第165話 そして新たなる問題へ



◇◆◇



アーロスこと、香坂拓海こうさかたくみは、良くも悪くもの少年であった。

いや、事ゲームやパソコンなどに関する知識や造形はそれなりに深かったが、それ以外は特筆する事のない、極々一般的な男子高校生だったのである。

だが、えてしてそうした存在は、時として周囲の足を引っ張ってしまう事もよくある話であった。



昨今では、以前に比べてゲームに関する偏見も小さくなっている。

これは、アニメ、マンガ、ゲームなどの所謂“オタクコンテンツ”が世界的に認められて市民権を得たからであり、また、特にゲームに関しては“eスポーツ”が世界的に認知されてきた影響でもあるだろう。

実際、アキトと同年代か、それよりも上の世代が子供の頃は、“オタクコンテンツ”に対する偏見はまだ根深く、自身が所謂“オタク”であっても、それをおおやけにする事を避ける風潮があった。

これは、周囲の者達に仲間外れにされる事を恐れての事である。


まぁ、もっとも、人の趣味に難癖をつけるのは本来おかしな話である。

例えば、絵画や音楽などの芸術ならば高尚な趣味と捉えられるし、それをバカにする者は、まぁ、家族はともかくとして、あまりいないだろう。

以前にも言及したが、そうした高尚の趣味を持つ者達も、言ってしまえば“オタク”な訳で、本来はそこに大きな差はないのだから。


とは言え、ここら辺は所謂“民度の差”、すなわち社会的影響もあったのだろう。

実際(まぁ、これはどんな趣味を持つ者達にも当てはまってしまう事であるが)、所謂“オタクコンテンツ”に傾倒していた者達が、何らかの厄介な事件を起こす事も多かったのである。

その“オタク”=犯罪予備軍みたいな悪いイメージが、中々払拭されなかった、という背景もあったのかもしれない。


だが、先程も述べた通り、アキトより下の世代ともなると、“オタクコンテンツ”に対する偏見も少なくなっていき、芸能人やYouTuberなどの影響もあって、子供のなりたい職業に、YouTuberやゲーム実況者、ゲーム制作にプロゲーマーなど、以前ならばプロ野球選手とかプロサッカー選手などに向けられていた憧れが、徐々にそちらにシフトしていく現象が起こってきている。

拓海も御多分に漏れず、将来はゲームなどに携わる方面に進みたいと、朧気ながらに考えていた訳であった。


しかし、残念ながら彼の夢は、『異世界転移』に巻き込まれた事で唐突に潰える事となった。

十代半ばの青春真っ盛りな頃、更には突然の家族や友人との別れ、文明の進んでいた現代社会との別れなどを唐突に体験し、彼は強いストレスを感じていたのである。


いや、初めの内は、このファンタジーな体験に少し興奮を覚えていた事も確かだ。

先程も述べたが、彼はあくまで普通の少年であったから、これまで憧れや羨望の眼差しを向けられた事などないに等しかった。

それが、この世界アクエラに来た事によって、それまでの評価から一転して、英雄だ、神の御遣いだ、と持ち上げられれば、それは増長したとしても何ら不思議な事ではないだろう。


ただ、やはり拓海が年若かった事もあり向こうの世界地球への未練は、仲間達の中では、ウルカと並んで強かったのである。

それによって、『テポルヴァ事変』の折にアラニグラ介してヴァニタスからもたらされた情報、向こうの世界地球への帰還が絶望的であるとの情報に塞ぎ混んでしまう要因となったのである。


まぁ、もっとも、それはこれまで語ってきた通り、特にドリュースとエイボンの励ましにより復調し、更にはククルカンを介したウルカからの情報によって、別の異世界人アキトの存在と帰還方法があるかもしれないという情報により、拓海は完全に持ち直す事に成功していた訳である。


ただ、その弊害ではないが、強いストレスによる反動からか、これまで語ってきた通り、ロマリア王国への旅の道程で、彼(とついでにN2)は度々暴走する事となった。

これは、ある種の承認欲求の様なモノであり、言わば自分が他者に必要とされている存在である事を再確認し、自身の不安やストレスから逃れる為の一種の逃避行為だった訳でもある。

そうした事が分かっていたからこそ、ティアも彼らの暴走にはある程度目を瞑っていた訳である。

これは以前にも言及した通り、彼女個人の感情論として、仲間を失う事を恐れたからでもある。


しかし、残念ながら、拓海はそれだけに留まらず、再度増長、言わば“天狗”となってしまったのである。

何度となく言及しているが、彼ら『異世界人地球人』のレベル、身体能力やスキル、特殊な能力はこの世界アクエラではトップクラスである。

まさしく、“俺TUEEE”を地で行っていた訳である。


ただ、アキトらも指摘していた通り、彼らはが、実際にはそれだけであり、本来ならばそれに付随して身に付く筈の戦闘や戦闘などは全くの皆無であった。

これはむしろ当たり前の話であり、本来、武術や他にはスポーツなんかも同様であるが、少しずつ技術を身に付けていく、と同時に色々と試行錯誤をして思考力を身に付けていくモノだからである。

最初は皆弱い、あるいは下手な訳だから、どうしたら上手くいくのか、上手くなるのかを考えたり、他人の動きを観察して参考にしたりと、徐々に段階を踏んでいくのが普通だ。

アキトも、今でこそこの世界アクエラ最強と言っても過言ではないほどのチカラを身に付けているが、それもそうした積み重ねがあっての事である。


ただ、拓海らは、『TLWゲーム』の仮の姿アバターの姿、そしてその時に持っていた能力、スキル、魔法、装備を(もちろん多少この世界アクエラ基準にアレンジされてはいるものの)持ったままこちらの世界アクエラに来ている。

つまり、そうした段階を全てすっ飛ばして、いきなり強者となってしまったのと同義なのである。


もちろん、大抵の場合は、それだけで何とかなってしまうほど強い。

アキトの予測では、S級冒険者クラスならば善戦する事は可能だと考えてはいるが、それも油断をしなければ、という前提条件がつく。

それほどまでに、彼ら『異世界人地球人』のこの世界アクエラにおけるチカラは凄まじいモノがあったのである。

アキトでさえ、そうした増長が見られたのに、精神性のまだ未熟な普通の少年が、その事によって調子に乗らない筈がない。


だが、その鼻っ柱が、アキトとの出会いによって叩き潰されてしまったのである。

先程も言及した通り、彼らの強さは言わば“付け焼き刃”の様なモノなのだ。

本物の強さを持つ、アキトやその仲間達には(もちろんやりようによってはその限りではないが)、少なくとも正攻法では通用する筈もないのである。


それによって、天狗になっていた己を恥じ、反省したり再出発出来ればそれがベストなのであるが、残念ながら拓海は、その事に対してむしろ激しく反発し、アキトに対して強い嫉妬を覚えてしまったのである。


ここら辺は、以前にも言及したが、アキトの前世である西嶋明人にしじまあきと時代の高校時代の元・サッカー部の者と、拓海は通じるところがあった。

くだんの人物は、アキトと同級生であり、非常にサッカーの才能に溢れた人物であった。

ただ、センスと才能にかまけて、練習を嫌う傾向にもあった。

言わば天才型の人物だったのである。


しかし、高校に入ってアキトと出会うと、当初は自分より実力が下だと思っていたアキトが、コツコツと練習を重ねて、更には監督からも指導を受けてメキメキと頭角を現したのである。

本来ならば、スポーツモノにありがちなライバルの存在として、アキトに負けない様に己を磨き、お互い切磋琢磨して、自分の想像以上の成長をお互い遂げられる様な未来もあったであろう。


だが、残念ながら彼は、アキトに対して対抗心ではなく、嫉妬ややっかみを募らせて、ついには何となくやる気を失くして、サッカーを辞める選択をしたのである。

ここら辺は、彼の自尊心プライドが異様に高かった事や、我慢とか粘り強さというモノを持ち合わせていなかった事に起因するかもしれない。

あるいは、そこまでサッカーが好きではなかったのかもしれない。

ただ何となく、サッカーが上手かったから続けていただけで、周囲にチヤホヤされる自分に酔っていたのかもしれない。

その羨望の対象がアキト他者に移った事で、彼のモチベーションが途端に失われてしまったのかもしれない。

まぁ、結局のところ、その真相は定かではないが。


しかし、それも人生である。

挫折をせずに、大人になれる筈もなく、彼がまた別の道を見出だせるならば、その選択も悪いモノではなかっただろう。


だが、その後彼の生活は荒れる事となる。

元々協調性に欠ける人物だった事もあり、自分のある種の自慢であった唯一のサッカーでも(もちろん一方的ではあるが)敗北を喫して、徐々にアキトに逆恨みの様な感情を募らせる事となったのである。


その末で、悪い仲間とつるんで、アキトといさかいを起こす事となったのである。


その後の顛末は、暴力事件に巻き込まれた形のアキトが、サッカー部への迷惑が掛かってはいけないと、サッカー部を去る事となり、アキトに突っ掛かっていったその人物は、補導され、停学処分を受ける事となる。

まぁ、アキトにサッカー部を辞めさせた事で溜飲が下がったのか、それ以降アキトに突っ掛かる事はなくなり、というよりも、彼自身、高校に居づらかったのかは知らないが、高校を退学し、その後はあまりよろしくない世界へ入っていったとアキトはのちに風の噂で聞いていた。


アキトの同級生である浩一こういち拓郎たくろうも語っていた様に、アキトの存在は強力な光なのである。

遠くから眺める分には、“希望”足りうるかもしれないが、近付き過ぎると、自分の影を色濃くする。

それは、自分の矮小さだったり、力不足だったりを浮き彫りにしてしまうから、結果的には“苦痛”や“絶望”にもなってしまうのかもしれない。

もちろん、そうした現実をしっかり受け止めて、アキトの仲間達の様に更に高みを目指す事も可能なのであるが、残念ながら皆が皆、それが出来るほど強くはないのである。


拓海も、正にその人物と同じ様な方向へ陥ってしまったのである。

自分の自慢出来るモノが通用せず、逆に諭される始末。

しかも、それを素直に受け入れる精神性も育まれていないので、拓海はアキトに全てを否定されたと思い込み、逆に彼の一切の言動に反発してしまったのである。


アキトは、拓海のそうした精神性の未熟さを見抜いていたので、彼とは合わないと感じたのである。

もしかしたらアキトも、その高校時代の当該の人物と拓海を重ね合わせたのかもしれないが。


そして、その読みは悪い方へ的中してしまった訳である。

拓海が選択したのは、アキトに対する嫌がらせも、多分に含んだ選択肢だったのだから。

拓海の様な普通の少年でも、特に思春期頃に顕著なのであるが、一歩間違えればあまりよろしくない方向へ向かってしまう事も往々にしてある。


時に人生には、上手くいかない事も多々ある。

もちろん、それを自分のせいにしてしまうのもあまりよろしくないが、その原因を他者、あるいは社会に向かわせる様な考えに囚われる様ならば、その考えは危険なので一旦冷静になって改めて考え直した方が良いだろう。

何故なら、そのまま暴走すれば、自分にとっても他人にとっても、あまり良い結果を生む事はないからであるーーー。



◇◆◇



「では、あなた方の選択は、この世界アクエラに留まる事、でよろしいのですね?」

「ええ。ただ、残念ながら、アキト殿達には合流せず、我々は独自に『失われし神器ロストテクノロジー』の捜索をしつつ、別の帰還方法を模索するつもりですが・・・。」

「なるほど・・・。まぁ、多少残念ではありますが、それがあなた方の意思であれば、僕はそれを尊重しますよ。」


翌日、一晩考えたであろうティアさん達からの結論を、僕らは再び集まった応接室にて聞いていた。

まぁ、その答えは、おおよそこちらの予測通りの答えであったが。


ハイドラスとの“縁”を切る事には同意したが、ただちに向こうの世界地球へ帰還する事は彼らは否定した。

まぁ、それも当然であろう。

僕に提案出来る帰還方法は、のみの帰還であり、言ってしまえば、帰る=死と同義であるからだ。


もっとも、厳密に言ってしまえば、ある意味では彼らはすでに死んでいる。

これは、本来の彼らのがすでに滅んでいるからであり、こちらの世界アクエラに存在出来ているのは、天文学的確率の上で成り立っている奇跡に等しい。

その幸運(まぁ、それを幸運と捉えるか不幸と捉えるかは人それぞれだろうが)、あるいは、第二の人生を生きられるチャンスを捨て去ってまで向こうの世界地球に戻りたい=死にたいと思う事は、少なくとも今現在の彼らは望まないだろうからね。

まぁ、もしかしたら(彼らが老いるかどうかは分からないのだが、仮に老いると仮定して)、老年に差し掛かった頃に郷愁に駆られて、そうした選択肢を望む事はあるかもしれないが。


「・・・随分アッサリしているのですね?」

「はぁ、まぁ、昨日も申し上げた通り、強要してもお互いに良い事はありませんからね。ただ、まぁ、お互いに別の立場を取る事とはなりますが、だからと言って協力してはならない訳ではありませんよ。」

「・・・確かに。」


世の中は、全てが敵・味方に別れるほどシンプルではない。

彼らは、僕らに合流せず、独自の活動を選択した訳であるが、じゃあ仲間にならなかったら敵だね、って事にはならない。

まぁ、アーロスくん辺りは僕に対して敵愾心を持っているかもしれないが、そうした事情は抜きにしても、立場によっては別々の道を選択する事もあるだろう。


もちろん、ここで何もしなければ、それはそれで話が終わってしまう。

言うなれば、それぞれが独立した組織、団体として、独自に活動を続けるだけになってしまうからである。


しかし、せっかく知り合えた訳だし、また、彼らに対するある種の牽制の為にも、協力体制を彼らと築く事。

これが、最低限の僕の狙いだった訳である。


その末で、利害が一致すればお互いに協力すれば良いし、そうでなくとも、情報を密に取っておけば、お互い色々と活動しやすくなる、って寸法である。


「と、言う訳で、こちらをお持ち下さい。」

「・・・これは?」


そう言うと僕は、ティアさんに幾何学模様の入った鉱石、僕らとしてはすでにお馴染みとなった『通信石つうしんせき』、を懐から取り出して、彼女に差し出した。

それを眺めながら、ティアさんは怪訝そうに手に取り、そう呟いた。


「そちらは『通信石つうしんせき』と言いまして、遠方の相手と直接顔を合わせずとも連絡の取れるアイテム、まぁ、平たく言うと、向こうの世界地球における携帯電話、あるいはトランシーバーの様な物ですよ。僕らはお互い、これから別々に活動する事となりますが、せっかく知り合えたのですから、連絡を取り合えた方が何かと便利だと思いましてね。場合によっては、お互いに協力出来るかもしれませんし、そうでなくとも、情報交換だけでも、随分と状況が変わる可能性もありますからね。」

「・・・ふむ。」


まぁ、実際には、これはある意味フェイクである。

何故ならば、確かにこの『通信石つうしんせき』は、今や隣国であるヒーバラエウス公国にさえ通信が届く様に改良してはいるが、ハレシオン大陸この大陸の端から端にまでは流石に通話範囲をカバー出来ていないからである。

ロマリア王国とロンベリダム帝国は、正にその大陸の正反対の位置に存在する訳だから、当然この『通信石つうしんせき』の使用範囲外となる。

だと言うのに、わざわざ使えない筈の『通信石つうしんせき』を渡した意味とは、すなわちカモフラージュの為である。


実際には、僕はすでに彼らとハイドラスとの“縁”を切った(斬った)時に、ついでに彼らと僕との、言わばリンクの様なモノを繋いでいる。

つまり、有り体に言えば、彼らと『念話ねんわ』を繋ぐ事が可能となっているのである。


ただ、当たり前の話として、今のところ彼らは僕らの敵ではないが、しかし、同時に味方である訳でもない立場を取る事を選択した訳であるから、わざわざこちらの手の内を全てさらけ出す必要はない。

故に、『通信石つうしんせき』という、カモフラージュにはちょうど良い物があったので、これを利用させて貰った、という訳である。

彼らとしても、実物があった方が、何かと納得出来るだろうしね。


「分かりました。ありがたく頂戴しておきます。こちらとしても、アキト殿とホットラインが繋がるのは、何かと都合が良さそうですしね。」


僕の説明に納得したのか、ティアさんはそのまま『通信石つうしんせき』を懐に仕舞いながら謝意を述べる。


「いえいえ、礼には及びませんよ。こちらとしても利のある事ですからね。それでは、(一応形式として)あなた方の要望通り、“縁”を切って(斬って)おきましょうか。」

「えっ・・・!?あ、あの、私達は何か準備が必要でしょうか?」


話の流れ的に、そうなったとしてもおかしくないのだが、ティアさんらは何故か戸惑った表情を浮かべていた。

まぁ、分からなくはない。

実際に、『縁切り(縁斬り)』のなんたるかは分かっていないだろうが、それでもそれが如何にも大それた儀式であるとティアさん達は考えていたのかもしれない。

まぁ、ぶっちゃけると、すでに“縁”は切って(斬って)あるので、再びそれをする事は二度手間ではあるのだが、それは本人達の許可を取らずに行った事でもあるので、ポーズとしてあたかもやりました感を演出する必要があるのだ。


と、言っても、それは大袈裟な儀式ではないので、彼女達に準備を求める事なく、その場で済ませてしまう事が可能なのである。


「いえ、特に用意する事も、緊張される事もありませんよ。適当に横一列に並んで頂ければ、後は僕とでやってしまいますからね。」

「は、はぁ・・・。」

「おや、ボクの出番の様だね。」

「ええ、よろしくお願いいたします、ルドベキア様。」


そう言うと、僕はルドベキア様を顕現させる。

流石に二度目ともなると、彼らも一瞬驚いた様子を見せていたが、昨日の様に平服する事もなかった。


僕らに促されて、多少戸惑いながら僕の指示通り横一列に並ぶティアさん達。

そして、ルドベキア様が適当な文言を並べて、僕が神主さんが持っている様な大麻おおぬさを模した道具(お祓い道具で一番最初に思い浮かべるだろう棒状のものに白いフワフワした紙がついている物)を降る。

いや、如何にも切る(斬る)という所作ならば、僕の愛用の短剣で代用する事も可能だが、やはり刃物を向けられるのは良い気はしないだろうしねぇ~。


「合縁奇縁は数あれど、良縁のみならず悪縁もまた然り。そなたらとハイドラスとのえにしも、数奇な運命のもと結実したモノではあるが、それはのちに大きな災いとなるであろう。えにしとは不可思議なモノで、一度結び付くと中々断ち切れぬモノ。そなたらの健やかな生活において、それは大きな陰を落とすモノであろう。我、ルドベキアの名において、そのえにしをここに断ち切る事を宣言する。」


朗々と語るルドベキア様の文言は、何となく神秘的な雰囲気がある。

まぁ、実際は適当に言葉を並べているに過ぎないのだが、本物の“カミサマ”であるルドベキア様ならば、適当でも中々様になっていた。

それに合わせて、僕も如何にもな雰囲気で、ティアさん達の周囲を祓う感じの動作をする。


「はい、終わりました。」

「えっ!?も、もうですかっ!!??」


時間にしては、ほんの数分の出来事である。

ティアさんがびっくりするのも無理はないだろう。


「まぁ、本来はややこしいプロセスがあるのでしょうが、何と言ってもこちらには本物の“カミサマ”がいらっしゃいますからね。時間としては短いと感じるかもしれませんが、問題なくハイドラスとのえにしは切れて(斬れて)いますので、どうぞ御心配なさらずに。」

「は、はぁ・・・。」

「まぁ、何にしても、これであなた方のしがらみは(当面の間は)なくなりましたので、後は何をするのもあなた方の自由ですよ。ところで、ティアさん達は、この後はどうされる予定なのですか?」


いそいそと片付け(と言っても、大麻おおぬさを仕舞うだけだが)をしながら、今後の予定を聞く僕。


「え?あ、ああ、そうですね・・・。とりあえず、一旦ロンベリダム帝国へと戻ろうかと考えています。我々の留守を守っている仲間がおりますので。」

「ああ、そうですよね。でしたら、早速『通信石つうしんせき』が役立ちそうですね。僕らも、ロンベリダム帝国周辺に赴くつもりですので、連絡をくれれば、残りのお仲間のえにしをどうにかする事が可能だと思います。まぁ、もちろん、それはそのお仲間の意思次第となりますし、お時間がある時で構いませんが。」

「え?アキト殿もロンベリダム帝国へ?何かの用事ですか?」

「はぁ、まぁ、そんな様なモノです。少しキナ臭い噂を聞いているモノですからね・・・。」


元々、ヴィーシャさんの訓練がある程度形になったら(ルドベキア様からの情報提供によって知った事ではあるが)、ロンベリダム帝国が『異世界人地球人』から奪ったデータによって『魔法銃』を急ピッチで量産させて、それを持たせて密かに結成している銃士隊を用いて、ロンベリダム帝国側としてはどうしても抑えておきたい“大地の裂け目フォッサマグナ”に侵攻するだろう事を予測して、その渦中に飛び込む事としていた訳である。

大地の裂け目フォッサマグナ”とロンベリダム帝国は、位置関係的にはかなり近い。

故に、そう提案した訳ではあるが・・・。


と、そんな事を考えていたら、ちょうどそのくだんの『通信石つうしんせき』が鳴り響き、“少し失礼”とティアさんに断りを入れてから、“はい”と僕が通話に応じた。


〈た、大変だっ、アキトっ!!!〉


すると、開口一番、慌てた様なドロテオさんの声がその場に反響する。


「少し落ち着いて下さいよ、ドロテオさん。一体どうされたんですか?」

〈これが落ち着いていられるかっ!!今入ってきた情報なんだけどよっ!ロンベリダム帝国が“大地の裂け目フォッサマグナ”の『獣人族』達に対して、宣戦布告をしたらしいのよっ!!!」

「何ですってっ!?」

「「「「なっ・・・!!!」」」」


その情報には、僕も思わず驚いていた。

僕の仲間達も顔を見合わせて怪訝そうな表情を浮かべているし、ティアさん達に至っては思わず絶句していた。


・・・うむ、こちらの予想より早い行動だな・・・。

いよいよ、この世界アクエラ、いやハレシオン大陸この大陸の歴史が、悪い意味で動き始めた様であるーーー。


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