077

姉は私に”離婚して好きな人と結婚する”と言った。だからすずと柴原さんは私にあげると言った。

そんな姉が癌で入院だという。


すずを見捨てたからバチが当たったに違いない。そんなやつになぜ会わなくてはならないのだ。今さらすずの母親面されても困る。


「お姉ちゃんの恋人はどうしてるんですか?」


ムカムカとした気持ちが抑えられない私は、ぶっきらぼうに聞く。牧内さんは眉間にシワを寄せた。


「恋人?そんなのいないわ。」


「捨てられたんです?ざまあないですね。すずを捨てるようなやつ、捨てられて当然ですよね。」


吐き捨てるように言うと、牧内さんは一旦頭を抱えフルフルと首を横に振った。


「美咲さん、有紗に何を言われたか知らないけど、有紗はずっとすずちゃんを大事に育ててた。それだけは本当よ。」


「だけど私に押し付けたじゃないですか。」


「頼る人が美咲さんしかいなかった。ううん、安心してすずちゃんを任せられる人が、美咲さんだったのよ。」


「ありえないです。」


私はバッサリと切り捨てた。

牧内さんの言うことは姉を擁護するものばかりだ。姉の勝手な行動に振り回されてきた私には怒りしかわかない。


「とにかく、一刻も早く有紗に会って。今ならまだ、調子がよければ話すことができるから。早くしないと本当にもう。」


そこまで言って牧内さんは目頭を拭った。


牧内さんは自分の名刺の裏に、姉の入院先の病院と病室を書いて私に渡してくれた。


私はどうしていいかわからなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る