第11話〜桃太郎と鬼の親玉〜

桃太郎一行が親玉が居るであろう山城へと向かう道中にも、鬼達の手下との戦闘が行われました。


「ひぃ!まっ待ってくれ!頼む!助けてくれぇッ!!」


そこら中に横たわっているのは無数の鬼の死骸。

そんな中一人の鬼が、腰が抜けたのか、尻餅をついたまま命乞いをしています。


桃太郎は静かに、堂々と、ゆっくりと歩を進めますが、その足音からは冷徹な雰囲気すら感じられました。


その向かう先には鬼の生き残りがもう一人。

その鬼は身を震わせながらも、桃太郎に刀を向けています。


しかし桃太郎は歩みを止めません。

しかもその鬼に対して一瞥もくれません。


にもかかわらず、なぜかその鬼は桃太郎に仕掛けようという素振りはありませんでした。

それもそのはず、恐怖で体が動かないのです。


その恐怖を押しのける為か、

今まさに目の前を通らんとしている桃太郎に対して喚くように…


「我らの財宝を奪いにきた略奪者め!!

親方様の息子を奪うだけでは飽き足ら……かひゅ」


空気の抜ける様な、

そんな間抜けな音が響きました。


見れば鬼の喉元は真一文字に裂けており、

その切れ目からはヒューヒューっと笛のような音が鳴っています。


そして直立したまま後ろにパタンと倒れる様は、まるで木板を倒すかのような…


一体何が起こったのか!?ーーー

腰を抜かした鬼が視線を戻すも…


その光景はさっきと変わることはありません。

そこにあるのはただ一点にこちらを見つめ、ゆっくり。着実に。



近づいてくる桃太郎の姿でした。



まるで視えていなかったかのように、今しがた倒れた鬼に一瞥もくれず、

なおも歩みを止めない様を見ていると、

まさか鬼の喉元が勝手に裂けたのではないか、と、そう思えました。



但し、その姿の唯一違う点。



刀を真横に突き出し、さらにその白刃から滴り落ちる赤黒い液体。


この一点が、鬼はこの少年によって殺されたのだという事を、淡白に、しかし鮮明に物語っていました。


歩調を遅めることもなく、かといって速めることもなく、そのまま、そのまま、


こちらを見下ろすその瞳に、そして桃太郎の口から吐き出されるその声には何の感情も色も感じることは出来ず。


「どの口が言うか。略奪者はお前達だろう。おじいさんを苦しめたお前たちは全員殺す。」


桃太郎が刀を振りかざした時ーーー




「待てッ!!」




何者かの声が響き渡りました。

桃太郎は刀を振りかざしたまま、ゆっくりとその声の方に顔を向けると…


そこには鬼達の親玉の姿がありました。

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