Mind
「僕はギャラクに0から作られたわけじゃなくて、ちゃんとした前世があったんだ……」
記憶共有から帰ってきた途端、自身が人の手によって創られた偽りの人造人間ではない事に安心する。
しかし僕達四人の遺体はプルートの元にある、と言っていた。プルートが管理していたはずの僕のこの体を、ギャラクは何故スパイとして活用したのだろうか。それにプルートが初めて僕と会話をした時も、特にリアクションが無かった事も気がかりだ。
「それで、『緑色』のドボラックは僕の妹だったのか……」
彼女が僕の妹という事実には、あまり驚きはしなかった。他の事の方が衝撃的過ぎたから。
「くそっ……ユニバース、お前は俺に『復讐の意思』を抱いたか?」
ロディの左手から放たれていた電撃をギャラクは氷で無理やり打ち消した。続いて提出された質問には、僕も正直に答えようと行動する。
「いや……あんまりそんな気はしなかった。コスモの仇討ちっていう『復讐の意思』が、既にあったから……!」
コスモが死んだ、その事実が再び覆いかぶさってくる。暗くなりそうな気持ちをなんとか押さえ込み、目に映る復讐の対象に意識を向けた。
「……イシバシとプルートが言っていたが、『一つの体に二つの同じ目的の意思がある場合、その意思は膨張し強力な力を得る』らしい。だがユニバース、お前の前世の意思と今の意思は完全に同じとは言えない。つまりピンク色の力を手に入れたところで、俺に勝てる可能性など万に一つも無いんだよ!」
自らを奮い立たせる事も兼ねたように見えるギャラクの発言。だけど、僕の体の中には彼女の意思もあるんだ。
「確かに今のユニバースくんと前のユニバースくんの意思は同調していないかもしれない。でもね、私となら同調……いや共鳴すらしているかもしれない」
頼もしさを感じられるヴィーナス。彼女が僕の中で活動できる時間はおよそ10分間。そのタイムリミットに辿り着いてしまう前に、ギャラクとの決着をつけなければいけない。僕は意気込みカプセルをロッドに変形させた。
「貴方は責任感が強いから……こんな事態にまで発展してしまったのかもしれない。正直、行動の理由はわかる。でも……」
ヴィーナスは夫だった男を少し擁護する発言をしたが、僕の体の中で復讐の炎は燃え上がっているのを感じる。
「コスモを殺した事だけは……絶対に許さない」
この意思は確かに熱いが、同時に冷徹さも感じられた。夫だった人間を殺害し復讐を成し遂げようとする冷徹さが。
「これが、私と貴方の最後の戦い」
「そして、僕とコスモの……初めての共闘」
ピンク色の力はコスモのもの。だから実質コスモとの共闘なんだ。誰がなんと言おうと。
「来い……全ての人造人間を破壊してやる!」
ほぼヤケになったギャラクは声を荒らげ、堂々とした殺戮宣言を繰り出した。目は血走り、唇は強く噛みすぎたせいで出血もしている。
「死んでいったポセイドにウラヌス、ヴィーナスさん、コスモ……人造人間の未来のために、僕はやる!」
*
すぐそばで戦闘を始めたギャラクとユニバース。ロディはコスモの体に左手を伸ばし、思い切り力を込め引っ張った。右手は壊れかけていたため使おうとはしていない。
「コスモ……っ」
できるだけ顔は見たくないと思いつつも、どうしても視界には入ってしまう。目を開け口から体液が漏れ出ているグロテスクな状況に、ロディの心拍数が増していってしまう。
「巻き込まれたら、嫌だから……!」
これ以上コスモの体に傷をつけられたくない、その一心で腰の辺りを掴んでいた。ユニバースはヴィーナスとの意思を共鳴させ力を高めていたため、ある程度ギャラク相手にも立ち回れていた。
「……冷たい」
既にコスモの体は暖かみを無くしてしまっていた。ギャラクが氷を使っており撮影スタジオの温度がかなり低くなっていたという事もあるが、あまりにも早すぎたためロディはショックを受けてしまう。
「ボクに、何かできる事は……」
攻撃が届かないと思われるスタジオの入口までコスモの体を運ぶ事ができたロディ。ユニバースとギャラクの戦いはほぼ互角と言った所だったが、いずれヴィーナスの意思は消え失せる。その事についてロディは知らなかったが、援護くらいはしたいと思い始めていた。
「あっ」
その瞬間彼の目に入ったものは、ウラヌスの残骸。右足は大破していたが、幸い他の部位はなんとか原型を保っていた。もちろん、右腕も。
「今の右腕を切り落として、ウラヌスの右腕を付け替えれば……?」
相当な痛みが伴うが、まともに戦える状態に戻す方法としてはこれが最善手。上手く取り付ける事が可能なのかも彼には分からなかったが、一応人造人間の修理は何回か経験している。
「……やるしか、ない」
覚悟を決めたロディはウラヌスの元へ歩き出し、壁にもたれかかっている体勢の残骸の右腕を掴んだ。そして、一気に引き抜く。
ウラヌスのパーツはプルートの特別製。そのため一般のものとは違い配線などなく、一本の支柱のみで右腕は繋がっていた。
「それじゃあ、次は……」
ウラヌスの足元に転がっていた双剣。その片割れをロディは手に取り、自身の右腕に突き刺そうとする。
「はあっ、ハアっぁぁ…………」
過度の緊張により呼吸のペースも上がっていく。骨格パーツが壊れただけで涙を流すほどの痛みだというのに、右腕を根元から切り落とすなんて、気絶どころでは済まないかもしれない。そんな不安がロディに襲いかかっていた。
「ダメ……これはコスモの無念を晴らすため。ユニを助けるため……! やらないと、いけないんだ」
無理やり自分に言い聞かせたロディは深呼吸をした後、双剣の先端だけを右腕に突き刺した。
「うぅ……」
そこまでの痛みは無かったが、少し力を入れ深くすると痛みは際限なく増していく。
「痛いっ痛いっ! うぁぁうんっ…………うっぐぅぅぅ!」
二度の涙を流してしまうロディ。呼吸は先程の比では無いほどのテンポで加速し、悲鳴の大きさもそれに比例して膨れ上がった。
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