六 世界最強刀姫の血扇乱舞

 ――God Killerアジト地下。

 模擬戦用に作られた巨大な空間には、既に多くのメンバーが集まり、即席のギャラリーが形成されていた。

 観客席の一角。

 翔姫サヤは、隣に立つ風鳴姫ハルへと顔を寄せ、楽しそうに囁く。

「なぁハル、賭けしねー?」

「……何の賭けですか?」

「決まってんだろ。ボスが勝つか、新人君が何秒もつか」

 サヤはニヤリと笑う。

「私はボスが勝つに、今晩のオカズの唐揚げを賭ける」

「なら私は、ボスが勝つに豚カツを賭けます」

「……それ、賭けになってねーだろ」

 サヤは露骨に顔をしかめた。

「ツマンネーノ」

「簡単に凪沙さんの手料理は差し出せませんよ。それに、ボスが負けるわけないじゃないですか」

「まぁ、そりゃそうか」

 サヤは肩をすくめ、炭酸きぅいみるくの缶を取り出す。

「じゃあ精々、新人君の勇姿を肴に一杯やるとするか」

 愉快そうな笑い声。

 やがて、ギャラリー全体の視線が、一人の少年へと集まった。

 ――白馬。

 視線が、重い。

 肌に突き刺さるような視線の圧に、思わず一歩下がりそうになる。

(……逃げたい)

 だが、もう遅い。

 そんな白馬に、対峙する狂花が声をかけた。

「おい、黒水」

 軽い口調。

「この場所な、いくら暴れても時間が経てば勝手に修復される」

「だから――」

 ニヤッ。

「好きなだけ暴れていい」

(……今、さらっと凄いこと言ったな)

「とても……便利な場所ですね」

「だろ? もっと褒めてもいいんだぞ」

 狂花は機嫌良さそうに、かーかっかっと笑った。

「模擬戦とはいえだ。黒水、本気でこいよ」

「私を、失望させるな」

「……はい。善処します」

 自分でも、弱気な返事だと思った。

「そういや、お前」

 狂花はふと思い出したように言う。

「傭推に色々聞いてたみたいだな。まだ腑に落ちてないこと、あるだろ?」

「……あります」

 白馬は正直に頷いた。

「聞きたいけど、聞いていいのかわからない――そんな顔してるな」

(……この人、心読めるのか?)

「安心しろ。私のワガママに付き合った礼だ」

 狂花は、木刀を軽く放り投げた。

「教えてやる」

「その代わり――」

 木刀が空中で回転し、放物線を描いて落下する。

 床に、突き刺さった。

「準備はいいな?」

「……問題ありません」

 その瞬間だった。

 狂花は懐から一枚の扇を取り出し――

 一瞬で、距離を詰めていた。

「っ!?」

 目の前。

 手首のスナップだけで、扇が滑るように回る。

 反射的に後ろへ下がる。

 ――背中に、何かが当たった。

 振り返った瞬間、息を呑む。

(……扇? 浮いてる?)

 狂花は舞うように近づき、さらに懐からもう一枚、扇を取り出す。

 そして。

 パチン

 指を鳴らした。

 次の瞬間。

 浮いていた扇が――分解した。

 刃。

 無数の刃となって、白馬へと襲いかかる。

 初速、毎秒三八〇メートル。

 避ける暇はない。

 腕に、脚に――

 突き刺さる。

「――――っ」

 激痛。

 視界が白く弾け、そのまま意識が闇へと落ちた。

「……なんだ、この程度か」

 狂花は呆れたように呟く。

「興醒めだな」

 大きく欠伸を一つ。

「しゃーねぇ。寝直すか」

「傭推ー、部屋戻って寝るから後始末頼むわー」

「了解」

 狂花はそのまま、この場を後にした。

 傭推は客席から立ち上がると、能力――影神を発動。

 一瞬で白馬の元へと移動し、用意していたガーゼで止血を始める。

 状況を確認した瞬間、表情が変わった。

「……まずいな」

 顔を上げ、声を張り上げる。

「医療班、連れていけ!」

「承知」

 白服の集団が現れ、白馬は担架で運ばれていった。

 こうして、模擬戦は静かに幕を閉じた。

 ――その裏側。

「私の手料理を、賭けの景品にするなんて信じられません」

 メイドの冷たい声が響く。

「い、いや冗談で――」

「冗談でも、言っていいことと悪いことがあります」

 火に油だった。

「サヤもハルも、今晩のご飯は抜きです」

「弁明は聞きません。私は、怒っています」

「そ、そんなぁ……!」

 二人は涙目で懇願するが、メイドは聞く耳を持たなかった。

 こうしてサヤとハルは、腹を鳴らしながら空腹に耐えることとなった。

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