第17話「未来の中の彼」






   17話「未来の中の彼」






 「………そんな事があったんて………」

 「いろいろ話せなくてごめんね」



 吹雪は、自宅に招待した麗に向かって、頭を下げた。前回とは逆だな、と思ってしまう。

 麗には、周との出会いと約束の内容を伝えた。ホストという言葉が出てきた瞬間、絶句していたけれど、それでも麗は最後までしっかりと話しを聞いてくれていた。


 そして、つい先日周を家に入れた時の話しをしたのだった。

 前は話そうか迷った事だった。

 友達で麗は信用しているはずなのに、呆れられたらどうしようかと思ってしまう。それが自分の弱さだと吹雪もわかっていた。

 けれど、周に話したいと思えたように、吹雪は麗に話したいと思えるようになってきた。

 それは誰かを好きになった。そんな気持ちからなのかもしれない。



 「………大胆すぎた、かな。こんな出会いとか関係っておかしいよね?」



 恐る恐る、彼女の顔色を伺いつつそう言うと、麗は真面目な表情のままに口を開いた。



 「吹雪ちゃん、やるね!」

 「………え?」

 「そんな出会いなかなかないし、しかも年下をゲットするなんて……。そして、一緒に寝ちゃったんでしょ?吹雪ちゃんは勿体無いなーって思ってたけど、やる時はやるのね!」

 「麗ちゃん………私、まだ付き合ってないし、寝るのも本当に一緒に寝ただけで、そのー………何もしてないんだよ?」

 「えー?そうなのー?」

 「そうなの!!」



 疑いの眼差しで吹雪を見た後に、麗はニヤリと笑った。



 「でも、好きになっちゃったんでしょ?」

 「……………なんで、わかったの?」

 「吹雪ちゃんが家に入れたり、こうやって少し恥ずかしそうにしながら男の人話ししたりするのって、なかなかないだろうし。私は応援するよ」

 「え…………どこの誰だかわからない人で、ホストなのに?!」



 予想外の麗の発言に、吹雪は思わず驚いて大きな声を上げてしまう。そんな吹雪を見て、麗は優しく微笑んだ。



 「確かに少し不安だよ。どんな事をしてるのかわからない男に吹雪ちゃんを取られるのは悔しいし、心配。だけど、吹雪ちゃんがそんな事関係ないぐらいその人を好きになって、信じようとしてるなら、私も信じてみるよ」

 「………麗ちゃん………」

 「でも、もしかしたらまた傷付くかもしれないんだよ。幼馴染みとか前に紹介した男みたいに、吹雪ちゃんの事を狙っている男かもしれやい。だから、何か心配事があったらすぐに連絡してね」

 「うん………ありがとう」




 そう言って優しく頭を撫でてれる。

 高校の時に、吹雪が少し変わってしまったのを心配してくれたのが麗だった。大人しく一人で過ごすようになってしまった吹雪を、変わらずに見守ってくれたのが彼女なのだ。そして、星に振られてしまった時も、彼女だけには教えていた。

 だからこそ、麗に周の事を話せてよかったと思えた。



 「大丈夫だよ。吹雪が好きになった人だから。信じてみて」

 「そうだね」

 「ま、また失恋したら私が慰めてあげるからね」

 「もうー!そういう事言わないでよ」



 麗はそう言って、チョコを手にとって笑った。吹雪は、そうやって恋愛話を出来るのが嬉しかったし、応援してくれた事に安心した。



 これから周とはどんな風に過ごしていくのか、吹雪自身もわからない。

 けれど、彼との未来を想像してしまう日も多い。


 隣を歩いていたい。

 手を繋いで笑い合いたい。

 そんな風に思えた。









 麗と話しをして力を貰えた次の日。

 張り切って仕事をして、いつもより笑顔だったのかもしれない。同僚に「何かいいことでもあった?」と聞かれてしまった。

 悩んでいても仕方がないのだ。

 まずは、周との時間を大切にして、そしていつかは彼に気持ちを伝えよう。

 そう思っていた。



 仕事を終えて、近くのスーパーマーケットで食材を買って帰宅した。

 夕飯を作り、お風呂にも入った。

 次に会う日の話しをしたく、メッセージを送っていたが、この日は周から連絡が来なかった。

 連絡が遅くなる日もあったので、忙しいのだろうと思いつつも、スマホが気になってしまい、手放せなくなっていた。


 日付が変わる少し前の時間。

 吹雪は寝る前のスマホチェックをベットの上でしていた。

 それでも、周からの連絡はなかった。



 「………朝起きてメッセージが来てるといいな」



 そう思って、スマホをベットに置いた瞬間だった。



 ピンポーンッ




 部屋に玄関の呼び鈴が響いた。

 吹雪は思わず体がビクッと震えてしまう。

 夜中という時間に、来客を知らせる音。もちろん、誰が来る予定もなかった。

 吹雪は、どうしていいのかわからずに、ベットの上で固まってしまった。


 けれど、寝てしまっていると思われればいいのではないか。

 こんな時間に誰かがこの部屋に来るはずもない。そう思って、呼び鈴を鳴らした相手が帰ってしまう事を期待した。


 一人暮らしをしていて、知らない誰かが訪ねてくる事はとても怖いのだ。

 吹雪は、震える体を自分の腕で抱きしめながら心の中で「帰りますように帰りますように………」と、呪文のように唱えた。


 すると、スマホがブブッと鳴った。

 その音にも驚いたが、表示されたメッセージを見た瞬間、吹雪はベットから立ち上がった。


 そして、駆け足で玄関に向かった。

 鍵を開けて、ドアを開く。



 「周くん………!」

 「あ、吹雪さーん。起きててくれたんだねー」



 そこに居たのは、頬を赤くして、目がとろんとしている周だった。



 「ただいま、かえりましたー!」

 「ちょっ………周くん!?」



 玄関先で、思いきり周に抱きしめられ、吹雪は体を硬直させてしまう。



 「吹雪さん、おかえりないはー?」

 「…………周くん、お願い離して!」

 「嫌ですよー」



 上機嫌な周だったけれど、強い力で抱きしめてくるので、吹雪は彼の腕の中でバタバタと暴れる事しか出来なかった。





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