第318話 冒険者学校2


 ペラとの打ち合わせも終わり、ヒギンスさんたちのいる厨房ちゅうぼうにドラゴン肉を届けておいた。現状学校には15名しかいないので、多めに一人500グラムとして、7.5キロ。そんな小さな塊りはないので、10キロちょっとのヒレ肉とバラ肉カルビを置いてきた。腐らせるわけにはいかないから、今日の夕食から何食かはドラゴン肉三昧ざんまいになるな。


 ヒギンスさんに何の肉かと当然聞かれたので、正直に答えたら、ここでも二人がアスカの方を向く。アスカがうなずいたので、二人とも固まってしまった。


 二人が固まっている間に、アスカがドラゴン肉用包丁を二つ作ってしまった。ドラゴン肉に限らず何でも切れるので重宝ちょうほうすると思うけど、指は落とさないでくれといっておいた。落っこちたら『万能薬』もあるから何とでもなるとは教えてはいない。


 後で、ペラに学校用だと言って『万能薬』を渡しておかないとな。



 そのあと、控室に使っている物置に置いたポーション用の物入れの引き出しに、10本ほど『万能薬』を入れておいた。鍵は掛けていないが大丈夫だよな? 南京錠くらい付けとけばよかったか?


 その後、ペラに『万能薬』のことを教え、俺とアスカは冒険者ギルドに。



 トンネルを越えて、そのまま西門にまわって大通りを駆け抜け冒険者ギルドに入ると、時間が時間だけにあまり人はいなかった。


 一応、いつもそこらに突っ立ってホールの様子を眺めているギルド職員のスミスさんを探したのだが今は仕事を真面目にしているのか、それとも最初から100パーセントサボっているのか見当たらなかったので、そのまま買取カウンターにまわることにした。


 買取カウンターのおじさんは暇そうにしていたので、


「おじさん、見てもらいたいものがあるんだけど、いいかな」


「おっ! ショタアスの二人か。最近見ないと思ってたら元気そうだな。それで、今日は何を持ってきたんだ」


「ヘマタイトゴーレムって言う鉄鉱石でできたゴーレムを査定してもらいたいんですよ」


「なんだい、査定だけかい?」


「買い取ってくれるなら買い取ってくれていいんですよ」


「俺もゴーレムの実物は初めてだからすぐには査定できないが、取り敢えず見せてくれるか?」


「それじゃあ、そこら辺のゆかの上に出しますから」


「おいおい、バカでかいってことはないんだろうな?」


「そんなに大きくはないんですが鉄鉱石ですから重たいですよ。一体で1トンはありますから」


「生き物じゃないから、解体所に出されても困るし、ギルドの鍛冶場まで運んでもらおうか。そこの脇を通って中に入って、俺についてきてくれ」


 買い取りカウンターのおじさんの後について、いったん冒険者ギルドの裏手にまわった。裏の解体場の先を進むと、煙突の付いたレンガ作りの建屋の前に来た。建屋の横には屋根のかかった資材置き場のような場所があり、そこの隅に置いておくように言われたので一体をそこに出しておいた。となりの資材置き場には炭俵すみだわらのようなものが積まれており、ここでの鍛冶作業などは木炭で行っているらしい。


  建屋の隣には、カマクラ型に煉瓦で組まれた炉のようなものがあり、そこでは上半身裸になった筋骨隆々きんこつりゅうりゅうのおじさんが炉の斜め上に開いた口から、砕いた何かの鉱石と、木炭をスコップを使って投入していた。投入する瞬間に、投入口の蓋を器用に足で蹴っ飛ばすのだが、その瞬間炉の中の明るい光でおじさんの顔が照らされる。かなり熱そうだし暑そうだ。そのうち、ドラゴンの肉を差し入れしてもいいかもしれない。


 職人のおじさんが、作業しているかたわら、


「これが、ヘマタイトゴーレムなのか。打撃武器以外効きそうにないし、こんなのが歩いているとなるとおっかないな。それで、魔石はいつものように入ってないんだな?」


「これがそいつに入っていた魔石だと思いますから、別々で査定しておいてください」


 そのゴーレムから抜き出したものではないかもしれないが、ヘマタイトゴーレムから抜き出した魔石をおじさんに渡しておいた。


「そこの炉で作業しているゴードンにも聞いてみないと分からないんで、今日の夕方にでもまた来てくれるか?」


「分かりました。ちなみにその魔石だけだといくらくらいになりますか?」


「この魔石なら結構大きいから小金貨5枚くらいになると思うぞ。これもちゃんと査定しておくから安心してくれ」


「それじゃあ、夕方また来ますからよろしくお願いします」


「そんじゃあな」


 いままで、魔石など真面目に売り買いしたことがなかったから知らなかったが、結構な値段だ。四輪車で運べる2トン分、ヘマタイトゴーレムを二体たおせば、小金貨換算で20枚程度になりそうだ。運賃でいくらかは差っ引かれるが、四人パーティーだと一人頭小金貨4枚にはなりそうだ。


 ヘマタイトゴーレムをダンジョンで狩る分には討伐報酬は出ないのでその分の上乗せはないが、新人としては割が良すぎないか? いいことだと思うが、『鉄のダンジョン』はあくまで訓練用とするのか、それとも一般開放するのか決めなけゃいけなくなるな。


 今後、鉄鉱石の供給が多くなれば、値崩れの可能性もあるし、今みたいに、どこも木炭で製鉄しているのなら、今後は木炭の供給のため、木材の過剰伐採かじょうばっさいからのはげ山化が起こりそうだ。石炭が採れればいいがそういった地下資源は少ないらしいし、アリたちの巣の近くには石炭があったがまさかそれは掘れないしな。


 まてよ、俺は『鉄のダンジョン』のダンジョンマスターだから、石炭ゴーレムなんか作れないんだろうか? できればいいな。



 ギルドでの用事も済ませたので、いったん1階のホールに戻ったところ、スミスさんに呼び止められてしまった。また何か頼まれごとをされるのかと思ったがただ挨拶あいさつされただけだったのでほっとした。


 そういえば、これからの買取価格については運賃も含めてギルドとちゃんと交渉しなくちゃいけなかった。俺が先走って、1体分の値段を聞いてもそれが将来的にギルドが買い取ってくれる値段とは限らないものな。


「スミスさん、前にも一応お話していたことですが、もうすぐ冒険者学校で鉄鉱石でできたゴーレムをたおして、それをギルドにおろせるようになるんですが、そちらで買い取り価格を決めていただけませんか? ここで受け取る場合と、トンネルの東口まで出向いて受け取る場合の買取価格を決めてしまってください。ゴーレムの現物は買い取り窓口のおじさんに渡しています。いままで扱ったことがないそうで査定するのに夕方近くまで時間がかかるということでした」


「わかりました。こちらで確認して、これからの買取価格を決めさせていただきます」


「お願いします」





「よしよし、順調だ」


「マスター、帰る前にスミスさんと偶然出会ったのも、運がいいってことですよね」


「まあな。だがこれは、俺の持つもともとの運の強さだから。そういえばこっちの世界には『宝くじ』ってあるのかな? アスカなら知ってるんじゃないか?」


「あるみたいです。通信などが未発達なこの世界ですから、マスターのいた世界のように国全体で行うほど大々的ではありませんが、王都やキルンといった都市内限定で売り出される場合があるそうです」


「ちょっと、お試しに買ってみたいな」


「こんど発売されたら、マスターにその情報をお知らせします」


「頼んだ」



 商業ギルドに両替にいく途中、雑貨屋に立ち寄り、冒険者学校の帳簿用に分厚いノートと筆記用具を買っておいた。ペラなら適当に使いこなせるだろう。



 やってきた商業ギルドで、俺の口座の中にある大金貨20枚分を金貨200枚に両替してもらったのだが、両替の手数料は取られなかった。





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