勝敗の行方②
自転車で駅前のス○ーバックスまで行き、入店すると、店内は会社帰りと思わしき大人達でごった返していた。
その中から、ウチの高校の制服を着た女性の姿を探す。
――居た。
窓際の席で向かい合うのは、瑠璃さんと生徒会長の二人。
校外だと言うのに、周囲の視線を集める彼女達の元に行くのは少々勇気を必要とした。
「き、来ました」
「翔君だ! これでよーやく琥珀ちゃんの元に帰れる!」
「え……」
折角ここまで来たというのに、彼女はすぐに帰ってしまうらしい。
「百瀬ちゃんは歌を愛する子なんだよ。優しくしてあげて!」
「何ですか、ソレ……」
どっしりと重いフラペチーノを俺に押し付けた後、瑠璃さんは手を振り、去って行った。
“後はお二人でごゆっくり”ってことなのかもしれない。
迷惑そうにする生徒会長の向かい側に腰を下ろし、手元のフラペチーノをジッと見つめる。
――このフラペチーノ。もしかして瑠璃さんの飲みかけなのか?
「それ、瑠璃様があなたの為にわざわざ買った物なので、間接キスを期待しないで下さい」
「うぐ……!? してませんから!!」
シレッとした感じでマグカップを傾ける彼女が憎らしい。
「……明日から私も合唱部復帰です」
「そーっすね」
「あなたは気に入らないでしょうね。でも安心して下さい。すぐに退部しますから」
「……」
「君が以前言っていたように、私は全ての責任を負います。だから、他の子達の待遇を良くしてあげてほしい」
「そう言われても……」
実は予想していた言葉だ。彼女は江上琥珀に対して色々とやらかし過ぎているから、何事もなかったように付き合っていけるとは考えないだろう。
「それと。瑠璃様から聞きました。彼女が音大付属との合併を考えていると」
「はい」
「私は瑠璃様と過ごしたこの学校が無くなるのは嫌です。ですから、もう邪魔はしません。貴方達を影から応援します」
「……俺達と一緒に瑠璃さんをやっつけませんか? 彼女は彼女なりの考えで合併したいと考えています。だけど、俺もそれには反対です。同じ考えの仲間は多ければ多い程心強いです」
「もう合唱部の中に私の居場所はありませんから」
「それを言うなら、俺にはもっと居場所がなくなります。男一人ですからね。江上琥珀は過去の出来事にグチグチと言うような奴ではないです。出来たら合唱部に残って、あいつをフォローしてやってください」
生徒会長はマグカップの中を見つめながら、ジッと俺の話を聞いてくれた。
そうしていると、一人の弱々しい少女にしか見えない。
――やっぱり、この人には居てもらった方がいい。
俺が危惧しているのは、理事長選が終わった後だ。
女比率が圧倒的なあの部で残りの高校生活を送るなんて、想像するだけで微妙だし、後々部外の奴等に何を言われるか分かったもんじゃない。
合唱部の活動が軌道に乗ったタイミングで脱走しようと目論んでいるのだ。
だが、そうなると、あの若干頼りない江上をトップで残すのは不安でしかないので、生徒会長に居てもらった方がいい。
彼女は江上に対して負い目があるから、二度と裏切ったりしないだろうしな。
「手を組んで、江上琥珀を理事長に据えましょう!」
向かいに座る少女がコクリと頷くのを確認し、俺は内心ほくそ笑んだ。
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