第117話 お約束的に、『英雄【ヒーロー】』は遅れてやってくる



◇◆◇



「ハックションッ!!!な、何だか寒気が・・・。」

〈どしたん、アキト?風邪か?〉

「いえ大丈夫っすよ、セレウス様。・・・そういえば、アキトこのストレリチア肉体になってから、風邪なんて引いた覚えはありませんねぇ~。」

〈そうっスよ、セレウス様っ!ワタシの知りうる知識を総動員して、アキトさんをにしたっスからっ!!感染症から毒に至るまで、高い耐性を持つ頑強で強靭な肉体に仕上げているっスよっ!!!風邪なんて引く訳ないじゃないっスかぁ~。〉

〈おおっ、そうかそうかっ!〉

「・・・何か不穏な言葉が聞こえた気がしますけど、今度アルメリア様とはじっくりをする必要がありそうですねぇ~?」

〈ど、どうしたっスか、急にっ・・・。こ、困るっスよ、アキトさん。セレウス様もいらっしゃるんですから・・・。〉///

〈いやいや、皆まで言うな。・・・大丈夫だ。そん時は感覚を遮断して、俺は席を外しておくから、・・・な?〉

「あの、勝手に変な方向に盛り上がらないで貰えます?」

〈冗談だ。多分、先に行かせたアイシャの嬢ちゃん達がお前の噂をしてるんだろーよ。〉

「・・・それでクシャミっすか?そんなベッタベタな・・・。」

〈いや、案外バカに出来ないモンだぜ?感覚器官を通した所謂“虫の知らせ”ってのは、人が無意識に『普遍的無意識』から情報をキャッチしてるモンだったりもする。お前の場合は、すでに意識的に『世界の記憶アカシック・レコード』ともリンクする事が可能だから、その精度も高いだろうし・・・。〉

「あれっ!?案外そうした事にも、高い次元の理由があるんすかっ!!??」

〈そうそう。特に『科学』や『魔道』が発達する以前の人々は、そうした迷信めいた事もより身近だったんだな。だから、感覚器官に関することわざも多く残っていたりするだろ?まぁ、流石にそのまでは理解が及ばなかっただろうが、な?〉

「ほぉ~。」


確かに、昔の人のことわざの中には、確信めいた事をズバリと言い当てているものも多い。

それだけ生活の中の知恵だったり、信心深さや『普遍的無意識』との関係性がより身近だったのかもしれないなぁ~。

まぁ、それ故に、『宗教』に対する依存度も高かったのかもしれないが・・・。


「それはともかくとして、最近、何か不穏な気配を感じるんですよねぇ~。上手く言えないんですけど、異常な圧迫感を感じると言うか・・・。」

〈ふむ、やはりアキトも気付いていたか・・・。〉

「・・・その口振りですと、何か心当たりが?」

〈まぁ、な・・・。例によって、『』に関わる事だから、詳しい事は言えんが・・・。〉

「・・・その言葉だけで十分ですよ。」


と、言う事は、おそらく『神々』に関わる事だろうな・・・。

英雄』の存在もあって、『封印』されていた『神々』が復活したとか、多分そんなところだろう。


(あいかわらず、底知れねぇヤツだな・・・。テンプレと言えばテンプレだが、一発で答えそこに辿り着いちまうとは・・・。)

(元々“勘”の良い方っスからね。『神性の領域』に入ってから、それがより顕著になったんっスよ。それに、この世界アクエラに関する情報も、最近は熱心に調べている様っスからね。)

(この分なら、『』に到達するのも、時間の問題かもしれんな・・・。)

(・・・不安、っスか?)

(・・・ああ、まあな。今更後悔はないし、覆す事も出来ないが、アキトが俺の過去を知った時、どういう反応をするのかは、やっぱ気にはなるっつーか・・・。)

(ワタシは問題ないと思うっスけどね。その事を知ったところで、アキトさんがセレウス様を軽蔑する事はないと思うっスよ。)

(・・・だと、いいがね・・・。)


・・・ふむ、またもやお二方は僕ので『念話』をしている事が、僕には感じられた。

まぁ、例よってその内容は分からなかったが、それもいずれ全てクリアになるのかねぇ~。


何て事を考えながら、僕らは『ルラスィオン僕の杖』による、空の旅を楽しんでいた。

いやぁ~、そんな状況ではないのだが、改めて空から眺めるこの世界アクエラの自然も雄大で美しい。

そこに住んでいる生物や植物、文化から風習に至るまで、向こうの世界地球とは相違点も多いものの、自然が形作る壮大さと美しさは、そこに何の違いもない様に感じる。


『前世』では結局、日々の生活に追われて、所謂『世界遺産』や『自然遺産』を実際に見て回る機会がなかったなぁ~。

いや、それはこちらの世界アクエラでも同じ事だが、逆に移動手段が不便であるからこそ、『出張』ごとに『自然』を身近に感じる事は多かったが・・・。

こうして、空の上から見るこの世界アクエラも、また格別であった。

今なら、『未知』に魅了された『』の気持ちが、真の意味で理解出来るかもしれない。

まぁ、僕はすでに『冒険者』なんだけどね。

叶う事ならば、改めて向こうの世界地球も旅してみたいものだ。

きっと、今なら向こうの世界地球にも“ファンタジーな世界”が広がっていた事を実感出来るだろうからなぁ~。


〈まぁ、現在進行形で生身でマッハを飛んでる奴の感想じゃないんだけど、その意見には賛成かなぁ~。『自然』が形作る美しさは、得も言われぬものだからな。人々が無意識に持つ『原風景』なのかもな。〉

〈『惑星』が織り成す『芸術』には、地球も異世界もないっスからね。まぁ、それは生き物が生息出来る『地球型惑星』に限定されるっスが。〉

〈『宇宙』の中にはヤバイ『惑星』も多いからなぁ~。〉

「何だか、急に話が壮大になりましたね・・・。」


いや、僕はSF物も好きだから、そうした話は興味あるけど。


ちなみに、何でこんな雑談に興じているかと言うと、ぶっちゃけ暇だからである。

いや、今現在、『ルラスィオン僕の杖』を操り、『王都』・ヘドスまで絶賛超高速移動中なのだが、逆にそれ以外やる事がない。

イメージ的には、高速道路をノンストップで絶賛走行中って感じか?

それ故、ある程度の集中力を必要とするが、同時に退屈な時間ともなる訳である。

空の上には障害物は皆無だからね。

こちらの世界アクエラにはネットもラジオもないし、もちろん音楽プレイヤーも存在しない。

故に、退屈凌ぎにセレウス様やアルメリア様との雑談に興じていた訳である。


更にちなみに、こちらの世界アクエラを旅する時は、基本徒歩か馬車によるもので、そこには基本的に仲間達も一緒だった。

だから、僕としても日々退屈を感じる事もなかったのだが、たかだか2~3時間の道程とは言え、久々のこの退屈な時間は、僕としては珍しい一人の時間となっていた。

『前世』では、特に『社会人時代』は一人でいる時間も多かったんだけど、こちらの世界アクエラでは一人になる事が珍しいので、手持ち無沙汰を感じていたのだ。

慣れってのは恐ろしいね。

人間、変われば変わるものである。


〈それで思い出したんだけどよ。この際だから聞いておくが、お前、アイシャの嬢ちゃん達とは今後どうするつもりだ?〉

〈・・・。〉

「えっ・・・?ど、どうしたんすか、急に。」

〈いや、前々から気にはなっていたけど、改めて聞く事もなかったからよぉ~。けど、今は多少時間もあるし、この際聞いてみようか、ってな。〉

〈・・・・・・。〉


な、何か、アルメリア様から無言の圧力を感じるんだけど・・・。

気のせい、じゃ、ないよなぁ・・・。


「・・・もちろん、最終的には一緒になるつもりですよ。彼女達がOKならば、って前提条件がつきますけどね。」

〈ほう・・・。〉

〈・・・・・・・・・。〉


僕がキッパリと決意を表明すると、セレウス様は感嘆の声を漏らした。

いや、今更迷う事じゃないし、僕の中では前々から結論は出ていた。


「ただ、状況はそれを許しませんし、僕もそこまで器用な男じゃないので、結果的に曖昧になっていた事は否定しませんけど・・・。」

〈いや、それに関してはアイシャの嬢ちゃん達も分かっているだろ。それに、お前に重荷を背負わせちまってる事は、俺らとしても心苦しいんだが・・・。〉

「それは何度も言ってる様に、すでに僕自身の問題でもありますから、今更セレウス様達が気にする必要はありませんよ。」

〈・・・そう言って貰えると助かる。〉

〈・・・けれど、アキトさん。“女”の立場からの意見として聞いて貰いたいっスけど・・・。〉

「・・・はい、何でしょうか、アルメリア様。」


そこへ、しばらく黙りこくっていたアルメリア様が声を発した。


〈アキトさんの性格を鑑みれば、その言葉を今は口に出来ない事はワタシも理解してるっスけど、女って、やっぱり言葉で表現して欲しい事もあるっスよ。アイちゃん達は、ワタシも妹の様に感じているっスから、幸せになって貰いたいっス。なので、デートなりなんなり、アキトさんなりの誠意を見せた方が良いと思うっスよ。言葉で表現出来ないなら、せめて態度で、っスよ。〉


その言葉には、確かな暖かみが存在した。

アイシャさん達を思いやっての言葉である事が、僕には感じられた。

と、同時に、この女神様は、やはり心優しい女性なんだと、改めて思ったりもした。

・・・本人には内緒だけどね。///


「・・・御忠告、感謝します。言われなければ、気付かなかったかも知れませんね。」

〈色々超越したとしても、俺ら“男”ってのは、最終的に“女”の事を真に理解する事は出来んからなぁ~。〉


セレウス様の発言には完全に同意である。

最終的に男ってのは、女性には敵わないものなのかもしれない。


〈“理屈”と“感情”は別物っスからね。基本、男の人は最終的には頭で考えて、女の人は心で考える違いっスよ。まぁ、だからこそ、面白くもあるんでしょうが・・・。それと、セレウス様っスよ?と、しっかり決着をつけた方が良いと思うっス。〉

〈うっ・・・!こっちにも飛び火したかっ・・・!!わ、分かってるよ。いくら向こうの世界地球に飛ばされたとは言え、しっかり決着をつけなかったのは俺のミスだ。今度こそ、しっかり決着をつけるさ。そうでなきゃ、お前達に顔向け出来ないからなぁ~。〉

〈ならいいっスけど・・・。〉

「???」


・・・何の話じゃろか?


などと、恋愛話も交えつつ、僕らはヘドスへと急ぐのだったーーー。



◇◆◇



「くそっ!この化け物共めっ!!」


今現在のヘドスは、まるで地獄の様な様相を呈していた。

いや、住民達のは完了している。

散発的な襲撃がある種の警告となり、そこに残る事の愚かしさを住民達に知らしめたからである。


当初は、これはよくある事だが、『泥人形ゴーレム』達が現れても、逃げなかった住民が半数近くいた。

これは、自身の『財産』を心配したが故の事だ。

『災害』時や、こうしたパニック時は、火事場泥棒の様な者が現れる事がある。

自分の命を守る事が精一杯で、家財から金銭に至るまで、それを持ち運ぶ余裕がないからである。

そうなれば、そうした連中にとっては、まさにパラダイス状態だ。

住民達が逃げ出した事で、物を盗みたい放題だからである。


それを警戒して、とりあえず目ぼしい物だけは持ち出す住民達もいるにはいるが、大抵は着の身着のまま逃げる事がほとんどだ。

確かに、『行政』側は住民達の命は助けてくれるかもしれないが、流石に『資産』までは守っている余裕はない。

故に、今後の生活を守る上でも、あえて避難しないという選択肢を取る者達がいたとしても、それは不思議はないのである。

特に、この世界アクエラでは、基本的に弱肉強食の世界である事であるし。


しかし、『泥人形ゴーレム』達にはそんな事は関係ない。

以前にも言及したが、彼らは複雑な命令を実行出来ない欠点があるので、その命令は至極シンプルである。

すなわち、建造物を破壊せよ。

動くものは、攻撃せよ。

この2点が、彼らに与えられた命令であった。


故に、『泥人形ゴーレム』には、泥棒連中も、住民達も、『防衛隊』も関係なく攻撃を仕掛けてくる。

いくら潤沢に懐が潤おうとも、流石に死んでしまってはそれも意味をなくす。

故に、それでも粘っていた変な方向に気合の入った者達もいたが、万単位で『泥人形ゴーレム』が襲ってきた事により、いよいよ脱兎の如く逃げ出した訳である。

もちろん、タイミング的には遅すぎた事もあって、そうした者達はかなりの数犠牲となった訳だが。

しかし、それも冷たい様だが本人達の『選択』の結果である。


そうした者達の骸がそこかしこに散乱しているが、生憎それを気にしている余裕は『防衛隊』にはなかった。

住民達のが完了した以上、彼らには『泥人形ゴーレム』を駆逐する役割があるからだ。

放っておけば、『ロマリア王国』の政治の中枢である『宮殿』に『泥人形ゴーレム』が押し寄せかねない。

宮殿そこ』を落とされる事は、事実上の国の崩壊であり、その影響は、今現在のこの“場”の惨状より酷くなる可能性すらあった。

それ故、『防衛隊』は必死に『泥人形ゴーレム』達を、この“場”に押し止めていたのである。


「た、隊長っ!キリがありませんよっ!!ど、どうか、て、撤退のご指示をっ!!」

「ダメだっ!!俺達には後がないんだぞっ!?ここで撤退したら、『宮殿』が落とされるっ!!!」

「し、しかし、このままでは犬死にですよっ!!連日連夜の襲撃に部隊の士気はこれ以上ないほど落ちている上に、肉体的・精神的疲労は頂点を越えていますっ!そこへ来てのこの数の襲撃ですっ!!せめて、一旦体勢を立て直さなければ、被害は増える一方ですっ!!!」

「う、うぅむっ、しかしっ・・・!」


そんな現場では、『防衛隊』の隊長と副長、正確には、『宮殿』付きの『近衛騎士団』の団長と副団長がそう言い合いをしていた。

両者の意見は、どちらも的を射た意見であるものの、現状では、そのどちらも選択する事が難しかった。

せめて、後少し戦力が増強出来ればっ・・・!

それが、両者の共通見解であった。


ちなみに、『防衛隊』は、『近衛騎士団』を頂点に、『憲兵隊』、『冒険者ギルド』や『魔術師ギルド』の有志、『リベラシオン同盟』や『自警団』など、寄せ集めの集団で構成されていた。

その中で正式な『軍属』なのは『近衛騎士団』と『憲兵隊』だけであり、有志達の総数を合わせても、戦力的には万を越える(と思われる)『泥人形ゴーレム』には全然届いていなかった。


これは、襲撃地点が『』である事が問題だった。

当然ながら、『ロマリア王国』でも、各地に『騎士団』や『憲兵隊』などの『軍属』が存在する。

しかし、国として雇える人員には数に限りがある訳で、重要な拠点にその多くが振り分けられる事となる。

となれば、必然的に『王都』の守りは薄くなる。

何故なら、これは以前にも言及したが、今現在のこの世界アクエラでは『航空技術』が発達していない故に、むしろその四方を固める事が肝要だからだ。

通常の襲撃ならば、その監視網のどこかに引っ掛かる訳だから、『王都』に辿り着く前に対応が可能だ。

数が足りなければ、可能な限り他から人員を補充する事も、その時間的余裕も十分にあった。


しかし、今回の襲撃は、『王都』のど真ん中で、突如として発生した。

つまり、ある種のセオリーが全く通用しない状況なのである。


当然ながら現場は混乱し、その対応に追われる。

もちろん、援軍要請は出される訳だが、団体での行軍は時間を要する。

そんな、ある種の弱点を突かれて、『王都』は一時的な孤立状態になっていた訳である。

そこへ来ての万単位の襲撃。

彼らが焦るのも無理はない。


むしろ、それでも持ちこたえている方なのである。

これは、ユストゥス達『リベラシオン同盟』の力によるところが大きい。

ユストゥス達の持つ圧倒的な『武力』と、『泥人形ゴーレム』に有効な攻略方法が全体に共有され、『泥人形ゴーレム』とも対等以上に渡り合えている。

しかし、先程言及した通り、数の上では不利であり、なおかつ、『防衛隊』側には肉体的・精神的疲労が頂点に達していた。

故に、何処かが瓦解すれば、あっと言う間に押し込まれて、『宮殿』を落とされる危険性があるのだ。

それを回避する為には、増援の到着を何よりも待ち望んでいる状況であった。


そこへ来て、更なる悲劇が『防衛隊』側を襲う。


「ご、御報告申し上げますっ!!『リベラシオン同盟』からの情報で、『王都』東側にて、新たに『泥人形ゴーレム』の発生を確認との事ですっ!!現在、『リベラシオン同盟』が対応してくれていますがっ・・・!!!」

「な、何だとっ!!!???」

「まだ増えると言うのかっ・・・!これは、非常にマズいっ・・・!!」


更なる増援が、『泥人形ゴーレム』側にあったのだ。

ここまで絶望的な状況では、『防衛隊』側は寄せ集めの集団であるから、流石に逃げ出す者達も出る可能性がある。

そうなれば、もはやどうしようもない。

一旦勢いづいた情勢と言うのは、覆すのが難しいからだ。


逆に攻め手側の『戦略』としては、これはもはや定石と言ってほどの手札だ。

己の優位性に慢心せずに、目的を果たす為に最後まで全力の攻めを見せる。

泥人形ゴーレム』を操っている『術者』は、中々に油断ならない人物の様である。


「チッ、こちらの増援はまだかっ!!!」


しかし、ここで朗報も入った。


「ご、御報告申し上げますっ!!『リベラシオン同盟』からの続報で、『ヒーバラエウス公国』に赴いていたお仲間が救援に駆け付けたとの事ですっ!!!」

「何っ!?それは本当かっ!!??」

「ええっ!!数の上では微々たるモノですがっ・・・!!!」

「いやっ、今は何にしてもありがたいっ!『リベラシオン同盟彼ら』は一人一人がとてつもない『使い手』だからなっ!!!」


『ロマリア王国』では、『英雄アキト』と『リベラシオン同盟ユストゥス達』の活躍は、特に戦いに身を置く者達としては、半ば伝説的に語られている。

それに、今回の襲撃においても、ユストゥス達の貢献度は非常に高い。

故に、アイシャ達が合流した事は、『防衛隊彼ら』としては、願ってもない朗報な訳である。


少し息を吹き替えした『防衛隊』の面々は、再び気合を入れ直した。


「よしっ!『リベラシオン同盟彼ら』には申し訳ないが、『リベラシオン同盟彼ら』を全面に押し出して、本隊は少し後退するっ!!!『リベラシオン同盟彼ら』は規格外としても、『リベラシオン同盟彼ら』の増援があった以上、こちらの増援ももうしばらくで到着するだろうっ!!!後もう少し、持ちこたえてくれよっ!!!」

「「り、了解っ!!!」」



◇◆◇



「助かったぜ、アイシャ殿、ティーネ殿、リサ殿っ!」

「礼は不用です。こちら側の状況はっ?」


合流を果たしたアイシャ達とユストゥス達は、新たに発生した『泥人形ゴーレム』を瞬時に殲滅し、そう言葉を交わしていた。

礼を述べるユストゥスに対し、アキトの従者としてではなく、『エルフ族』のリーダー格として、ティーネはそれを遮り詳しい情報の説明を求めた。


「住人の避難は完了しています。『防衛隊』も健在ですが、全体の士気は著しく低下していますね。体力的にも、精神的にも疲労の色が濃いと思われます。」


それに打てば響く様に、メルヒがそう素早く報告する。

普段は、特に最近はオチャラケている雰囲気のあるティーネ達だが、そこはやはりあくまで『武人』であった。


「ふむ・・・。ユストゥス達は大丈夫ですか?」

「俺らは鍛え方が違うし、あるじさん謹製の『体力回復ポーション』もあるから、まだまだ大丈夫だぜっ!ただ、如何せん腹は減ったがなっ!」

「了解。では、私達が一時的に『泥人形ゴーレム』の殲滅を請け負いますので、あなた方はしばらく休息して下さい。」

「・・・おいおい、大丈夫なのかいっ!?」

「問題アリマセン。私ノノ中ニハ『アストラル』ニ関連スルモノモ存在シマス。流石ニオ父様ニハ及ビマセンシ、マダソノモ十全ニ回復シテイマセンガ、新タナル『泥人形ゴーレム』ヲ発生サセル事ハ『妨害ジャミング』ガ可能ダト思ワレマス。」(提案)


そのティーネの判断にユストゥスが異論を唱えると、エイルがその会話に割って入った。

そこで、初めてユストゥス達は顔を見合わせて、エイルの存在に言及した。


「・・・彼女は?」

「エイルだよぉ~。『ヒーバラエウス公国向こう』で仲間になったの。“定例報告”でも知らせていたと思うけど・・・。」

「ああっ!彼女がそうですかっ!!・・・やはり、『古代魔道文明』はとんでもない『技術』を持っていたのですね。見た目は人間そのものですから、分かりませんでしたっ!」

「失礼、自己紹介ガ遅レマシタネ。私ハ、『魔道都市ラドニス』製造ノ、『魔道兵量産計画』ノ『試作機』デス。正式名称ハ、『自律思考型魔道人形 試作13号機』、愛称ハ、“エイル”デス。現在デハ、オ父様ト正式ニ『契約』ヲ結ンダ身トナリマスノデ、皆サントハ“同僚”、イエ“仲間”、ト言ウ事ニナリマスネ。以後、オ見知リオキヲ。」(ペコリッ)

「おう、俺はユストゥス・ナート・アングラニウスだ。ユストゥスでいいぜ。よろしくな。」

「僕はハンスフォード・ナート・ダルケニアだ。ハンスでいいよ。よろしく。」

「私はジークハルト・ナート・フィルメールだ。ジークと呼んでくれ。よろしく頼む。」

「私はメルヒオーレ・ナート・ドラクロアです。メルヒで結構ですよ。歓迎します、エイル。」

「ワタシはー、イーナ・ナート・フェルトだよー。イーナでいいよー。これでー、オンナのコのワリアイがさらにふえたねー。」

「ユストゥス・サン。ハンス・サン。ジーク・サン。メルヒ・サン。イーナ・サンデスネ。了解シマシタ。ヨロシクオ願イイタシマス。」(インプット完了)


ユストゥス達とエイルが軽く顔合わせをすると、再び本題に戻る。


「現状では、主様あるじさま以外では、エイル殿が一番『魔道・魔法技術』関連に関しては詳しい。その彼女が可能と言うのならば、特に問題ないと思いますよ?」

「私達は、まだまだ体力が有り余っているからねぇ~。」

「みんな、ボク達に任せてよっ!」

「オ父様ニ仇ナス者達ハ、問答無用デ殲滅シテ御覧ニ入レマショウッ!!」

「「「「「おおぉ~~~!!!」」」」」


何があったかは知らないが、その気合十分なアイシャ達の様子を受けて、ユストゥス達は心強く感じていた。

確かにユストゥスの言う通り、彼らはまだまだ体力的にも精神的にも問題ないが、それでも疲労は積み重なっていた。

そこへ来て、頼もしい援軍が到着した訳であるから、更なる不測の事態に備えて、休める時は休むのがセオリーだ。

ユストゥス達は、その事をよく弁えていた。


「ティーネ殿達もこう言ってくれてる訳だし、とりあえず腹ごしらえがてら休憩しますかね。」

「ああ。」「そうだな。」「うむ。」「いぎな~し。」

「って事で、後はよろしくっす。」

「うむ、任せよっ!」


他の『防衛隊』から見たら羨ましい限り(不公平とも言えるが)の状況だが、この『泥人形ゴーレム』騒動の要は『リベラシオン同盟』であるから、ユストゥス達の温存は『戦略』的には有りと言えば有りなのであったーーー。



◇◆◇



「・・・お母さんっ、私怖いよぉ~!」

「だ、大丈夫よ、『宮殿ここ』は安全ですからねっ!!」


一時的な避難場所として、『宮殿』や『貴族街』にある『貴族』達の屋敷が一般に解放されていた。

当然、『王都』外に逃れる者達も多くいたが、そちらは『防衛隊』も手が回らない為に、より安全なのはむしろ逃げ場のない『宮殿』や『貴族街』であったのは何とも皮肉な事であった。


そこに、一組の母親と小さな幼女がいた。

父親はこの場にはおらず、『憲兵隊』として防衛任務に赴いていた。

母親は、愛する夫の無事を祈りながら、怯える娘をそうなだめ、自分にも言い聞かせる様に幼女にそう呟いていた。

しかし、無情にも襲撃の音はその激しさを増していくのだった。


「くそっ、『防衛隊』の連中は何をやってやがんだっ!!!」

「・・・終わりだっ・・・!『ロマリア王国』はもう終わりだっ・・・!!ヒャ、ヒャハハハハハッ~~~!!!」

「お、お、俺の事だけは助けてくれぇ~!!なあ、アンタ達も戦えんだろっ!?」

「お、落ち着いて下さいっ!!!『宮殿ここ』は安全ですからっ!!!」


時が経つにつれて、その避難場所では不平不満が続出し始める。

それが周りに伝播して、更なる不安が巻き起こると言う悪循環に陥っていた。

それに、必死に『文官』や『宮殿』付きの『執事』や『侍女メイド』が対応する。

しかし、一向に改善しない現状に、住人達の精神も限界であった。


このままでは、何時暴動が起こっても不思議ではない。

それを懸念して、『ロマリア王国この国』の第一皇太子であるティオネロが住人達のメンタルケアに務めていた。


「親愛なる我が国の国民の皆さんっ!どうか落ち着いて下さいっ!確かに今現在我々は非常に危機的状況にありますが、我が『防衛隊』も必死に食い止めてくれていますし、増援が来るのも時間の問題ですっ!今しばらくの辛抱ですからっ・・・!!」


ティオネロは、『王族』としての『カリスマ性』を持ち、同年代に比べても才気溢れる少年だが、現状では心許ないところも多くあった。

ここに赴いたのも、自らの姿を見せる事によって安心感を覚えさせる狙いがあったのだが、これはむしろ現状では悪手となってしまったのである。


「だったら、さっさと終わらせろよっ!!!」

「っつか、オメーらが無能だから、『王都』が襲撃されてんだろーがっ!?」

「『騎士団』は何をやってやがったんだっ!!!」

「っ!!!???」


非難の矛先を見付けた住人達は、ティオネロに対して暴言を吐き始めた。

これは、ハッキリ言って見当違いも甚だしい言葉の数々だが、今現在の彼らの精神状況的には理性的・理論的な事を考える余裕はなかった。

それに驚き戸惑ったティオネロは、ただただ狼狽するしかなかった。

それが住人達を更に苛つかせたのだが、しかし、まだまだ少年であるティオネロには、彼らを鎮める事は難しかった。


こうした状況の中では、人々の希望足りうる圧倒的な説得力と存在感、安心感が必要になってくるのだが、残念ながらティオネロにはそれはまだまだ備わっていなかった。


しかし、


「・・・ねえねえ、お母さん。はなあに~?」

「・・・えっ!?」


ギスギスした雰囲気の中、ポツリッと幼女の声だけが静かに響き渡った。

幼女を庇う様に抱き締めていた母親は、その幼女の言葉に、その指先を追う様に視線を移していった。

それに釣られる様に、住人達のザワめきも静かになっていた。



そこには、一筋の『アキト』が飛んでいたのである。

それは、神秘的な光景であっただろう。

おおよそ、人間とは思えない程の神秘的な容姿を身に纏い、他を圧倒する存在感を放ち、通常では考えられない『魔法技術』によって、『アキト』は『王都』・ヘドスの空に現れたのだから。

アキト』はヘドス上空に止まると、幼女に微笑みかけ、その口を開いた。



「さあ、反撃開始だーーー!」


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