第99話 タルブ政変~アキト達の暗躍~ 2



~~~



「な、何故貴様がにいるっ・・・!?この場は『ヒーバラエウス公国この国』の神聖なる『貴族院』の場であるぞっ!!!部外者どころか、『ロマリア王国他国』の『間者スパイ』である貴様のいて良い場所ではないぞっ!!!」


おお、なかなか立ち直りがお早い事で。

現状把握から“”までが、なかなか堂に入っていた。

しかし、まぁ、仕方ないとは言え、それは見当違いも甚だしい。

そもそも僕は、『ロマリア王国』から放たれた『間者スパイ』ではないし、の立派な『関係者』でもある。

故に、『貴族院この場』にいたとしても、それは何ら問題視される謂れはない。


「な、何をしておるっ!この者を即刻この場から追い出さんかっ!!!」


グスタークさんとシュタインさんは、血走った目で控えていた『近衛兵』達に怒鳴り散らして命令した。

しかし、彼らが動く気配はなかった。


「これこれ、グスターク。それにシュタイン候よ。私の大事なに無礼を申すものではない。」

「・・・はっ・・・ヒッ・・・、ち、父上っ・・・!!!???」

「・・・ど、どう、なって・・・いるの、だ・・・!!!???」

「・・・ち、父上・・・!?・・・ホ、ホントにっ・・・!!!???」


そこにアイシャさん、ティーネ、リサさんに付き添われ現れたの姿を確認すると、二人は幽霊でも見た様に、驚愕の表情を浮かべていた。

まぁ、これに関しては、彼ら二人だけでなく、ドルフォロさんや一部関係者を除く、全ての人が同じ表情だったが。

もちろん、ディアーナさんも同じである。

・・・ホント、スンマセン。orz


のアンブリオ大公が現れ、その場は再び騒然としていた。

しかし、落ち着き払ったドルフォロさんが、皆さんを一気に静める。


「皆様、落ち着いて下さい。今からを御説明いたしますので。」


シーンッ。

その一言で、この場の全員が静まり返った。

う~ん、なかなかの『カリスマ性』である。

しかし、のドルフォロさんは、次代の“君主候補”として、その程度の『』を持つ青年なのである。

仮にも、ディアーナさんの兄君なのだからな。


「・・・結構。では、父上、アキト殿。。」

「うむ。」

「ええ。」



~~~



ティーネがアンブリオ大公と密かに接触を果たしていた頃、アイシャもドルフォロと密かに接触していた。

彼は、グスタークらの『企み』によって、『ヒーバラエウス公国この国』が『ロマリア王国』に攻め入る為の『人身御供口実』にされてしまう事が、すでにセレウスとアルメリアの『情報提供』から判明していたからである。


アキト達は、別に『ロマリア王国』に仕える『立場』ではないものの、アキトにとっては、『ロマリア王国』はこの世界アクエラにおける『故郷』であるし、アイシャらにとっても、アキト達と出会った大切な『思い出の地』である。

故に、そこが理不尽な戦火に晒される事は、彼らにとっても看過出来る事態ではなかった。

何より、『ロマリア王国』には、アキト達の友人や知り合いが大勢住む地である訳だし。


更に、『リベラシオン同盟』が密かに進めている『三国同盟』(強国・『ロンベリダム帝国』と、その後ろにいる『ライアド教・ハイドラス派』に対抗する為の、『ロマリア王国』・『ヒーバラエウス公国』・『トロニア共和国』の『同盟関係』)構築の為にも、『ヒーバラエウス公国』と『ロマリア王国』が敵対する事は、避けるべき事態である。

そんな事もあって、グスタークらの『企み』を未然に阻止する為にも、逆にその『企み』を利用する上でも、アンブリオ大公と共に、ドルフォロも救いだそうとしていたのであったがーーー。



・・・



「っ!!!何者かっ!!!」

「・・・あっれぇ~、おかしいなぁ~?私もアキトやティーネ達に教わったから、かなり『潜伏スキル』も高くなってると思ったんだけどなぁ~・・・。」


首都・『タルブ』にあるドルフォロ公太子の私邸。

そこに潜入を果たしていたアイシャは、ドルフォロの『護衛魔法士』の誰何すいかを受けていた。



アイシャの名誉の為に明言しておくが、今現在のアイシャやリサの『隠密技術』は、アキトやティーネ達に次ぐレベルであり、流石に“得手不得手”の関係から“超一流”とまでは行かないまでも、この世界アクエラの“一流”の『使い手』とも遜色ないレベルであった。

故に、むしろ凄いのは、アイシャの存在を看破したこのドルフォロの『護衛魔法士』の方であろう。


『ヒーバラエウス公国』の『護衛魔法士』。

それは、『グーディメル子爵家』に仕えるレティシア・フランドールも同様の『称号』を持っているが、『護衛魔法士』達彼らは『ヒーバラエウス公国』が誇る最高位の『戦士』達の事であった。


その環境柄、独自の発展を遂げた『魔法技術』を持つ『ヒーバラエウス公国』では、アキトも言及した通り、この世界アクエラでは非常に稀少レアな『職業クラス』である、『高レベル』の『魔法戦士』、『魔法士ウィザードナイト』を輩出する数少ない『土壌』が出来上がっていた。


何故『魔法戦士』、『魔法士ウィザードナイト』が稀少レアなのかは以前にも言及したが、つまりは『魔法士ウィザードナイト』に成る為には、非常に厳しいハードルの数々を乗り越える必要があるからであった。

戦士ファイター』としての『技術』や『技量』を一通りマスターし、なおかつ、それと平行して『魔法使いウィザード』としての『魔法技術』の研鑽を積まなければならない。

更に、『護衛』として必要な『スキル』である『狩人ハンター』系の『スキル』でもある、『危機察知スキル』と『気配察知スキル』も体得する必要があるのだ。

これを『高レベル』で修めようとするならば、少なくとも10年以上の月日を、その所謂『修行』の日々に費やさなければならないだろう。


また、これも以前に言及したが、こちらの世界アクエラでは、所謂『教育システム』(『トレーニング方法』)が確立していない問題点もあった。

故に、これは『冒険者』にも言える事なのだが、『成長スピード』や『習熟スピード』には、向こうの世界地球以上に個人差が出てきてしまうのである。

これによって、同じ『職種』の中にあっても、『S級冒険者』クラスの者もいれば、『初級冒険者』クラスを抜け出せないでいる者達もいる状況になってしまっている訳である。

最終的に、“一流”と呼ばれる様になる為には、どうしても『才能』の“壁”が立ちはだかるのだ。

まぁ、これは向こうの世界地球の『プロスポーツ』の世界でも同じ事が言えるのであるが。


その中にあって、このドルフォロの『護衛魔法士』は、『ヒーバラエウス公国この国』最強の呼び声も高い『魔法士ウィザードナイト』なのであった。



「『筋力強化パワー』っ!!!」

「っ!ち、ちょっ、待っ・・・!!!」

「シッ!!!」


彼、シオン・クルーズが『ヒーバラエウス公国この国』最強と呼ばれる所以ゆえんは、その徹底した『単純さシンプルさ』・『合理性』故であった。


実際の、特に『近接戦闘』においては、『魔法技術』はあまり役立たない。

これは、向こうの世界地球の『銃火器』と同様に、“準備”に時間を要するからであった。

慣れると、その一連の動作をスピーディーにする事は出来るが、


1、『敵性対象』を認識

2、『武器』を取り出す

3、『安全装置』を解除する

4、『照準』を合わせる

5、発射


と言う行程がどうしても必要になってくる。

しかし、当然ながら、その『敵性対象』も訳だから、状況は刻一刻と目まぐるしく変わる。

モタモタしていたら、スッとナイフで一突きで“終わり”である。

これは、『マニュアル方式』・『オートマチック方式』の『魔法技術』も抱えている問題点であった。


逆に、これは弓矢も同様であるが、それが『中~遠距離戦闘』であった場合は『魔法技術』は脅威以外の何物でもない。

相手に何もさせずに、一方的な“蹂躙”が可能だからである。

まぁ、その特性がある故に、『魔法使い』は、『近接戦闘』を不得手としている事が多いのだが。


当然ながら、『魔法士ウィザードナイト』と言えど、『近接戦闘』ならば、単純に『剣』で戦った方が早いし確実である。

故にシオンは、事『近接戦闘』においては『魔法技術』を『』に特化する事によって、圧倒的な『戦闘能力』・『防衛力』を持つに至っていた。


シオンが扱う『自己バフ』。

これは、『ヒーバラエウス公国』が独自に編み出した『』と、『現代魔法』の主流になりつつある『オートマチック方式』である『』を組み合わせたモノで、それによって、通常の『物理現象』を伴う『魔法』を放つ(“準備”→“発動”までに時間が掛かる)のではなく、自身の身体能力を『強化』(“準備”→“発動”がスムーズ)しているのである。

『効果』や『系統』としては、アキトやアイシャが体得している『』や、クロやヤミが使用していた『』と近いかもしれない。

もっとも、厳密には全く別物であるものの、『魔法技術』に詳しくない者達からしたら、違いは分からないだろうが。


『強化』された身体能力によって、シオンはアイシャを強襲を仕掛ける。

通常であればそれで全て方が付く、

しかし、アイシャも並の『使い手』ではない。

事『近接戦闘』に置いては、アイシャは“超一流”の『専門家スペシャリスト』であった。


脅威の排除の為に、躊躇なく急所を狙うシオンの攻撃を上手くいなし、アイシャは『カウンター』を思わず叩き込んでいた。

ここら辺は、すでに『反射』の域である。

しまった、とアイシャは思ったが、シオンもそれを“”をずらす事によって対応し、致命的なダメージを避ける事に成功した。

もっとも、アイシャレベルの『膂力りょりょく』の前には、逆に中途半端な回避行動は悪手である。

完全に衝撃を逃がすか、彼女と同じ『力』で相殺出来なければ『ノーダメージ』にする事は難しいだろう。


「グハァッ!!!」

「あっ、ご、ごめんねぇ~。けど、話は聞いてほしいかなぁ~って・・・。いや、潜入している以上、襲われても文句は言えないんだけどさぁ~。」

「ハアッ、ハアッ、ハアッ・・・。す、すみません、ドルフォロ公太子殿下・・・。“賊”は、相当な、『手練れ』です・・・。殿下、だけでも、お逃げ下、さい・・・。」

「あのぉ~、だからね・・・?」


シオンは、『腕』が良く、『職務』に忠実ではあるが、何処か人の話を聞かない傾向にあった。

無論、シオンからしたら、彼の『護衛対象』であるドルフォロを守る事が『務め』であるから、わざわざ『敵性対象』の言葉など聞く必要はないのであるが。

そうした“考え方”も、シオンはいたって『単純シンプル』だった。


「まあ待て、シオン。この者も何か“言い分”がある様だ。まずは話を聞いてやったらどうだ?」


そこにアイシャに取っての“助け船”を出したのは、意外にもドルフォロであった。


彼は、様々な『洗脳教育』や『思想教育』の影響の末、何処か自身の『生命いのち』を軽んじる傾向にあった。

いや、『死』が怖くないと言えば正直嘘になるのだが、ドルフォロの『立場』は、究極的にはアンブリオ亡き後の代えの『部品』であり、その事から、彼は『自己』と言うモノが極端に薄い傾向にあるのだ。

これが、ある種『承認欲求』を諦めてしまった所に繋がるのだが、逆に、その『立場』が彼の“全て”であるから、それを全力で守る上でも、所謂『保守派(中立派)』に傾倒する要因ともなっているのである。

まぁ、それはともかく。


「しかし、殿下っ!!!」


意外と『頑丈タフ』なシオンは、先程のダメージも無かったかの如く、ドルフォロを背にしながらも反論した。

これは、シオンの『自己バフ』である『治癒力強化ヒーリング』による『効果』であった。


「この者が“本気”ならば、我々の『生命いのち』はすでに無いぞ?それは分かっているだろう?」

「クッ!!!それは、そう、ですが・・・。」


ドルフォロの的を射た発言に、シオンは悔しげに呻きながらも、それを肯定した。

彼我の“戦力差”を正確に捉える事。

それも、優れた『護衛魔法士』に必要な『資質』であった。


「となれば、この者の“”は私の『生命いのち』ではないのだ。ならば話くらい聞いてもよかろう。何もだけが、危険を回避する手段ではないぞ?」

「は、はぁ・・・。」


事“論戦”においては、シオンよりドルフォロの方が一日の長があった。

ドルフォロに諭されて、不承不承ながらもシオンは戦闘態勢を解除した。

もちろん、アイシャに対する警戒は怠っていないが。


「すまなかったね、『侵入者』殿。それでは、君の“用件”を聞こうか。」

「はぁ~い。」


アイシャは、ほっと一息吐くのだったーーー。



・・・



「・・・ふむ。・・・にわかに信じがたい話だが・・・。」

「殿下、騙されてはいけませんっ!この者がホラを吹いているに違いありませんよっ!!!」

「えぇ~、そんな事ないよぉ~!」


アイシャは、ドルフォロとシオンに、グスタークらの『政変企み』についてを語って聞かせた。

しかし、それに対する反応は今の通りである。


「確かに、シオンの言う事も一理ある。『侵入者』殿、何か『証拠』でもあるのかな?」

「私の名前はアイシャだよぉ~。『鬼人族』の『アスラ族』・族長、ローマンの子、アイシャ・ノーレン・アスラ。今は、『リベラシオン同盟』の『独立部隊』にして、『冒険者』パーティー・『アレーテイア』を率いるアキト・ストレリチアの『婚約者』だけどねぇ~。///」


マイペースなアイシャは、この場においても健在であった。

しかし、その発言には、ドルフォロとシオンも目を見開いた。


「『リベラシオン同盟』のアキト・ストレリチア、だと・・・!?彼の『ルダ村の英雄』か・・・。には、『リベラシオン同盟』が絡んでいると言う事かっ・・・!」

「それに、あの『幻の種族』とも呼ばれている『鬼人族』だとっ!?確かに『トロニア共和国』では、極少数ながらその存在が確認されていると聞いた事があるが・・・。」

「ホントだよぉ~。ほらっ!!!」

「「っ!!!」」


例によって、アイシャはフード付きマントで、今の今まで己の容姿を隠していた。

すでにその『スタイル』がデフォルトであるし、『潜入活動』で素顔を晒す訳にはいかないからだ。

しかし、アイシャはアッサリと素顔を晒して見せた。

それに一瞬呆気に取られたドルフォロとシオンだったが、『鬼人族』特有の『角』を認識すると、また種類の違う驚きを見せていた。


「・・・美しい・・・。」

「ホ、ホントに『角』があるっ!!!やっぱり、『鬼人族』は生き残っていたんだなっ!!!」

「まぁねぇ~。今も大半は“山”に籠っているけど、その内大規模な交流が増えるんじゃないかなぁ~?」

「なあなあ、『鬼人族』って、やっぱりアンタみたいに『強い』連中ばっかなのかっ!?」

「・・・え?いやぁ~、どうだろ~?今の私は、自分で言うのも何だけど、一般的な『鬼人族』の基準からは逸脱しているし・・・。ただ、まぁ、貴方の『力量』ならば、上位の人達ともいい勝負になるかもねぇ~。」

「マジかっ!?やっぱ、世の中って広いんだなぁ~。」


ある種『脳筋』同士、アイシャとシオンがなんだかんだと打ち解けていた。

一方のドルフォロは、アイシャのその容姿にすっかり魅了されていた。


アイシャは、こう言っては何だが、所謂『淑女』ではないかもしれないが、その顔立ちは非常に整っているし、その肉体もしなやかで均整の取れたモノだった。

何より、生来の『活発さ』もあいまって、野生動物を彷彿とさせる『生命力』に満ち溢れていた。

ドルフォロの生きてきた『政界世界』とは違うタイプのアイシャ女性に、ドルフォロが魅了させるのも無理からぬ事であった。


「後、『証拠』ならあるんだよぉ~。これこれっ!」

「「???」」


すっかり警戒心が緩んだドルフォロとシオンは、アイシャが取り出した『資料』に目を向けた。

ここら辺は、所謂アイシャの性格による所が大きい。

彼女は、生来人懐っこいタイプだ。

警戒心が強いタイプのアキトやティーネともすぐに打ち解けていたし、『ルダの街』には、『鬼人族他種族』であるにも関わらず、友人・知人は非常に多かった。

下手すれば、『人間族』であるアキトよりも、人付き合いが多いかもしれない。

まぁ、これは元々“引きこもり”気質のあるアキトにも多少問題があるかもしれないが。


アイシャが取り出したのは、ニコラウスが用意し、グスタークの手に渡った、ドルフォロを『罠』に貶める為の、ドルフォロと『ロマリア王家』の『蜜月関係』を示した、例の『資料』の『写しコピー』であった。

これは、本来ならばエイルからグスタークの手にすでに渡っている筈なので、『写しコピー』がある事などありえないのだが、まぁ、その詳細は後に語る事としよう。


ドルフォロはそれを受け取ると、サッと目を通した。

そして、みるみる内に、その表情が驚愕に変わっていった。


「な、なんだ、これはっ!!!???」

「どうされましたかっ!?」

「あ、ああ、シオン。・・・見れば分かる。グスタークのヤツは本気だぞっ・・・!!!」

「こ、これはっ・・・!!!???」


青ざめた表情で顔を上げ、ドルフォロはシオンにその『資料』の『写しコピー』を手渡した。

シオンもそれを流し読みすると、同じく驚愕の表情を浮かべていた。


「・・・で、殿下っ!わ、私に内緒で、いつの間にこのような恐ろしい『企み』をっ・・・!!!???」

「ちゃうわ、ボケッ!!!私とて身に覚えはないわっ!!!そもそもお前は四六時中私に着いていただろーがっ!!!???」

「あ・・・、確かに・・・。」


シオンは、所謂“騙されやすい”タイプであった。

これは、彼の『戦闘スタイル』とも通じる、彼の『単純シンプル』な性格の弊害でもあったが、この際彼の性格は一旦脇に置いておくとしても、そうでなくとも人は意外と簡単に騙されるモノなのである。


例えば、高い『情報化社会』となった現代の向こうの世界地球においても、単純な『詐欺』に騙される人々は後を絶たない。

その“手口”が知れ渡り、半ば“常識”と化していても、結局自分の身に降りかかるまでは、それは“他人事”だからである。

人は何故か“自分は大丈夫”と思うものなのである。

故に、実際に自分の身に起こると、焦りやパニック状態になってしまい、冷静さを欠き、良い様に騙されてしまうのである。


また、こうした『心理的作用』は、『情報操作』においても用いられている。

昨今、特に『インターネット』の普及によって、それでよく『炎上騒動』に発展するのだが、未確認の『情報』に踊らされて、『事実』が、時に『』あるかの様に吹聴される事があるのだ。

冷静に観察すれば、それが根も葉もない『噂』だと判断出来るのだが、それを信じ込んだ一部の者達が、勝手に動き出す事も往々にしてあるのだ。

何度となく言及しているが、人は『

故に、『ネガティブキャンペーン』や『フェイクニュース』は、一定の『効果』をもたらすのだ。


今回のドルフォロを貶める為の『資料』にしても、全くのデタラメ、本来ならば、何の意味もない『怪文書』ではあるが、それがグスタークの口から語られ、あまつさえ精巧な『偽資料』まで存在するとなると、それを信じる者達も必ず出てきてしまう訳だ。

大半の者達が半信半疑でも、これも以前にも言及したが、』がまかり通るのが世の常だ。

まず、間違いなく、ドルフォロを排除する『力』が働くだろう。


「・・・なるほど、厄介ですね。」

「・・・本当に分かっとるか?」


訝しげな表情を向けるドルフォロ。

しかし、シオンは『護衛魔法士』であって、『政治』には疎いので、無駄に爽やかに否定してみせた。


「いえ、正直サッパリ。それがデタラメなら、デタラメだって言えばいいじゃないですか。殿下には何の落ち度もないのですから。」

「それが出来たら苦労はせんわっ!!!“有る事”は『証明』出来ても、“無い事”を『証明』する事は非常に難しいのだっ!私の“身の潔白”を『証明』する事は不可能に近いだろう。」

「いやいや、殿下の“身の潔白”は私が『証言』しますよ?」


シオンがそう述べると、一瞬思考を巡らせたドルフォロだったが、すぐに否定の言葉を続けた。


「・・・いや、ダメだ。確かに、お前は『所属』としては父上の部下となるが、それでも私に近しい者には変わりない。故にお前の『証言』では『有効性』に欠ける。例えそう『証言』したとしても、私の為に『虚偽』の『証言』をしていると言って、マトモに取り合ってはくれないだろうな。」

「何ですか、それっ!?言い掛かりも甚だしいじゃないですかっ!!!」


『正義感』の強いシオンは、そう憤慨してみせる。

それに、ドルフォロは諦めた様に呟いた。


「『政治』ってのはそんなモンだ。残念ながら、な。“”『主張』がまかり通る事はほとんどないと言っても良い。」

「けどだいじょ~ぶ。アキトに任せておけば、万事解決だよぉ~?」

「・・・確かに、こうなってしまっては、『リベラシオン同盟あなた方』を頼らざるを得ない、か・・・。『ロマリア王国他国』の『組織』を頼るのは、ある意味本末転倒だが・・・。」


そこにアイシャが会話に割って入った。

それにドルフォロもそう首肯した。


も含めてアキトは問題ないって言ってたよぉ~?すでにアンブリオさんとディアーナさんはこっちの味方だから、って。」


そのアイシャの言葉に、再びドルフォロは思考を巡らせた。


「・・・ふむ?父上とディアーナがついているなら、確かに逆転の目はありそうだな・・・。そこに『保守派(中立派)』と『反戦派』の『貴族』も加わればっ・・・?」

「グスタークさん達の方が『逆賊』であると言う事も出来る、だったかな?」

「なるほどっ・・・!!!」


アキトの言っていた“言葉”を思い出しながら、アイシャはそう呟いた。

それにドルフォロも納得の表情を浮かべていた。


一番重要なのは、、にあった。

これによって、グスタークらの『政変企て』の『』が覆されるのだから。


アンブリオ君主不在の混乱の中で、他の『後継者候補』を追い落とす事は、これは、『貴族』達による『損得勘定』も計算に入れた上で、グスタークらにとっては有利に働く公算が高かった。

そこに追い討ちを掛ける様に、ドルフォロを『虚偽』の『資料(文書)』によって『追放』。

それによって、晴れて次期君主の『座』がグスタークのもとに転がり込んで来る訳だ。

また、『』を企てたドルフォロを『糾弾』した事により、『貴族』達からグスタークに一時的にでも支持が集まる。

そうなれば、ディアーナら『反戦派』の『主張』を封じ込める事も可能なのである。


しかし、アンブリオが、それらは全て水泡に帰す。

当然である。

その場合は、グスタークはまだ何の『権限』もいち『後継者』に過ぎなくなるのだから。

すでに内密でティーネと接触した事によって、アンブリオの『死亡フラグ』はへし折られた訳であるし。

しかし。


「けどねぇ~、アキトが言うには、。」

「・・・なにっ?」


そのアイシャの言葉に、ドルフォロは訝しげな表情を浮かべる。


「えっとねぇ~、アキトが言うには、慎重で疑り深い人でも、安心しきった時にはボロが出やすくなるから、真っ正面から『対決』するより楽なんだってさぁ~、よく分かんないけど。詳しい事は、この『計画書』に記載してあるから、ドルフォロさんに渡してねって言われてるよぉ~。」

「・・・ふむ。」


アイシャは頭は悪くないのだが、その性格的には、あまりあれこれ考えを巡らす事は苦手なタイプだった。

それ故、アキトはアイシャしっかり『計画書』を手渡していた。

とは言え、ドルフォロの担う『』は、そう難しい事ではないが。


「・・・フフフッ。なるほど、『英雄』殿は中々の『策略家』の様だな。」


手渡された『計画書』を黙読すると、納得した様にドルフォロは呟いた。

それに、シオンは頭を傾げる。


「あっ、後これも渡してって言われてるよぉ~。」

「・・・これは?」

「ん?『ポーション』だけど?」

「・・・ふむ。『英雄』殿が持たせた物ならば、『ポーション』ではあるまい。これにも何かしらの意味があるのだろう。」

「殿下、危険では?」

「問題ない。今更『毒殺』もあるまい。アイシャ殿の『力量』ならば、そんな事せずともよいのだからな。」


注意を促すシオンに、そう応えてドルフォロは一気に『ポーション』をあおった。

その瞬間、ドルフォロの姿が様に見えた。

それに訝しげな表情を浮かべたシオンだったが、次の瞬間、それも吹き飛んでしまった。


「・・・嗚呼っ!素晴らしいっ!!まるで“生まれ変わった”様だっ!!!」

「おぉ~!」

「で、殿下っ!?」


晴れやかな表情をしたドルフォロは、先程とはうってかわって、非常に『覇気』に満ち溢れた顔立ちをしていた。

アキトがアイシャを介してドルフォロに贈ったのは、以前『ノヴェール家』のガスパールやオレリーヌに贈ったあの『精神安定系ポーション』であった。

それによって、オレリーヌがニコラウスによって施されたジュリアンの『暗示呪縛』を解いた様に、ドルフォロの『洗脳教育』や『思想教育』の末に歪められた『人格』をしたのである。


ドルフォロは、彼が本来持つ筈だった、誰もがアンブリオの『後継者』として認めるだろう、『知性』と『カリスマ性』に満ち溢れた青年に立ち返っていたのである。


「・・・我が弟グスタークの事は残念だが、例え唆されたとは言え、『ヒーバラエウス公国我が国』の民達をも巻き込む『政変企て』を企んだ以上、放置する訳にもいかん、か。アイシャ殿。『英雄』殿には、“承った”と伝えて欲しい。」

「うん、りょ~かぁ~い。」

「さて、シオン。お前にも少し手伝って貰うぞ?」

「は、はぁ・・・。もう、何が何やら・・・。」


驚き戸惑うシオンを尻目に、ドルフォロは憂いの表情を浮かべて、遠くを見据えるのだったーーー。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る