第73話 『テポルヴァ事変』 1
◇◆◇
「何だか、妙な雰囲気だな・・・。」
「そうですな。『魔獣』や『モンスター』の姿も見当たりませんし・・・。やはり何か“異変”があったのではないですか?」
『冒険者』として、独自に
それに、少し先を歩いていたN2、アーロス、ドリュースも振り向いて顔を見合わせた。
「こんな事は
「何だか、ヤバイ事が起こる“前兆”なんじゃねーすか?ほら、
「あ~、何かニュースとかで聞いた事あるかも・・・。」
「ふむ、アーロスさんの発言は一理あるかもしれませんね。天候は・・・、雲一つない快晴ですから、そうそう天気が急変する事も考えにくい。あるとしたら大地震の“前兆”と言ったところでしょうか?津波に関しては、『
「・・・もしくは、『戦争』、とかな。
アラニグラの発言に、皆ごくりと息を飲んだ。
『冒険者』として、これまでそれなりに『依頼』をこなしているN2達だったが、『魔獣』や『モンスター』の討伐はともかく、『人間種』同士の『争い事』に関わった事は今までなかった。
(まぁ、正確には『冒険者』同士のちょっとした
「・・・『依頼』の途中ですが、一旦引き上げて様子を見た方が良いかもしれませんね。」
「だな。『テーベ』の『冒険者ギルド』に戻って、『情報収集』をした方が良いかもしれん。」
「そうですね。」
「異議な~し。」
「それがいいですよ。」
すでに自分達の『力』が
と、そこに、何とも形容しがたい“何か”が繋がる感覚がして、
ー皆さん、聞こえますかっ!?ー
ーっ!タリスマンさんかっ!?ー
ー『
ー察しが良いのぅ。そちらでも何か“異変”でもあったかの?ー
ーま、ちょっとした『違和感』程度でしたがね。それで、どうしましたか?ー
ーそれがですね・・・。ー
『
これにより、仲間同士の『情報』の『共有』がスムーズとなり、臨機応変な対応を可能としているのである。
特に、『TLW』の様な仲間同士での『協力プレー』が重要になってくる『ゲーム』では、ある種必須の“機能”と言えるだろう。
ーマジで『戦争』かよ・・・。ー
ー嫌な予感が当たってしまいましたね・・・。ー
ーそれで、皆さんは今どちらにっ?ー
ーその『テポルヴァ』の目と鼻の先です。『インペリア領』付近の森林地帯の『魔獣』や『モンスター』が最近不自然に活性化・凶暴化している様なので、その原因の調査と場合によっては“間引き”と言う『依頼』を受けていたのですが・・・。ー
ーそちらの『情報』と合わせて考えてみると、一連の“異変”は繋がっていたのかもしれんな・・・。ー
ーふむ、なるほどのぅ。ま、いずれにせよ、皆が無事ならとりあえず一安心じゃの。そちらも『テーベ』に引き返すつもりだったのなら、儂らとはそこで合流するとしよう。ー
ーすぐに『テポルヴァ』の『住人』達の“避難誘導”をしなくても良いのですか?ー
ー出来ればすぐにでも事に当たりたいところだが、これは
ー・・・確かにそうですね。ー
ーその点、儂らは『親書』や『紋章』を預かっているし、『伝書鳩』などを使った『緊急通信』も各関係機関に
ーそう、ですね。了解しました。ー
ーうむ。では『テーベ』で落ち合おう。ー
ティアがそう締めくくると、プツッと“何か”が切れた感覚がして『
その後、N2達は手早く『テーベ』に引き返すのだったーーー。
◇◆◇
「防御陣形を崩すなっーーー!!!」
「「「「「「「「「「応っ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
『テポルヴァ』の駐留軍は健闘していた。
ただでさえ、
時代や状況によっても変わってくるが、事『要塞戦』においては、『攻め手』が圧倒的に不利であろう。
特に、豊富な『兵糧』+堅牢な『要塞』+高度な『治水技術』を結集した『堀』を持ち、ここに更に『魔法技術』が加わる訳で、『ロンベリダム帝国』側の優位性は揺るがない。
『カウコネス人』達が、もし本格的な『攻城戦』を仕掛けるのなら、圧倒的兵力で『テポルヴァ』を完全包囲して補給線を分断し、『兵糧攻め』を始めとした長期的な『戦略』が有効となるが、『時間』を掛ければ掛けるほど、『ロンベリダム帝国』側の態勢も整ってしまう訳で、こちらもあまり現実的ではなかった。
それ故、『一斉放棄』開始から半日近く経った今は、『ロンベリダム帝国』側が有利に事を推し進めていた。
「しかし、妙だな・・・。」
「どうされました、ツェッチーニ隊長?」
駐留軍の“現場指揮官”・ツェッチーニがひとりごちた呟きに、“副官”のトロメーオは疑問の声を上げた。
「いや、妙に手応えがない。最初の襲撃の手際は『敵』ながら見事なモノだったのだが、その後の抵抗があまりにも小さ過ぎる。そこに少々『違和感』を覚えてな・・・。」
「いえいえ、ヤツらは『
「・・・。」
ハハハッと楽観的にそう評したトロメーオの言葉に、若いな、とツェッチーニは思った。
『戦争』は綺麗事だけではないから、ツェッチーニは『
以前にも言及した通り、
それ故、『武力』で簒奪した『領有権』や『支配権』であろうとも、
今現在、『強国』として台頭している『ロンベリダム帝国』も、もとをただせば、『先住民族』より『支配地域』を簒奪した『
しかし、「勝てば官軍」ではないが、『強者』であったからこそ、ここまで成り上がる事が出来た訳で、仮に敗退して『カウコネス人』達と『立場』が逆転したとしても、本来なら文句を言える『立場』ではないのだ。
まぁ、大抵の場合は、自分達のした事は「棚にあげて」忘却するのが人の世の常ではあるのだが。
「まぁ、確かに今の状況では、我々だけで『攻勢』に出る事は難しいですが、心配せずとも『援軍』が来れば、この『騒動』もすぐに鎮圧出来ますよ。」
「だといいがね・・・。」
ツェッチーニも、客観的に見た彼我の『戦力差』を鑑みれば、トロメーオの言う通り『
しかし、『歴戦の雄』であるツェッチーニは、何か言い知れぬ妙な『胸騒ぎ』を拭い去る事が出来ないでいたーーー。
◇◆◇
「やはりこんな事は、『戦士』として恥ずべき行為ではないのかっ!?これでは『
「いえいえ、ホンバさん。これも立派な『兵法』ですよ?実際に『戦果』と『損害』を比較してみて下さい。」
「うっ!む、むぅ、し、しかしっ・・・!」
「ね?この方法は非常に『有効』ですよ?あなたがたの“願い”は『ロンベリダム帝国』から『故郷』を奪還する事でしょう?『目的』の為に『手段』にこだわっている場合ではないと私は愚考しますがね・・・。」
「くっ!」
現・『カウコネス人』側の『実質的指導者』であるホンバと呼ばれた30代ほどの筋肉隆々の男は、その『
それに、エルファスは溜め息を一つ吐く。
(ふんっ、『戦士の矜持』ですか・・・。くだらないですね。その
『カウコネス人』がとった“作戦行動”は非常にシンプルであった。
『ゲリラ戦』。
『戦力』的に劣勢の者達が、優勢な者達に対して効果的に『戦果』を上げる事が可能な戦法である。
客観的に見れば、『ロンベリダム帝国』と今現在の『カウコネス人』の『国力』・『総人口』・『保有戦力』などを比較した場合、マトモな『戦い』にすらならないほどの『戦力差』がある。
それ故、これまで『故郷』を奪われた『カウコネス人』達は、『ロンベリダム帝国』に対する積年の恨みを持ちながらも、『精霊の森』に落ち延びてからは、
また、先述した通り、『ロンベリダム帝国』側の“事情”で、『
それにより、非公式ではあるが、長きにわたる事実上の停戦状態が維持されていたのである。
ところが、そこに突如として現れたのが『
彼は、瞬く間に『精霊の森』に散り散りになっていた『カウコネス人』達を纏め上げ、『物資』や『武器類』を何処からか調達して来て、更に『効果的』な様々な戦法まで授けてくれた。
これにより、特に若者達から絶大な支持を集め、一部熱狂的な『信奉者』からは『救世主』などともてはやされた。
もとより、閉塞された環境は若者にとっては望ましいモノではない訳で、そこに一筋の光明が見えれば、後は雪崩れ込む様に『ロンベリダム帝国』との『開戦』を望む声が上がり始めるのは時間の問題だった。
事ここに至れば、それに反対する事は難しい。
『世論』に押し切られる形で、『一斉放棄』が決定されたのであった。
しかし、この『救世主』は非常に
そして、その『結果』が
「流石ですね、エルファス様っ!」
「エルファス様の策は見事に当たりましたぜっ!」
「見たか、『
「アッハッハッハ、ざまぁねぇよなぁ~!」
「トロい連中だぜっ!」
身体の所々に、様々なシンボルを
『カウコネス人』の風習的に、『戦士』達は皆『
『地球』でも、こうした風習は世界各地に様々存在するのだが、
以前にも言及したが、
その『魔素』の具体的な『利用技術』が、『魔法技術』であり、『魔闘気』であり、『魔工』であったりする訳である。
その中には、すでに失われた『技術』や『結界術』の様な失伝しつつある『技術』も数多く存在し、『
『
そして、
とは言っても、『魔法技術』や『魔闘気』・『覇気』ほど洗練されたモノではなく、『レベル差』を覆すほどの『効果』はないが、これが有るのと無いのでは雲泥の差がある。
曲がりなりにも、『カウコネス人』達がこれまで滅亡を免れた事が、この『
もちろん、『麻酔』などない
『魔素』を完璧に制御している訳でもないので、肉体的・精神的損耗も激しいなど、『メリット』に対して『デメリット』が非常に多い『未発達』な『技術』でもあった。
(これは、閉塞した一部『部族』だけの『技術』であったが故に、『技術』の発展が伴っていない弊害でもあった。)
「いえいえ、皆さんの『お力』あっての事ですよ。まぁ、『
「「「「「っ・・・!!!!!」」」」」
エルファスの芝居がかった言動に、若者達は内から込み上げるモノがあった。
まるで、自分達が“
中には、うっすら涙を浮かべている者達すらいた。
「しかし、これは“始まり”に過ぎません。『
「うぉおおおおぅっーーー!!!」
「エルファス様っーーー!!!」
「俺は、やるぞぉっーーー!!!」
「応、やらいでかっーーー!!!」
最終的にエルファスの『演説』の様な
ニコラウスやヴァニタスのお株を奪うかの様な、見事な『
『カウコネス人』の若者達とて、ただの愚か者の集団ではない。
最初から『余所者』であるエルファスを信頼する者など、皆無であった。
しかし、先述の通りエルファスは『
そうして、少しずつ『信奉者』が集まり、それが
そして、その『成功』は、若者達に『希望』と言う名の甘い“幻想”をもたらした。
若者達はもう、その『沼』から脱け出す事は出来ないだろう。
自らの“破滅”が、その隣にやってくるその時までーーー。
◇◆◇
「これは、ひどいっ・・・!!!」
「なんというっ・・・!!!」
『LOL』のメンバー達が、『テポルヴァ』に辿り着いたのは、『カウコネス人』達の数度の襲撃が終わった後であった。
『
『
例えば、食料の『略奪』や『破壊』。
例えば、女子供の『略奪』や『殺害』。
例えば、街道(補給線)の『破壊』。
例えば・・・。
狙われるのは『市街地』ばかりだ。
それも、駐留軍の警戒網の『穴』を突いたモノばかりで、『帝国兵』が駆け付ける頃にはすでに『
これには、駐留軍は手を焼いていた。
本来『ゲリラ戦』は、“嫌がらせ”以外の何物でもない。
敗戦濃厚でなければ、正規軍はまず行わない戦法であるからこそ、それに“対処”する『戦術論』がまだまだ確立していなかったのである。
『地球』においても、古来よりその手の戦法は見受けられたのだが、しっかりと体系化したのは意外にも近世に入ってからである事から、この戦法をただの“嫌がらせ”から、『戦略』や『戦術』に昇華するまで、いくつもの『技術的』な『ハードル』が存在する事が推察出来る。
しかし、それが『成功』すれば非常に効果的であり、次第に『帝国民』・『帝国兵』双方の疲労がピークに達してくると、やがて不満が、憎悪が噴出し始め、正常な『判断力』が欠如していく。
その不満や憎悪が、『
しかし、『
完全に『負のスパイラル』に陥った『テポルヴァ』の街中は、ギスギスとした空気が蔓延していた。
中には、『テポルヴァ』を逃げ出した者達も多く存在する。
しかし、
『護衛』もなく一般人が『魔獣』や『モンスター』、『盗賊団』の蔓延る『領域』を乗り越えられるかは、一種の『賭け』であった。
では、『冒険者ギルド』は何をしていたのだろうか?
『冒険者ギルド』は、一応『国』から独立した『組織』であり、『政治的闘争』とか『紛争』などに関与しない事をその
元々、『傭兵』まがいの事も『依頼』として受けていたので、そこに対する『管理意識』は結構ガバガバだった。
しかし、それは『冒険者ギルド』側の“スタンス”であって、『冒険者』にはそんな“事情”は関係ない。
多くの『冒険者』は、慎重的でシビアで
ヤバいとなれば、即座に逃げ出すのは、まぁ、当たり前の話であろう。
そうでなければ、生き残れない『
それ故、勘の良い『冒険者』達は“異変”を察知して、多くの『冒険者』達も、一度目の襲撃の時点で、さっさと『テポルヴァ』を立ち去っていた。
ちゃっかりしている『冒険者』は、“金持ち”と独自に『契約』して、『護衛』と言う『名目』で『テポルヴァ』を出ていたりもする。
そんな訳で、『冒険者ギルド』には、動かせる『人員』がいなかったのである。
ルキウスも、その辺の“事情”は読んでいた。
だからこそ、『
『監視』をしていたのは、何も『
ルキウスも、当然『
『
しかし、ニルの発言を借りると「何だか
それもその筈、『
それ故、本来なら“
一応『TLW』時の『スキル』を“
その中では、同じ『諜報』関係の『職業』であるキドオカが一番厄介な相手だったが、それでもルキウス側には、『
そうして集まった『情報』を分析し、ルキウスは自身の最初の“読み”が当たっていると確信した。
『
「すぐに負傷者を治療致しますっ!ククルカンさん、手伝って下さいっ!『回復魔法』を持っている他の皆さんもっ!!!」
「ええっ!!!」
「いや、また何時襲撃があるかも分からん。『帝国兵』達の疲労もピークに達している。ウルカ殿とククルカン殿ほどの『回復魔法』に特化していない儂らまでもが治療に専念するのは、些か『合理性』に欠けるじゃろぅ。むしろ警戒に専念して、新たな被害者が出ない様に立ち回った方が懸命じゃろぅ。そうすれば、避難もスムーズになる訳じゃし・・・。」
彼女の“スタンス”は、どこか『冒険者』に近く、あくまでも自分と『
ティアのその判断は、『異邦人』としては正しい。
彼女は非常に聡明な女性だった。
しかし、人には『感情』がある訳で、時に
「こんな時に何を言っているんですかっ!!??」
「・・・えっ??」
「
「う、うむ・・・。」
ウルカは『ライアド教』に『外部協力者』として出入りしている。
それ故、目を覆いたくなる様な『患者』を数多く目撃していて、
ウルカのその判断は、『人間』としては正しい。
彼女は非常に心優しい女性だった。
だからこそ彼女は、“騙されやすい”素養もある訳なのだが・・・。
「まあまあ、ウルカさん落ち着いて下さい。ティアさんの言う事ももっともです。ここは『セオリー』に則り、『警戒班』と『治療班』に分かれた方が無難でしょう。むしろ議論している時間の方がおしい。」
そこに仲裁に入ったのはエイボンであった。
今は仲間割れをしている状況ではない。
それは、『
他のメンバーも、努めて明るくエイボンの意見を首肯した。
「そうですね。『戦闘職』系のメンバーが『警戒班』に、『支援職』系のメンバーが『治療班』に別れましょう。」
「俺の『スキル』だと、逆に治療の邪魔になりかねんからな。」
「俺なんて自分自身を癒す『スキル』しか持ってないですよ~。」
「そう、ですね・・・。すいません、ティアさん。少し感情的になりました・・・。」
「あ、いや。儂も言葉が足りなかった。すまん。」
微妙な空気がウルカとティアの間に流れるが、それを打ち消す様に、タリスマンが『リーダー』としての鶴の一声を上げた。
「それでは、行動を開始しましょう。」
この『戦場』と言う『非日常』の『精神状態』で起こった少しの意見の対立を
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