第119話 『ルール』の掌握
アキト達が行った事。
それは、“場”を掌握し、そこで起こっていた異変、この場合は『
もちろんこれは、本来ならば、アキト一人では成し得ない事だった。
いや、『
もっとも、今回のケースでは、『
それ故、その代替案としてアキトは、自身の心に宿っているセレウスとアルメリアの
・・・
『幻術系魔法』。
これは、特にRPG系のゲームなんかにおいては、不遇なポジションに追いやられる事がよくある。
何故ならば、効果として分かりづらいからである。
対象に幻を見せる。
対象を眠りに誘う。
対象を混乱させる。
対象を麻痺させる。etc.
時に強力な効果を発揮する事もあるが、
対象を倒すには至らない事がほとんどである。
それならば、効果として分かり易く、なおかつダメージソースとしても優秀な『攻撃魔法』に人気が集中するのもある意味納得と言うモノであろう。
これはシステム的に、ほとんどのRPG系のゲームにおいては、敵対する勢力を倒す事により、『経験値』や『お金』を得て、『レベル』が上がり(『キャラクター』が強化・成長し)、最終的な“
しかし、現実的な観点から見ると、この不遇な『幻術系魔法』は、一転して破格の能力に早変わりする。
何故ならば、対象を殺傷する事なく、場合によっては全く気付かれる事もなく、“
現実的には、敵対する勢力を
もちろん、そうした事によって問題を解決する場合もある事は、歴史的観点からも否定はしないが、それらを差し引いてもあまり効率的とは言えないだろう。
何故ならば、争いに発展した場合、どれほど注意をしても被害は免れないからだ。
が、全く傷を負う事なく“
もっとも、その争いの要因が思想的・文化的・宗教的なモノの場合は、また話が変わって来てしまう訳だが・・・。
まぁ、それはともかく。
『厨二的嗜好』・『オタク的嗜好』を持つアキトではあるが、彼は同時に
『法治国家』である
もちろん、その場限りの場合は、『
それを熟知しているアキトが、『幻術系魔法』を多用するのも、そうした背景にも由来するのである。
まぁ、本人の得意分野や気質にも合っているのだろうが・・・。
さて、では『幻術系魔法』とは、厳密に言うと『精神干渉系魔法』に分類される。
いや、もっと言ってしまうと、『
まぁ、これに関しては、所謂『攻撃魔法』、『物理干渉系魔法』も同様、どころか、『魔法全般』に当てはまる事なのであるが。
これは何故かと言うと、
例えば、所謂『攻撃魔法』、『物理干渉系魔法』とは、
だが、『科学的知識』があれば、これは何ら不思議は話ではなかったりする。
何故なら、大気中には様々な『
故に、何らかの要因によって、“
もっとも、『魔法技術』においては、
その為の“キー”となるのが、『魔素』である。
『魔素』とは、これは以前にも言及したが、
その特徴は、“何か”に
つまり簡単に要約してしまえば、
先程の例で言うならば、『魔素』に働き掛ける事によって、“
後は、“
『精霊魔法』においては、その『役割』が『精霊』に置き換わっている(と考えられている)。
“炎(火)”を司る『精霊』に働き掛ける事で、“炎(火)”を出すのである。
こちらの方が、イメージとしては分かり易いかもしれない。
根本的な『概念』は違うが、『魔法発動』の『プロセス』的には、『魔素』や『精霊』に働き掛ける事によって、『情報』を
そして、先程も述べた通り、それは『幻術系魔法』、『精神干渉系魔法』も同様であった。
以前にも言及したが、『心』や『精神』は非常に複雑怪奇であるから、
人間の“脳”が、『心』や『精神』、そして身体に影響する事は今さら言うまでもない事だが(もちろん、考え方によっては、そこに議論の余地はあるのだが)、人間の“脳”は意外と簡単に騙せてしまうのである。
その一例が、『暗示』や『錯覚』などである。
『幻術系魔法』は、そうした“五感”に作用する『魔法技術』の事を一般的に指すが、“脳”に
これは、少々ややこしいが、起こる事は同じでもその
例えば、これも以前に言及したが、元々『幻術系魔法』とは、『魔法発現失敗』から派生した『技術』なのであるが、それは、『魔法』を『世界』に
元来、道具などを使った方法や、自然発生的でないところに『魔素』に働き掛けて発動させる『魔法技術』は、先程も述べた通り、『情報』を
しかし、『術者』の『力量』が不十分であると、『魔素』への働き掛けが中途半端になってしまう事があるのだ。
その場合、『情報』の
これが、所謂『実体』のない炎、『幻術の炎』となって現れてしまうのであった。
もちろん、
ま、それはともかく。
これは、どちらかと言うと“五感”に作用する典型的な『幻術系魔法』であるが、『幻覚』が見える
アルコールや違法薬物などを体内に取り込む事で、“脳”にダメージが生じて、その結果『幻覚』などの症状が出る事が実際に確認されている。
『幻術系魔法』の中には、この様な“脳”に直接作用するモノも存在するのである。
では、この何が重要かと言うと、対象の“脳”の『構成情報』、あるいは『構成物質』の一部を
もちろん、ある程度のテクニックは知っていたとは言え、『催眠術』や『精神』に関する事には素人同然だったアキトが、曲がりなりにもそれらを使用出来たのも、この為であったーーー。
◇◆◇
「な、何が起きたっ!?・・・『呪詛返し』っ・・・!!??・・・いや、そんな兆候はない・・・。単純に、私の『
男は、『
これは、半分正解で半分外れである。
アキトは、とある『情報』を
男は、“
もっとも、理解出来たとしても対抗する事は不可能なのだが。
男が当初行っていたのは、(今現在では失伝しつつあるとは言え)
しかし、エイルの『
それが、男が言う『
そう、男は所謂『霊能者』(その専攻は多岐に渡るのだが、男は対外的には『陰陽師』を名乗っていた)なのである。
もちろん、それらは『アストラル』や『スピリチュアル』に関わる事であるから、その根底にあるものは
しかし、エイル自身は、『アストラル』に大きく関わる存在とは言え、アキトはもちろん、男ほどそれらを理解していなかった為に、それに対抗する事が出来なかったのである。
では、アキトはどうかと言うと、ぶっちゃけると彼も『オタク的知識』以上のモノは持ち合わせていなかった。
もちろんアキトは、
では、なぜアキトに軍配が上がったのかと言うと、『
先程も述べた通り、
そして、『
その最初のeの文字を消すとmeth(死)となり崩壊すると言う対処法があるのだが(それ故、『防衛隊』やユストゥス達は効率的に対処が可能であった)、流石にそれを一々チマチマ叩いていては、随分な時間が掛かってしまう訳である。
そこでアキトは、
当然それでは、存在を保つ事が出来ずに『
そしてこれは、『呪詛返し』などの専門的な対抗手段ではなく、『ルール』に則った純粋な
「フ、フフフフフッ・・・。興味深いですねぇ・・・。
ブツブツと早口で呟く男は、ふと違和感を感じていた。
アキトが、ふいに
一瞬男は何をしているのだろうか?とアキトを凝視すると、『
「っ!!!???」
(・・・ぐ、偶然だろう。
『
流石の
それに、私は痕跡を一才残していない。
私に辿り着く事など出来る筈もないっ・・・!)
そう自分に言い聞かせる男だったが、嫌な汗が噴き出してくるのを感じていた。
その間も、アキトはジッと男を見詰め、ついにその口が開いた。
ー・・・
ゾッとした。
と、同時に、『
「っ!!!???」
〈ふぅ~~~。危ない危ない。危うく尻尾を捕まれるところだったよ。・・・だから言ったでしょ?アキトくんを下手に刺激しない方が良いよ、ってさ。〉
慌てふためく男の脳内に、そう声が響き渡った。
ヴァニタスの気配を感じて、男は若干の落ち着きを取り戻していた。
「ヴ、ヴァニタスさんかっ!?いったい、何が起きたんだっ!!??」
〈いや、結構単純な事だよ?アキトくんは君の
「そ、そんな事出来る筈がっ・・・!!!」
そのヴァニタスの言葉に、男は大きく狼狽した。
自分の術儀は完璧だった筈。
そう考えたのである。
〈アキトくんを君らの“レベル”で見たらダメだよぉ~。彼はすでに『神性の領域』に足を踏み込んでいる。確かに君は“
そんなバカなっ!!!
男は一瞬そう考えたが、先程の一連の流れを思い返して、その認識を更に改めた。
「そうかっ・・・!先程見た『
〈・・・まぁ、それでもいいんだけど、どっちにしてもここまでだよ。せっかく助けたんだから、今度こそさっさと撤退する事をオススメするよ?〉
肝心なところで、重要な事が伝わっていないとヴァニタスは呆れたが、それも仕方ないかな?と、軽くスルーしてそう言葉を繋げた。
「ふむ。確かにその状況ではこれ以上は意味がないか・・・。了解した。ただちに撤退する。」
〈うんうん。あ、後、『
「それは分かっているが・・・、
〈それに関しては大丈夫。一瞬の事だったし、アキトくんも詳細は把握出来なかったみたいだからね。それに、
カラカラとノンキにそう笑うヴァニタスに、しかし男は、今度は呆れる事も反論する事もなかった。
先程見た光景が確かなら、アキトにはそれが可能である事を男も直感で理解していたからである。
しかし、ヴァニタスの言葉を信じるならば、現時点ではこれ以上ちょっかいをかけなければ、こちら側に踏み込まれる事もないだろう。
興味深い対象であったから、
〈まぁ、どうせこの先出会う機会もあると思うよ?僕はアキトくんとの接触はしないつもりだから、そうなる前に全力で逃げるけど、目的さえ達成すれば君が何をしようと僕も感知しない。もっとも、その目的の障害になるのなら、その限りじゃないけどね・・・?〉
ヴァニタスは、男の心の内を正確に見透かしてそう言った。
「・・・OK、ヴァニタスさん。今は大人しくしてるさ。私もアンタと
〈・・・結構結構。ところで、近々『ロンベリダム帝国』の方で動きがあると思うよ?君は撤退したら、お仲間のもとに一度戻ってみたらどうかな?〉
「・・・何か仕込んだのかい?」
〈まぁ、ちょっと、ね。〉
曖昧に答えるヴァニタスに、男は深く突っ込む事もなく静かに頷いた。
アキトも興味深い対象であると同時に警戒すべき相手だが、男としてはこのヴァニタスもなるべくなら敵対したくない相手だからである。
「了解。ま、ちょうど『
〈何かに利用出来るかも、でしょ?〉
そのヴァニタスの言葉に、男は肩をすくめる。
「どう思ってもらっても結構だが、私も仲間は気になるんだよ?あの皇帝や『至高神ハイドラス』に上手く利用されていないとも限らないからね。」
〈あぁ~、確かにそれは厄介だもんね。アキトくん程でないにしても、『
「ああ。・・・まぁ、ティアさんやエイボンさんが簡単に騙されるとは思わないが、タリスマンさんやウルカさんの例もあるからな。アラニグラさんがどう転ぶか分からないし・・・。」
〈
「・・・ふむ。確かに彼の性格を鑑みれば、それも分からなくはない話ですねぇ~。下手に利用しようとすれば、手痛いしっぺ返しを食らいそうだ。まぁ、それはそれで確かに面白そうではありますね・・・。」
色々と暗躍している男だったが、『天空神ソラテス』に語った様に、『至高神ハイドラス』や皇帝に対して思うところがある事は事実の様である。
彼らがアラニグラに対してちょっかいを掛けて、その反撃を食らう様を想像し、ほの暗い笑みを浮かべていた。
〈さてさて、話はこれくらいにして、僕は行くよ?君も早く撤退しなよ、
「ああ、了解した・・・。」
スッとヴァニタスの気配が消えるのを感じて、男、元・『LOL』のメンバーにして、『TLW』時は『
◇◆◇
「あれぇ~・・・?確かに捉えたと思ったんだけど、逃げられたかなぁ~・・・?」
〈どしたん、アキト?〉
〈・・・こちらを窺っていた
〈ほぉ~ん。〉
「顔までは見えたんですけどねぇ~。」
【神々の波動】発動直後、僕は自分の『
それを追ってアルメリア様の言う通り、逆探知を仕掛けた訳だが、まだ僕の技量が追い付いていないのか、はたまた何処かの『神性』の干渉によるものなのかまでは判別が着かなかったが、それは阻止される事となった。
流石に大技を使った直後に深追いする事は憚られた為、僕もそこで諦めた訳なのだが。
(ちなみに、今現在では、セレウス様よりも僕の方が『
これは、所謂『
元々セレウス様は、ご本人の言葉を借りるならば、『
まぁ、それでも通常の人々を軽く凌駕する『情報収集能力』を有しているが、『管理神』として『世界』の『情報』を司るアルメリア様はもちろんの事、その弟子であり、すでに『神性の領域』に踏み込んでいる僕の方が、その分野では優れているのだった。
まぁ、セレウス様はあれこれ考えるのがあまり得意ではないからな。
そこへ行くと、僕も基本は似た様なものだが、『戦術』や『戦略』などの、まぁ、言ってしまえば、所謂“小細工”を考える下地があったってのもあるんだけど・・・。)
「「「「「わあぁぁぁぁぁっ~~~~~~!!!!!」」」」」
それともう一つ。
詳しく調べている余裕がなかったってものある。
ヘドスの住人達が見守る中で、僕は『
端から見たら、例え『魔法技術』に詳しくなくとも、僕がそれをした事は想像がつくだろう。
まぁ、実際その通りだしね。
ならば、当然その説明を求められる事になる。
僕は、もう『
ならば、しっかり説明責任を果たして、皆さんを安心させなければならない。
まぁ、出来ればこのままクールに去りたいモンだが、そうもいかないモンなのよねぇ~。
ヘドスの街に響き渡る歓声を聞きながら、僕はそんな事を考えていた。
それと、更にもう一つ。
以前に接触した、『
そして、その中には、先程捉えた
・・・確か、“
直接的には逃げられたが、別ルートからその
備えあれば憂いなし。
何でも、複数の策を用意しておくモノである。
などと考えながら、僕はとりあえず仲間達と合流を果たすべく、愛用の杖を操るのだったーーー。
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