081

「ふふふ。」


突然姉が笑い出し、私はまたもやムッとする。


「何が可笑しいの?」


「ううん、ごめん。私を怒ってくれるのは美咲だけだから、嬉しいの。」


意味不明だ。

訳がわからなくて眉間にシワを寄せると、姉は私の手を取り優しくにぎった。


「私は美咲が羨ましいのよ。」


「何言ってるの?」


姉は思い出すようにゆっくりと話す。


「お母さんが再婚して私に妹ができたときは本当に嬉しかった。特にお父さんが大喜びしてたわ。でもそれからしばらくしてお父さんの態度がおかしくなった。私はお父さんの実の娘じゃないし、思春期にも差し掛かっていたせいもあったんでしょうね。お父さんは私を腫れ物でも触るように接したの。一切怒らない。まるで他人行儀よ。」


子供の頃の思い出はあまりいいものはない。思い出せば思い出すほど、姉だけが褒められ私は怒られる。そんな光景しか思い出されない。それなのに美咲が羨ましいとは、まったくもって意味がわからない。


「私はお姉ちゃんが羨ましかった。怒られるのはいつも私。親の愛情はお姉ちゃんにばかりいってたじゃない。」


「そう見えてしまったのかもね。実際愛情なんてないわ。ただ甘やかされただけ。」


「そんなことない。お姉ちゃんはたくさん褒めてもらったじゃない。私は親に褒めてもらったことなんてない。誰も私のことなんて褒めてくれなかった…。」


そこまで言ってハタと気付いた。

誰も褒めてくれないんじゃない。

私を褒めてくれるのはいつも姉だ。

姉だけは私を褒めてくれていた。

テストでいい点を取ったときもいい大学に入ったときも、大企業に就職したときも、姉は「美咲はすごいね!」って毎回褒めてくれていた。

いつも私のことを見てくれていたのは姉だった。


それから、もうひとつ気付いた。

気付いてしまった。


柴原さんがすずを褒めるとき、いつもモヤモヤした感情が生まれていた。

なぜだろうとずっと思っていた。

これは嫉妬だ。

私はすずに嫉妬していたんだ。


私もすずのように、柴原さんに褒められたかった。

褒めてもらいたかったんだ。

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