第4話 幼馴染はお風呂も一緒に入ります。

 新学期初日を無事終えた(社会的地位はヤバい気がする)俺は現在、ユキと共に家路に着いていた。


「ヒロさんヒロさん。お夕飯の買い出しに行きたいのですが、ついて来てくれますか?」


「んー。りょうかい」


 ユキは基本的に毎日、俺の夕飯も作ってくれている。


 実を言えば、俺には両親がいないのだ。そして俺を育ててくれた祖母もすでに亡くなってしまった。

 俺は今、ユキの家の協力もあって祖母が残してくれた家に1人で住んでいる。


 だから近所に住んでいるユキには色んなことを助けてもらっていて、感謝してもしきれない。


「何か食べたいものはありますか?」


「そうだなぁ……」


「ちなみにオススメは牡蠣に山芋、鰻、にんにく、生姜、すっぽん、マムシドリンクです。とっても元気になると思いますよ。今夜はハッスル間違いなしです」


「それみんな精力つけるやつだろ!」


「バレましたか。では今日は奮発して鰻丼に決定ですね。そして2人で熱い夜を過ごしましょう」


「いやいやいやいや! そんな金ないから」


「そうですか……では仕方ないので私を食べてもらいましょう。なんと今なら、無料で私の人生までプレゼント」


「そんなテレビショッピングの謳い文句みたいに言われても!」


 人生までとか重すぎだし。

 まあ? もし本当に一度頂いちゃったら最後まで責任取るのが男の務めだとは思いますが。


 しかし今の俺に責任を取れるだけの甲斐性があるとは思えない。



 その後、夕飯はユキ特製精力増強メニューに決まりました。やったね! 精力がつくよ!


 結局かよ……。初めから俺の意見とか聞く気ないよね、きっと。




✳︎ ✳︎ ✳︎




「ふい〜〜〜〜〜〜」


 夕飯後、俺は湯船に浸かっていた。


「あ"あ"〜生ぎ返る"〜〜」


 今日は新学期で正直かなり疲れた。

 この先の学校生活が不安だが今だけは忘れたい。


 湯船に浸かっているこの時間が、俺にとってもっとも至福といえる時間なのだ。


 だから、油断していた。


「まるで30代半ばで童貞の人生負け組サラリーマンみたいな情けない声ですね、ヒロさん」


「なにそのイヤな例え!? てか何しに来たんだよ!」


 浴室から脱衣所へ繋がる扉にユキのシルエットが写る。

 いつのまに脱衣所へ侵入したのやら。


 ……ところでシルエットだけ見えるってエロくない? 腰つきとか。

 でもこのユキのシルエットはなんというか……装飾がなさすぎる気がする。

 というか……え? 裸じゃね……?


「たまには一緒にお風呂でもと思いまして。新学期ですし」


「新学期とは」


 どんな理由付けだよ。


「じゃあヒロさんの裸が見たいので一緒に入りたいです」


「今度は正直か!」


「ダメですか?」


「いや……その、俺たちももう子供じゃないし……」


「えっちもキスもしたことないのですからまだ子供です」


 それはさすがに酷いと思う。全国の魔法使いさんたちすまねぇ……すまねぇ……。


「では納得してもらったところで、入りますね」


「ま、待った! 納得してないよ!? してないから! 入るなよ!? 絶対入ってくるなよ!?」


 毎朝股間を凝視されておいてなんだが、やっぱり全裸を見られるのは恥ずかしい。


 それに一緒にお風呂なんて……いろいろと耐えられる気がしない。


「あ、私それ知ってます。フリ、というやつですよね。わかってますとも。それでは、失礼しますね」


「ちっがーうっ!」


 叫びも虚しく意気揚々と開かれる扉。


 そして俺の目に飛び込んできたのは一糸纏わぬ生まれたままの姿となったユキ——ではなく、白のスク水を纏ったユキだった。


「ぶぉっほっ!」


「わっ。ど、どうしました? なんか汚い声が出てますよ?」


「い、いや……その、す、スク水……!?」


「はい、そうですよ。裸をお見せするのは初めてのときまでとっておきたいので。あ、でもやっぱりヒロさんは裸の方が良かったですか? それならすぐに脱ぎますが」


「い、いや脱ぐな! 脱がなくていいから!」


「ヒロさんはスク水がお好みの変態……と」


 それは違う! ……と言いたいけどスク水が素晴らしいのも確かだ。正直裸と甲乙付けがたいかもしれない。


 ユキの銀色の髪と白のスク水には一体感があって、すごく映えていた。

 そして湯気の立ちのぼるバスルームではその姿が妙に艶かしい。



「ではこのまま、お邪魔しますね」

 

 ユキは俺の返事を待たずに湯船に入ってくる。そして両脚の間にユキの身体はぴったり収まった。

 俺は戸惑いながらも、小さな背中だなと、そんなことを思った。


「はあぁぁ……あったかいです……」


「そう……だな」


 湯船に浸かってひどくリラックスした様子のユキ。俺は緊張しまくりだというのに。

 心臓の音とか、聴こえてしまったりしないだろうか?


「ヒロさんヒロさん」


 一息付くとユキはいつもの調子で話し始める。


「なんだ?」


「今日は楽しかったですね」


「そうか……?」


 ろくでもないない記憶しかないんだが。主に目の前のスク水娘のせいで。


「はい。朝はいつも通りヒロさんを起こして。ご飯食べて。登校して。同じクラスになれて。ヒロさんの首にキスをして。お風呂にも一緒に入れて。素晴らしい1日です」


「俺は酷い目にあった気がするけどな」


「そんなことないですよ。よっ、クラスの人気者」


「ぜってえ引かれてるって……」


「それはそれでいいじゃないですか」


「は? なんでよ」


「その分だけ、クラスでも私と2人きりでいられますよ? 私はぜったい、ヒロさんを避けたりしませんから」

 

「……そういうもんかい。ユキさんや」


「はい。そういうもんですよ、ヒロさん。2人で孤立街道を突き進みましょう」


 それもいいんじゃないかと思っちゃうあたり、俺はユキに依存しているのかもしれない。ユキさえいてくれればいいか、って。そんな恥ずかしいことを思ってしまう。

 


「ところでヒロさん。話は変わるんですが……お○ん○ん様、大きくなってますよね」


「にゃ、にゃんのことかね、ユキさんや」


「誤魔化せませんよ。ずっとお尻の辺りに当たってますから」


 サァーっと顔が青くなるのがわかる。

 

 気づかれてたー!?

 いや気づくよねふつう! ずっと当たってるもんね!? 

 なにが心臓の音だよ俺が心配してたのはこっちなんだよ!!


 ずっと平静を装ってたのに!

 全然縮みやしないよこのムスコ!

 夕食のせいなのか!?


「す、すみません……」


「いえ、私は別にいいですが。むしろ嬉しいですが。苦しそうだなと思いまして」


 恥ずかしい。恥ずかしい。

 なんてったって朝の生理現象とはわけが違うのだ。

 間違いなく俺は今、この状況に、ユキに興奮しているのだから。


「やっぱり抜いてあげましょうか」


「い、いや……あの……その…………お、お外走ってくるぅーーーー!!!!」


「きゃっ」


 耐えられなくなった俺は全速力で湯船から飛び出したのだった。




✳︎ ✳︎ ✳︎




「裸でお外走ったら捕まりますよ。ってもういませんね」


 ヒロさんは走って脱衣所からも出て行ってしまった。あのまま本当に外へ出てなければいいけど……。ちょっと遊びすぎただろうか。

 必死に平静を装うヒロさんがいじらくて、愛おしくて。ついつい、やってしまったのだ。


 あっと、忘れるところでした。せっかくヒロさんが先に上がったのだから……。


 ヒロさんがさっきまで入ってた湯船ぇ……。

 

「ぶくぶくぶくぶく……」


 さすがに飲んじゃうような変態さんではないですが、頭まで潜って全身に染み渡らせておくことにします。

 これで今夜はヒロさんと一緒……。ベッドでのイメージトレーニングが捗りそうですね。


 

 そして思う存分湯船を堪能したのちに、私は思う。


 ヒロさんはいつになったら私の初めてをもらってくれるんだろうか。


 キスも、その先も。


 今日もやっぱり、ヒロさんにその気はなさそうでした。




 でもヒロさんはその名の通り、ヒーローだ。私の、だ。


 それは昔からずっと変わってない。

 必ず私を迎えに来てくれる。

 救けてくれる。


 ヒーローは遅れてやって来る。

 よくそう言うでしょう?


 だから、私はヒーローを信じて待つことにします。


 と、しおらしくそう言うのも物語のヒロインみたいで憧れますが、私は待っているばかりでは耐えられません。


 さすがにあの朝のことは反省しているので、最後の判断はヒロさんに委ねますが。


 少しくらいの誘惑とアピールは構わないですよね?


 いつでもどこでも、作戦はガンガンいこうぜ! です。


 それがきっと、のヒロさんのためになるはずだから。



 私はそう、信じているから。



「ヒロさぁん……ぶくぶくぶくぶくぶく……」


 やっぱり少しくらい飲んでみても……。


 のぼせる一歩手前になるまで湯船に浸かって、私は浴室を後にした。

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