あらすじ

私は村崎櫛。幼なじみの桜は変なやつだ。ハリネズミのぬいぐるみの「ハリー」がないと外に出られない。弱っちくてなんだか放っておけないんだ。ちょっと、かわいいところもある。

中学生は青春の渦のなか。合唱部のいさかいに、クラスの中に流れる不自然な空気。先生は石像みたいに笑わなくて、「ターザン」を見て涙を流した女の子が男の子をいじめて笑っている。

ひとりぼっちの花火大会。幼なじみの桜に彼女ができて、とんとんと遠ざかっていく恋の音。私はもう必要ないの?

文化祭の喧しい踊りの中、楽しげな人々と悲しげな男子生徒、トランペットの音の中、私はいてもたってもいられなくなった。

私の中で、そのとき何かが燃え尽きたのだ。

村崎櫛の独白と、彼女から見た世界の在り方。

私には全部聞こえているんだ。

どんなに楽しげな声や強がりがそれを隠しても。

私は自分の孤独について省みたことはない。

私の目の前には好きな人がいて、好きな歌が流れていて、時折不穏なニュースが流れて悲しくなる。

そうだ。世界は常に外にあったんだから。


彼女の怒りと、優しさに包まれたビシクルの中、

普段桜は、すべてを思い出した。

怨霊などあるわけがない。

彼の固くなった心に櫛を通してくれていたのは、

ずっと彼女だったのだ。

これは愛を思い出す物語。





異世界を覗くというのは痛みを伴うことである。人の心は決して開かない扉で覆われている。


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