寄港地観光
今日はデッキ2のザ・ベランダでランチ。プリンセス・オブ・セブン・シーズは客室のランクによって食事できるところが変わりますが、そういう客室ランクに関係ないレストランもあり、その一つがザ・ベランダです。ここもなかなか豪華なスペシャリティ・レストランで、窓際の席に案内されましたが、レザーのシートで高級感満載です。
「ここもまずまずね」
「うん、けっこう凝ってるし」
ちなみにお二人は味には非常にシビアです。ただ不味くても平気で食べてしまい、下手すりゃお代わりまでされます。味にウルサイのと、食べ物がもったいないというか、空腹を満たす目的が綺麗に分離しているとしても良さそうです。
「ほいでも、メシ食うたびに服がうるさいのだけはかなわんわ」
「それは、あるある」
夜はクイーン・グリルが殆どですが、ディナー・タイムになるとフォーマルないしインフォーマルのドレスコードが出されます。ザ・ベランダはランチ・タイムなのですがインフォーマルとなっています。
「でもまあ、ここはそういうレストランじゃない」
「やろな」
エコノミー客はクイーンやプリンセスのグリル・クラスを利用できないどころか、立ち入り禁止になっています。そうなると、一度は食べてみたくなるのが人情で、グリル・クラスの料理を想像するところかもしれません。
「それに有料やろ。クルーズ中の贅沢かもしれへん」
プリンセス・オブ・セブン・シーズは客室等級によりレストランが変わるクラシックなシステムを取っているだけあって、食事代も基本はコミコミです。エコノミー客もランチならリド・レストランでバイキングぐらいにしておけば、追加費用がかからないのですが、あえて払って食べにくるのですから、気合が入っているといえば入っています。
ランチが終わり、社長と副社長はスパに行きたいとのことでしたが、ミサキは別れて船内をブラブラと。お二人と一緒にいると楽しいのですが、とにかく一日中顔を突き合わせているので、ちょっと気分転換です。ここのところこういうパターンが多くなっています。プロムナード・デッキをお散歩したり、ロイヤル・アーケードを見て回ったり。
そうそう女神の秘書の仕事もあります。寄港地では観光と言うことになるのですが、お二人はオプショナル・ツアーぐらいでは満足してくれないのです。
「ミサキちゃん、せっかく来たのだから」
「そうよ、もう来れへんかもしれへんし」
後千年も生きつづけりゃ、また来れます。どうせ死なないんだし、永遠に忘れないし。もっとも二人の記憶は果てしなく長いのですが、そんなに世界各地を回っている訳ではないようです。いや、回ってるのは回ってるのですが、
「アラッタからエレギオンまでは大旅行だったけど、エレギオンに住み始めてからは、エルグ平原、ハムノン高原、それとアングマールに行ったぐらい。アカイオイさえ行ったことないもの」
「そやねん、次の大旅行はエレギオンからシチリアやんか。シチリアに住んでからも、商売が商売やから、せいぜい対岸のタラントぐらいまでやねん」
「そうなのよ。まあシチリアから日本に来るのは大旅行もイイとこだったけど、どの旅行にしても観光なんて余裕はなかったし」
世界各地を回り始めたのはクレイエールが世界企業になって海外出張が増えてからで良さそうです。ただこれも仕事ですし、オンとオフのケジメはコトリ副社長でさえ厳密にされますから、あれだけ海外出張があっても、観光となると接待ついでのオマケぐらいの事がほとんどです。
そのためかとにかくあちこちを回りたがります。セーシェルぐらいのリゾート地ならまだしもなんですが、コロンボの時も大変でした、
「まずはキャラニヤ寺院にシーママラカヤ寺院、ガンガラーマ寺院は外せんへんな」
「コロンボ国立博物館も外せないし聖アンソニー教会も行っておきたい」
「中は入られへんそうやけど、旧国会議事堂とジャミ・ウルアルファーモスクも見ておきたい」
「時間があったらゴールフェースと独立広場、ヴィハーラマハーデーヴィ公園も行きたい」
「ザ・ダッチ・ホスピタルでお土産物探したいし、ペター市場ものぞいておきたい」
さらに、
「お昼はわたしはカニがイイ」
「コトリはやっぱり本場のカレー」
「アーユルベータ体験は外せないわね」
「宝石も見ときたいし」
だいたいこんな調子です。ケープタウンも大変だったのですが、次はナミビアのウォルビスベイ。ミサキはなんで寄港なんかするのかと思ってたぐらいでしたが、
「ラグーンの遊覧クルーズでしょ、ナミブ砂漠でしょ」
「そうそうソサスブレイとデッドブレイ、ムーンランドスケープ」
「時間があったらエトーシャ国立公園にも行きたいし、カオコランドも行きたいし、お土産買いにリューデリッツも寄ってみたい」
「うん、トゥウェイフルフォンテーンも外したくないし、シュピッツコッペもフィッシュリバー・キャニオンも・・・」
毎度の事ですが、
「六時に入港で、十七時出航です」
「うわぁ、十一時間もあるんだ、一ヶ所一時間ぐらいとしたら回れるよね、ミサキちゃん」
「回れません」
「それを何とかするのが女神の秘書」
「女神の秘書でも無理です」
「じゃあ、どれ外そうか」
「ミサキが決めます」
こいつらのリクエストにまともに対応してたら、ヘリぐらいチャーターしても追いつかなくなります。女神の秘書がミサキでないと務まらないのは、お二人に問答無用で『NO』と言えるからかもしれません。それでも可能な限り応じてあげたいので、デッキ1のツアー・オフィスのスタッフとはすっかり顔馴染みというか常連になっちゃいました。
それでもウォルビスベイが過ぎれば次はリゾートのグラン・カナリア島で、さらにその次は最終到着地であるサザンプトンです。にしても、サザンプトン到着後の予定はまだ聞かされてませんが、この勢いでイギリス観光されたら大変そう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます