第一章 【ヒビキ】(3/8)

 例のガラケーの充電コード、古すぎてコンビニとかになかったから、わざわざN市のビックヤマダセンターまで買いに出てきて正解だった。こっちでも在庫2つだったって。ついでに水平リーベ棒も買っちゃった。売れ筋No1だったから。なぜだかアウトドア用品で。7200円もした、こんなものが。シルバーコーティングって、どうせメッキだろ。ボロもーけだな、便利科学社。買ったはいいが、ショージキいらなかった。そうだ、カイシャの厚生室に置いとこ。


 あー、ほっこりした。ネコちゃんたちに癒されまくった。N市のこんなとこにネコカフェあったなんて、不意打ちくらった感じ。結局、閉店ギリギリまで過ごしちゃった。やっぱ、マンチカンのコロ助くんが一番かわいかったナリン。ふっわふわで抱っこしたらフニャーってなってさ。ここも買収候補の一つだね。いつかぜってー猫カフェチェーン展開してやる。って、やっべー、こんな時間かよ。早く帰んなきゃ。ってか、車ぶっ飛ばせば、20分でつくし。やることやってからね。


 車で充電なんてあたしはあんましないな。会長がスマフォの充電よくしてたけど。ガラケー充電完了っと。起動ボタンは、これか。やっぱりGPS内臓だ。用心しといてよかった。あたしの家、特定されないで済んだ。どれどれ、操作方法いまいちわかんない。スライドさせて、画面表示させてっと。ド☆キンちゃんからの不在着信がいっぱいだ。あれ、ド☆キンちゃんに何か送信しちゃったみたい。メッセージの下書き触っちゃったのか。やばい。さらにやっちゃだめなことしちゃいそーだな。も少し慎重に扱わないと。もう一つの下書は。再生。

「……かわいそうな女の子たちを助けてあげてください。アナタなら、きっとできるはず。なぜなら、アナタは、辻の……ーーーー雑音ーーーーーーピー」

 このガラケーって、マジか。でも、これ使えそ。連絡先に名前がある人に片っ端から連絡してみよっか。いや、それは危険すぎか。トリマ、今名前が出た知り合いだけにしておこ。電源落として、よし帰るぞ。


 すっ飛ばしてきたからもう雄蛇ヶ池だよ。ん? 今、橋のたもとに泊まってた車、あれ会長のジャガーじゃない。こんな時間にこんなところで何してんだろ。

 会長ってば、ほんとにどっか抜けてる。

「ジャガーはね、ボンネットについてる、あのタイガーがかっこいいんだよ。ヒビキくん」

 いやいや、あれはジャガーでしょ、どう考えても。タイガーって……バカなの? 社長はあんな人のどこがよかったんだろ。あたしには関係ないけど。

 戻って何してるのか見に行ってみよう。車、脇道に入れて。足元暗くてよくわからない。水際に灯り見えてる。あそこか。ここから下りる道あるな。おっと、滑った。なんだこのツタ、服にからんだ。草いきれでむっとする。蛇とかいないよね。やっと抜けられた。気付かれなかったかな。会長が立ってる後ろの茂みに回ろう。わっと、ぬかるみ。下草邪魔くさい。会長一人だ。釣りしてるのかな? なんか言ってる。

「……ほれ、行けって。こっち見んな。僕が悪いんじゃないからね。道具がよすぎるんだからね」

 釣った魚でもリリースしてる? 会長戻ってくみたい。しばしやり過ごそう。行っちゃった。池の水面がぬらっとしてる。気味が悪いからあたしもさっさと帰ろう。暗いけどこっちの道が近そう。夜道は大人になっても怖いよ。こういうときって後ろに気配感じることある。でも、それは気のせいだから。振り返ったって何もいやしないから。

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