5. 真梨香の結婚相手
慎一郎さん、というのが私の結婚相手の名前だった。両親が結婚相手を告げ、強引に経歴書(ほとんど履歴書のようだった。私自身が面接官になったのではなく、その役は両親だった)を見せた時にざっと略歴は確認したが、絵に描いたようなエリート、という感慨しか浮かんでこなかった。顔を合わせたのも数回だけだったので、今日から一緒に過ごすことに違和さえ感じる。けれど、私に選択肢なんてないのだ。
「改めてよろしくお願いします、真梨香さん」
「ええ」
慎一郎さんはにっこりと微笑んだ。その笑顔は能面に貼り付けられているようで、気味が悪かった。けれどそれが今後夫婦生活を共にする者として、当たり障りのない始まり方だということも理解していた。おそらくこの人は、社会の規範や常識のレールの上を、寸分違わず歩いてきた人なのだろう。
「あなたを幸せにしてみせます」
ありがとう、という言葉に詰まった。私はそんなこと望んでない。慎一郎さんは勝手に喋り続けた。
「絶対にあなたを満足させてみせます。僕はエリートですから」
「確かT大をご卒業されてるんですよね」
「ええ」
自信たっぷりに慎一郎さんは答えた。プライドが高い人かもしれない、と私は思い始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます