Stark
三人の人造人間はプルートの元へ集まるように再び歩き出した。目は虚ろで意思はなく、ただ動かされているだけの体。そして三人がプルートの前に立った瞬間。彼はまたしても、語り始める。
「未来も過去も」
この言葉は強面の人造人間に。
「心も愛も」
この言葉は綺麗な顔立ちの人造人間に。
「幸も不幸も」
この言葉は根暗な印象の人造人間に。
「生贄にされ……」
そしてこの言葉は、プルート自身に言うように。これだけは目を閉じて話していた。
まるで傷の舐め合い。マーズは哀れだと感じており、できる事なら解放してやりたいと思っていた。しかし、それを裏切るようにプルートはビルのスクリーンへと振り向き姿勢を変えた。
「君が言う真実とは何? 君が言う正義とは……何?」
ギャラクへと向けられている、少し感情の篭った言葉。普段から頻繁にプルートの声を聞いているマーズにとって、その事は容易に理解できた。間違いなく、今のプルートは無感情なんかではないと。
「君の言うプライドとは何? 君の言うモラルとは何?」
これも同じく。段々と声が大きくなるに連れて、プルートの体が震え始める。まるで武者震い、彼の中にある怒りがそうさせていた。
「人をさらして、人を傷つけ、人を笑って……何が楽しい!?」
プルートが叫んだ。懇願、憤怒、そして復讐が混ざり合った大きな声で。それに同調するように、彼の真っ黒な補助パーツも動き出す。両腕と両足に装着されたパーツが、三人の人造人間をついばむように。
「あいつは何を……しているんだ!?」
状況が飲み込めないマーズをさらに困惑させるように、両腕のパーツはスクリーンの足元へと走り出す。先程爆発した三人の人造人間。バラバラになった彼らの破片を片っ端から集めたかと思うと、それらを持って帰るように動いた。
「僕達よりも、彼女の涙を吹いてやれ……! クソッタレな人間ども!」
プルートはマーズに対して背を向けていたため、彼は表情を確認する事ができていなかった。しかしプルートがどんな顔色をしているのかは、マーズにも想像がついた。怒り、涙を流していると。
「【ミスター・トラブルメーカー】! これを……君達に捧げる!」
再びプルートは振り向き直す。その瞬間マーズの目に映ったものは、やはり涙を流しているプルートであった。
触手のように動き回る補助パーツが三人の胸を一突き。すると彼らは同時に砕け散った。頭部、胴体、両腕、両足の四つに分かれて。しかしそれらを拾い上げるようにプルートの補助パーツは休まず動き続ける。それを、一つのものに組み立てるように。
「まさか……あいつらを使って一人の人造人間を作る気か!?」
「……お任せするよ、ご想像に」
この言葉はマーズに無関心と言った所。彼の目は補助パーツの意識へと集中していたからだ。すると徐々に彼の後ろ髪、その紫色の部分が薄くなっていく。まるで吸い取られていくように。
「うっ……! ぐぅ…………僕の身体から、離れていく……!」
補助パーツが紫色に発光し、組み立てていた一人の人造人間へと向かっていく。ほぼ人型になっていたそれに紫色の光が入り込むと同時に、プルートは紫色のカプセルを右手で投げた。ほぼ完成された彼は、そのカプセルを左手で軽々とキャッチする。
左腕はスクラップの詰め合わせ、ごちゃごちゃしているようで豪快に。
右腕は対照的になんの装備も無いが、掌には丸い穴が。
両足は安定しながら、尚且つ高速に動けるようにシンプルなデザイン。太ももとふくらはぎに黒い防具が着いている程度だ。
「な、なんだ……あの顔は?」
マーズが困惑をこぼす。それもそのはず、彼には顔が三つもあったからだ。正面には根暗。右には綺麗な顔立ち。左は強面。普通の人間ならば頬や後頭部に位置する箇所が、全て顔なのだ。
「あっうあぁっ……」
自身の中にあった紫色の力を無理やり排出した事で、プルートには疲労が襲いかかる。膝をついたものの倒れはせず、笑顔も見せていた。
「やった……これで5人が並べるかもね」
「……何の話だ?」
意味深な発言を追求しようとしたマーズだったが、プルートは何も返さない。プルートはそのまま彼の目の前に立ち、頭頂部に右手を乗せた。
「真実を見極めて……。ただ恥を知れ、ギャラク……!」
この言葉は絞り出すように、プルート自身と彼に向けられているように放たれた。直後、三人で一つの髪が黒から紫へと変色していく。
「やはり紫色の力を……!」
起き上がろうとしたマーズだったが、脇腹と右目の傷が痛みその場から動けていなかった。マーズには容赦なく、彼は完成へと向かう。
「君達の名前は、『スターク』だ……!」
笑顔のまま、彼へと話しかけた。すると彼らの目は開き、プルートと見つめ合う。
「なかなか良い名前じゃねーの? 意味は知らねーし調べる気もねーけど」
「美しい私に相応しい。まるで、初めてコンタクトを付けた時のような開放感だな」
「あ、あぁそうですね……」
三つの顔は順番に喋り、怠惰、傲慢、嫉妬の言葉を並べる。それを見たプルートの目は、子供が憧れたものを見るようにキラキラしていた。
「ああっ! 人造人間が一つの体に共存し、それぞれが支え合い、協力する……そんな希望が今! 見えた!」
歓喜の声を上げ、目力も増しているプルート。正にマッドサイエンティストという言葉が相応しいようだ。
「うっわ気持ちわりー、なんだこいつ」
「下品だな……」
「で、でも僕達を助けてくれた人ですよ……?」
プルートの味方をしたのは根暗なスタークのみで、他のスターク二人はやや引き気味。しかし心の底から嫌ってはいない様子だ。
「まーそれもそーか。でも三人でスターク……名前を呼ばれても、俺たちの中の誰を呼んだのか分かりづらいかもな」
「以前の私たちは、名前など付けられずただコスモという男を待つだけだった存在。それぞれを識別できる何かを付け足した方が良さそうだな」
「あっ……だったら、数字で呼べばいいんじゃないですか? スタークワン、スタークツー、スタークスリー……こんな感じで」
根暗なスタークの言葉を聞いた他の二人は、その提案に乗ったようで笑みを浮かべた。
「へー、なら俺がスタークワンだな。この中だと俺が一番つえーし」
「大昔のカブキ……という演劇では、美男役を二枚目と呼んでいたらしい。私にはスタークツーが最適、という事だな!」
「なら僕は余ったスリーでいいですよね……」
お互いに主張し合い、自身が相応しいと考える名を名乗る。この一連の流れは、プルートの感情を更に昂らせていた。
「あぁ凄い……議論もできるのか! 僕の予想を越えてきた。この調子で他の人造人間にも完全な自我を芽生えさせる事ができたら……もう人類は、必要ない」
興奮が高まり、ヨダレまで垂れ流し始めたプルート。これには流石の根暗なスタークスリーも苦い表情をしてしまった。
「……すまないね、興奮するとついついこうなってしまうんだ」
スターク達の表情に今更気づいたプルートは黒い袖でヨダレを拭き取り、改めてビルのスクリーンへと視線を向けた。
「君達に課せられたミッションは簡単だよ。減らすんだ、人間の数を」
「さっき知識が流れ込んできたけどよー、支持者を減らしたら良いんだよな?」
「ずいぶんとシンプルだ」
「むごいですけど、仕方ないですよね……人類は醜いですし殺されて当然です嫌いです妬ましい憎たらしい死ななきゃいけないこの宇宙のゴミで自意識過剰なクズ共は消えて欲しいです」
三人の中でも、スリーは人類に対して並々ならぬ嫌悪を抱いている。しかし彼に対する言葉は続く事はなく、プルートはマーズの方を指さした。
「殺してみよう、まずは彼を」
「なっ……!」
唐突に死の宣告を告げられたマーズは気が動転し、額から汗が流れ出ていた。スタークは機械音を鳴らしながら歩き始め、マーズへの威嚇を始める。
「こいつの事はしらねーけど、プルートが言うんだからわりーやつだよな?」
「私には及ばずともなかなか良い顔をしているが……悪いね」
「……降伏してくれたら、半人造人間にしてあげてもいいんですよ? まあ、無駄な脳内データは削除するつもりですけど」
敗北と死のビジョン。マーズにはその二つしか見えていなかった。プルートとの戦闘で怪我を負っており、右目も斬られていたため【仮面】も発動しにくい。それにスタークは体に対して意思が三つ。例え一人を【仮面】の対象にできたとしても、残り二人が体を動かし続ける。
「こいつに人を殺させるために……俺をここまで生かしてたってわけか。……でもな、俺にはまだ、生きていたい理由があるんだ! こんな所で死ぬわけにはいかないんだよ…………!」
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