第7夜 55階の決着〜東雲との決別へ〜

 ーールシエルタワー55階。


 展望室で繰り広げられる死闘。


 楓は目の前で自分を、殴りつける闇鬼を見据えていた。


 壁にめり込む程の拳での攻撃。それに加え蹴りまでも入る。


 鬼でなければ、即死だろう。


 身体中の骨と言う骨が砕かれ、粉砕している筈だ。


 ドゴォと壁に穴を開け、楓の形が出来上がる。更にその衝撃で、壁はへこみコンクリートは崩れ落ちる。


「いい加減にしやがれ!!」


 楓は鬼火を放っていた。


 蒼い鬼火は業火。火炎放射の如く真っ黒な闇鬼の身体を、覆った。


 その勢いで楓から離れ飛ばされる。


 はぁ……はぁ……


 荒めの呼吸を吐く。


 ごほっと咳込みながら、楓は壁から這い出た。埋まらなかったのは、衝撃で周りの壁が崩れたからだ。


 夜叉丸を握り壁から出た楓は、目の前で倒れている闇鬼を見増えた。


 蒼い鬼火に包まれ焼かれている闇鬼。だが、その炎は黒い気で弾き飛ばされたのだ。


 チッ……


 舌打ちすると夜叉丸を構える。


 直ぐに闇鬼が立ち上がり、向かって来る。そう考えたからだ。


(元が、闇喰いだけあってしぶてーな。あやかしの怨念の塊ってワケか。厄介としか言えねぇ。)


 幻世うつせや現世で、無残にも殺されたあやかしたち。その魂が闇に染まり、闇喰いとなる。


 現世で殺されたあやかしよりも、怨念と憎悪はより強大だ。闇の世界で生きる者達の魂だからだ。


 ぐぅ……


 闇鬼は立ち上がると、ボロっとした身体をしていた。炎で焼かれ腕や、足、更に胴体、頭。それぞれが、崩れていた。


 それでもまだ二本の足は地面を踏んでいる。


「ウォォォオッ!!」


 雄叫び。


 闇鬼のその叫びで展望室に死者として、遺された闇鬼たち。更にあやかし。人間。


 その魂が集まりだした。身体から抜ける様に、這い上がり、黒い魂から透明なものまで、様々な色彩をした魂たちは、闇鬼に集まる。


「魂喰いかよ。ったく、どんだけ雑食なんだ! てめぇは!!」


 楓は夜叉丸を握り駆け出した。


「“夜叉斬り”!!」


 魂を口から吸い込む闇鬼に対し、楓の脳天からの上段斬り。更には腹部への突き刺し。


 二段攻撃にぐらつく闇鬼。


 夜叉丸で斬りつける闇鬼の身体は、頑丈。脳天から真っ二つとはいかない。


 それでも頭部から顔。更に足元まで斬りつけた。


 吹き飛ぶのは真っ黒な血。


 腹に突き刺した刀。抜き取るとぶしゅっと噴き出す。


 魂を吸いボロっとしていた身体は、元に戻りつつあった。闇鬼は両手組み振り下ろす。


 ゴッ!


 地面にぶつかる拳。穴の開くコンクリート。


 楓は既に上に飛んでいる。


「“夜叉烈破”!!」


 闇鬼の頭の上で反転する。そのまま落下しつつ、首筋を斬りつける。


 がっ!!


 刀の刃を受け止めるのは、闇鬼の腕だ。


 黒い蒸気を出しながら再生していた腕で、受け止めた。


「うぜぇ野郎だ!」


 腕ごと押し切ろうとするが、刀の刃は入らない。


 カッ!!


 闇鬼から放たれる黒い気の風。


 楓はふっ飛ばされた。


「だー!! まじか!」


 くるくると宙で回転しながら、着地する。


 だっ!


 直ぐに向かって行くのは、闇鬼が向かって来ていたからだ。


『いいか? 鬼娘。剣ってのは技が必要だ。戦いの最中に、自分で編み出せ。その刀を振り下ろすだけじゃ、倒せない敵が出てくる。』


 これは鬼神嵐蔵の言葉だ。


 防人の街から帰る時に、楓は嵐蔵に鬼火と刀の使い方を教わった。


 更には鬼火に関しては、風牙からも教わった。


 楓は自己流。なりふり構わず刀を振っていたのだ。夜叉丸自体に力がある。


 妖刀と言う力が備わっているのかもしれない。


 それを指摘され、ここからの戦いで自分で技を磨け。と、言われたのだ。


(とは言え……あんま……得意じゃねぇんだよな。オレは。行き当たりばったりだからな。)


 楓の気質である。猪突猛進であり特攻。彼女の特技である。


『鬼火と刀を合わせた技。それを編み出し使えば、天下無敵の刀になりますよ。』


 風牙の声が頭に響いた。


 闇鬼が黒い気の波動を放つ。その口から。


 咆哮の様な波動。


 楓はそれを鬼火で防ぐ。


 蒼い炎と黒い気の波動が直撃する。


 爆破する二つの力。

 楓はそのまま突っ込んだ。


 鬼火で刀の刃を覆う。


 蒼い炎の刃。


「“蒼炎刃”!!」


 闇鬼の懐に入り込み身体を、回転させる。

 蒼い炎が回転で出来た風と混合する。


 闇鬼の胴体は蒼い炎の渦に焼かれ、刀で薙ぎ払われる。


「ぐぅ……!」


 脇腹から斬りつけた刃は、炎で焼きながら払う。


 炎の斬撃は闇鬼を焼く。頑丈な身体も炎の刃には太刀打ち出来なかった。


 楓は真っ二つに胴体を切り離したのだ。


 吹き飛ぶ胴体を見上げ、飛び上がる。


 鬼火纏う刃は、闇鬼の頭部を穿いた。


「楓!」


 そこに葉霧が駆けつけていた。


 蒼い炎で包まれる闇鬼の頭部。


「”退魔滅却“!!」


 葉霧は白き光を放つ。


 闇鬼の足元に円陣が浮かび、白き光が覆う。焼き尽くすかの様に、闇鬼の身体を包んだ。


 それは切り離された胴体も同じだった。


 楓は消滅していく闇鬼を見ながら、地面に降りたのだ。


 黒い闇鬼の身体は光の中で、崩壊する。


 焼き焦がされ塵となる。


「葉霧。大丈夫か?」


 楓は闇鬼が消えるとそう聞いた。


「大丈夫だ。楓は? 怪我してるな。」


 口元からも血が出ていた。頬も腫れている。

 葉霧は楓の腫れた頬を触れた。


「大丈夫だよ。こんぐらい。それより……あの檻は壊れたか? 斑目は死んだんだろ?」


 楓は照れた様な笑いを一瞬だけ、浮かべた。だが、直ぐにそう言った。



 黒い大きな鳥籠。それはシュウゥゥと音をたてて消えていた。


 たくさんの人達は、未だ動けずにいた。


 だが、楓と葉霧の姿を見ると


「出れるのか?」


 と、そう聞いた。


 サラリーマン風の男性だ。中年男性は疲れ果てた顔をしながら、そう言った。


 この数時間の心労は計り知れないだろう。


 鳥籠が消えて少しずつ、纏まっていた人達は、動きだした。


 地面には無残にも踏み潰された人間と、闇鬼たちの死体が転がっていた。


 更に……未だ闇鬼たちはいる。


 葉霧は固まって動けずにいる闇鬼たちに、手を向けた。


 白い光が空から降り注ぐ様に、彼らを覆う。


 浄化されてゆく。闇鬼たちは人間の姿に戻ってゆく。


 闇喰いにとり憑かれた人間たちが、元に戻る時だ。


「おぉ……」

「すごい……」


 人の姿に変わってゆくのを目の前にして、捕まっていた人達は、ようやく声を発した。


 安堵した様な声をあげ、表情も柔らかくなったのだ。


「葉霧! 楓!」


 そこにエレベーターから降りてきたのは、灯馬たちであった。


「これって……」


 夕羅は目の前の死体の多さに、青ざめていた。


「灯馬。秋人。頼みがある。」


 葉霧はそう言った。



 ✣


 人間の姿を取り戻した者達と、鳥籠の中にいた人達。その人達を連れて、灯馬たちはタワーを降りる。


 ここから出すにしても、街がどうなっているのかはわからない。


 人々だけで行かせるのは、心配だと、葉霧は提案したのだ。


 灯馬と水月、更に氷憐が先に降り、一階で待つ。


 エレベーターで何が起きるかわからない。秋人と夕羅、フンバ、お菊は、付き添いで人々を下まで誘導する。


「アイツらがいてよかったな。」


 楓は連携取りながら、人々を連れて行く秋人たちを見ながらそう言った。


「ああ。本当に。」


 葉霧は頷く。自分たちだけだったら、こう上手くスムーズに、救助は出来なかったであろう。



「行くんでしょ? 上。」


 沙羅だった。


 少し不貞腐れた様な顔をしつつも、そう言った。


「大丈夫か? お前。ぶっ飛ばされてたよな?」

「大丈夫よ。お菊ちゃんに万能薬貰ったから。」


 楓の声に沙羅は、ふっと勝ち気な笑みを零した。ついでに長い黒髪を手で弾いた。


 さらっと。


「あ。そー。」


 楓は苦笑いだ。


「ついて行くから。」

「はぁ?? 」


 楓は沙羅だけでなく、後ろで拓夜もうんうん。と、力強く頷いているのを見つめた。


「ま。見学ってことで。」


 楓はそう言うとエレベーターに向かった。


 60階。最上階だ。


 そこにーー、東雲がいるのだ。



 ✣


 60階。


 展望室にはソファー席が並ぶ。本来なら美しい景色が拝めるのであろうが、今は暗く淀んだ外しか見えない。


 黒い霧に覆われている。


 まるで夜の様だ。


 窓の所には黒い着物姿の東雲がいた。


 その腰には刀を挿していた。


 黒髪がさらっと揺れる。楓と同様の蒼い眼。


「やっと来たか」


 振り向くその顔は、冷徹そうであった。


「葉霧。手を出すなよ。口はいいけど。」


 楓は夜叉丸握りながら、そう言った。


「……わかってると思うが……。まだ“正座で説教”終わってないからな。」

「え??」


 葉霧の声に楓は見上げた。その顔はぎょっとしていた。


 葉霧は柔らかく微笑む。


「帰ったらするから。そのつもりで。」


 楓はそれを聞くと笑った。


「はいは〜い。」


 そう言いながら葉霧たちから、離れたのだ。


(……無茶はするな。楓。)


 葉霧はその後ろ姿に、そう言っていた。


 沙羅も拓夜も楓を心配そうに見ていた。


 東雲は刀を抜いた。


 長く揺らめく銀の刃。長身の東雲には丁度いい長さだ。


「妖刀夜叉丸。」


 東雲の声に楓は目を見開く。


 東雲は刀を向けた。


「こいつは“妖刀 修羅刀”。お前の持つ刀の兄貴分だ。」

「へ? そーなの? 知らなかった。ん? なんでそんなもん持ってんだ?」


 おとぼけな返答はいつもの事だ。東雲はフッと笑う。


「刀匠“我聞がもん”。殺戮刀を打つ事に、命を賭けた男だ。とっくに死んでるがな。」


 東雲は刀を降ろした。


「あやかしか?」

「そうだ。狂剣を世に贈りだす。その為に生きていた鬼だ。」


 楓と東雲の眼は睨み合う。


「オレはそんなの知らねぇし、これは貰ったんだ。それに何度も助けられてる。」


 楓は夜叉丸を掲げ見上げた。美しい銀の刃を。


「血を吸い血を求める殺戮刀だ。」


 東雲は口元を緩め、冷たく笑う。

 楓は刀を降ろした。


「何が言いてぇんだ? 相変わらずハッキリしねぇな。」

「どんなに綺麗事並べても、お前が持ってるのは血に飢えた刀だ。それも殺したくて堪らない狂った奴が、作った刀だ。」


 楓の声に東雲はそう言った。


「だから何だ? あー。お前ね。まじめんどくせーんだよ。言いてぇことあんなら言えよ。そーゆーとこが、嫌いなんだ。オレは。」


(痴話ゲンカか?)


 楓と東雲のやり取りに、葉霧は少しイラッとしていた。


「お前は言いたい事を言い過ぎだ。」

「そこはけっこー反省する。」


 東雲の強い声に楓は、即答。


「血ばかりを見て来た奴が、甘い世界で人間と暮らして何が楽しい?」


 東雲の声に楓はきょとん。としたが、直ぐに頭をかいた。


「あー……ソコね。それに行き着くワケね。わかりづらっ!」


 はぁ。


 楓はため息つく。


「何がしてぇのか……どんな世界なら納得すんのか、知らねぇけど。人を巻き込むな。戦って暮らしてぇんなら、幻世うつせ行けよ。」


 東雲は楓のその言葉に、笑う。


幻世うつせがどんな世界なのか、わかってるのか? お前。」

「知らねぇよ。でも闇喰い見てればわかる。ロクでもねぇ世界なんだろ。」


 楓の口調は強くなる。

 東雲は楓を見据え


「暴力と破壊。それだけだ。」


 そう言った。


「わかってんならそこへ行けよ。他人を不幸にすんな。」

「わかってねーのはお前だ。楓。」


 東雲は刀を楓に向けた。その口調は強い。


「不幸だと何でわかる? 暴力と破壊。その力を与えられた人間が、嬉しそうに力を使う。不幸だとは思えねーな。寧ろ、生き辛くてしんどい様に見えるがな。」


 東雲は刀を降ろした。


「だとしても……傷つく人もいる。泣く人もいる。みんな……わかってるから、我慢して生きてんじゃねぇのか? 大切な事を知ってるから。」


 楓は刀を構えた。


「それが……お前の答えか。」

「オレはいつでも変わらねぇ。」


 対峙の合図。


 お互いに刀を奮う。


 刃はぶつかり合った。


「お前のその甘い理想論。聞いててイラつく」


 東雲は楓の刀を押さえつける。押し戻す。


 ぐっ。


 楓もまた東雲の刀を押した。互いに交差する刃。


「オレはお前の極端で、他人巻き込み型がイラつくんだよ!」


 バッ!


 互いに離れる。


(だから。痴話ゲンカか?)


 葉霧は腕を組んだ。


「俺は世界を壊し……全てをやり直す」

「は? やり直す?? 世界を創り変えようとでも言いてぇのか?」


 東雲と楓は、刀を握り互いを見据える。角を持つ鬼娘と、人間と鬼の間に産まれた鬼。東雲。


 二人の間にまるで……理解出来ない壁。が、ある様に見える。


「創り変えるつもりはねーよ。創るのはその中で生きる連中だ。破滅した世界の中で、何が出来上がるのか見てーだけだ。」


 東雲は修羅刀を構える。


「ワケわかんねぇな。やっぱり。」


 楓はとんっ。と、肩に刀を乗せる。


「だろうな。」

「ああ。わかんねぇよ。ブッ壊してもオレは、同じよーな世界が出来上がると思う。大切な事は変わらねぇからな。」


 東雲は楓を強く見据える。


 蒼い眼が互いを睨む。


「それすらも壊してやるよ。」

「あーそうかよ。」


 楓はチッと、舌打ちすると駆け出した。


 東雲と楓の刀は交わり、ぶつかり合う。刃は重なる。


 力と力の押し合い。


「俺はお前の極端に、ポジティブな所がイラつく。」

「そりゃどーも!」


 ガチガチと音がするほどに、互いの刃は押し合い力を競り合っていた。


 だがそれを押し切ったのは楓だ。


 ギャンっ!! と刃の擦れる音が響く。


 東雲の刃を突き放す様に、刀を振り下ろした。


 剣先が東雲の頬を掠めた。力で押し切られた東雲は、離れた楓を睨みつける。


「相変わらずのバカ力だな。」


 親指で頬を掠めた切っ先の傷。それをなぞる。縦に切られた傷からは、血が滲んでいた。


「あまりにもイラついていつも以上だ。」


 ぶんっ!


 楓は夜叉丸を振り下ろす。


「お前はムカつく」


 東雲は左手を楓に向けた。手に沸くのは、黒い湯気の様な気だ。


「気が合うな。オレもだ」


 楓もまた左手を向けた。蒼い鬼火が手を包む。燃える様な炎。


 カッ!!


 閃光走り互いに飛び出すのは、お互いの力。


 東雲は黒い炎。

 楓は蒼い炎。


 火炎放射の様な炎がぶつかる。


 炎同士の競り合いは、互角。互いに炎は飲み込んだ。爆破する中で、楓は刀を握り東雲に向って行く。


「“夜叉斬り”!!」


 上段斬り。それを繰り出しそのまま、腹を突き刺すつもりだった。


 だが東雲の左腕には黒い塊。盾だった。まるでキックミットだ。


 それが楓の刀を受け止めていた。


「てめぇのそれは何なんだ!?」

「俺の意志で“具現化”する力だ。“闇術”だとか言うらしいな。」


 楓は東雲の右脚が上がったのを、見ていた。

 ハイキック。


 それが楓の脇腹に跳んできたのだ。


 楓は空中で喰らいふっ飛ばされた。


 側にある柱。そこにくるっと足で着地。蹴りつけ東雲に向かって飛ぶ。


 踏み台にした。


「無闇に飛び込んで来るんじゃねーよ。」


 目の前に居たはずの東雲は、楓の頭上にいた。背中に落とされたのは、ストンピングの様な踏みつけではない。


 ほとんどドロップキックだった。


「くっ!」


 地面に落下する楓は、たんっ!と、手を付き落下を防いだ。


 降下してくる東雲に、ゲイナー。

 宙返りで身体をくるっと回転させ、そのまま首裏に踵落とし。


「!」


 東雲はぐらっとよろけながらも、身体を捻り、刀を斬り上げた。


 ガッ!!


 降下する楓は飛んでくる剣先を見ると、刀で払いのける。


 すかさず跳んでくる東雲のハイキック。楓はそれを左腕で受け止める。


 顔の側で受け止め、自らもミドルキック。


 東雲は脇を蹴り飛ばされた。


 刀と接近戦。その攻防は暫く続く。


「スゴい……」


 ハイスピードで行われる戦いに、沙羅は目を丸くしていた。


「バトルランゲージみたいだ。」


 拓夜はそう言った。

 彼の好きなアクション映画である。


 葉霧は固唾を咽んで見守っていた。


 鬼同士の戦いを。


 ザシュ!


 と、楓の肩が斬りつけられる。


 押しては引いて、蹴れば蹴られる。斬れば斬りつけられる。


 その攻防途中であった。


 右肩を押さえ楓は、しゃがむ。


 はぁ……はぁ……


 楓は抉られる様な痛みに、顔を顰めていた。だらだらと血が流れ落ちる。


 呼吸も自然と荒くなっていた。


「血に飢えた刀だ。皮を斬り肉を削ぎ骨まで砕くだろうな。お前にぴったりの死に様だ。」


 東雲は刃から零れる血を眺めていた。


 楓は立ち上がる。


「お前はズタズタにしてやる。」


 肩から手を降ろした。


「その強がりは唯一……俺が、好きな所だ。なぶり殺したくなる。」


 東雲は刀を降ろした。その眼は冷たく光る。更にその表情もいびつだ。


「あーうるせぇ。オレはその変態チックなのが、まじでイヤだ。あームカつく。」


 楓はツバを吐く。

 ぺっと。


 少し紅く滲んでいた。


「死ぬんだよ。お前は。」

「冥府へ逝くのはお前だ。クソが。」


 東雲と楓のーー、決着がつく時。


 互いにその時を迎える事を、知っていた。そしてそれは、過去との決別の時でもあった。








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