第106話

「これは焔さんにあげます!」


「私に、ですか?」


「今日教えてくれたお礼です。あとは今まで迷惑をかけたお詫びといいますか……その……」


「ありがとうございます。朱里様が心を込めて作ったのでありがたくいただきますね」


焔さんは受け取ると、嬉しそうに微笑む。なんて綺麗な笑顔。女性そのものに見える、なんて言ったら失礼に値するかもしれないけどそう思った。


「このトリュフの数は多いようにも見えますが……」


「ああ、これは紅蓮会長に渡そうと思っている分です。生徒会長さん、としてより先輩として色々お世話になったので。今回の署名活動では特に」


「そうなんですね。これは……黒炎がヤキモチ妬くのも頷けますね。朱里様はとても優しく、そして天然なところがあります」


「え?」


天然って初めて言われたかもしれない。こんなに褒めてくれる焔さんは天使に見える。私のことをよく褒めてくれる焔さんこそ、私からしたら憧れで理想の女性像って感じなのに。


「黒炎もこんな可愛い彼女を選ぶなんて成長したなと思いまして」


「可愛いだなんて……!」


私はブンブンと首を横にふる。でも、焔さんみたいな人に褒められるのは素直に嬉しい。


「あ、紅蓮会長にトリュフ渡してきます。たぶん、執筆で疲れてるだろうから。やっぱり疲労には甘いものが一番ですよね!」


このまま焔さんと会話するのも悪くないけど、この場にいたら褒めちぎられそうで私の心臓が持ちそうにない。焔さんは相手のことを悪く言ったりしない。夏祭りで初めて話したときもそうだったから。


だからこそ、紅炎さんに掴みかかった時、焔さんの予想外の行動に一瞬、動けずにいたのだ。あの震え方は尋常じゃなかった。なのに私のことを守ってくれようとした。本当に焔さんはいい人だ。


そして、黒炎くんに似ている。自分自身を傷つけてまで、大切な人を守ろうとする意思の強さ。焔さんは自分の弟を守るために、今も必死に身体を張っている。


……やっぱり、私はまだ紅炎さんのことを心から許すことはできない。クリスマスイブの日、黒炎くんと同じ時間を過ごせたのは幸せだったけど、それまでの苦労が大変だったし。

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