第十七章 【レイカ】(2/11)
高倉さんはゴリゴリするのはなんでか知ってます? ケッコー効き目あるっぽい。シオネやココロにも効いてた。
「あれも、我々の激情を鎮静させる効果があります。ただし、山椒のスリコギでなければなりません。屍人もこれは同じです」
そうなの? でも、セイラはスマフォの音でも放してくれたって。
「それは、その方たちに特別な繋がりがあるからです。屍人であっても大切な人のことは分かるのです」
そうなんだ。セイラとシオネ、気持ち繋がってたんだな。これ聞いたらカリンたちきっと喜ぶよ。
なら、ココロはあの時どうしてカリンを放してくれなかったんだろ。
「きっと、親に、つまりはその方を殺したヴァンパイアに操られていたのでしょう」
え?
「親は屍人を支配し、自由に操りますから」
あの時カリンがココロの様子がいつもと違うって言ってたけど、それは蛭人間を怖がってじゃなくって、親のヴァンパイアに操られてたからなんだ。ひょっとして、普段出歩かないココロが窓口のウチに会いに来たのも。
「レイカ様を見に来たのでしょう。親のヴァンパイアがその方の目を使って」
そうだったんだ。でもなんでウチなんかを。
「そうそう、ミワ様はどうされてますか?」
ん? 急にミワちゃんの話。ミワちゃん、連絡付かないんです。
「お母様とミワ様のことを、お話しておこうと思いまして。いえ、この間は、大変失礼なことを申しましたが、もしや誤解されているのではないかと思い、正しくお伝えせねばと」
高倉さんが話してくれたのは、ミワちゃんが何かの疑いを掛けられて、六辻家の筆頭ってことで辻王のうちに預りの身となっていたということだった。
詳しいことは高倉さんも知ってなくて、とにかく疑いが晴れるまでは、うちで生活をすることになっていた。
でもチッキョとかナンキンって感じではなかったんだって。二人は友だちのように仲良くしていたって、ママが殺された最後の日まで。
あれ? ミワちゃん、ママが死ぬ少し前に出て行ったんじゃなかったっけ。
要するに、高倉さんは、ウチが居なくなったから、ミワちゃんを娘替わりに家に置いたわけではないってことが言いたかったみたい。ウチとしては、なんだっていいけど。
その後は、高倉さんとビデオを一緒に観た。高倉さんがパパのコレクションを整理してて、一度観てみたかったっていうやつ。
『死霊伝説〈完全版〉』
っていうヴァンパイア映画なんだけど、やたら怖かった。
それがね、高倉さんたら、映画とか見慣れてないらしくって、いちいち反応して、「キャー」はいいとして「あれま」とか、「これはいけません」とかっていちいちうるさくて。怖いシーンなんか、クッションで顔隠して端から見てるんだから。乙女かっての。うちからすれば、なんで怖いのってのまで悲鳴あげたり青い顔したりで、面白スギ!
でも、あれだよね、おんなじシーンでも人によって反応が違うんだなってことあるよね。
前、N市のシネコンでドラキュラ映画を観たんだ。その時の他のお客さんがウチと反応が真逆でびっくりした。
それは、ドラキュラ伯爵がジョナサン・ハーカーの髭そりを手伝っててカミソリで肌を切っちゃうシーンで、カミソリに付いた血をドラキュラ伯爵が舐めとったの。べろって。
ウチはそうしたくなる気持ち良く分かるけど、その時はこれはゾゾゾってするところだなって思ったんだ。
でもね、映画館では笑いが起こったの。他のたくさんのお客さんが笑ってた。あれ? ひょっとしてこれって可笑しいんかな、フツーに観てたら可笑しいシーンなのって、とっても不思議だった。なんだったんだろ、あれ。
高倉さんとさよならした。いっぱいしゃべったけど全然疲れてない。まったく口を動かしてないような気すらする。高倉さんには楽な気持ちでいられるからかな。癒されるっての?
多分、高倉さんはヴァンパイアじゃないよ。ヴァンパイア同士だったらもっとギスギスになるんじゃないかな。女バスの最後の頃みたいに(実際に、ミワちゃん、ナナミ、ウチ、それにヒマワリも? ヴァンパイアの血筋だったわけだし)。それに、高倉さんの棒辻の家は、六辻家とは違うって言ってたから。
「棒辻の棒は『唯一の』という意味のようです。横に倒した棒が漢字の一に似ているからです。屋号でもないです」
だって。
棒辻が六辻家でないって聞いて、やっと、チタルの家が六辻家の一つっていうのがすっきりした。高倉さんに「血の樽」って書くんでしょって聞いたら、
「いいえ。『乳が垂れる』と書いて乳垂ですよ。母の乳を意味する家柄で、六辻家最上位の家のハズ」
だって。どっちなの?
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