第84話 自律思考型魔道人形 試作13号機 エイル
◇◆◇
「うぎゃあぁぁぁっーーー!!!手がっ、俺の手があぁぁぁっーーー!!!」
その日、ニコラウスは絶体絶命のピンチに陥っていた。
身勝手な理由から『ノヴェール家』のジュリアンを唆し、『
また、ヴァニタスの介入により、アキトや『リベラシオン同盟』の動向を密かに監視する事が可能だった『
アキトの未知の『能力』(『
以前に“仕込み”を済ませていた『ギアード組』に合流して、水面下で独自に『力』を蓄えようと画策していたのである。
ニコラウスが目をつけたのは、アキトや『リベラシオン同盟』の活躍によって失脚したレイモン伯や、壊滅した『ランツァー一家』が牛耳っていた、“勢力”や“権力”の『空白地帯』である『ダガの街』周辺の“稼ぎ場”であった。
もし、ニコラウスに『
しかし、先程も言及した通り、ニコラウスの『
また、長らく『ランツァー一家』の襲撃を恐れ、物流が滞り気味だったところに、レイモン伯の失脚や『ランツァー一家』の壊滅によってようやく活気が戻ってきていた『ダガの街』周辺の治安を守ろうと、『冒険者ギルド』や『商人ギルド』が協力して、『
当然、『
そんな訳で、『ダガの街』周辺は、今現在では一般市民にとって非常に快適で安全な街道へと変化していったのである。
“思惑”を外されたニコラウスは、『
しかし、自暴自棄になったとしても、現状が変わる訳ではない。
命からがらそうした『警戒網』の網を潜り抜け、『ヒーバラエウス公国』側にニコラウスと『ギアード組』の生き残り達は逃げ延びたのだった。
以前にも言及した通り、『ヒーバラエウス公国』には、『盗賊団』が身を隠すにはうってつけの、手付かずの『遺跡類』が多数あった。
その一つに潜伏して、小規模な『冒険者パーティー』や『旅商人』などを襲いながら、何とか『ダガの街』周辺のほとぼりが冷めるのを待つ事としたのだ。
この『選択』が、ニコラウスの、その後の『命運』を変える事となる。
『遺跡類』は、長い年月による風化や浸食、動植物などが生息する事などによって、所謂『
そうした場所には、人々が出入りしない事を良い事に、『盗賊団』が“アジト”にしたり、『魔獣』・『モンスター』の棲みかとなっている事が往々にしてあった。
ニコラウスらが身を隠そうと『選択』したその『遺跡類』も、まさに『魔獣』や『モンスター』の巣窟だったのである。
縄張りを荒らされれば、当然『魔獣』や『モンスター』達は、その『侵入者』を排除しようと襲ってくる。
『ギアード組』も、以前は『ロマリア王国』のとある山の洞窟に潜んでいたので、そうした縄張り争いは経験があったかもしれないが、土地が変われば生息している『魔獣』や『モンスター』の『種類』や『強さ』も変わる訳で、その『
一人、また一人と『魔獣』や『モンスター』の餌食となっていく『ギアード組』を尻目に、ニコラウスは逃げ惑い、『遺跡類』の深部へと知らず知らずの内に突き進んで行く事となったのだった。
「グルルルルッ!!!」
「あひゃぁぁぁっーーー!!!く、来るなぁっ!!!来るなぁっ!!!」
ニコラウスは、『魔獣』・『
(ここで、『魔獣』と『モンスター』の違いを簡単に解説しておこう。
『魔獣』とは、その名の通り、『獣』である。
しかし、
そうした『魔素』の影響を受けて、巨大化・凶暴化した『猛獣』全体を指して、『魔獣』と総称しているのである。
ただし、
一方の『モンスター』は、『ホブゴブリン』や『ゴブリン』などの例の様に、『妖精』や『精霊』などの所謂人が作り出した心の中の『畏れ』と、『魔素』が結び付いた結果生まれた、東洋における『妖怪』に近い『幻想種』の総称である。
それ故、『モンスター』と呼称されるモノは、外見が人に近しくなる傾向にある為に、『人間種』に近しい『
ただし、草食動物や『ホブゴブリン』の例もある様に、こちらが手を出さない限り大人しい性質のモノもいるので、必ずしも危険視する必要はないのだが、
深部の『
なおもジリジリと間を詰めようとする『
『
しかし、先程まで『ギアード組』の連中を貪り食っていたので、空腹、と言う訳でもない。
それ故、自分の縄張りを荒らしたこの『
深部は、開けた空間だった。
苔によるモノか、『鉱石』によるモノか、はたまたどこからか光が漏れ入っているのかは定かではないが、『
所々、『古代魔道文明』時代の『遺産』がそこかしこに見受けられるが、生憎とニコラウスにはそれらに目を向けていられる余裕はなかった。
「死にたくないっ!死にたくないっ!!死にたくないっ・・・!!!」
痛む傷口を押さえながら、朦朧とする意識の中で、それでもニコラウスは生に執着していた。
しかし、当然ニコラウスが進んでいる先は
バンッ、と何かにぶつかり、ニコラウスは思わず転倒した。
「・・・えっ・・・!?」
何かの『液体』が満たしている密閉状の『水槽』がそこにはあった。
その『水槽』による光の反射の具合によって、もちろん、ハッキリと明るかった訳でもなく、ニコラウス自身の意識も朦朧としていた事もあったのだろうが、道が奥へと続いていると
しかし、その先は“行き止まり”である。
その現実に、ニコラウスは目の前が真っ暗になった。
「グルルルルッ!!!」
「ひっ・・・!!!」
そこに悠然と『
少しでも距離を取ろうと『水槽』に張り付いたニコラウスだったが、それ以上彼には為す
以前にも言及したが、ニコラウスは『
『武術』・『武器術』の『使い手』でもなく、『魔眼』自体は失われたものの、依然として『魔素』との『親和性』自体は非常に高いのだが、『魔法技術』を学んでこなかったので『魔法』も使えない。
しかし、冷たい話、これもニコラウスの『選択』してきた『結果』である。
『
つまらなそうに、その鋭い爪を降り下ろした。
「ぎゃあぁぁぁぁっーーー!!!」
ズダァンッ!!!
パリンッ!!!
「ガウッ???」
勢い余って、『
長い歳月の末に耐久力が低下していたのだろうか?
鈍い音と甲高い音が鳴り響き、謎の『液体』を撒き散らしながら、頑丈そうな『水槽』はアッサリと壊れてしまったのである。
その『液体』が自身の身に掛かるのを嫌って、『
一方のニコラウスは、右足首を無くした激しい痛みと、『水槽』を覆っていた“
しかし、そんな満身創痍ながらも、ニコラウスの生への“執着心”は衰える事がなかった。
(いたいっ!死にたくないっ!いたいっ!たすけてっ!いたいっ!死にたくないっ!いたいっ!たすけてったすけてったすけてったすけてっ!!!)
「・・・?・・・!」
そのニコラウスの『渇望』が、『水槽』の中にいた『
ちょうど、謎の『液体』が引き、偶然にもニコラウスの下にその『
「・・・『契約者』候補、ノ、『アクセス』、ヲ、確認、シマシタ・・・。・・・エラー・・・。『魔素親和性』、ハ、一定レベル、デ、アル、ト、認メル、モ、
「な、何だっ!!!???」
「グルルルルっ!!!」
『水槽』の中でたゆたっていた
それに面食らって、痛みや状況も忘れて、ニコラウスは驚愕の声を上げた。
先程まで余裕の態度だった『
「・・・結論・・・。機能継続、ヲ、最優先、ト、スル・・・。『適合者』、ガ、現レル、マデノ、緊急措置、ト、シテ、『仮契約者』、トノ、
「へっ・・・?」
それが、ニコラウスと“13号”の出会いだったーーー。
◇◆◇
自律思考型魔道人形 試作13号機 エイル。
それが、ニコラウスが“13号”と呼ぶ者の正式名称であった。
これは、『古代魔道文明』の末期に、
エイルは、その中でも最後期に『開発』されたモノで、現代地球の『科学技術』すら軽く凌ぐ、超高度な『古代技術』によって作り出されている。
それが、同じく『古代技術』によって生み出された『密閉型培養槽』に保護されていた事、『遺跡』自体が地中深くに埋没した事による風化や浸食からの保護の機能を果たした事、エイル自体に『搭載』された『自己修復機能』など、様々な奇跡的な偶然が重なって、ほぼ無傷のまま“現代”にまで遺されていたのだった。
アキトやリリアンヌがエイルの存在を知れば、目の色を変えてすっ飛んで来る事だろう。
なぜなら、まさにエイルは、
そして、エイルがより稀なところは、
エイルが『
「・・・
「あっ・・・?えっ・・・??はっ・・・???」
エイルの呼び掛けに、ニコラウスはもはやパニックであった。
ただでさえ、四肢が欠損し、痛みで意識が朦朧とし、絶体絶命のピンチの場面で、『人間』の少女そっくりの、しかし明らかに『人』ではない『
しかし、エイルは、そんな事とは露知らずに、ニコラウスの『生体情報』を
「・・・スキャン完了・・・。『仮契約者』ノ、著シイ身体機能低下、ヲ、確認・・・。・・・コノママ、治療、ヲ、施サナケレバ、95%、ノ、確率、デ、『仮契約者』、ノ、生命機能、ハ、停止、スル、恐レガ、アリマス・・・。・・・緊急措置、ト、シテ、『生体リンク』、ヲ、応用シタ、“
「こ、今度は、何だっ!!!???」
「ガウッ!?」
エイルから照射された謎の“光”が、ニコラウスを包み込んだ。
それを受ける事で、ニコラウスは不思議な事に、欠損した四肢は流石に元には戻らなかったが、
「っ!!!???」
「・・・完了・・・。生命機能、ノ、停止、ノ、危険、ハ、ナクナリ、マシタ・・・。」
「お、お前が助けてくれたのかっ・・・?」
「・・・イエス、
「???・・・よく分からんが、その『
「・・・私、ト、『生体リンク』、ヲ、繋イダ、『契約者』、ノ、呼称、デス・・・。・・・ソノ、呼称、ガ、気ニ入ラナケレバ、呼称、ノ、変更、モ、可能、デス・・・。」
「『
「・・・イエス、
「ああっ、細かい事はいいっ!よく分からんからなっ!ただ、俺がお前の
「・・・イエス・・・。」
「っしゃあっ!ツイてるぜっ!じゃあ、質問だっ!お前、アイツを何とか出来るかっ!?」
ニコラウスはエイルと会話を交わしながら、エイルを警戒したまま近付いてこない『
エイルは、『
「・・・『データ』、ニ、該当、ノ、存在、ハ、確認、出来ズ・・・。アナライズ開始・・・。・・・完了・・・。・・・仮称、『ビースト
「出来るのかっ!?」
「・・・イエス・・・。」
「なら、やってくれっ!!!このままだと、俺は食い殺されちまうっ!!!」
「・・・イエス、
「グルルルルッ!!!ガウッ!!!」
「ひぃぃぃぃっーーー!!!」
そう言うと、エイルは改めて『
『
『
しかし、エイルからは所謂『
しかし、『
そんなモノに、『強者』である自分が恐れる事は何もない、と判断したのだった。
しかし、
「ガッ・・・!!!???」
「・・・『ウォーターカッター』、射出・・・。・・・命中・・・。『ビースト
「へっ・・・?」
エイルが放った『
あまりにも呆気なく脅威が去った事に、ニコラウスは暫し呆然としたのだが、その事実が徐々にニコラウスの脳に染み渡ってくると、ニコラウスは狂喜乱舞した。
「は、ハハハッ、アハハハハッ!!!凄い、凄いぞっ!!!俺は、凄い
『強敵』である『
もちろん、ニコラウス自身が無くした『魔眼』も、左手、右足、右目も元には戻らないが、それを埋めて余りある『力』だと判断したのだった。
「・・・そう言えば、お前を何と呼べば良いのだ?」
一頻り感情を爆発させたニコラウスは、冷静になった事によって、ぽつりとそう溢した。
それに、エイルは反応して答える。
「・・・私、ハ、『魔道都市ラドニス』、製造、ノ、『魔道兵量産計画』、ノ、『試作機』、デス・・・。・・・正式名称、ハ、『自律思考型魔道人形 試作13号機』、愛称、ハ、『エイル』、デス・・・。」
「・・・ラド・・?・・・自律・・・13号・・・??」
『古代魔道文明』の重要な『真実』を仄めかすエイルに、しかし、そうした『知識』に乏しいニコラウスは困惑した。
ニコラウスの“感覚”では、エイルの存在は都合の良い『
故に、ニコラウスには、『
「よしっ、それじゃあ、“13号”っ!お前の
「・・・イエス、
こうしてニコラウスは、エイルの『力』を借りて、『ヒーバラエウス公国』での『裏社会』での『地位』を、確立していったのであったーーー。
◇◆◇
ハイドラスは、そう考えていた。
もちろん、ハイドラスには、自身の『
とは言え、これは前例がない事なので、ある意味必然だったのかもしれないが、『異邦人』達を召喚した影響で、『
原因は不明だが、『異邦人』達を、『
まぁ、それはともかく。
『戦力』としても、『思想』としても、表から裏から『
アキトとその一派はもちろんの事、先程『
その中でも、とりわけ“
『英雄神』・セレウスの予測通り、『
しかし、『古代魔道文明』の『遺産』を発見・発掘、更に研究・解析するにはそれ相応の時間が掛かる。
ならば、当然、現在ある物を強奪した方が早いとの結論になるのは、ある種必然であろう。
特に、『
しかし、ここで問題が生じていた。
どうやってエイルを確保するか、であった。
エイルの『性能』は、ハイドラスをしても未知数であった。
現在分かっている点は、『S級冒険者』クラスの『使い手』を簡単に退ける『力』を持ち、『
それだけでも驚異的な『性能』なのだが、『魔道兵量産計画』そのものは知りつつも、その全容までは把握していないハイドラスは、人選に苦慮していた。
エネアの例から分かる通り、自身の持つ“最大戦力”である『
『
ならば、やはり『異邦人』達を上手く使うしかないだろう。
そう結論付けて、ハイドラスは心当たりのある
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