ボーナスエピソードその8.プルートの記憶媒体

 ──23年前


「なっ……何故だ、プルート……っ!?」


 コロニー『カロン』の病院。人気のない完全防音仕様の手術室にて、剣に変形した補助パーツがとある男の心臓を貫いた。


「悪いね。やって来てしまったから、チャンスが」


 助けを求めようにも人は来ない、と男は判断し死を待った。彼の名はオルクス。十三神将の一人で『紫色』の担当だったが、こうしてプルートに陥れられた。

 全体的に跳ねている紫色の髪と、うっすらと生える同じ色の髭。黒い服に灰色のマフラーも巻いていたものの、その端の部分が赤く染まっていく。


「チャンス……だと?」

「紫色の力、前から欲しかったんだよね」


 オルクスの胸ポケットにプルートの左腕が侵入し、素早い動きで紫色のカプセルが奪われる。


「無駄だ……一人の器に二つの色は耐えられない。お前も……知っているだろう」


 細いつり目でオルクスは睨んでいたが、プルートは表情を一切変えずカプセルを強く握りしめた。すると後ろ髪の部分だけが紫色へと変色していく。


「なんだと……!?」

「確かに、一人の器じゃ無理だ。でも“僕の意思”は“この体”を借りている。つまり、二つの器は既に用意されていたという訳だよ」

「……?」


 プルートの正体を知らないオルクスは当然困惑。


“プルートの生きている意思”

“プルートが乗り移った他人の肉体”


 二つの器があるからこそ二色を扱える、という真実に到底辿りつけはしない。


「それじゃあねオルクス。さよならだ」


 次の瞬間、剣は銃剣へと変貌し発砲。内側から体を破壊されたオルクスは抵抗などできず、大量の血を垂れ流しながら倒れた。



「さてと……片付ける前に。んだい?」



 虚無へと話しかけたプルート。彼も潜んでいる人物の居場所までは特定できなかったため、頭を左右に動かしながら声を出していた。

 すると突然、プルートが見つめていた方にある壁に、謎の人物の姿が浮かび上がる。光学迷彩の反応も一切無く、いつの間にか視界に入っていったその人物にプルートは思わず驚きの感情を生み出してしまう。


「やぁ」


 ゆらゆらとした白い髪。高い鼻に少し垂れた目で顔は整っている。しかし服装が異質で、全身真っ白で腰まであるマントも羽織っていた。右耳にぶら下がる羽のピアスは紫色。


「ぼくがねぇ、“イシバシ”だぁ」


 不気味な笑顔で名前を発する。プルートと見つめ合い、お互いがお互いを警戒している状況。


「そうか、イシバシ……君が『予見』を」

「『予見』は彼女ぉ……“ウロボロス”の力なんだけどねぇ。“レイン”や“ソラ”も殺せたんだけどぉ、“ゾディア”が気がかりだなぁ。あぁ、個人的なお気に入りは『人形』だよぉ」


 脈略のない話を早口で仕掛けたイシバシ。流石のプルートも表情は苦くなってしまった。


「……君の目的────」


 単刀直入に真意を探ろうとしたプルートだったが、直後に身体の動きを封じられた。尚もイシバシはニヤニヤを止めるつもりはなく、プルートを見つめ続けた。


「やだやだぁ。ぼくやだよぉ。君がなんなのか分からないままなのにぃ、ぼくから話すなんてぇ。だから『意思の白』で縛っちゃうねぇ」


 ヘラヘラ、とした表現が似合う笑い方にチェンジした。するとイシバシは右手をプルートに向け、歯を食いしばる。


「君の記憶見させてもらうよぉ」


 意思がプルートの頭部へと飛んだイシバシだったが、三秒もしないうちに元の体へと帰還した。そして痙攣、歯をカチカチと鳴らし悶え始める。


「なっなんなのぉ……!? 君おかしいよぉ! なんでそんな残酷な事ぉぉぉおぇぇぇぇ」

「……?」


 相変わらず動けないままのプルートは疑問を浮かべた。勝手に記憶を見て、勝手に動揺する事に。


「君、まさかぼくよりも生きてるのぉ……? おかしい、こんなのおかしいぃぃぃ。ぼくが人類の皆を解放するつもりだったのにぃ……まぁいいやぁ。ギャラクに『予見』は分け与えたしぃ、人造人間が支配する

『未来』は変わるはずだしぃ」

「……体が」


 能力が解除され、『意思の白』から抜け出したプルート。しかし今まで遭遇した事のないタイプの人間、イシバシから目は離せていなかった。


「じゃあねぇ。ぼくはまだまだやる事あるからぁ」

「まだ聞きたい事が──」


 すると再び『意思の白』の能力が発動。プルートは身動きできず、手術室を去っていくイシバシの背中を見つめる事しかできなかった。


「イシバシ……君はいったい、?」


「『白』の意思は絶対だ。『白』の予見は絶対だ。『白』の宇宙は絶対だ。…………んふふぅーん。待っててね、“ユウキ”〜ぃ! 『乱世』にしちゃうからねぇ!」

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