第97話 タルブ政変~悪夢~



◇◆◇



「さて、ディアーナはあくまで“疑惑”に過ぎなかったが、兄上、貴方は違います。」

「「「「「っ!!!」」」」」

「・・・はぁ?グスターク、お前は何を言ってるのだね?」


勢いに乗ったグスタークは、その流れのまま、ドルフォロ本命を糾弾し始める。

その発言に、またもや『貴族』達はざわついていた。

しかし、身に覚えのない事を言われたドルフォロは、それまでの沈黙を破って、流石に呆れた様な表情でグスタークにそう問い返した。


まぁ、それはそうだろう。

ディアーナに関しては、『リベラシオン同盟』のをニコラウスからの『情報提供』で知っていた訳だが(もっとも、そちらに関してはグスタークも確かな『証拠』は何も持っていなかったので、それ以上の追及のしようが無かったのだが)、ドルフォロに関しては、あくまで“疑惑”な訳であるから、ドルフォロに身に覚えがある筈がない。

しかし、ここで都合の良い事に、あるいはそれをグスタークが懸命に手繰り寄せた結果かもしれないが、先程のディアーナの“”が追い風になってくれた。


「惚けても駄目ですよ、兄上。私も本当は信じたくなかったっ・・・!しかし、この『資料』が、兄上と『ロマリア王国』の『蜜月関係』を詳細に示しているのですっ!!!ルゲン議長、そして皆様。『資料』の“写し”を用意しましたので、どうかご確認頂きたい。」


用意周到な事に、グスタークは『貴族院』のサポートスタッフとして控えていた文官達に合図を送ると、『貴族』達に『資料』の“写し”が配られていった。

しばしの静寂の中、半信半疑で『資料』を一読していた『貴族』達彼らから、驚きの声が上がった。


「な、何だ、これはっ・・・!?」

「ドルフォロ公太子殿下と『ロマリア王国』、いや、『ロマリア王家』との『密約』に関する『極秘資料』、か・・・!?『ヒーバラエウス公国我が国』と『ロマリア王国』の『』への合意文書に、『ヒーバラエウス貴族』の解体・解散、ドルフォロ公太子殿下の『ロマリア貴族』としての『地位』の約束に、『資金』の供与・・・。ドルフォロ公太子殿下は、『ヒーバラエウス公国この国』を『ロマリア王国』に売り渡すおつもりかっ!!!???」

「し、知らないっ!!!な、何かの間違いだっ!!!私は、『ロマリア王国』と手を組んでなどっ・・・!!!」


そこには、ドルフォロが密かに『ロマリア王家』と接触を果たし、様々な『密約』を交わした事が詳細に記されていた。

当然身に覚えのないドルフォロは、怒りに震えて真っ赤な顔をしながら、勢いよく立ち上がり身の潔白を叫んだ。


「では、この『紋章』を何ですかっ!!!間違いなく『ロマリア王家』の『紋章』ではありませんかっ!!!」


しかし、その言葉に耳を傾ける者はその場にはもはやおらず、ドルフォロを糾弾する怒号だけが響き渡る。

その『情報』の“”も確認しないままに。


先程のソフィアの“”もあいまって、この『資料』はより『信憑性』が増していたのだ。

もちろん、ディアーナに関してはグスタークやニコラウスも当初想定した事態では無かったものの、ドルフォロだけでなく、ディアーナまでも『ロマリア王国』のがあったと言われてしまえば、それはもはや半ば確信に変わってくるものである。


ー『ロマリア王国』が、『ヒーバラエウス公国我が国』を切り崩しに掛かっているのではないか?ー


もちろん、これは全くの誤解であり、一種の『印象操作』・『ネガティブキャンペーン』なのだが、意外と人々と言うのは、そうした『虚偽』の『情報』に踊らされてしまうモノなのである。

こちらの世界アクエラよりと遥かに高度な『情報化社会』となっている向こうの世界地球においても、今日に至るまでそれらに騙される事があるのだから、それも無理はない話だろう。

故に、『貴族院』の『貴族』達も、グスタークとニコラウスの思惑通り、いや、想定以上に

この世界アクエラにおいても、向こうの世界地球においても、当然『多数派』が物事を動かす事となる。

それらを『派閥』の枠を越えて味方に着けたグスタークに、もはやこの場において“敵”は存在しなかった。


(ちなみに、『紋章』に関しては、これはフロレンツの時にも軽く触れたが、この世界アクエラ、特にハレシオン大陸この大陸の『王候貴族』や『組織』においても、その存在を示す、あるいは識別する為に利用されていた。

それ故、その『紋章』によって、どの『組織』が関与したかの特定も可能なのである。

もっとも、それを『偽証』する事もまた可能なのであるが、もし『偽証』がバレた場合は、その『組織』を“敵”に回す可能性が高いので、それなりにリスクは存在する訳であるが。)


「だから知らないっ!!!そ、そう、これは』だっ!だ、が私を貶めようとっ・・・!!!」

「この期に及んで見苦しいですぞっ、ドルフォロ公太子殿下っ!!!」

「そんな世迷い言をっ・・・。誰が信じると言うのですっ・・・!!!」


わめきたてるドルフォロの言葉に、しかし、すでに『貴族』達にはその言葉は、“”にしか聞こえなかった。

一度植え付けられた『不信感』は、ただの弁明の言葉では覆す事は難しい。

しかも、もちろんこれは“疑惑”ではあるものの、『記録媒体』のないこの世界アクエラにおいては、ドルフォロが『ロマリア王国』の使者とを『証明』する事が難しいのである。


「皆様、落ち着いて下さい。確かに、先程のディアーナの件もあわせて鑑みると、兄上とディアーナ我が妹が『ロマリア王国』のを受けている事は明らかでしょう。しかし、皆様。幸い、今回は事前に我が優秀なからの『情報提供』によって、私はそれを未然に防ぐ事が出来た訳です。が、もし、仮に、この二人の内どちらかが父上の後を継いだ場合、『ヒーバラエウス公国我が国』は一体どうなっていたと思いますかっ!?」


ザワッ!!!

『貴族』達は狼狽していた。

仮に『ロマリア王国』のを受けた(と言う事になっている)二人が君主になった場合。

『侵略』とはまた別の形なので、一般の国民達にとっては、『支配者』の首がすげ替わるだけで大した意味がある訳ではないが(場合によっては、今現在の国民達の生活がより良くなる可能性もあるので、むしろ歓迎するべき事態である可能性も高いが)、『特権階級』・『支配階級』に籍を置く者にとっては、自分達の『』や『』が奪われる可能性が高いのである。

それ故、二人に君主になってもらっては、困ってしまう事になる。

では、残された『選択肢』はと言うと。


「皆さんっ!確かに我々は『主義』・『主張』においては、『政治的』にそれぞれ『立場』が違いますっ!場合によっては『対立』する事もあったでしょうっ!しかし、それはいずれにせよ、『ヒーバラエウス公国我が国』の未来を案じてであった事だけは、共通する『理念』であったと私は考えておりましたっ!ところが、ドルフォロ公太子殿下とディアーナ公女殿下は、己の身可愛さに『ヒーバラエウス公国我が国』を、国民ごと『ロマリア王国他国』に明け渡そうとしていたのですっ!!!これだけは、どれ程の『立場』におられる方でも、どれだけの『成果』を挙げられた方でも、看過出来る事ではないでしょうっ!!!しかし、だがしかし、皆さんっ!!!我々には、まだ『』が残されているのですっ!!!アンブリオ大公は、常々『ヒーバラエウス公国我が国』の未来を案じておられましたっ!そして、その『』を継ぐ方が、『ロマリア王国他国』の『陰謀』に屈しなかった方が、我々にはまだ残されているのですっ!!!」


ここぞとばかりに、『陰謀説』を『貴族』達に信じ込ませたグスタークらは、『ロマリア王国』とドルフォロ、ディアーナへの『悪感情ヘイト』を最大限利用して、『貴族』達の心を一つの“方向”に纏め上げていく仕上げに入った。

シュタインは、熱を帯びた表情で“演説”を繰り広げる。


「おおっ・・・!!!」

「そうだっ、グスターク公太子殿下ならっ・・・!!!」


そう、『貴族』達彼らに取っては、グスタークだけが、『貴族』達彼らの『』や『』を守る『』足り得るのである。

極論を言ってしまえば、『貴族』達も、己の身が可愛い訳だ。

『主義』だ、『主張』だなどとのたまっていても、それは己に取ってはでしか無かった。

もちろん、中には本当の意味で『信念』を持つ者達もいたかもしれないが、すでにこの場の空気は、それを覆す時機をとっくに過ぎていた。


「み、皆さんっ!?どうしたと言うのですかっ!!!何かおかしいと思いませんかっ!?・・・えっ???」

「私は無実だっ!!!そ、そうだっ、グスタークこそ怪しいだろうっ!!!」


故に、ディアーナとドルフォロの発言をマトモに取り合う者は居なかった。


「私は、グスターク公太子殿下の『後継者』継承を支持する。」


ポツリッと誰かがそう漏らした。


「私もだっ!」「同じく。」「『ヒーバラエウス公国我が国』を『ロマリア王国他国』の好きにしてなるものかっ!!!」


その声を皮切りに、グスターク支持を『貴族』達は表明していった。

それを静かに聞いていたルゲンに、シュタインが目で合図すると、ルゲンは声を張り上げる。


「では決を取りますっ!アンブリオ大公の『後継者』、次期君主にグスターク公太子殿下が相応しいと思う方は挙手をっ!!!」


すでに『選択肢』としては、ドルフォロとディアーナは意図的に外された形となったが、その場にそれを疑問に思う者はいなかった。

さも当然といった感じに、ドルフォロとディアーナを除く全ての者がそれに手を挙げていた。

もちろん、心情的にはそれに反対の者もいたかもしれないが、この場で面と向かって反対を述べる事は、自身の『立場』を怪しくする可能性がある。

それ故、『同調圧力』などの『集団心理』も手伝って、全会一致、とまではいかなかったが、圧倒的賛成多数により、その『議題』に一つの『結論』が出る事となった。


「それでは、賛成多数により、『貴族院』では、グスターク公太子殿下の『後継者』継承を承認するものとしますっ!!!」


ルゲンの宣言に、パチパチと拍手が巻き起こった。

グスタークはそれににこやかに応え、ドルフォロは項垂れた様に座り込み、ディアーナは混乱した様にキョロキョロと辺りを見渡すのだったーーー。



・・・



「さて、皆様。これにて本日の『議題』は終了となる訳ですが、ドルフォロ公太子殿下とディアーナ公女殿下の『処遇』は如何様いかようにすべきでありましょうか?」


流石に、様々な“問題”がしたこの流れで、グスタークが次期君主になる事を承認する事として『議会』を閉会する、と言う訳にはいかなかった。

詳しい事は全く知らされていなかったルゲンは、『議長』としての職務上、『国家反逆』の疑いのある二人の『処遇』をどうするのか、皆に意見を求めるていで、シュタインとグスタークに遠回しに『答え』を求めていた。


「『ヒーバラエウス公国この国』を裏切ったのですぞっ!?如何いかに『大公家』の者とは言え、それ相応の重い『処罰』を下すべきでしょうっ!!!」


しかし、それに意見を述べたのはシュタインでもグスタークでもなく、ドルフォロとディアーナの『反逆行為』を信じ込んだ『反戦派』の『貴族』の一人であった。

「可愛さ余って憎さ百倍」ではないが、一度信じていた相手に場合、その失望感は通常の比ではない。

凄惨な事件が家族間、あるいは親しい間柄で起こる比率が高いのも、そうした理由からだろう。

故に、『処刑』と言う言葉こそ避けたものの、彼の『貴族』が過激とも言える発言を述べたのも、無理からぬ事であった。


「いやいや、それは早合点が過ぎますぞ。まずはお二方を『幽閉隔離』して、更に詳細を調べ上げてからでないと、『結論』を出す事は難しいのではないですかな?」


比較的冷静な者は、その意見にそう反対意見を述べた。

通常であれば、この者の意見がもっとも道理であろう。


しかし、それをされて困るのはグスタークやシュタインの方であった。

いや、先程も述べた通り、ドルフォロやディアーナが、『ロマリア王国』からのを『証明』する事は難しいのだが、詳細を調べられると色々と“矛盾”が出てくるからである。

故に、グスタークはこの“問題”を、もっともらしい理由で先送りにする事とした。


「あいや、皆様、しばし待たれよ。」


あーでもないこーでもないと意見が飛び交う中、グスタークが再び口を開いた。

するとピタリッと、喧騒は止みグスタークに注目が集まった。

この場の掌握は成功している様だ。

まぁ、それはそうだろう。

ある種、本日の『ヒーロー』・『主役』はグスタークであったからだ。

それに、内心得も言われぬ『優越感』を感じながらも、グスタークは重々しく言葉を続けた。


「兄上とディアーナ我が妹が起こした不始末は、確かに『大罪』に値するだろう。しかし、“身内”に甘いと言われようとも、しばし『結論』を先送りにして貰えないだろうか?せめて、アンブリオ大公父上の『国葬』が無事に執り行われるまではっ・・・。」

「「「「「っ・・・!!!」」」」」


ハッと『貴族』達は思い出した。

『大公家』の人間達は、自身の“身内”を亡くしたばかりなのだ。

人の“情”からはかけ離れた『政界世界』に身を置く『貴族』達ではあるが、確かに『冷血』な部分はあるかもしれないが、別に完全に人の“心”を無くした訳でもない。

故に、『ヒーバラエウス公国この国』の為に、自身の“心”を圧し殺してドルフォロとディアーナを糾弾したグスタークの真摯な“願い”に、多少心が揺らいだ。


「もちろん、『証拠隠滅』などの恐れもあるので、兄上とディアーナ我が妹を『幽閉』する必要がある事は理解している。しかしっ・・・!」

「皆まで申しますな、グスターク公太子殿下。殿下のお優しい“心”は、皆様理解しておいでです。」

「シュタイン候・・・。」


客観的に見れば、『三文芝居』もいいところかもしれないが、人と言うのは意外と“場”の『空気』に流されるモノだ。


「では、この“件”はアンブリオ大公の『国葬』後に改めて協議する事としましょう。皆様も、それでよろしいかな?」

「「「「「・・・。」」」」」


グスタークとシュタインの『答え』を忖度そんたくしたルゲンがそう結論付けると、『貴族』達も無言で同意を示した。


「それでは、本日の『議題』は以上です。」


こうして、グスタークら『主戦派』一派の一世一代の『大博打』は成功に終わり、『ヒーバラエウス公国この国』の『政変クーデター』が、密かに成ったのであったーーー。



◇◆◇



その後、アンブリオ大公の崩御は国民達にも広く公表された。

以前にも述べたが、この世界アクエラでは『冷蔵技術』がまだ一般的には普及していないものの、一国のあるじともなると、『ヒーバラエウス公国この国』の総力を結集した『魔法技術』を贅沢に使っての『保存』が可能となる。

とは言え、様々な観点からも『遺体』は速やかに処理する事が望ましいだろう。

それ故に、10日間の服喪期間を設けつつ、崩御から5日後には盛大な『国葬』が執り行われる事となった。

国民達は、それを通して、アンブリオ大公君主に別れを告げるのである。


また、これは『国』によってもまちまちであるが、『ヒーバラエウス公国この国』では、『土葬』が一般的であった。

流石に向こうの世界地球の過去の『権力者』なんかとは違い、豪華な『霊廟』やら『ピラミッド』・『古墳』なんかを新たに建造される事は無かったが、歴代の『大公家』の者達が埋葬されている『大公家の墓』と呼ばれる特別な場所に、アンブリオ大公も同じく埋葬される運びとなった。

『大公家の墓』には、一部の関係者と『大公家』の人間しか入る事が出来ない。

それ故、くだんの“疑惑”を、『幽閉』されていたドルフォロとディアーナも、グスタークので、その場にて久しぶりに表に出てこれた訳であった。


憔悴しきった顔をしたドルフォロとディアーナに、アンブリオ大公の『葬儀』、『国葬』の為に戻っていた第一公女ベネディアと第二公女ニアミーナが付き添っていた。

時おり、キッとした表情でグスタークを睨み付けるが、一部の関係者しかこの場にいないとは言え、『葬儀』、『国葬』の最中にグスタークを問い詰める事は、『大公家』の醜聞に関わる事なので出来よう筈もない。

これさえ終わってしまえば、後は延期されていたドルフォロとディアーナの『処遇』を決めて、完全に『ヒーバラエウス公国内』を掌握出来るグスタークは、それをどこ吹く風と涼しい顔をして受け流していたーーー。



・・・



アンブリオ大公の『国葬』も滞りなく済み、服喪期間が明けてから、ドルフォロとディアーナの延期されていた『処遇』を決定すべく、再び『貴族院』の『議会』が開会される運びとなった。

動く事の叶わないドルフォロとディアーナに代わって、ベネディアとニアミーナがそれぞれ骨を折っていた様だが、生憎彼女達には『貴族院』の『議会』に出席する権限が失われていた。

となれば、彼女達に出来る事はせいぜい『根回し』程度のモノだが、ここで彼女達の今現在の『立場』が足枷となった。


『ヒーバラエウス公国』とベネディア、ニアミーナが嫁いでいった『他国』は、もちろん『政略結婚』であるから、表向きは良好な関係にある。

しかし、彼女達が『ヒーバラエウス公国』から出てしばらく経っている訳であるから、二人が『ヒーバラエウス貴族』達に与えられる『影響力』は微々なるモノでしかなくなっていた。

その間にも、グスタークは着実に『ヒーバラエウス公国内』を掌握していた訳である。

それ故、ベネディアとニアミーナの言葉に耳を傾ける『貴族』達は皆無であったのだ。

『貴族』達も、次期君主たるグスタークに睨まれる訳にはいかないのだから。


「それでは、ドルフォロ公太子殿下は『斬首刑』、ディアーナ公女殿下は『国外追放』とする。」

「ふざけるなっ!!!っ・・・!っ・・・!!っ・・・!!!」

「・・・。」


“シナリオ”通り、グスタークは邪魔なドルフォロとディアーナをこうしてに排除する事に成功した。

内心ほくそ笑みながら、表向きグスタークは、沈痛そうな『演技フリ』を交えつつ。

これは、最後の一手を打つ為の『布石』であった。


『議論』とも言えない『議論』の末、アッサリと『処遇』の決まったドルフォロとディアーナを退室させ、グスタークは“演説”を開始した。


「皆様、まずは謝罪させて頂こう。我が『大公家』の人間が色々とご迷惑をお掛けした。・・・しかし、彼らを唆したのは誰でしょうか?・・・そうっ、紛れもなく『ロマリア王国』なのですっ!これは、『ロマリア王国彼の国』と『不可侵条約』を結んでいる筈の『ヒーバラエウス公国我が国』に対する、明らかな『内政干渉』ではないでしょうかっ!?私達は、その行いに対して泣き寝入りをするべきでしょうかっ!!??否っ!!!断じて否でありますっ!!!」

「そうだっ!!!」

「『ロマリア王国彼の国』に即刻抗議すべきだっ!!!」

「いやいや、それすら生ぬるいぞっ!!!」

「しからば、どうされると言うのですかなっ?」

「報復をっ!!!『ロマリア王国彼の国』には、『ヒーバラエウス公国我が国』に手を出した事の愚かさを、その身を持って知るべきでありましょうっ!!!」

「いやいや、流石にそれはっ・・・!」


“反ロマリア感情”を高めていた『貴族院』の『貴族』達は、グスタークの『言葉』に、そう声を上げていた。

しかし、流石に報復となると、二の足を踏む者達もいた。

そこに、シュタインが、ここぞとばかりに『誘導』を開始した。


「・・・皆様も御存知の通り、『ヒーバラエウス公国我が国』の『魔法技術』は独自の発展を遂げております。これだけでも、『ロマリア王国彼の国』に対する大きな優位性であるでしょうが、『ロマリア王国彼の国』は、一つ大きな失敗をしました。我々に“”を残していった事です!!!」

「「「「「っ・・・!!!???」」」」」

「それはっ・・・!?」

「まさかっ・・・!!!」

「そう、リリアンヌ・ド・グーディメル殿が『開発』したとされる『農作業用大型重機』ですっ!!!」

「いやいや、しかし、それは『リベラシオン同盟』とやらがで関与していたのではないのですかっ!?ならば、『ロマリア王国彼の国』も同じ『技術』を持っている事にっ・・・!!!」

「それに関しては問題ありません。ディアーナ公女殿下の『後ろ楯』を失った『グーディメル子爵家』は、すでにグスターク公太子殿下の傘下に収まり、その『技術』は接収済みであります。もちろん、『リベラシオン同盟』からもたらされた『技術』もあるでしょうが、聞けば、『農作業用大型重機それ』の大半はリリアンヌ殿の『知識』が反映されているとか。すでに『ヒーバラエウス公国我が国』より『リベラシオン同盟』は姿を消したと報告が上がっていますし、『ロマリア王国彼の国』で全く同じ物を造り上げるにはそれなりに時間が掛かるでしょう。故に、むしろ、今だからこそ、我らの優位性が成り立つのです。更に、『大義名分』は『ヒーバラエウス公国我が国』にあります。周辺国家を味方と着ける事で、『ロマリア王国彼の国』を“孤立”させる事すら可能でしょうっ!!!」

「「「「おおっ・・・!!!」」」」」


ニコラウスの『協力』を得て、用意周到に準備を進めていたグスタークら。

その事実に、目の色を変える『貴族』達。

”可能性が高ければ、それは『貴族』達にとってもと都合が良い訳である。

当然、その欲を刺激されれば、流れが変わるのも無理からぬ事であろう。

すでに、ここには“抑止力”となりうるドルフォロやディアーナがいないのだから。


かくして、それからしばらくの『議論』の末、『貴族院』の『議会』にて、『ロマリア王国』との開戦が正式に決定したのであったーーー。



◇◆◇



『貴族院』の『議会』が閉会後、グスタークとシュタインはグスタークの私室にて『密談』を交わしていた。


「おめでとうございます、グスターク公太子殿下っ!!!我々の思惑通り事が運びましたなっ!!!」

「フフフッ、フハハハハッ!!!こ、ここまで上手くいくとはなっ!?何が『リベラシオン同盟』だっ!!!ニコラウス殿がおれば、恐れるに足らんではないかっ!!!」


ドルフォロとディアーナの糾弾から、トントン拍子で事が運んだ事によって、それでも最後まで気を抜かずにここまで来たが、全てが終わった事により、いよいよもってグスタークもそう喜びを爆発させていた。


「ニコラウス殿の言う通り、ディアーナ公女殿下を排除してしまえば、『リベラシオン同盟奴等』も手を出せなかったのでしょう。確かに、その『武力』は脅威でしょうが、『国』と『国』との話は、そう簡単な事ではありませんからな。」

「うむ。『リベラシオン同盟奴等』は『』かもしれんが、『』ではないだろうしな。『政治的』な事は我らが一枚上手だったと言う事だろう。いずれにせよ、ニコラウス殿と、シュタイン候。そなたには色々と骨を折って貰ったな・・・。」

「いえいえ、何を仰います、グスターク公太子殿下。」

「いや、一段落した今だからこそ言わせてくれ。今まで、よく仕えてくれた。そして、これからもよろしく頼むぞっ!!!」

「っ!!!ハッ、グスターク。」

「ハハハハハッ、少し気が早いぞ、シュタイン候。俺はまだ『即位』しておらんだろう?」

「それも時間の問題でございましょう?」

「・・・まぁ、そうであるな。さて、戯れはこれくらいにして、次なる一手を考えるとするか。」

「そうですな。」


ドルフォロとグスターク。

その二人の公太子は、以前にも言及したが、その『教育』や『人格形成』の過程において、様々な『貴族』達の介入が存在した。

もちろん、シュタインもそれに関わっている。

その末で、『ヒーバラエウス公国この国』でもかなり強い『影響力』と『発言力』を有するシュタインが、であるグスタークに取り入ったのは、よりであった。

つまり、ニコラウスの介入がなくとも、元よりドルフォロはいずれ排除されるだったのである。

シュタインが、より強い『権力』を握る為に。


しかし、ディアーナが頭角を現した事によって、が狂ってしまった。

彼女の『人気』と『才覚』は、無視出来ないモノだったからである。

その内、ディアーナを擁立しようとする動きまで出てくる始末。

それ故、モルゴナガルを介して、『公女暗殺計画』が実行に移されたのであった。


ところが、そこからは全て想定外の連続であった。

リベラシオン同盟アキト達』の介入により、ディアーナ暗殺が失敗に終わり、モルゴナガルは拘束される。

後はこれまでの流れの通りである。


しかし、それもすでに終わった話だ。

結果的には、ニコラウスと言うを許す事となったが、グスタークを次期君主とする事に成功した訳である。

これで、更に己の『権力』を増大させる為の下地は出来上がった訳である。

せいぜい、このグスターク御坊っちゃんを上手く使、甘い汁を啜らせて貰うぞ。

シュタインは、そう内心ニヤリッと笑っていたーーー。





















「あー、ぬか喜びさせてしまって申し訳ないのですが、『時間切れタイムリミット』ですよー。コホンッ。ジャスト一分だ。ーーいい『悪夢ユメ』は見れたかよ?」


そうドヤ顔で言い放つ僕。

いや~、元・『厨二病』患者としては、一度は言ってみたかったんだよねー、このセリフ。


「「・・・・・・・・・はっ???」」


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