第150話 銃士隊結成へ
◇◆◇
「それはまずい、非常にまずいぞ、ランジェロッ!!それは、『
「お、落ち着いて下さい、陛下っ!」
「これが落ち着いていられるかっ!ニルめ、一体何の真似だっ・・・!」
ランジェロから真実を打ち明けられると、ルキウスは珍しく青ざめ狼狽していた。
と、言うのも、ルキウスからしたら、一番敵に回したくない相手からその装備を奪ったと言う事は、それが発覚すれば衝突は免れないと瞬時に理解したからである。
『
いや、流石のルキウスとて、実際の『
しかし、その幅広い知識や影響力だけでも、その厄介さを常々感じていたのだ。
それは、今のところはルキウスらの手腕によって、自分達の利益とする事が出来ているが、場合によっては自分達を滅ぼし得るとさえ考えていた訳である。
独裁的で傲岸不遜かの様に思われるかもしれないが、その実、ルキウスはかなり慎重的で思慮深い一面を持っている。
まぁ、為政者としては、時に大胆な政策を推し進める必要もあるが、一方でバランスも考えなければならないモノで、そうした面を持っていても何ら不思議ではないのだが。
そうした事から、『テポルヴァ事変』の折に発覚した『
(もっとも、『
その末で、『
ルキウスが慌てるのも無理からぬ話であろう。
「陛下っ!!!」
「っ!!!・・・すまん。少々取り乱した。」
ランジェロの一喝に、ルキウスは冷静さを取り戻していた。
狼狽したところで過ぎた事は取り戻せない訳で、それならば情報を精査し、この先の展開を予測し、その中から最善の一手を打つべきであると思い至ったのである。
やはりルキウスの精神力や胆力、そして臨機応変に切り替えの出来る思考力は、中々に侮れないモノである様だ。
「いえ、陛下が狼狽えるのも無理はありませんよ。しかし、御安心下さい。もちろん私とて、計算なくそうした事を受け入れた訳ではありません。」
「・・・と、言うと?」
・・・そう言えばランジェロは、あまりに自信満々の様子であったな。
ルキウスは、この場に自分を連れてきた時のランジェロの様子を思い返していた。
研究オタクかつ魔法技術の事しか考えていない印象を受けるが、その実ランジェロは、政治的な立ち居振舞いにおいても非常に優れている。
そうでなければ、『
そうした素質を見抜いていたからこそ、ルキウスはランジェロを『メイザース魔道研究所』の長に据えたのだ。
そんな信頼する
答えは否であろう。
「もちろん、ある程度の危険は承知の上です。ですが、『
「・・・何?どういう事だ?先程と言っている事が矛盾している様に感じるが・・・。」
「確かに陛下の困惑は分かります。実際、私自身、当初は理解出来ませんでしたのでね・・・。ですが、ニル殿の説明と『
「・・・続けろ。」
ランジェロの様子を見やり、彼の説明が長くなりそうだと察しながらも、ルキウスはそれを理解すべく思考を回しながらも聞き耳を立てていた。
「まず大前提として、ライアド教が何らかの方法により、『
確かに、そんな報告は自分のところに来ていない。
つまり、今のところ『
「・・・なるほど。あくまで奪ったのはその技術情報の方であって、現物は奪っていない、と言うのだな?しかし、それも同じ事よ。相手の持つ技術情報を相手に断りなく奪い、それをもとに新たなる技術を開発した事が発覚すれば、遅かれ早かれそれは相手の心情を逆撫でする事となるぞ?」
「普通ならそうですね。少し話は違いますが、私も私の研究成果を勝手に他者に持ち出されたら、あるいはそれによって何かしらの発明をされてしまったら、非常に腹立たしい思いをするでしょう。」
「そうであろう?では、何故それでも平気だと言うのだ?その根拠は?」
瞬時に普段のペースに戻ったルキウスは、理路整然と問題点に対する質問を繰り出す。
「まず第一に、『
「・・・しかし、『
「確かにその通りですが、それもあくまで
「・・・確かにその通りだが、『
「あり得ませんよ、陛下。もちろん、『
「・・・なるほど。確かに、
ランジェロも、それに淀みなく答えるので、ルキウスもこれがニルやランジェロがすでに計算ずくである事を朧気に察していた。
しかし、流石に事が事だけに、自身の中でも納得出来ないと不安である事から、更に突っ込んだ質問をする。
「そちらに関しても問題ありません。確かにこの“魔法銃”は、N2殿が持つ所有物を参考に開発されておりますが、また、その『
「・・・ん?どういう事だ?」
「つまり、立派な外観は存在するのですが、もちろん、内部も精密に作られているのですが、
「はっ・・・???」
以前にも言及した通り、N2達が持つ技術、魔法、スキルはあくまで『
もちろん、よりリアルな世界観を演出する為に、その3Dモデリングもこだわり抜いているが、とは言え、ゲームやサーバーのリソースの観点からも当然限界は存在する。
更には、あくまで“
N2の“魔砲”を例に挙げるならば、これにはこういう物質を用いて構成されており、その内部構造はこれこれこういう理論のもと成り立っている、と言う事に背景や歴史が存在していなければならないのである。
もちろん、銃は現実に
それ故、立派な
「それでは、『
「それは分かりかねます。普通ならば、
「ふむ・・・。」
まぁ、それはルキウスらの勘違いだが、その真実をルキウスらが知る由はなかった。
ちなみに余談だが、
それ故に、中身が空っぽでも使えるのだが、これはもちろん『
「しかし、ここで重要なのは、我々には『
「なるほどな・・・。つまり、確かに“魔法銃”は『
「その通りでございます。更には、先程の話の通り、現物を盗んだ事実は存在せず、『
「確かに・・・。余ですら、詳細はともかく、この“魔法銃”の動作原理は何となく予測が着いたくらいだ。観測を重ねれば、模倣されたとしてもおかしくはない、か・・・。」
“見る”と言う行為は、単純ではあるが、実際は非常に重要な
武道においては、実際に“見取り稽古”と言うモノが存在する。
読んで字の如く、師匠や優秀な者達の動作を見て学ぶ事である。
スポーツにおいても、見学と言う言葉がある。
この様に、“見る”と言う行為は、かなり多くの事を学び得る行為なのである。
もっとも、その背景には、優れた観察眼や発想力、知識などが必要になってくるのだが。
逆に、この見られる行為を嫌って、古流武術においては、密かに稽古を行ったり、奥義などを伝授される際は、師匠と弟子の一対一での伝授方法、すなわち口伝などが存在する。
これは、技術も同様だ。
機密漏洩を防ぎたいのならば、重要な情報は秘匿して叱るべきなのである。
実際、
これはむしろ当たり前の話であり、例えば
そうしなければ、単純に自分達の飯のタネがなくなってしまうからである。
だが、『
故に、“魔法銃”の不当性を証明出来ないのだ。
“あなた方は不当に私達の技術を模倣しましたね?”
“はて、何の事でしょうか?確かにあなた方の所有物を観察し、着想を得て新技術を開発しましたが、その理論体系は私達が独自に開発したモノですよ?”
“嘘言わないで下さい。私達の所有物を奪ったに違いないんだ。”
“ですから、その根拠を出して下さいよ。あるいは、どの様な動作原理によってその機構が作動するのか御説明をお願いいたします。それによっては、あなた方の言い分も理解出来なくはありませんが?”
“そ、それは、その・・・。”
“・・・まさか、御自身の使用している物の中身も理解せずに利用しているのですか?だと言うのに、その技術は私達の物?ナンセンスですね。言いがかりも甚だしいですよ。”
“・・・。”
と、言う訳である。
一旦世に出した以上、真似されたり模倣されたりするのはある種当たり前の話である。
そうなっても問題ない様に、その中身、
だからこそ、その中身や
以上の観点から、N2の持つ“魔砲”と、ランジェロらが開発にこぎ着けた“魔法銃”は、もととなったモノは同じであっても、その経緯が全く異なるので、『
“魔法銃”が、ランジェロらの手によって開発されたのは覆し様のない事実なのだから。
「なるほど、話は理解した。それならば問題なさそうであるが・・・。」
「・・・他に気になる点でも?」
「いや、どうも余がニルの、いやライアド教のいいように踊らされている感じがして気に食わんのだ。まぁ、個人的な感情論ではあるが、な。」
ランジェロの説明には納得したルキウスだったが、当然、ニルが親切心だけでルキウスらの利となる行動を起こす筈がないとルキウスは考えた。
ならば、当然、その先にはライアド教にとって利となる事を計算しての思惑が存在する訳だ。
ルキウスは、その能力が高いが故にプライドも高く、しかし、同時に時として道化を演じる事も厭わない柔軟性も持っているが、それでも皇帝としては他者に指図される事、利用される事に対して目を瞑れるほど寛容ではなかったのだ。
「まぁ、それも考え方次第ですよ、陛下。あまり可能性としては高くないでしょうが、万が一『
結構なトンデモ理論ではあるが、案外こうした事がまかり通るのが世の常である。
実際に、
これは、乱暴に要約すると、
Aが所有する物(物品や不動産)がBに盗まれて、Bが勝手にCへと売買したとしよう。
仮に、Cがそれが盗まれた物であると知らなかった場合(“善意の第三者”)は、第三者保護の観点から、Cの権利は保証されるし、Bの共犯者とは見なされない、と言ったモノである。
今回の例で言えば、あくまでN2から所有物、機密情報も含むが、を奪ったのはライアド教(ハイドラスの神託を受けたウルカ)であって、それがニルを介してロンベリダム帝国に渡った訳であるが、ロンベリダム帝国側が、それが奪われた物と知らなければ(とぼけてしまえば)、N2らはロンベリダム帝国を責め立てる事が出来ないのである。
“いや、これはライアド教から贈られた物ですけど?何か文句があれば、ライアド教に言って下さいよ。”って訳である。
それを、ランジェロは指摘している訳だ。
ニヤリと悪い顔をするランジェロに、フッとルキウスを弛緩した表情を浮かべる。
「ふむ、まぁ、そうであるな・・・。ならば、せいぜいこちらも好きにやらせてもらうとするか。・・・さしあたって、ランジェロよ。この“魔法銃”は、量産の目処は立っているのか?」
「もちろんですとも、陛下。もっとも、生産量としては、そこまで一気に造る事は不可能ですが。金属加工技術に優れた『ドワーフ族』に協力を得られれば、銃自体は造れるのですが、肝心の魔石の方が、大量生産に向かないのです。まぁ、それも、『魔術師ギルド』の協力を得られれば、多少改善するでしょうがね。おそらく、日に10個、そこら辺が限界ではないかと愚行します。」
「ふむ、まぁ、そんなところだろう。それに、我々は“
「その成果如何で、更に部隊を増やしていく算段ですな?」
「うむ。まぁ、おそらく、それもそう遠い未来の話ではないだろうが、な。いずれにせよ、此度の働き、見事であったぞ、ランジェロよ。これからも頼むぞ。」
「ハッ、有り難き幸せ。」
こうして、ロンベリダム帝国にて、(現存する記録では)
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