第112話 飛空艇4-試験飛行


 飛空艇の建造は着々と進み、砂虫素材を使った本体部分の外板がいはん張りも終わった。取り付けた砂虫素材の乾燥かんそうも七割がた進んでいる。


 さらに、試験飛行に備え飛空艇の下には二本のレールが敷かれ、飛空艇をガレージの外に移動できるようになった。移動後、既に完成している安定舵あんていだ方向舵ほうこうだを兼ねる尾部が取り付けられる予定である。


「ボルツさん、形になりましたねー」


「ああ、ショウタさんとアスカさんのおかげや。ほんまおおきにな。これから本体部分を外に出してしっぽの取り付けや」


 ボルツさんも打ち解けて、われわれのことをショウタさん、アスカさんと『さん』付で呼ぶようになった。


「それじゃ、外に出すからきいつけやー」


 本体に取り付けられたフックにかかったロープが外に置かれた巻き上げ機で巻かれ、ゆっくりとレールの上の飛空艇の本体部分がガレージの外に引かれていく。


「よーし、そこでストップ。それじゃしっぽを付けるぞ。ショウタさんとアスカさんも悪いけど手伝うてな」


「はい」「はい」


 尾部の本体への取り付け部分からはコントロール用のワイヤーが何本ものぞいている。


「みんな、位置について、ええな? ほな持ち上げるでー。一、二、三、それ! よーし、ゆっくり本体の方へ押すでー。ゆっくり、ゆっくりー。よーし、うもぉいった」


 先端に安定舵と方向舵を兼ねるX型の翼を付けた尾部が、本体に取り付けられた。


「後は、コントロール用のワイヤーをつなぐだけや。気張きばって午前中に終わらすでー」


「「おー!」」


 ボルツさんは工具をもって身軽に本体部分の後ろに取り付けられた三段ほどのタラップを登り、中に入っていった。



「アスカ、いよいよだな」


「はい。マスター。この分ですと、今日中に内装ないそうまで終わりそうですね。明日までには、外板の乾燥も終わりますから明後日あさってには試験飛行できそうです」


「操縦はアスカに任せたぞ」


 やたらとレバーがたくさんついた操縦装置そうじゅうそうちをボルツさんに見せてもらって、操縦法を教えてもらったが、これは自分じゃとても無理だと悟った。安心と信頼のアスカがいるからボルツさんの説明も聞き流していたもんな。


「操縦法などはすでにボルツさんから学んでいますので、任せてください」


「こういう場合の、試験飛行ってどうやるんだ?」


「ボルツさんの説明にあった、最高速度や最高高度、航続こうぞくなどを実際に計測するんじゃないでしょうか」


「そうか、航続テストのときは、キルンにでも行ってみたいな。明後日はシャーリーの学校は休みのはずだから連れて行けばきっと喜ぶぞ」


「そうですね。きっと喜ぶでしょう」


「着陸場所は選ばないとな。この飛空艇はモンスターと間違まちがわれそうな形状だもんな」


「色が、砂虫の色ですし、地味ですね」


「だよなー。なんかいい色で塗装するしかないか」


「勝手に塗装できませんから、ボルツさんと相談して決めましょう」


「あと、ボルツさんに決めてくれと言われてた飛空艇の名前はどうしようか?」


「それはマスターが決めてください。私を名付けたマスターですから信頼してます」


 ハードル上げるなよ。


「そうだなー。見た目は海にいるエイだよな。エイって何ていったかなー? そうだ、”レイ”だったかな。空飛ぶエイで『スカイ・レイ』とでもしとくか」


「いいと思います」


 ということで名前は『スカイ・レイ』に決まった。ボルツさん以下三名に話したら喜ばれた。




 次の日一杯を使い、内装と微調整びちょうせいを終り、その翌日の試験飛行の日を迎えた。


 操縦士のアスカと俺が乗り込んだ飛空艇『スカイ・レイ』。


 操縦席にアスカ、隣の助手席に俺が座ってる。前面のガラス製のキャノピーからしか外を見れないので確認はできないが、外にはシャーリーのほか、ボルツさんたち三人が飛空艇の離陸を見守ってくれているはずだ。


「マスター、午前十時です。離陸試験始めます」


「了解」


 今日は離着陸りちゃくりく試験と水平速度試験を行う予定だ。


「メイン魔導加速器、噴出方向、下方にセット確認」


「確認」


 魔導加速器からの噴気の方向を示す矢印が下を向いているのを確認。


「メイン魔導加速器、起動きどう。出力上げます」


 アスカが太目のレバーを四本同時にゆっくりと手前に引いていく。飛空艇の底からの振動が高まって、風が巻き起こっているのが分かる。


「飛空艇離床りしょう出力まで、七十パーセント、七十五パーセント、……、百パーセント。離床します」


 キャノピー越しの景色がゆっくりと下に流れていく。下の方で四人が見上げているはずだがまだ見えない。


「離陸成功です。出力百五パーセント、百十パーセント、百十五パーセント、出力百二十パーセント。出力維持。補助加速器噴気ふんき方向下向き、起動。最高高度千五百メートルまで上昇を続けます。高度五十、七十五、百。着陸脚収納」


 カタカタ音がして四本ある着陸脚は艇内に引き上げられていく。


「……高度千四百五十、千四百七十五、千五百。最高高度確認。補助加速器停止。メイン魔導加速器、出力百パーセントに落とします」


 高度計も速度計もないので読み上げている数値はアスカの機能で代替している。薄雲うすぐもが下の方に見える。飛空艇は、南を向いているので、王都の方向は確認できない。前方には山並やまなみが遠くに見える。着陸脚の収納完了を示すように対応する指示器の矢印が上を向き赤色から緑色に変わった。


「水平速度試験始めます。補助加速器水平方向に噴気方向をセット、確認。補助加速器起動。出力二十パーセント、三十パーセント、五十パーセント。翼部よくぶ揚力ようりょくに合わせメイン魔導加速器の出力を調整し水平飛行を続けます」


 飛空艇は前に進んでいるのだろうが、あまりよくわからない。アスカはやや細いレバーを四本同時に引いている。


「速度、百二十キロ。メイン魔導加速器出力十パーセント。これより、メイン魔導加速器の噴気方向を後方にセットします」


 カタカタカタと機械音が足の下からする。噴気方向を示す矢印が右を向いた。いったん飛空艇の高度が下がったのか体が少し浮き上がる感じがした。


「高度を巡航じゅんこう高度千まで下げます」


 徐々に飛空艇の高度が下がっていく。


「高度千、水平飛行に移行します」


「メイン魔導加速器、出力上げます。二十パーセント、三十パーセント、四十パーセント、……、百パーセント。巡航速度二百五十キロで安定しました。設計通りのようです。さらに加速します。出力百十パーセント、百二十パーセント。速度三百五十キロ。最高速度確認。速度を落とし、旋回せんかいして帰投きとうします」


 右舷うげんの噴気口からの噴気により飛空艇が大きく左旋回ひだりせんかいする。前方に王都を囲む運河と外壁に囲まれた街並みが見えて来た。



「ボルツ邸上空です。降下着陸します。着陸脚展開てんかい


 カタカタ音がして着陸脚が艇外に展開されたのだろう、着陸脚指示器の矢印が下を向き赤色から緑色に変わった。


「着陸脚展開完了。降下続けます」




 軽い振動が走り飛空艇は停止した。


「着陸成功。試験飛行は成功しました」



 飛空艇を降りたわれわれは、残って待っていた面々に笑顔の拍手で出迎えられた。


 そのあとは、軽く飛空艇の整備をした後、宴会えんかいである。『ナイツオブダイヤモンド』で特別に用意してもらっていた宴会料理を収納から取り出しみんなで食べた。飲み物は俺とシャーリーはノンアルコール飲料だったが、残りの面々はワインやらビールを飲んで騒いでいた。


 徹夜てつやを何日か続けていたらしいボルツさんたち三人は早々にダウンしてしまったので、普段ボルツさんが寝起きしているガレージの一角の休憩スペースに、三人とも運んで寝かせておいた。もちろん運んだのはアスカである。




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