第381話 海水浴4、水泳教室1


「よーし、皿に盛ってある方からどんどん食べて行ってくれ。ジュースはここに出しておくから、好きなのを飲んでくれ。よく冷えてるからおいしいと思うぞ。あと、刺身もアスカが作ってくれているから、そっちもな。

 ラッティー、俺が取ってやるから、何が食べたい?」


「お肉と、ホタテと、トウモロコシかな」


「了解。エビもおいしそうだけど、どうだ?」


「それじゃあ、エビも」


「熱いから気を付けろよ」


「はーい」


 取り皿の上にラッティーの注文を乗せてやり、木製のフォークを付けて渡してやった。取り皿を受け取ったラッティーは砂の上にそのまま座り込んで食べ始めた。


 そしたら、他の連中も、手に手に取り皿をもって、ラッティーにならったように砂の上に座って、海の方を向いて食べ始めた。


 ちょっとの時間、日差しを浴びただけだが、結構みんなの背中が赤く焼けている。日焼けは軽いやけどなので、これ以上焼けると痛くなるかもしれない。まあ、やけどと分かっているなら、簡単にヒールポーションで治るだろうから心配はいらないだろう。


「ショウタさん、手伝いましょうか?」


 今度はシャーリーが手伝おうかと言ってくれたが、手伝ってもらうほど大変な仕事ではないので、


「ありがとう、そんなに忙しくはないから、好きなものを食べて遊んでていいよ」


「ショウタさんは遊ばないんですか?」


「ここでみんなが遊んでいるのを見てるだけでも楽しいからいいよ」


「水着の私たちを見てると楽しいんですか? 私もみんなみたいに上下が別れておへその出た水着が良かったなー」


 ちょっと、顔を赤らめたシャーリーに突っ込まれてしまった。どうする? どう答える?


「シャーリー、おまえは心得違こころえちがいをしている。おまえとラッティーには特別にその水着を作ったが、これはマスターの願いなのだ。その名も『スク水』という。マスターのいた国では、選ばれた者しか『スク水』を着ることは許されていない。おまえたちは、選ばれしエリートなのだ」


『選ばれしエリート』とかよく考えてみると、何だかわからない言葉だが、アスカがアジ演説を始めたおかげで、俺の方は危機を脱することができた。


『「スク水」「選ばれしエリート」……』そうシャーリーがつぶやくのが聞こえたような気がするが、聞かなかったことにしよう。


 シャーリーの方は何とかなったが、今度は、周りで座ってバーベキューを食べている連中が、ひそひそ声でなんだか話している。


 聞き取りたいような、聞き取りたくないような。とはいえ、耳に入って来るものはしょうがない。


『見ているだけで楽しい……』


『特別な水着……』


『小さな子が好きなのかも……』


『幼女……』



 俺の周りには今現在、十数名のうら若い女性たちが、水着姿で腰を下ろしている。これは事実だし、はた目から見ればまさにハーレムだ。


 でもね、女子がたとえ水着姿であろうと、囲まれているだけでは、決してハーレムではないんですよ。こういった状況は逆に針のむしろというんです。


 ああ! 夏の太陽がまぶしい! 汗が目に入ったのかな。視界がかすむ。



「マスター、そんなにきょろきょろ・・・・・・眼球を動かしていては目が霞んでくることもあります。そろそろ休憩しましょう。マスターは私が以前『スカイ・レイ』用に作った木製の座席を出してくつろいだらいいと思います」


 視界だけはハーレム状態だったけれど、バレテタ。


「そうだな。ここでバーベキューを焼いていると妙に暑いし、今焼き上がっているのを皿に取ったらここは誰かに任せて一休みするか」


 アスカが以前作ってくれた座席は、飛空艇用の座席なので体を横たえるようにゆったり座れる。


 バーべキューはミラとソフィアに任せて、俺は収納から取り出した座席で体を伸ばしてゆっくりすることにした。アスカにも俺の隣に座席を出したので、アスカもそれに座って休憩するようだ。


 目をつむっていてもまぶたの裏側が明るいので、頭に巻いていたタオルをたたんで目の上に置いてゆっくりくつろぐ。


「こういった、島でのんびりできて、まさに天国だな」


「最近、いろいろなことがありましたから、マスターも精神的にお疲れだったでしょう」


「そうなんだろうな。気疲れはあったかもしれないけれど、いろんな意味でよかったと今では思っている。いざとなってもためらいなくみんなを守れるしな」


「マスターがそこまで気にかけなくても、私がみんなも守りますから安心してください」


「そうだったな。これからもよろしくな」


「もちろんです」




 さて、俺もせっかく海に来たから、ちょっと遊んでこようかな」


「それでは、一緒に波打ち際まで行きましょう」


 俺たちの周りで、バーベキューを食べていた連中も、俺とアスカが揃って海の方に向かって行ったので、持っていた皿を置いて、俺たちの方に駆け寄ってきた。これだと、ミラとソフィアが可哀そうなので、二人にことわって、バーベキューコンロや調理台などそのまま収納しておいた。また調理したいときにそのまま出せばいつでも続きから調理を始めることができる。


「せっかくですから、みんなに泳ぎを教えましょうか?」


「それはいいな。いつ役に立つか分からないものな」


「それでは、マスターはどうします?」


「俺もアスカに泳ぎを教えてもらおうかな。ここみたいに遠浅ならそんなに怖くなく泳ぎが練習できるかもしれない」


 俺たちと一緒に遊ぼうと、周りにみんなが集まって来たところで、アスカが、


「せっかくなので、今日はみんなに泳ぎを教えようと思う」


 この言葉に対して、よくわかっていないエメルダさんとパトリシアさん二人だけは普通の顔をしていたが、残りのみんな一様にマズッたというような顔をしたように思える。


 鬼の教官モードのアスカを一番よく知るイエロー四人組が一番はっきり嫌そうな顔をした。


「いきなり泳げと言っても難しいので、まずは水に慣れるところから。

 それでは、もう少し岸から離れて、腰のあたりまでの深さのある所に移動!」


 アスカが先頭に立って進んでいく。その後を、遅れ気味にみんながついていく。


「それでは、まず水に慣れるその1、

 海水に顔をけて、海の中で目を開けて、10まで数える。

 みんないいな、それでは、始め!」


 俺も、みんなと一緒にアスカの号令に合わせて、海水に顔を浸けて、目を開けた。思った以上に目が痛いが、思ったレベルが小さかったようでそこまで痛いわけではなかった。1、2、3、……、9、10。


 フー。顔を上げたところ、第一関門はみんな突破したようだ。


「今できなかった者は、もう一度。息をちゃんと吸ってから顔を浸けないから失敗したんだ。それでは、始め!」


 シャーリー、エメルダさん、パトリシアさん、ミラとソフィアが海水に顔を浸けた。結構できていなかったんだ。ラッティーがちゃんとできたのには驚いた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る