【あとがき】(設定、引用や参照、新作について)

「ザ・ラストゲーム・オブ・辻女ヴァンパイアーズ」を読んでいただき本当にありがとうございました。心より御礼申し上げます。応援していただくことがどんなにありがたいことか、それを知りました。だから今、読んでくださった方に一生分のありがとうを送りたいと思います。本当にありがとうございました。


◎辻沢のヴァンパイアについて。

 まず最初にお断りしなければなりませんが、辻沢は架空の土地です。「たけゆぬ」の脳内にしか存在しません。

 辻沢はこの国では珍しいヴァンパイア伝承の残る土地です。女子の乳犬歯を折る風習(辻沢の割礼)があったりします。そこに巣くっているヴァンパイアたちは、いわゆるヴァンパイアとは少し違います。

・噛みつかれてもヴァンパイアにはならず、殺された場合に吸血ゾンビになるだけ。

・女の双子の場合どちらかに、男女の双子の場合は双方にヴァンパイア因子が遺伝する。

・因子を持つものが大量の血液成分を摂取または浴びると覚醒してヴァンパイアになる。

・ヴァンパイアが正体を現す時、個体特有の匂いを発する。ココロたち吸血ゾンビは常時個体特有の匂いを発している(ここから吸血ゾンビはヴァンパイアのなりそこないと見ることができる)。

・目の中を覗くことで相手の来し方行く末を観ることが出来る。

・弱点は山椒(気持ちよくなるだけ)とスギコギの唄(迷信、実際は効果なし)。

・覚醒したてのヴァンパイアは蘊蓄げっぷをする。

 蘊蓄げっぷとは、おやじのような声で勝手に余計なことをしゃべりだす困った症状のこと。

 Wikiに書いてあるようなことを得々と話すので誰からも嫌がられる。

 摂取した血液に内在する記憶のうちの余計なものが、こういう形で体外にはきだされる。

 個体差はあるが、覚醒して3か月ぐらいは続く。

・太陽に対する耐性を持つ者が普通にいる。


◎六辻家について

宮木野と志野婦から派生した旧家には辻の字のつく屋号があって、その中でもヴァンパイアの血の濃い家柄を六辻家と言います。ここでは七家を挙げましたが、それは人により「血樽」を入れるか「棒辻」を入れるかで意見が分かれるためです。

そして辻沢は古来より女系相続です。

家に生まれた女子が家督を継ぎ、男子は家を出て他家の養子になります。

辻王つじおう(宮木野流)調しらべ

 辻王家の継承者は実はニーニーでなくレイカです。

 家刀自、ママ、レイカと家督相続されています。

辻一つじいち(志野婦自身)千福せんぷく

辻まんつじまん(宮木野流)辻川つじかわ

 まんはヤオマンのマン、前園満太郎の満に通じます。実は満太郎の実家です。辻川町長は養子で、前園満太郎の姉妹と結婚しているので義理の兄弟でもありました。満太郎は家を出て社長の前園家に養子に入りました。

五カ辻ごかつじ(宮木野流)蘇芳すおう

 ナナミが家を継いでいます。作左衛門さんは姉が家を継いだので家を出たのでしょう。

ロ乃辻ろのつじ(宮木野流)北村家

 北村シニアマネが継いでいるのは女子がいないからかもしれません。

乳垂ちたる/血樽(母宮木野流)家名未詳

 ヒマワリとミワの生家です。

棒辻ぼうつじ(宮木野自身)高倉家

 棒は1を示します。与一の辻一と同じ意味です。一番最初の、くらいの意味でしょう。

 

◎辻女ヴァンパイアーズ名簿

 響カリン (シューティングガード 6番)

 調レイカ (マネージャー 13番希望) <辻王>

 遊佐セイラ (サブ 11番)

 辻川ヒマワリ(ポイントガード 4番 キャプテン) <乳垂→辻まん>

 千福ミワ(センター 8番 副キャプテン) <乳垂→辻一>

 蘇芳ナナミ(パワーフォワード 5番) <五カ辻>

 ココロ(サブ 9番)

 シオネ(スモールフォワード 7番)

分かりにくい設定をもう一つ。

ヒビキパートとレイカパートとでの呼称の区分け。

ヒビキは常に苗字で、レイカは常に名前で呼び合います。

二人の生活環境もそうなっていて、これはフォーマルとカジュアルの関係を示したつもりでした。ハレとケの関係性といいますか。

ヒビキが名前のような苗字なので分かりにくさマシマシだったかもです。


◎引用や参照について。

 辻沢という町の名称。これは沖縄に戦中まであった辻遊郭からとっています。

男性は運営に入れず女性だけが管理経営した稀有な遊郭であった辻遊郭は、女性が主導する辻沢という町のイメージに重なると思いました。辻遊郭について知りたい方には、上原英子著「辻の華」がお勧めです。著者自身が子供のころに辻に売られてジュリ(遊女)になった人で、自分の半生を「辻の華」に残しました。因みにこの方、写真家の木村伊兵衛のモデル(ちくま文庫『木村伊兵衛 昭和を写す1戦前と戦後』「那覇の芸者 10.夏」)にもなっていて今でもその若きころのお顔を拝見することができます。

 【エピグラフ】。S・キング『スタンド・バイ・ミー』はご存じの通り詩情溢れる青春小説でヴァンパイアなんて出てこないのですが、最後の方にこのフレーズがあったので使いました。キングの『呪われた町』とか『シャイニング』とかホラー作品から探してたんですがいいフレーズがなくて、青春小説だからどうせないだろうって思って見ていたら、いいのが見つかったので採用しました。

「ブレイド」。レイカのザ・デイ・ウォーカーに対するリスペクトはこの作品から。ギルモ・デル・トロ監督の「ブレイド2」と言いたかったのですが、ウイズリー・スナイプスがよりかっこいいほうを選びました。ちなみに「ブレイド2」には、ノーマン・リーダスが出演しています。デル・トロとN・リーダスと言えば、そうです、小島秀夫監督の「Death Stranding」です。こんなところから彼らの絆は始まってたのですね。「Death Stranding」、賛否両論ありますが、私はめっちゃ好きです。

 ヒマワリのアバター、制服聖女エリ様。この名前は、大好きなヴァンパイア映画「ぼくのエリ 200歳の少女」から。それとなくヴァンパイアだよって言いたかったから命名しました。分かりにくくてすみません。レイカが夜勤の時に見る「モールス」は、「ぼくのエリ」をクロエ・モレッツでリメークしたもの。「キャリー」も同じくクロエ・モレッツ版。

その「キャリー」。祭りで駅前ステージでヒビキが「豚の血」とかっていってるのはこれです。レイカが「キャリエッタ(姉妹)の念動力」って言ってるのもそうです。キャリエッタはキャリーの正式名。天馬連町はキャリーが念動力で破壊しつくす町のチェンバレンから。

 祭りのステージで、マネキンの頭抱えて血みどろっていうのは、これは映画でなくて、3大浄瑠璃の「妹背山婦女庭訓」山の段から。ミワちゃんの名前も、敵を倒すには嫉妬に狂った女の血が必要といって殺される「妹背山」のお三輪という登場人物から。意味もなく贖罪羊にさせられる女性という属性を付帯させたつもりでした。

 ミワちゃんの名字のセンプクは、クチナシの別名から。千福家の庭先にクチナシの垣根があります。6月から7月にかけて公園などで真白い花を咲かせてつよくて甘い香りをさせています。レイカはこれをバニラの匂いって言っています。

 もう一つの香りについて。ニセアカシア。ヒマワリがヴァンパイアになった時に発する香りです。公園などに生えるアカシアに間違えられている高木で梅雨の時期に白い小さな花をたくさん咲かせます。湿ったといいますか隠微な匂いがします。花の周りでクマ蜂がホバリングしているのをよく見かけます。

 辻沢の始祖ヴァンパイアの一人「宮木野」は、2つの物語から。

一つは、怪談『伽婢子』「遊女宮木野」。

与一討伐前に宮木野が語る話はこれをアレンジしたものです。

もう一つは、浄瑠璃「碁太平記白石話」から。田舎育ちの姉妹の宮木野としのぶが江戸に出て親の仇を撃つ話です。かたき討ちをにおわすために使ってます。

宮木野神社、志野婦神社はこの姉妹の名から取ってます。

 「遊女宮木野」と「碁太平記白石話」との両方に出てくる遊女の名がともに宮木野というのが偶然でないなにかを感じて一つの話にしました。

ヒビキが与一の前で歌うのは、この「碁太平記白石話」の「新吉原揚屋の段」の触りの部分です。姉の遊女宮木野が妹のお忍が自分の不幸を訴えたことに対して、宮木野は早いうちに遊女に売られたけれどお忍は死ぬまで親と過ごせたのだから幸せだと諭す場面です。

 その宮木野の仮の姿、高倉さんと一緒に「聖霊伝説」を見たときのレイカの思い出に出てくるヴァンパイア映画は、コッポラの「ドラキュラ」です。ゾクゾクするはずのシーンで他の観客が笑ったというのは映画館での実体験です。ちょっと意外でびっくりしました。「聖霊伝説」は、キングの「呪われた町」のTV映画版です。

 辻女ヴァンパイア-ズ命名の時にレイカが引き合いに出している映画は、大好きなジョン・カーペンター監督の「ヴァンパイア 最後の聖戦」です。タイトルはこれに寄せてます。

引用ではないのですが、レイカがカーミラ・亜種に襲われたときに言う「ピーリングにニベア」。これは実体験です。新宿に出かけたとき、信号待ちしてたら目の前の男のお姉さんたちが、「ピーリングしたらニベアよ。これでお肌は完璧」って言ってたのをそのまま使いました。

 あと、細かすぎて伝わらない引用。

レイカがミワの屋敷でカゲゼンするところで、レイカの蘊蓄ゲップが、

「うまい、うまいぜよ、タク」

って言ってるのは、『ブラック・ジャック』です。

「奇跡の腕」という回で、寿司職人タクが交通事故で両腕を切断して、代わりに加害者がすし職人になって、目の見えないタクの母親にすしを食べさせるシーンで、母親が加害者のすしを息子のタクのすしと思って食べて言うセリフです。レイカは「奇跡の腕」どころか『ブラックジャック』すら知らないでしょうから血液の余計な記憶なのです。

 他にもあると思いますが、思いついたものだけとりあえず。また思い出したら、ここに書き足していきます。

 こうやって書き出すと、すべて計算して書いたように見えますが、中には後付けのものあります。ただ、偶然というより、引き寄せてきた感じでした。


◎新作について

 現在、辻沢もの(シリーズ名「辻沢オープンワールド」)の新作に取り組んでいます。

タイトルは『ボクらは庭師になりたかった』、舞台は辻沢です。『ザ・ラストゲーム・オブ・辻女ヴァンパイアーズ』『辻沢のアルゴノーツ』から10数年経っていて、主人公は藤野家(アルゴの主人公の一人、藤野ミユキの養家)の養女の二人の女子高生です。藤野ミユキは二人のお養母さんとして出てきますし、ヤオマンHDの伊礼魁も登場します。クロエやユウや夜野まひるたちも登場するかもです。

 話の大筋は、数十年前に起こった辻沢町役場倒壊事故と、同時期の辻沢町有力者連続殺人事件(『辻女ヴァンパイアーズ』の事件)とのつながりを二人の女子高生が調べるうち、それらの背後に存在した陰謀に巻き込まれて行くというものです。

 今のところここまでしかお知らせできませんが、どうかご期待ください。


最後に、『ザ・ラストゲーム・オブ・辻女ヴァンパイアーズ』を読んでくださって本当にありがとうございました。


また辻沢のどこかでお会いしましょう。



たけりゅぬでした。

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