうことですか」

「記憶を継承しない神が生き残るのによ」


 五千年となると、平均寿命五十年としても百回の胎児からの宿主代わりが必要です。生き残れる確率はゼロに等しいとしても良いはずです。


「だから五千年前に生き残っていた神はすべて記憶を継承する神と見た方が良いと考えてる」

「でもアラッタの主女神はどうなんですか」

「自分で継承する記憶を封じたのよ」


 それが出来るのはコトリ副社長にミサキはされてますし、ユッキー社長やコトリ副社長も四百年前の兵庫津で行ってます。コトリ副社長は重ねて、


「記憶の継承能力は神の力の強弱でもなさそうやねん」

「どういうことですか」

「カジノの支配人も生き残ってるやんか」


 そう考えるのか。そうよね、そう考えないと辻褄が合わないもの。さらに、


「それとやけど神が見える能力やけど、あれは神の力に依存していると見て良さそうやねん。だってやで、コトリやユッキーだけでなく、ユダもクソエロ魔王もデイオルタスもみんな見えるやんか。使徒の祓魔師が見えたんは能力不相応の例外でエエと思う。だってミサキちゃんやシノブちゃんは見えへんやろ」


 次のビールを開けながらコトリ副社長は、


「話をちょっと絞ろか。目的は神退治でエエねんけど、最大のポイントは勝てるかどうかやねん」


 神同士の戦いは始まってしまえば生きるか死ぬかであり、さらにパワーの純消耗戦ですから、強い方が必ず勝ちます。社長や副社長には一撃と言う秘密兵器もありますが、これさえ相手次第で外れたり、通用しなければ終りです。


「ユダでさえ社長と副社長がコンビを組めば勝てるのでは」

「だから、記憶の継承による生き残りの話が出てくるんよ。エンメルカルでさえ生きてる可能性があるやんか」

「でもエンメルカルぐらい強大な神であれば、その宿主の系譜がある程度残るのでは」


 コトリ副社長はビールをグイッと飲み干して、


「イエスや」

「えっ」

「あれはどう考えても、長いこと隠れとったんが突然現れたとしか考えられへん」

「でもそんなことは不可能じゃ」

「いやありうる。たとえばシオリちゃんとこの主女神が突然目覚めたぐらいのケースや」


 なるほど、


「もしイエス・クラスやったら、ユッキーとコンビ組んだぐらいじゃ追いつかへん。主女神叩き起こして一体化ぐらいせんと間にあわへんようになる」

「敵はそんな強大な神なんですか」


 ここでお二人は笑われて、


「それを確認しに行くんやないの」


 サザンプトンに上陸してからが本番になりそう。これはかなり気を引き締めないといけなそうな気がする。ミサキは迫りくる対決の日に緊張感が高まっていたのですが、


「ところで、イギリスからフランスに渡る前に、ちょっとイギリス観光もしておこうと思うの」

「そうなんや、とりあえず行きたいところは・・・」


 ロンドン塔やバッキンガム宮殿、大英博物館は行ったことがあるからパスは良いとして、エジンバラ城に、ストーンヘンジ、アイラ島の醸造所巡りに、カーディフ城やカーナボン城だって、


「イギリスは何泊の御予定ですか」

「サザンプトンが午前中に着くから、その日のうちにパリに行けたらと思ってるの」

「さすがにそれじゃ短いから、ロンドンに一泊ぐらいしてもエエとは思ってるけど」

「それとロンドンで、お買い物したいよね」


 こいつら、からかってるだけやろが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る