第11夜 止める者は優しいのか?

「なんとかなんねーの?? 入れねーんだけど!?」

ブロンドの髪をした“雨宮灯馬”は、騒然としている街中で叫んでいた。その手にはスマホ、画面を見て、叫んだのだ。

彼はーー、目の前の真っ黒な黒炎に包まれた60階ある“ルシエルタワー”の前にいる。

今まで“居た場所”だ。

だが、葉霧はぎりの願いを彼は受け入れた。いや、ここにいる全員が“彼と鬼娘、そして残った人間の安否”を振り投げてここにいる。軟禁され生き残った人間たちを、ルシエルタワーから出したからだ。

人間たちを連れ、タワーの外に逃した。約束を果たした後で、灯馬たちはタワーに戻ろうとしたのだ。だが、眼の前には黒炎の壁。

入ろうとしても弾き飛ばされたのだ。

その事で彼は、“こうゆう事”に詳しい知人に連絡した。それが、“紅炎の力”をくれた鬼神嵐蔵であった。

「わかんねーんだよ、、、風牙のハナシだと……。」

炎の髪をした鬼神嵐蔵は、画面で険しい表情をした。だが、その後で画面は切り換わる。リモート参戦、現れたのは風牙であった。

「行けないんだ。灯馬くん。そこには近づけない。」

「は?? さっきまで入れてたんだぞ?? 俺らは中にいたんだ。」

ブロンドの髪をした葉霧の幼馴染みの人間と、碧のサラ艶髪の“風のヌシ”の会話は画面上で交わされる。

「ちょっと待って! 師匠! どうゆうこと?? 沙羅姉もいるんだけど??」

その脇で画面に向かい叫んだのは、穂高沙羅のイトコである“神梛夕羅”だ。

彼女もまた葉霧の幼馴染みである。

「わかってますよ、、、だから、入ろうとしたんです。だが、あのタワーはまるで“鉄壁”だ。近づこうとすると弾き返される、まるで“結界”だ。」

「結界?」

風牙の声にそう聞いたのは“雨水秋人”であった。長めの黒髪から覗く目元は、リモート画面を強く見据えた。

「他者が立ち入れない様にする空間を創り上げる事。わかり易く言おう。 だが、今は省いて説明してるから、全てじゃない。」

「は?? うぜーよ、さっさと言え。」

風牙の優しい気遣いすら、秋人は跳ね返した。彼等は何しろ今まで“あやかしなど、気にも留めてない人間だ。

言われる言葉、見るもの全てが真新しく理解の出来ない世界だ。

風牙はそれを知ってるから説明している。

ふぅ。と、風牙は息を吐く。

「あやかしにはその力がある。普段は何てこと無い道だとしよう。そこに結界があるとする、あやかしが人間を襲おうとすると、その結界は開かれ空間に人間は引きずり込まれる。“神隠し”と言う言葉はわかるか? その現象は、通常の空間からあやかしの空間に連れ込まれる事を意味する。」

そう言うと、灯馬は目を丸くした。

「てことは……“ルシエルタワー”は神隠し状態ってことか?? だから誰も入れねーの?」

そう言うと、風牙はフッと柔らかく笑った。

「君は……“助かる”よ。」

「は??」

風牙のそのホッとした様な笑みに、灯馬はスマホを持ちながら怪訝そうな顔をした。

「意外と鋭い。」

「悪かったな! なんか!」

灯馬は馬鹿にされた様な微笑みを浮かべられたので、そう言ったのだ。

「今……、鬼娘と退魔師殿がいるあのタワーは“そうゆう状況”だ。他者が入り込めない結界に護られてる。」

風牙の言葉に水月は目を見開いた。

「そこに行けないの? 助けに行けないの? 私達は!」

灯馬のスマホ画面に向かい、叫んだ。

だが、夕羅だけは顔を俯かせた。

(結界……、師匠はわかり易く説明してくれたけど、確かとても強い“力”だって、沙羅姉から聞いた。あやかしが自身の居場所を護るものだって。)

夕羅は、真っ黒な炎球に包まれるルシエルタワーを見据えた。

(あの中にいる……“東雲しののめ”って言うヤツが……、自分を護る為にその“結界”ってのを張ってるってことだよね??)

夕羅もイトコが霊能師の生き残りだから、そこら辺の話は聞いている。

だが、実際にあやかし、幽霊などそれに遭遇したことはない。

けれども、彼女は聞いていたから“免疫と理解力”が、ここにいる人間たちよりも優れている。

(……それって……“ヤバい”んじゃ? 身を隠すって事は……、本気モードってことだよね??)

夕羅はそう思うと、灯馬のスマホを掴む左手を掴んだ。

「どうしたら行けるの?? ヤバいんでしょ??」

その声に、目を見開いたのは灯馬とリモート画面の風牙であった。

「無理ですよ。」

応えたのは風牙だ。

険しい表情でそう言ったのだ。

「なんで?? 何とかしてよ! 貴方たち! この世界の“守り神ヌシ”でしょ??」

夕羅はそう叫んでいた。 

だが、それに応えたのは申し訳無さそうな顔をした嵐蔵だった。

「あー……悪いな、嬢ちゃん。俺らは長い年月で、人間に力の影響を与えない様に土地神や、守り神をやってるだけだ。」

その言葉に誰もが灯馬のスマホを見つめた。

「天変地異、天災で人間の世界を崩壊させないこと。俺らには“その力”がある。だから今はそれを起こさねー様に共存してんだよ。」

嵐蔵の言葉は更に続いた。

「そうなったんだ。長い歳月で、、、人間社会と共存する為に、俺達“あやかし”は、ある程度の掟を護ってる。それが“俺達ヌシは天変地異を起こさない事”。人間を無意味に殺さないこと。」

誰もがーー、目を見開いていた。

だが、灯馬は

(“雷親父と技藝”……。それに、あの吹雪で街を滅茶苦茶にした……“氷瑚”ってやつか。)

ふと、思い出したのだ。ヌシたちの行動で、天災が訪れたことを。

その時、彼等は始めて目の当たりにしたのだ。あやかしの持つ潜在的な自然破壊の力を。

それは、強靭なものであった。

「でもな……、言いたかねーが……“退魔師”が覚醒した事と、その間堪えてた連中ってのが……“暴走”しだしたんだよ。だから今、、、この世界は、闇に包まれてる。」

嵐蔵は灯馬たちにリモート画面であるが、そう言った。すると、金色の獅子が顔をだした。

「“東雲”と言う半端者は昔……、“修羅姫しゅらき”と言う、鬼一族の最強長と一戦交えている。」

「え??」

雷架の声に灯馬は目を見開いた。

「その者は、、、“蒼い炎を纏う美しい鬼姫”。降臨すればその地を焼き尽くす。そう言われとる。」

雷架がそう言うとリモート画面の面々は、表情を曇らせた。

「ちょっと待って?? どーゆうこと??」

そう叫んだのは夕羅だ。

すると、嵐蔵が口を開く。

「……退魔師に力を貸してるのは全て……“秩序”の為だ。」

「「は??」」

灯馬と、秋人はーー、嵐蔵を睨みつけたのだった。

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