5. 真梨香の結婚相手


 慎一郎さん、というのが私の結婚相手の名前だった。両親が結婚相手を告げ、強引に経歴書(ほとんど履歴書のようだった。私自身が面接官になったのではなく、その役は両親だった)を見せた時にざっと略歴は確認したが、絵に描いたようなエリート、という感慨しか浮かんでこなかった。顔を合わせたのも数回だけだったので、今日から一緒に過ごすことに違和さえ感じる。けれど、私に選択肢なんてないのだ。


「改めてよろしくお願いします、真梨香さん」


「ええ」


 慎一郎さんはにっこりと微笑んだ。その笑顔は能面に貼り付けられているようで、気味が悪かった。けれどそれが今後夫婦生活を共にする者として、当たり障りのない始まり方だということも理解していた。おそらくこの人は、社会の規範や常識のレールの上を、寸分違わず歩いてきた人なのだろう。


「あなたを幸せにしてみせます」


 ありがとう、という言葉に詰まった。私はそんなこと望んでない。慎一郎さんは勝手に喋り続けた。


「絶対にあなたを満足させてみせます。僕はエリートですから」


「確かT大をご卒業されてるんですよね」


「ええ」


 自信たっぷりに慎一郎さんは答えた。プライドが高い人かもしれない、と私は思い始めた。

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