第78話 『異邦人』達のこれから



◇◆◇



「・・・アラニグラさん。なぜあのような勝手な真似をしたのですか?」

「あぁ~・・・。」

「「「「「「「「・・・。」」」」」」」」


開けた平地の街道上で、怒りの表情を滲ませたタリスマンが、アラニグラにそう問い詰めていた。

アラニグラは少しバツの悪い表情を浮かべるモノの、頭をガシガシと掻くその態度には、そこまで悪びれた様子はない。

緊迫感のある二人の雰囲気に、他のメンバー達も息を飲んでその経緯を見守っているのだったーーー。



『LOL』のメンバー達は、今『テポルヴァ』の街を離れ、帝都・『ツィオーネ』に帰還する途中であった。

当然、アラニグラ以外のメンバーは、彼をすぐにでも問い質したい気持ちはあったのだが、『街中』ではどこに人目があるかも分からない。

何より、『救国の英雄』として称えられるアラニグラ、そして『LOL』メンバーが、人目を憚らずに衝突しているのは些か外聞に関わる。

そうした事もあり、表面上は粛々とその後の“戦後処理”についての駐留軍との打ち合わせを何とかこなしたのだった。


ちなみに、当初予定していた『テポルヴァ』の『市民』達の、『テーベ』への避難は見送られた。

まぁ、『カウコネス人』達の『一斉放棄』自体を終息させたのだから、当然と言えば当然なのだが。

負傷者の治療はウルカとククルカンを中心として、治せる者は治し尽くした。

が、当然死亡者も多数出た訳で、特にその事はウルカの心に暗い影を落としていた。


『カウコネス人』達が破壊した『建物』や『作物』などへの被害も甚大であった。

とは言え、『LOL彼ら』の『力』は、『再生』や『復興』には適しておらず、『援軍』、この場合は、『復興支援部隊』に様変わりした『帝国軍』の到着と同時に、『LOL彼ら』はお払い箱となったのであった。


(もちろん、『LOL彼ら』の『力』は実は様々な分野へのが可能なのだが、元々『LOL彼ら』の『力』は『ゲーム』を元としているので、一から『魔法技術』を学んだアキトと違い、精緻な『コントロール技術』や高度な『専門知識』がない。そんな事もあり、その『力』の運用は、極端な話0か100かしかなく、「建物を解体して更地にする」、などの細かい『調整』を必要とする『工事』などの場合では、『コントロール』が効かず、その範囲が『街』全体に及ぶ可能性も十分にある。その『力』を目の当たりにしている駐留軍や『テポルヴァ』の住人達がそれを恐れるのも無理はないし、「『英雄』にそんな真似はさせられない」、と言う『名目建前』のもと、割と全力で丁重にお断りされたのである。)


もちろん、『LOL彼ら』の『功績』自体は大きいモノである。

事実、ルキウス直々に帝都への帰還を促され、褒賞や称号を受け取ってほしいとの打診があった。

『信賞必罰』は、特に『組織運営』において必要な措置だ。

これによって、人々の『モチベーション』は上がる訳で、と同時に、『規律違反』で咎められる『リスク』を避ける様になる。

まぁ、若干今回の、特にアラニグラの行動は色々『グレー』な部分があるものの、『LOL彼ら』には独自の裁量で動ける『特権』があるし、事態の早期解決は『帝国』側としては歓迎すべき事だった。

『功績』を上げた者には褒美が与えられる。

もちろん、断る事は出来ない。

と、言うか、断られると『上に立つ』者達の『立つ瀬』がなくなる。

故に、ある意味泣き付かれる形で押し切られ、『LOL彼ら』はそれをしぶしぶ承諾したのであった。


こうして『LOL彼ら』は『テポルヴァ』を離れる事とあいなったのであるが、『LOL彼ら』の間の『空気感』は微妙な感じになっていた。

それを『修正』すべく、『LOL』の『リーダー』たるタリスマンが口火を切ったのであるが・・・。



「はぁ~・・・。なぁ、『』はもうおしまいにしないか?」

「・・・はっ?」

「「「「「「「「・・・っ!!!!!!!!」」」」」」」」


突如豹変したアラニグラの態度に、メンバー達は呆気に取られた。

そんな事は気にせず、アラニグラは己の“考え”を『主張』し始める。


「確かに勝手に行動した事は、これでも少しは悪いとは思ってるんだぜ?けど、俺らはもう無理に歩調を合わせる必要はないんじゃないのか?アクエラここはもう『ゲームの中』じゃないんだからよ。」

「・・・やはり、ヴァニタスとやらの『洗脳』を受けた可能性がありますね・・・。ティアさんっ!!!」

「うむ。【女神の癒し手】っ!」

「・・・いやいや、俺は『』だぜ?『状態異常完全回復それ』を使われても、何も意味がないんだけどよ・・・。」

「なんだとっ・・・!?」



実際、『LOL彼ら』の『』は、この世界アクエラにおいても有効である事は実証済みだ。

それ故、今回のアラニグラの“変貌”も、『敵』の『精神攻撃』の一種であろうとメンバー達はどこか楽観的に考えていた。

なぜなら、治療の当てがあるからである。

しかし、アラニグラの“変貌”は、もっと根底的なモノであった。

故に、『状態異常』のたぐいを治療する『魔法』や『スキル』はであった。

しかし、これは一概に『LOL彼ら』の判断を誤っている、と言う話でもない。


そもそも、『ゲーム』における『状態異常』、所謂『バッドステータス』は、現実的には、特に『』の場合は判別がなかなか曖昧になってしまうモノである。

例えば、『毒』や『麻痺』、『石化』など『』の『状態異常』の場合、『』とは、『病気』などと同様に、その『攻撃結果』を受ける前の『健常な状態』の事を指す事となるだろうが、『混乱』や『催眠』、『洗脳』などの『』とは何だろうか?

以前にも述べたと思うが、『地球』においても『精神』の事は完全に解き明かされてはいない。

つまり、『健常な状態』の『精神』の『』が曖昧なのである。

当然ながら、人は特別な『催眠』や『洗脳』を受けなくとも、様々な事柄から日々『精神』に影響を受けている。

分かりやすいところでいくと、親や友人、恋人などの影響は、本人の『精神』や『人格形成』に大きく関わってくる。


荒れた『家庭環境』では、本人の『性格』も次第に『攻撃的』になったり、逆に『内向的』になったりする。

また、『思春期』に特に顕著に現れるのだが、悪い友人や恋人とつるんでしまうと、本人には当初、そうした『性質』を持っていなくとも、その『周囲』の影響を受けて、悪い道に引きずり込まれる事が、度々『社会問題』などとして取り沙汰されている。

しかし、よく『確固たる意思』とか『鋼の精神』などと言う言葉があるが、見方を変えると、それはただの『柔軟性』のない『頑固者』ともなりうる。

『社会』や『時代』によっても、『精神』の“有り様”と言うのは、その“正しさ”を度々姿を変えるのである。


話を元に戻そう。

つまり、現実的な世界における『精神』の『健常な状態』とは、極端な話、まっさらな『赤ん坊』くらいの『精神』となってしまうのである。

当然ながら、それがどんなに劣悪な『環境』でも、それによって『形成』された『人格』は、間違いなく『本人』のモノだ。

故に、『地球』においても『催眠』や『洗脳』を治療する事は困難を極めるのである。

なぜなら、もしかしたらその『結果』は、ただ単に『かもしれないからである。


大多数の他人にとっては、その人の『考え方』が『』だとしても、結局は『価値観』の違いでしかない場合も往々にしてある。

それ故、様々な『主義』や『主張』が世には溢れているのである。

つまり、人々の『精神』を同一の『価値観』に落とし込む事はまず不可能に近い、と言う事である。


それと同様に、アラニグラの“変貌”も、所謂『状態異常』ではなく、彼の『価値観』が変わっただけの事。

故に、アラニグラの扱う【復元リセット】ならまだワンチャンあったかもしれないが、『状態異常完全回復』では、を取り戻す事は不可能であった。



「じゃあ、何で私達を“裏切った”のですかっ!?ヴァニタスとやらに唆されたのでしょうっ!?」

「“裏切った”ってのは語弊があるだろ?別に俺はアンタらに牙を剥いた覚えはないぜ?ただ、アンタらとはと気付いただけさ。それに、ヴァニタスに会ったのは俺だけじゃない。俺が『精神攻撃』を受けたとすると、ドリュースも同様に受けた可能性があると思うんだが?」

「しかし、ドリュースさんは『』でしたし・・・。」

「だから、それがっつってんだよっ!!自分達の『価値観』に合わないヤツは全部『』ってかっ!?んじゃ、かつて『LOL』と袂を分かったヤツらも、皆『精神異常者』になっちまうじゃねぇかっ!!ただ、『価値観』や『考え方』が合わなかっただけなのによっ!!!」

「落ち着いて下さい、アラニグラさんっ!!」


かねてから溜まっていた不満が、ここに来て爆発したアラニグラに、キドオカが制止の声を掛ける。

その声に大きく深呼吸してから、アラニグラは少し冷静さを取り戻した。


「悪い、言い過ぎた。けど、ドリュースから話は聞いただろ?俺達は向こう地球に戻る事は不可能だ。なら、この世界アクエラ。つまり、こっからは俺達自身の『』の話になるって事だ。」

「しかし、ヴァニタスとやらが虚偽を言っている可能性も・・・。」

「まぁ、それは否定しないが、俺は本当である可能性が非常に高いと判断している。考えてもみろよ?俺達は『』の『状態』でこっちの世界アクエラに来てるんだぜ?じゃあ、俺達の『』はどうなってると思う?しかも、俺達の“意識”がこちらにあるって『前提』でな。」

「それはっ・・・!?」

「なっ?本当は皆も薄々勘付いていたんじゃないのか?こちらの世界アクエラに来てすでに半年以上経ってる。こちらアクエラ向こう地球の『時間軸』がどうなってるか知らないが、どちらにせよ、良くて『植物状態』、悪けりゃすでに『脳死判定』を受けて、『肉体』そのものが無くなっている可能性が高い。」

「けれど、その話を信じるなら、『帰還』する方法もある事になりますよねっ!?」

「それを見付けるのに何年、いや何十年掛かると思う?最悪見付からないかもしれない。良くて『植物状態』で生き永られたとしても、そんだけ『時間』が経過すると、『』の方がもたないと思うぜ?まぁ、その辺の“事情”は詳しくないから推測に過ぎないがな。」

「「「「「「「「「・・・。」」」」」」」」」


アラニグラの発言に、メンバー達は今度こそ完全に沈黙してしまった。

それは、メンバー全員が薄々勘付いていながらも、あえて考えない様にしていた事だったからだ。


「もちろん、俺だって向こう地球に多少なりとも未練もあるし、一縷の望みを賭けて『帰還方法』を探すのをとめはしない。けど、俺はすでにそれを。っつか、この世界アクエラに愛着が湧いているんだよ。皆もそうじゃねぇのか?アクエラここは夢にまで見た『ファンタジー』の『世界』なんだからよっ!!!」

「それはっ・・・!!!」

「だからこそ、俺はもう、この世界アクエラの“事情”は俺達とは関係ないって『LOL』の“スタンス”は許容出来ねぇんだよっ!俺だって『国』同士や『民族』同士の『争い』なんか知ったこっちゃねぇよっ!!けど、その影で苦しんでるヤツらがいて、それでそんなヤツらが目の前にいて、しかも、俺には何とか出来る『』があるんだっ!!!それを助けんのが、『悪い事』なのかよっ!!??」

「「「「「「「「「っ・・・!!!」」」」」」」」」


再びヒートアップしたアラニグラの『主張』だったが、それは人としては“正しい”『主張』でもあった。

実際、今回の件もアラニグラが独断専行で『カウコネス人』達を攻撃しなかった場合、『捕虜』となった者達のその後の『』は、悲惨で壮絶なモノとなっていた事だろう。

もちろん、『LOL彼ら』が『武力介入』する事は、『政治的』には悪手である可能性もあるが、これは『感情』の話だ。

当然、メンバー達もそれを否定する事は出来なかった。


「それが『悪い事ダメ』ってんなら、さっきも言ったが、こっから先は俺自身の『』だ。悪いが、アンタらとはここで別れた方がお互いの為だと俺は思う。」

「「「「「「「「「・・・。」」」」」」」」」


流石に、そのアラニグラの言葉に、メンバー達も二の句が継げなかった。



LOL彼ら』を繋いでいたモノ、それは『TLW』時は『攻略』であった。

そして、こちらの世界アクエラに来た当初は『地球』への『帰還方法』であり、他に頼れる者がいない事による、ある種の『依存心』でもあった。

故に、ある程度はメンバー同士の軋轢を恐れて、『主義』・『主張』を飲み込んでいた場面も多々あった。

しかし、様々な“事情”が重なったとは言え、ここに来て『主義』・『主張』の“隔たり”は無視出来ないレベルとなってきていた。

それに加え、メンバー達を繋いでいた『地球』への『帰還』が、絶望的であると言う『事実』を知る。

となれば、いくらかつての仲間達とは言え、それぞれに自分の『意見』がある訳で、それが受け入れられないならば、無理に一緒にいる必要はないのである。

この世界アクエラで生きる事は、もはや『ゲーム』ではなく、『LOL彼ら』の『』そのものなのだから。


それにこれは、『組織集団』においては当然つきまとう問題でもある。

実際、『TLW』時も、『攻略』最優先とする『ギルド』の『スタイル』が肌に合わずに、『LOL』を抜けた『プレイヤー』も数多く存在する。

通常ならば、『LOL』としても、「去る者は追わず来る者は拒まず」の『スタイル』を貫いていた。

これは、『リアル』を忘れて楽しむべき『コンテンツ』である『ゲーム』に、つまらない“しがらみ”を介入させたくないと言う意図があった。

(ま、実際には、『ゲーム』内とは言え、特に『ネトゲ』においては、『リアル』の様に面倒くさい“人間関係”や“しがらみ”が存在したりするのであるが。)

しかし、現実世界では、その『スタイル』を貫き通す事など不可能に近い。

そこには、当然様々な『感情』や『思惑』が介在するからである。



「・・・待って下さいっ!!!そんな一方的なっ!!??」

「そ、そうだな。今はお互い冷静ではない。ここは一度落ち着いてから冷静に話し合いの場をだな・・・。」

「勘弁して下さいよ、ティアさん。頭の良いアンタに口で俺が勝てる訳ないじゃないっスか。けど、それでしぶしぶ俺が残留したとしても、“わだかまり”は絶対に残りますよ?それって、仲間って言えるんスかね?アンタの“考え”も分からんではないっスけど、俺はその“考え”にもう賛同出来ない。『』、みたいなモンがない『組織集団』なんて脆いモンでしょ?そんくらい、アンタなら分かっている筈だ。」

「うっ、うぅむ・・・。」


『帝国』やら何やら様々な『思惑』が交差するこの世界アクエラで、『LOL組織』が割れるのは何とか阻止したいティアだったが、アラニグラの『意見』ももっともだった。

その“わだかまり”は、いずれ『LOL組織』そのものを、『内部』から『破壊』しかねない。

ならば、決定的に『異邦人達彼ら』の『関係性』が壊れる前に、一旦距離を置いた方が良いかもしれない。

そうすれば、少なくとも『敵対』する事はないだろう。

場合によっては、要所要所で『協力』する事も可能かもしれない。


「この際だっ!!!俺も別に『扇動』するつもりはないけど、言いたい事があるヤツは、今の内に言っといた方が良いぜっ!?何度も言うが、こっから先は、俺達自身の『』なんだからよっ!!!」

「なっ・・・!!!」

「タリスマン殿っ!!!・・・そう、だな。今の内に皆の『思い』を知っておきたい。自身の思うままに言葉にしてくれ。」

「「「「「「「・・・。」」」」」」」


アラニグラやティアの言葉に、他のメンバー達も何事か考えている様だ。

アラニグラの『意思』は固い。

まず、間違いなく彼は『LOL』と袂を分かつ事は火を見るよりも明らかであった。

そして、だからこそ、今、この場面で己の『意思表示』をしておかねば、それこそ、己の『意見』を押し殺したまま、この先ずっと、かもしれない。

それが、『期間』がある程度決まっていれば、少しは耐えられるかもしれないが、『』と言う長い『時間』を歩む上で、一生自分の『意思』を抑圧する事は困難だろう。

それが分かっているいるからこそ、アラニグラはそう皆に水を向けたし、何事か言い掛けたタリスマンを制し、ティアもそれを容認した。


「・・・お、俺は、皆で一緒にいれば良いと思う。向こう地球に『帰還』する事が例え絶望的でも、こちらの世界アクエラの事はまだまだ分からない事だらけなんだし。俺達の『力』を鑑みれば、色んなところから狙われる可能性もあるし、『個人』でいるより、『LOL』と言う『組織集団』で身を守った方が安全だと、思う。」


まず口を開いたのはN2であった。

次いで、皆も口々に自分の『思い』を言葉にし始めた。


「私はどちらかと言えば、アラニグラさんの『意見』に賛成です。別に『LOL』自体を解体する必要はありませんが、それぞれの『意見』が違う場合、『組織集団』としての“在り方”が逆に足枷になる場面も出てくるでしょう。どうせなら、『LOL』の“有り様”自体を変えるのも一つの手ではないかと考えています。具体的に言いますと、『LOL』を『冒険者ギルド』の様なモノと定義し、普段は個人個人の判断で行動しながら、その時々で協力関係を結ぶなり、個人間で連絡を取り合えば良いのではないでしょうか?」


キドオカの発言だ。

一番年長だけあって、具体的な折衷案も示してみせた。


「私は・・・、正直よく分かりません。出来れば向こう地球に帰りたいし、けど、この世界アクエラで傷付いている人々も助けたいし・・・。どっちつかずで申し訳ありませんが、『帰還方法』を探しながら私達の出来る範囲の支援活動をすれば良いのではないでしょうか?」


これは、ウルカの発言だ。

彼女の性格を鑑みれば、目の前に傷付いている人がいたら助けずにはいられないだろうが、彼女はメンバーの中でも、人一倍向こうの世界地球に未練がある様である。


「俺は『LOL』を出るよ。けど、キドオカさんの『案』は良いと思う。それぐらいの『距離感』の方が、無理がないんじゃないか?」


アラニグラの発言だ。

彼はすでに『LOL』を出る覚悟だったが、キドオカの『意見』には肯定的だった。


「僕もキドオカさんとアラニグラさんの『意見』に賛成です。もちろん、それ相応の『リスク』が伴いますが、我々の『力』なら、むしろ自己判断で行動した方が良い場面も多々あると思います。これは『』での体験談なんですが、『組織』の『会議』ってのはすでになんですよ。なのに、それに余計な時間を取られる事が多い。もちろん『LOL』がそうだとは言いませんが、『組織集団』である以上そうなる可能性は非常に高いですからね・・・。」


ククルカンの発言だ。

確かに『会社組織』としては、『ビジョン』の『共有』は有効な手段である。

しかし、それ故に『同調圧力』が横行する事に息苦しさを感じる者もいる。

昔と違い、今は『組織人』としてより、『個人』を優先する風潮にある。

故に、ククルカンもまた、キドオカとアラニグラの『意見』を支持した。


「お、俺は難しい事は分からねぇ~よ。今まで通りじゃダメなのか?っつか、俺は向こう地球に帰りたいっ!!!皆で『帰還方法』を探す、じゃダメなのかっ!?」


アーロスの発言だ。

彼はまだ『』が上手く受け入れられていない様子だ。

こちらアクエラに来た当初は、アラニグラの発言通り、彼も夢にまで見た『ファンタジー』の『世界』に心踊らせていたが、この中で最年少と言う事もあり、『地球』に『帰還』出来ない事が相当ショックだった様子である。

その上、仲間達がバラバラになる事に相当な不安があるのだろう。


「僕は、『LOL』に残ります。心情的には、キドオカさん、アラニグラさん、ククルカンさんの『意見』は分かりますが、その為には、『LOL』そのものが存続する必要があると思います。何より、アーロスを一人にしておくと心配なんでね・・・。」

「ドリュース・・・。」

「僕もドリュースに賛成です。キドオカさんの『案』は良いと思いますが、その為には『LOL』の存続も必要でしょうし、『指針』、みたいなモノも必要でしょう?それに、『LOL』が『崩壊』したら、まず間違いなく『帝国』側から某かの介入があると考えています。むしろ『パッケージ』としての『LOL』の『ネームバリュー』は、今回の事でより一層『利用価値』を高めたと思いますし、“事実上”は出るにしても、『LOL』の『名』まで捨てる必要はないと思います。実際には個人個人で動いていても、その後ろに『LOL組織』がちらつけば、ある程度の『牽制』にもなりますからね。」

「・・・ふむ。」「・・・なるほど。」「・・・面白いですね。」


ドリュース、そしてエイボンの発言である。

二人とも、『LOL』の“有り様”の変化には賛成しつつ、『LOL』残留を『選択』した。

特にエイボンの発言は、『LOL』離脱を表明したアラニグラ、それに近い心情のキドオカ、ククルカンも興味をそそられた様子だった。


最後に、まだ『意見』を表明していない、メンバーの『意見』を聞きながら目を瞑って考え込んでいたティアと、少しばかりやつれた表情を滲ませたタリスマンに視線が注がれた。

それを受けて、まずタリスマンが懺悔する様に『意見』を述べた。


「もちろん私は『LOL』を守りますっ!私が立ち上げた『ギルド』ですし、に皆さんを巻き込んだ『』もありますからねっ・・・。」


そのタリスマンの言葉に、皆ハッとした。

彼がこちらの世界アクエラに来てから、少々だったのは、彼のその強い『』から来たモノだったのだと、ここに来てようやく悟ったからだ。



こんな事は誰も想定していなかったので、誰も考えてもみなかったのだが、確かにタリスマンが『発案』した「全ての“レイドボスクエスト”の“最速記録レコード”を『LOL』の名で埋め尽くす」と言うがなければ、『LOL彼ら』が『異世界転移』に巻き込まれる事もなかったのである。

もちろん、最大の『要因』は、ルキウスらが実行した、『失われし神器ロストテクノロジー』・『召喚者の軍勢』による『異邦人召喚』によるモノなのだが、『リーダー』でもあるタリスマンがその事に『責任』を感じて己を責めたとしても不思議はない。

そして、もちろんそんな事はなかったのだが、自分の過失を皆から責められるのではないかと言う心情もあり、何とか挽回しようとした結果、むしろ『LOL彼ら』は“バラバラ”になってしまったのである。


タリスマンの心情を察し、『LOL』離脱を表明したアラニグラでさえ、同情的な感情にはなったものの、一度出来た“隔たり”を埋める事は難しい。

こういう時は、もっと早くに全てをさらけ出しておけば、『組織集団』の『空中分解』も避けられたのであるが、それは些か酷な話でもあるし、第三者だから言える事でもある。

こうしたささいなすれ違いが“キッカケ”で、別れた恋人同士、崩壊した『組織集団』は、それこそごまんとあるだろう。

どんなに『歴史』を知ろうが、『知識』があろうが、『技術』が発達しようが、それだけ『組織集団』とは、“人間関係”とは、難しいモノなのだから。



「そう、か・・・。タリスマン殿は、その事をずっと気にしていたのだな・・・。儂らは、いや、少なくとも、儂は、『異世界転移』に巻き込まれた事をお主の『責任』とは思っておらんが・・・、いや、今さら言ったとて詮無い事であるな・・・。さて、では最後は儂じゃな。」


己の心情を吐露したタリスマンにティアは慰めの言葉をかけかけたが、今、このタイミングで言っても逆効果と判断し、最後まで言わずに飲み込んだ。


「皆の『意見』は分かった。ここからは儂なりの『提案』だが、一度『LOL』を解体すべきだと儂は思う。」


メンバー達はざわついた。

今までの話の流れから、ティアがそう結論付けるとは思っていなかったのである。


「まぁ、話は最後まで聞いてくれ。そもそも、『LOL』は『Lord of The Lost World』と言う、『ゲーム』での『ギルド』の名前だ。今現在の儂らは、異世界『アクエラ』と言う、『現実世界』にいる。ならば、もう『LOL』と言うのはおかしな話じゃろ?故に、新たな『クラン』・『Lord of The Aquera』を結成し、『LOL組織』を再編しようと思うのだ。もちろん、正式メンバーはまだいない。故に、。ただし、これだとタリスマン殿を『リーダー』から解任する事となってしまうが・・・。」


ティアはタリスマンに目配せするが、タリスマンは自嘲気味に力なく頷いた。


「・・・むしろホッとしています。虫の良い話ですがね・・・。皆さんを巻き込んだ事、皆を纏めきれなかった事の『責任』、だと受け取っておきます。本当に申し訳ありませんでしたっ!」

「「「「「「「「・・・。」」」」」」」」

「うむ、すまんな・・・。後は皆の『意見』の通り、正式に加入するか、『外部協力者同盟者』と言うで参加するかは自由だ。『発足意義』としては、『異邦人儂ら』の、この世界アクエラでの『権利』と『人権』を守る事。そして、一番重要なのは、『異邦人儂ら』の協力関係を崩さない事だ。最低でも、『組織』としての繋がりがなくなったとしても、『個人』の繋がりはなくしたくない。それだけ、『異邦人儂ら』の『力』は『利用価値』が高い。それ故に、それが『交渉材料』ともなりうるが・・・。」


これはある種の『方便』である。

しかし、これは上手い手でもあった。

ティアが一番懸念しているのは、『異邦人彼ら』の繋がりが切れる事。

しかし、『LOL』が『LOL』であり続ける限り、“わだかまり”はいつまでも残るだろう。

故に、『LOL』を一度解体する事で、それを払拭しようとした。

これにより、アラニグラを』をなくし、タリスマンを『リーダー』から解任する事で『』を取らせた事となり、タリスマンの自責の念に折り合いをつけさせた。

すでに『罰』は受けたのだ、と。

後は、キドオカの『案』をベースに『LOL組織』を再編。

今までの『LOL』の“有り様”から脱却し、この世界アクエラでの『LOA』の“在り方”を模索しようとしていた。

『地球』への『帰還方法』が絶望的な『事実』から、ここからの『組織運営』はより一層慎重を期す必要があるからだ。

しかし、現状では“強固で絶対的な信頼関係”は成立し得ない。

ならば、小さな“協力関係”からもう一度構築していくまでである。


「・・・はぁ~、参ったな。やっぱりアンタには敵いそうにねぇや。いいぜ、『外部協力者同盟者』って事でいいなら、アンタの『案』に乗ってやるよ。ま、基本は好きにやらせて貰うがな・・・。」


意外にも、ティアの『提案』に最初に参加を表明したのはアラニグラであった。

頭の良いアラニグラは、ティアの『狙い』に、遅ればせながら気付いたのである。

もっとも、アラニグラが“スタンス”を変えるつもりはもうないだろうが。


「もちろんだ。『LOA』は『保険』、とでも考えてくれ。当然、アラニグラ殿の行動に口出しするつもりはない。それは約束しよう。」


そのティアの言葉に、アラニグラは降参のポーズで頷いた。


「ならば、私も『外部協力者同盟者』としての参加を表明します。」

「同じく。」


次いで、キドオカとククルカンがそう述べた。


「俺は『LOA』に正式に加入します。」

「僕も『LOA』に加入します。元々そのつもりでしたし。」

「同じく。」


次いで、N2とドリュース、エイボンが『LOA』への正式な加入を表明した。


「・・・わ、私は・・・。」

「何だよ・・・。訳わからねぇよ・・・。」

「・・・。」


しかし、ウルカとアーロス、そしてタリスマンは立場を明確にする事が出来なかった。

ウルカとアーロスは混乱していて話についていけず、タリスマンはこれまでの経緯からの迷いがあった、と言う違いはあったが。


「何、結論を急ぐ事はあるまい。“関係性”は少し変わるが、儂らがである事には違いない。儂にでなくとも良いから、誰かと個人的にでも相談してみてくれ。」

「・・・。」「・・・。」「・・・。」


そのティアの言葉に、おずおずと三者三様に力なく頷くのだった。



こうして、後に『神の代行者アバター』として祭り上げられる『異邦人彼ら』の、前途多難なこの世界アクエラでの生活が、『』にスタートしたのであったーーー。


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