102

私が一人自問自答していると、ふいに柴原さんが振り向く。


「美咲もおいでよ。たまには映画でも見る?」


「明日も仕事なのに、そんなの見てる余裕ないでしょ。」


「ははっ。そうだよね。」


でも呼ばれたので私はおずおずと隣に座った。

見ていたのは録画していた子育ての番組だった。


「こんなの録画していたんだ。」


「今度子供用のアプリでも開発しようかな?」


「もうアプリよりAIとかIoTの時代じゃないの?」


「美咲は先見の明があるね。うちの会社で働く?」


言われて、あの綺麗なオフィスを思い出す。

と同時に、あの美人さんたちに囲まれている柴原さんを想像してモヤっとなった。


「柴原さんの会社、綺麗な人が多いよね。柴原さんって面食いなの?あんなとこで働くには勇気いるわ。」


嫌味ったらしく言ってやったのに、柴原さんは私の髪を撫でながら、


「美咲が一番可愛いよ。」


と爽やかに言い放った。


「………この番組、なんか、勉強になるね。」


「ああ、無視された。」


私のツンツンした態度にも楽しそうに柔らかく笑う。ウズウズと嬉しさが込み上げてしまい、私はごまかすようにテレビの画面を見つめた。


「美咲はツンデレだね。」


「~~~っっっ!」


言い返す間もなくそっと手が重ねられる。

温かくて心がほわほわして、しばらくそのまま手を繋いでテレビを見た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る