第40話 『交渉成立』



「さて、では、ここからは我々がご説明を引き継ぎます。まずは、我々『リベラシオン同盟』設立の経緯から。」


僕から交替し、ダールトンさんが語り始めた。

ガスパールさんとオレリーヌさんも、真剣な表情で頷いた。


「事の発端は、フロレンツ侯と『ライアド教』関係者を名乗る『ニル』と言う人物が接触した事から始まります。ニルは、フロレンツ侯の『秘密』を調べ上げ、彼を脅迫し、協力する様迫りました。丁度、。」


自嘲気味にダールトンさんは肩をすくめた。

『ブラックジョーク』に苦笑しながら、ガスパールさんはダールトンさんに目線で先を促す。


「それまでは、フロレンツ侯と対立した者は、『圧力』を掛けて黙らせたり、あるいは『物理的』に叩き潰して来たのでしょうが、ニルは『ライアド教』の中でも相当な『狂信者』の様でして、フロレンツ侯の『圧力』をモノともしなかった様です。『ロマリア王国この国』における『ライアド教』の『影響力』も、それなりにありましたからね。」

「・・・確かに、『貴族』である我々にも『ライアド教』は無視出来ない『勢力』だ。『貴族』の中にも『ライアド教』の熱心な『信者』は居るからな。出来ればは『敵対』を避けたいだろう。」

「それに、『取引』としては悪くはない『条件』だった様です。フロレンツ侯の『秘密』を黙っている代わりに、『古代魔道文明』の調査・発掘に協力する事。それが、ニルが示した『条件』でした。」

「なるほど・・・。確かに悪くはない『条件』ですわね。かなりの人員と資金は必要ですが、『遺跡』発掘は『魔法使い』としては意義のある事業です。上手くすれば、失われた『魔法技術』の復活にも一役買う事が出来るでしょうし、そうなれば『魔術師ギルド』にも恩を売るチャンスですわね?」

「正に仰る通りです。フロレンツ侯もそう考えた上で、二人は手を結びました。もっとも、お互いに出し抜く気は満々だった様ですが・・・。」

「まぁ、それはそうだろう。」


『脅迫』から始まった歪な『利害関係』だし、フロレンツ侯の性格をよく知るお二方なら、彼がそのまま言いなりになる事は無いと踏んだのだろう。

ガスパールさんは当然の如く納得した。


「まぁ、結論から申しますと、ニルの目的は、古代の『魔法・魔道技術』の方ではなく『失われし神器ロストテクノロジー』の方でして、彼らは運良くそれを発見するに至りました。」

「『失われし神器ロストテクノロジー』っ!?そんな物を発掘していたのかっ!?」

「・・・お恥ずかしい話ですが、私達もフロレンツ侯の行動には逐一注意を払っていたのですが、その様な『情報』は掴めておりませんでしたわ。」


本日何回目の驚愕かはもはや分からないが、ガスパールさんとオレリーヌさんもその『事実』には目を見開いた。

失われし神器ロストテクノロジー』は、僕もその絶大な『力』を身を持って体験したが、この世界アクエラにおける認識としては、これを巡って『戦争』が起こっても不思議ではないレベルの『希少』かつ『重要』な『アイテム』の様だ。

失われし神器ロストテクノロジー』を『所有』しているのも、『ハレシオン大陸この大陸』でも『王家』やそれと同等の『国』の『トップ』のみである事からも、その『希少性』が窺える。


「フロレンツ侯とニル、その両名に取っては、全てが順調に進んでいて、警戒すべきはお互い以外無かったのですが、事が最終段階に進んだ時期、『保険』を掛けていたにも関わらず、ニルに取っても『予想外』の事態が起こりました。それが、アキトくんと『エルフ族』が接触した事でした・・・。」

「・・・。君は何者なのだ?これまでの『話』から、『エルフ族』とは偶然出会ったとは考え難い。いや、私的な疑問だ。答えなくとも良いが・・・。」


さて、どうしたものか・・・。

その疑問も当然だし(なんせ、今現在の僕の肉体年齢は10歳の子どもだ)、『英雄の因子』所持者、つまり『英雄(候補)』なのだが、別にその事を特に隠してはないが、向こうが信じるかはまた別の話だしなぁ。

ちなみに、『前世』の『地球』の事を含めての『事情』を知っているのはアルメリア様だけで、アイシャさんやティーネ達もその事実を知らない。

つーか、『異世界』なんて荒唐無稽な話、信じる方が無理だろう。

それ故、アイシャさんやティーネ達、ダールトンさんとドロテオさんが知っているのは『英雄の因子』所持者で、『英雄(候補)』である事と、(『おっぱい女神チートめがみ』こと)『魔法研究者』・アルメリア様の養子で弟子である事だけだ。

・・・ここは、アルメリア様のアンダーカバーを利用させて貰う事としよう。


「『エルフ族』は僕、と言うよりは『養母はは』を頼って来たのですよ。お二方も噂くらいはお聞き及びではありませんか?『魔術師ギルド』に属していない『異端フリー』の『魔法研究者』・アルメリアは僕の『養母』にして『魔法』の師匠でもあります。」

「『魔獣の森の賢者』かっ!?なるほど・・・。人嫌いの変わり者だが、膨大な『知識』と優れた『技能』を兼ね備えた才媛だと聞き及んでいる。彼女に助言を求めたと言う訳か・・・。」


うんうん、それっぽく納得してくれた様だな。


「・・・そんな訳で、『エルフ族』と接触したアキトくん達は、彼女達の要請を請け、『エルフ族』に協力する事となりました。『エルフ族』の要望と要請は、『ロマリア王国この国』の『エルフ族奴隷』の調査と、可能であれば『解放』でした。」

「我等も、『エルギア』にて『建国』済みですが、『国』同士の『交渉』では『水面下』の『情報』までは出てこない可能性がありました。故に、噂に名高いアルメリア様方のお知恵をお借りしようとしたのです。『エルフ族我等』としても『戦争』は望む所ではありません。『同胞』の『解放』さえ果たせれば、『エルギア』と言うある種の『楽園』を『開拓』出来たのですから、何も『ロマリア王国この国』と『戦争』する必要がありませんから。もちろん、心情的には『人間族』に悪感情を持っている『同胞』もいますし、『報復』を主張する者達も居ますが・・・。」

「むぅ・・・。」

「・・・。」


ティーネの発言には、やや緊張した面持ちで真摯に耳を傾けるお二方。

一人の『人間』としては『エルフ族』に対して思う所もあるだろうが、『ロマリア王国この国』の『貴族』の一人としては、そう簡単に謝罪する事は出来ない。

下手をすれば、『国』の『総意』と取られかねないからだ。

それと、ダールトンさんとティーネは、僕の意図を察して、僕の『虚偽フェイク』を訂正をしなかった。

現段階では、まだ『交渉相手』にすぎない『ノヴェール家』に、『情報』を全て開示するの早計だ。

そもそも、アルメリア様の養子で弟子と言うのも『嘘』ではないからな。


「そうして、僕らは調査する為に『シャントの街』のフロレンツ侯の屋敷に潜入しました。この時は、まだ、フロレンツ侯が『エルフ族』を含む『他種族』の『人身売買』に関わっていた『情報』を握っていた訳ではないのですが、当時『魔獣の森』に『初級・中級冒険者』が集結する様『情報操作』されていまして。それの調査の為でした。後に確定した事ですが、その『情報操作』はフロレンツ侯とニルが行った事でしたが、そちらは最初から『疑惑』を持っていましたからね。」

「・・・補足しておきますと、『魔獣の森』と呼ばれる大森林地帯は、今現在は『上級冒険者』と呼ばれる『実力』を持った者達でないと危険なエリアでして。当時も『中級・上級冒険者』推奨のエリアであり、『初級・中級冒険者』が集結するのは違和感があるのですよ。それ故、アキト達は『情報操作』の大元がフロレンツ侯であると当たりを付けていたのです。」

「なるほど・・・。」


大まかな事は僕が、『政治的』な事はダールトンさんとティーネが、『戦闘』に関わる事はドロテオさんが補足する事で、ガスパールさんもオレリーヌさんも納得した表情で話を聞いている。

やはり、『大人』でその道の『専門家』の発言は説得力が違う。

僕も、今現在は『戦闘』に関してはかなりの『専門家』なんだが、やはり『見た目』の問題は大きい。

もっとも、この『見た目』故に相手が油断しやすくなる利点もあるのだか・・・。


「そこで、フロレンツ侯とニルの企みを知りました。もっとも、ニルはその時、『調査・解析』がほぼ済んでいた『失われし神器ロストテクノロジー』と報告書を強奪し、フロレンツ侯を裏切り行方を眩ます所でしたが、僕らは彼の『気配』に気付き、彼に『』を仕掛けて、とりあえず見逃しました。『』により彼を追跡する事は可能でしたし、その時はまだ『失われし神器ロストテクノロジー』の事までは知らなかったので、フロレンツ侯から事情を聞くのが先決だと判断したのです。そして、『隠し部屋』にて、フロレンツ侯と『エルフ族奴隷』を発見しました・・・。」

「・・・っ!」

「・・・ひっ!」

「むうっ・・・。」

「こいつはすげぇ・・・。」


その時の事を思い出したのか、ティーネの身体から『殺気』が漏れ出てしまっている。

『S級冒険者』クラスの者の『殺気』は空気感が違う。

急激に温度が下がった様な感覚に陥り、『場』に圧迫感が生まれる。

『殺気』に慣れてない者なら、蛇に睨まれた蛙の様に、冷や汗をかきながら身動きが取れなくなり、心の弱い者なら失禁・気絶してもおかしな話では無い。

ティーネ自身も、何とか抑えようとしているが、それでも漏れてしまった『殺気』に、ガスパールさんとオレリーヌさんは小さく悲鳴を上げた。

かなりの『胆力』の持ち主であるダールトンさんと、『上級冒険者』にまで登り詰めたドロテオさんですら、圧倒されるほどの深い『怒り』だった。


「落ち着け、ティーネ。『過去』は変えられないが、アルマ達も今現在は『リハビリ』を経て幸せに暮らしている。『エルフ族ティーネ達』の『怒り』も分かるが・・・。」


僕は、ティーネを落ち着ける為にその手を握った。

すると、途端にあたふたして、『殺気』も四散していった。


「し、失礼しました///。」

「いや、仕方ないさ。それほどの事だったからね。」


ティーネの『怒り』の発露は予定外だが、ガスパールさんとオレリーヌさんに事の重大さを伝えるには一役買っただろう。

エルフ族ティーネ』がこれほど深い『怒り』を覚えるほどの『所業』を、フロレンツ侯はしたのだ、と。


「『仲間』が失礼しました。」

「い、いや・・・。」

「は、はい・・・。」

「まぁ、そんな訳で、詳細は割愛させて頂きますが、フロレンツ侯を拘束し、事情を聞き出しました。僕の『魔法』と、『エルフ族奴隷』に使用していた『隷属の首輪』を使って。」

「なん、だと・・・。伯父上は、そんな物を・・・。」

「あの人は、そこまで・・・。」


何とか気を取り直したお二方は、『隷属の首輪』と言う単語に、今度こそ深い失望感を露わにした。

僕も、『隷属の首輪』の事は『前世』の『オタク的知識』としてしか知らなかったが、この世界アクエラ、と言うか『ハレシオン大陸この大陸』の『国々』では、『国際的』に禁じられているたぐいの『魔道具マジックアイテム』なのである。

と言うのも、『隷属の首輪』は、『失われし神器ロストテクノロジー』を解析・鑑定し、奇跡的に再現に成功した数少ない『魔道具マジックアイテム』で、それ故にその効果も絶大で、それを装着された者は『主人』のほぼ完全な『あやつり人形』になってしまうからだ。

『人権』と言う『言葉』や『概念』がまだ曖昧なこの世界アクエラではあるが、それでも『隷属の首輪』は『人道的』にも『道徳的』にも許容出来る物では無かった。

故に、数年に一度、下手すれば数十年に一度ぐらいの頻度だが、『ハレシオン大陸この大陸』の『国々』の『トップ』が一堂に会する『国際会議』にて、『隷属の首輪』の件は取り上げられ、その結果『隷属の首輪』の製造・販売を禁じ、『禁制品』として『ブラックリスト』にも記される事となった。

とは言え、そうした物品が『水面下』で『密造・密輸』されるのはよくある話で、フロレンツ侯もそうした『裏』のルートから入手したらしい。

もっとも、僕も独自に解析・鑑定・調査をしたが、『隷属の首輪』は使われている部品の大半が入手困難であり、大量に製造する事はほぼ不可能であるとの結論に至った。

以前、アルメリア様は『隷属の首輪』の『模倣品レプリカ』を大量に製造していると発言していたが、それも本当の事で、所謂『粗悪品』は大量生産されている様なのだ。

ややこしい事に、元となった『失われし神器ロストテクノロジー』も『隷属の首輪』と言い、フロレンツ侯が所持していた物(完成度の高い本物の『魔道具マジックアイテム』)も『隷属の首輪』と言い、大量生産されている『粗悪品』(効果が薄く、いつ壊れるとも分からない物)も『隷属の首輪』と言うのだ。

まぁ、売買する時に「これは『粗悪品』なんで。」なんてわざわざ言う人もいないので、こういう状態になるのも、ある意味納得出来るのだが・・・(『地球』で言う『違法薬物』が分かりやすい例だろうか?これも、所謂『純度』の高い物と低い物があるが、『カテゴリー』としては同じ『物(名前)』である)。

今にして思えば、アルメリア様はその事を僕に告げなかったのかもしれない。

まぁ、いずれにせよ、『古代魔道文明』の『遺産』(まぁ、それを作る様な文明でもあったのだろうが)を、悪用されるのは僕の個人的な心情としても許せないけれども。

それはともかく。

ガスパールさんとオレリーヌさんの失望感もある意味頷ける。

フロレンツ侯の人格やら性癖はこの際棚上げしておくとして、彼の持つ『地位』や『名声』、『財力』を持ってすれば、所謂を囲う事は可能だろう。

奥様であるオレリーヌさんや、世の大半の女性達には不快感があるかもしれないが、『浮気』的な事柄なら、まだ『男』としては理解出来なくもない。

『商売』として『売春』をする女性もいるし、『自由恋愛』の末『愛人』となる女性もいる。

まぁ、それもお互い合意の下でないと、単なる『性的搾取』になってしまうのだが・・・。

ところが、『奴隷』+『隷属の首輪』となると、もうこれは完全にアウトだ。

相手を女性どころか一人の『人』として見ていない下劣な行為である。

自分を満足させる為だけの、生きている『あやつり人形』を所持している様なモノである。

しかも、どちらも『違法』であり、発覚すればフロレンツ侯個人だけでなく、『ノヴェール家』全体に影響を与えかねない。

まぁ、彼も発覚しない『自信』があったのだろうし、事実彼の持つ『セキュリティ私兵』は高いレベルだが、それでも、彼は他の者達の事を考えない浅はかで非常に身勝手な性格であると言わざるを得ない。

ガスパールさんは『政治家・経営者』としての『観点』からフロレンツ侯に失望し深く憤り、オレリーヌさんは女性として不快感を通り越して深い嫌悪感すら抱いた様子である。


「・・・『話』を続けます。フロレンツ侯を尋問し、ニルの事、『失われし神器ロストテクノロジー』の事を知り、僕らは急遽ニルを拘束すべく彼を追跡しました。『魔獣の森』にて、彼を補足し、拘束しようとしたのですが、彼はあろう事か、『失われし神器ロストテクノロジー』・『召喚者の軍勢』を使用し、制御不能な『モンスター』・『魔獣』を大量に、おそらく1000体を越える数でした、『召喚』し、その混乱に乗じてニルは逃走。彼と『失われし神器ロストテクノロジー』を取り逃がしてしまいました。」

「それが、お二方もご存知の『ルダ村』を襲った『パンデミックモンスター災害』です。幸い、アキトやその『仲間』達、『ルダ村』の有志の者達の尽力で事なきを得ましたが、本来なら、『ルダ村』は壊滅、周囲の『街』や『村』にも復旧不能なほどの被害を与えた事でしょう。『モンスター』・『魔獣』1000体とは、少なくとも一万人規模の『兵力』が必要な事態であり、『討伐軍』を編成・派遣するにはそれなりの時間が必要となりますからな・・・。」

「そんな事態となっていたのか・・・。」

「・・・しかも、それは『人為的』に引き起こされていたのですね?」


ごくりと喉を鳴らしたガスパールさんに、重要な点を指摘するオレリーヌさん。

ダールトンさんも、こくりと頷く。


「その通りです。我々も、後にその事を知った時は深く憤ったモノです。しかし、抗議しようにも、相手は『ライアド教』、それもアルメリアさんの見解とアキトくんの『情報』から『ハイドラス派』であると想定されます。しかも、『実行犯』・ニルの背後の『組織』は『ライアド教・ハイドラス派』の中でも相当な『過激派』だとの噂もあります。詳細は省きますが、協議の結果、ニルやその『仲間』達は『ロンベリダム帝国』に撤退し助力を求めたと我々は見ています。アルメリアさんの見解により、その『失われし神器ロストテクノロジー』・『召喚者の軍勢』の『再使用』には少なくとも数年の『時』を必要とし、それほどの『力』を退けたアキトくん達を脅威と見なしたのではないか、と。故に、『ハイドラス派』の『本拠地』である『ロンベリダム帝国』に保護を求め、新たな『失われし神器ロストテクノロジー』の調査・発掘に乗り出すのではないか、と。事実、ここ最近、『ロマリア王国この国』における『ライアド教』の『影響力』も低下の傾向にあります。」

「なるほど・・・。『話』が見えてきたよ。つまり、君達の『リベラシオン同盟』、と言ったかな?は、『ライアド教・ハイドラス派』に『対抗』する為の『組織』なんだな?しかし、相手は『国』、それも『ハレシオン大陸この大陸』でも屈指の『強国』の後ろ楯を得ていると考え、『同盟』も『国』の後ろ楯を得るのが望ましいと考えた。しかし、君達は『平民』故に『ロマリア王家』に対して接触する術を持たない。そこで白羽の矢が立ったのが『ノヴェール家我々』であったと言う訳だ。」

「しかも、相手は『ロンベリダム帝国』も含まれる。彼の国の『皇帝』は、噂では相当な『野心家』だとか。伝え聞く限りでも、『敵性貴族』の粛清、軍備の強化、税率の増加・・・。高確率で『戦争』の準備をしていると考えられる『情報』の数々。あなた方が多少強引な『手段』を使ってでも私達と接触したのは、この為ですね?」

「まさしく仰る通りです。しかも、ニルが持ち帰った『失われし神器ロストテクノロジー』・『召喚者の軍勢』の『力』を十全に引き出せれば、相手にとってはこれ以上ない『援軍』でしょう。また、『失われし神器ロストテクノロジー』の有用性を再確認し、後回しにされがちだった『古代魔道文明』の調査・発掘にも力を注ぐ可能性も高いのです。『野心家』が『力』を手に入れた場合、考える事と言えば・・・。」

「『世界征服』・・・、いや、まずは『大陸統一』かっ!?いずれにせよ、『ハレシオン大陸この大陸』に大きな『戦乱』が起こる可能性がある・・・!?」


こくりと、ダールトンさんは頷く。


「事は、『ロマリア王国我が国』と『エルフ族の国』の『戦争』などと言う『話』では無くなるのです。それ故、一刻も早くこちらも『国』の後ろ楯を得て、他の『国々』とも『連合』を組む必要があると考えています。」


長い沈黙が訪れた。

ガスパールさんとオレリーヌさんは、これまでの『話』を反芻しているのだろう。

まず普通の者なら、今までの『話』の『真偽』を疑うだろう。

この世界アクエラには、『映像』や『写真』が存在しないので、事の『真偽』は、『情報』や『噂話』を収集・精査し、『事実』を炙り出し、予測・判断するしかない。

これまでの『話』から、


なぜ『リベラシオン同盟』が設立されたのか?

なぜ『リベラシオン同盟僕ら』は『脅迫』紛いの事までして『ノヴェール家お二方』と接触したのか?


は理解して頂けたと思う。

まずは会って話をする事。

これが重要であった。

では、


なぜ『ノヴェール家』だったのか?


これは、フロレンツ侯の件もあって、接触しやすかったのもあるが、嫌らしい話、『恩』を売る事で、協力して貰える確率を上げる為、そして、『リベラシオン同盟』と『ロマリア王家』を繋ぐ『パイプ役』となって貰う為だ。

『ノヴェール家』が『ロマリア王国この国』有数の『名家』である事も大きい。

勿論、『ノヴェール家』としても『メリット』のある『話』だ。

フロレンツ侯の『所業』は、下手をすれば『ノヴェール家』ごと倒れかねない大きな『スキャンダル』だ。

しかし、それを上回る『功績』と、フロレンツ侯を排する事で、『ノヴェール家』の存続の可能性がグッと上がるだろう。

少なくとも、『心証』は良くなる。

ノヴェール家自ら』の有用性を『アピール』する事で、『御家取り潰し』と『御家存続』、どちらが得か、まぁ、これを判断するのは『ロマリア王国この国』の『トップ』だが、十中八九『御家存続』を選択するだろう。

と、言うのも、『ノヴェール家』に倒れられると、『代替』の『家』、『ノヴェール家』と『同等』の『力』を持つ『家』が存在しないからだ。

故に、多少の事なら目を瞑ってきたのが、フロレンツ侯の『暴走』を許す遠因となったのだが、フロレンツ侯の『所業』は、その『ボーダーライン』を越えてしまった。

『エルフ族奴隷』・『隷属の首輪』・『人身売買』・『裏』(『闇ギルド』)との繋がり。

これが公になり、『他国』に知られれば、『国際的』な非難は免れないだろう。

そうなれば、『ロマリア王家』としても、フロレンツ侯、ひいては『ノヴェール家』を処罰しない訳には行かなくなる。

しかし、これがフロレンツ侯の『独断専行』であり、『ノヴェール家』は『関与』していない、その証明にフロレンツ侯を排し、『ロマリア王家』、ひいては『国際社会』にも『貢献』していると行動で示せれば、『ノヴェール家』にまでは被害が及ばないかもしれない。

上手く立ち回れば、『ノヴェール家』の『地位』を磐石なモノと出来る可能性もある。

まぁ、これはガスパールさん達の尽力次第だが、僕らはそのチャンスを与えているのだ。

また、これは僕の『個人的』な見解だが、ニルら『ライアド教・ハイドラス派』も『ロンベリダム帝国』に協力する事には『メリット』があると考えている。

『ロンベリダム帝国』が、所謂『征服戦争』に乗り出し、『大陸』の『国々』を占領していけば、おのずと『ライアド教』を『強制的』にだが、『布教』するまたとない機会だからだ。

『戦争・占領』によって破壊されるのは、何も『物質的』な物だけではない。

当然ながら、『精神的』な『文化』も破壊されるので、占領後に『再教育』を施す事により、『自国』にとって都合の良い『教育』や『文化』を

当然ながら、『宗教』もその一つであり、それにより効率良く『信仰集め』が出来ると言う訳だ。

これも、『地球』でも見られる、わりとポピュラーな『手法』である。


「聡明なお二方なら、どうするのが『ノヴェール家』にとって望ましいのか、既にお分かりになると思いますが・・・。」

「・・・くだらぬ理由で『エルフ族の国』との『戦争』を引き起こした『戦犯者』を出した『家』となるのか、はたまた、『国』、いや、『大陸』の危機を察知し、未然に防ぐ為に奔走した『家』となるのか、か?」


こくりと、僕は頷いた。


「フッ、ダールトン、君には謝罪しておこう。確かに、この『少年』を侮ると『痛い目』に合う様だな。しかも、それだけでなく、こちらに『利』さえも示せるとは、末恐ろしい『少年』だよ。この『筋書き』は君の発案だな?」

「ええ、まぁ。なぜそう思われたのですか?」

「何、簡単な話だ。ダールトンの人となりは知っている。『優秀な男』だが、『ノヴェール家』に正面切って『交渉ケンカ』は吹っ掛けて来ない。まぁ、もっとも、彼の『得意』な搦め手が随所に見られるので、彼の『アイデア』も盛り込まれているのだろうがね?それと、そちらの『ギルド長』殿だ。彼とは、面識は無いが、噂は聞いているし、そもそも『冒険者ギルド』は『政治的』な事にはあまり関わらない。良く言えば『自由人』達の集まりであり、それ故、自分達に被害が出る様な事があれば『反撃』もするだろうが、『政治的』な事に関わらない故に、その『手段』ももっと『直接的』なハズだしね。そちらの『エルフ族』の女性は論外だし、そうなると君しかいないだろう?」


肩をすくめてガスパールさんは苦笑いをする。


「さて、伯母上・・・。」

「ええ。貴方の思う通りになさい。私も、フロレンツ侯あの人とは『政略結婚』でしたし、愛情など元々無いに等しかったのですが、今回の『件』で本当に愛想が尽きました。・・・昔は、それでも『尊敬』出来る所もあったのですが、何が彼を歪めてしまったのか・・・。いえ、これは今さら詮無い事ですね・・・。忘れて下さいな。」


こくりと、ガスパールさんは頷いた。


「・・・分かりました。さて、『リベラシオン同盟』の皆さん。我々『ノヴェール家』は全面的にあなた方に協力させて頂きます。」


即断即決。

これには、流石に僕も驚いた。


「よろしいので?いえ、こちらとしてはありがたい話ですが、『情報』の確認の為にも、御相談の為にも、お時間を必要とされる考えていて、その用意もあったのですが・・・。」


僕が告げると、ガスパールさんは首を振った。


「いや、必要ないさ。おそらく、今回の『話』の『再確認』をするだけに終わるだろう。ここまで『用意周到』に準備してきた君達が、今さら『退路』を用意しているとも考え難い。もし、あのまま『書簡』を無視し、ダールトンとの面会を拒んでいたら、いや、君が伯父上の暴走を止めていなければ、近い将来、我々の『首』は飛んでいただろう。全てを知った時には後の祭りなどと言う事態になる前に、手を打てるのは僥倖だ。しかも、これは我々の尽力次第だが、あるいは今以上に『ノヴェール家』を大きくする事も可能かもしれないのだ。嫌な話だが、『政治家』として、『親切心』だけで『忠告』してくれた訳では無い事もある意味『安心』だよ。君達にとっては、『ノヴェール家我々』に『利用価値』があると考えていると言う事だからね。故に、せいぜい見限られない様に、精一杯やらせて貰うさ。」


冗談めかしてガスパールさんはそう言ったが、その目には、ある種の『覚悟』が窺える。

それはそうだろう。

『ノヴェール家』を窮地に立たせてしまったフロレンツ侯だが、ガスパールさんにとっては、伯父であり、かつての『師匠』でもある。

『ノヴェール家』の未来の為には、まず間違いなく彼を排除しなければならず、そこには僕では窺い知れない『葛藤』もあるのだろう。


「・・・御心配なく。『ノヴェール家』の為にも、フロレンツ侯の『名誉ある死』を演出する方法もあります。もちろん、『リベラシオン同盟我々』に御協力頂ければ、ですが・・・。」

「は、ワハハハッ!そ、そんな事まで想定済みかいっ!?本当に君は『子ども』なのかねっ?中身が『大人』だと言われても、今なら信じられそうだ。」

「本当ですわね。」


正解です。


「・・・ならば、憂いはないな。改めて、よろしく頼むよ。」

「・・・こちらこそ。」


ひとしきり笑った後、ガスパールさんは憑き物が落ちた様な表情でそう言い、手を差し出した。

少し様子を窺ったのだが、どうやら僕に対しての様だ。

一応、『リベラシオン同盟』の『盟主』はダールトンさんなのだが、差し出された手を無視する訳にも行かず、僕はガスパールさんと握手を交わした。


こうして、『リベラシオン同盟』は『ノヴェール家』の協力を取り付ける事に成功したのだったーーー。


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