第378話 海水浴1、水着準備


 海水浴に行く前に、うちの女性陣のために水着を作ってやろうと、生地というか水棲モンスターの皮を素材として購入した。見た目は、水着にピッタリのような素材なのだが、果たしてどういったものができ上るのかは、アスカにしか分からない。


 アスカが思い描く水着の形は、俺の記憶を元にしたデザインになるだろうから、とんでもないものはできないと思う。しかし、アスカの場合何かしらのアレンジをしてしまう可能性がある。今回の素材にはツルツル、ウスウスという妙な特性付きだ。なにも起こらなければいいのだが。


 一応買い物は終わったので、屋敷に帰って昼食をとった。今回はアスカははがねで針を作るだけなので、鋼の端材を渡しておいた。


 一応女物おんなものの水着なので俺がじろじろ製作過程を見学するわけにもいかないので、水着作りはアスカに任せて、俺はここ数日相手をしていなかった、ブラッキーとホワイティーが駆けまわっている北の草原くさはらに行っていやされてくることにした。


 二羽は巨木の周りを駆け回り、たまに枝に上って滑空かっくうする。滑空中にも翼を何度かパタパタできるようになったためか、北の草原の中を、三周くらい飛べるようになっていた。


 俺を見つけて突進してきた二匹を抱きとめて、羽根や背中の毛をわしゃわしゃしてやる。確かに癒される。犬ではないので顔を舐めたりはしないのだが、


『お父さん』『お父さん』


 と言って、額や首筋を俺の顔や体になすりつけてくる。


 まさに、デヘヘ状態だ。


 二羽と一緒になってかなり遊んでいたら、アスカがやってきた。そしたら、今度は二羽は、


『お母さんだ』『お母さんだ』


 と言いながらアスカの方に突進していった。


 一通り、わしゃわしゃされて二羽も満足したのか、また、原っぱの中を走り回り始めた。


「マスター、とりあえず水着を人数分作ってみました」


「結局女子全員分作った? エメルダさんたちのも?」


「はい。作り始めてしまえば時間はかかりませんので」


 そこはアスカだし、一つ作るのも百個作るのもおそらく同じ時間しかかからないんだろうからな。


 二羽に手を振って、屋敷に戻った。ブラッキーとホワイティーも心得たもので、俺たちが手を振ると駄々をこねることなく自分たちで遊び始める。実に飼いやすい二羽だ。



 でき上がりの水着はアスカの部屋にあるそうなので一緒に部屋の中に入ると、部屋の奥のアスカの机の上に、でき上った水着?が山になっておいてあった。


「まずこれが、マスターのパンツです」


 アスカが俺に膝丈ひざたけの海水パンツを手渡してくれた。前側が紺色で後ろ側が白のこれもツートンカラーというのか。ツルツル、テカテカの素材なので、なんだか体にぴったりフィットし過ぎな感じの海パンだった。


「この海パン、ちょっと小さくないか?」


「問題ありません。素材の関係で今は小さく見えますが、けばちょうどよい大きさになります」


「ふーん」


 せっかくアスカが作ってくれたのだから、ありがたくいただいておいた。


「そしてこれが、ラッティーの水着です」


 そう言ってアスカが俺の前で広げたものをみたところ、まさに紺色のスク水。ただ、ラッティーの水着だとしてもかなり小さい。アスカが言うように着ればちゃんとした大きさになるんだったらいいのか。


 この水着も素材の関係でぬるりとしたつやがある。その上、胸の辺りに四角く白い布が縫い付けられており、黒字で『らってぃー』と日本語のひらがなで名前が書かれていた。どこかのアニメで見たようなスク水である。


 とはいえ、作りはしっかりしているし、名まえの部分以外それほどてらったものではない。ラッティーにはひらがなは読めないだろうが、良いアクセントになっている。ような気もする。


「それで、次は、シャーリーの水着です」


 これも、基本はスク水なのだが、どういう訳か、ラッティーの水着に比べてややハイレグ気味に見える。それでもまあ、中学生相当の女子が着る水着ならこんなものかもしれない。この水着にもちゃんと黒字で『しゃーりー』と白布にひらがなで名前が入れてあった。


「ちゃんとした水着だから、良いんじゃないか」


「その二つについてはまあ、そういった感じで仕上げてみました」


 今のアスカのいい方からすると、この二つ以外はかなり見た目が違ったものになっている可能性がある。


「それで、ここから先は、明日の海水浴のお楽しみとということにしておきましょう」


 だそうです。みんなで出かけた時、雨にでも降られた時のためだといって、アスカがかなりの数購入したハデハデとかスケスケの女性用下着が、いまも俺の収納庫の中に入っている。明日を楽しみにとかまで言われると気になるが、あまりにトンデモ水着なら誰も水着に着替えないだろうから、問題ないのかもしれない。


 その日アスカは夕食後、女子たちを順次自分の部屋に呼び出して水着の説明をして各自に手渡していた。


 説明をしなくてはいけないような水着というのが気になるが、本物の水着を初めて着る者がほとんどだろうから、説明は必要なのだろう。



 何であれ、準備は整った。明日の海水浴が楽しみだ。


 使いを出したエメルダさんの方も、パトリシアさんと二人で是非ぜひ参加したいとのことだった。待ちあわせは、明日の朝8時にうちの屋敷ということにしている。




 そして翌日。


 整備万端の『シャーリン』は昨日のうちに収納ずみだ。


 うちからの参加者は、俺とアスカのほかは、シャーリーとラッティー、今日はキルンへのフライトのない日なので四人娘と、ヨシュアとマリア、それに、ミラとソフィアの姉妹、計12名。結局おじさんたち以外全員が参加したことになる。それにお客さまのエメルダさんとパトリシアさんの二人で14名。


 各人手荷物のようなものを持っていたので俺が全部収納して、玄関前でお客さんの到着を待つ。


 予定の10分ほど前に、エメルダさんたちが馬車で到着してみんな揃った。エメルダさんたちも含めてかなりの軽装だ。今日は天気も上々だし、ちょうどいいだろう。


 エメルダさんとパトリシアさんにも、アスカが水着を作っていたので、紙袋に包んで二人に渡していた。なんて説明して渡したのかはわからないが、二人も始めて着る物だろうから着替えはうちの誰かが手伝ってあげる必要があると思う。


「それじゃみんなでそろったので、シュッパーツ!」



 もちろんエメルダさんたちが持参した荷物も俺が収納している。


 みんなでがやがやと話をしながら歩いていると、さほど時間がかかった感じもしないままに港についた。他の船の邪魔にならない場所まで岸壁を移動し、『シャーリン』を海に浮かべたら、


「うわー、これが、シャーリーさんの名前の付いた船なんですね?」


 顔を赤くしたシャーリーが、エメルダさんにうなづいていた。可愛いもんだ。シャーリンと名付けて正解だった。


 

 すぐに岸壁から『シャーリン』に板を渡してみんなを乗船させる。アスカはブリッジに先に入って行った。初めてのエメルダさんとパトリシアさんにはそれぞれシャーリーとラッティーが手を引いて板を渡ったのだが、ラッティーはあの歳でちょっと気が利きすぎるきらいがある。



 渡り板を収納し出港準備が完了したので、ブリッジのアスカに手をふったら、ゆっくりと『シャーリン』が舵を切りながらバックして、十分岸壁から離れたところで、舵を逆に切ってカーブしながら港を離れて行った。




[あとがき]

2021年1月6日

山口遊子のフォロワーさまが450名に到達しました。今後ともよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る