新たな挑戦

「そうそう、まだあったんだった!!」


 今回はまとも脳内妄想…考え込んでいたオレを呼び戻すようにして放たれたクラウドの言葉だった。

 ふとオレはクラウドの顔を覗き込み答える。


「まだあんのか!?」


 まぁなと言わんばかりの表情を見せながら微笑むクラウド。そして口を開き出す。


「もう気付いていたかもしれんが、1層突破したらギル設立出来るようになるんだ!!」


「それなら……」


「まぁ良いから聞けよ!?今まではパーティー組めるのが最大で自分含めて2人だけだったのに対して、このアップデートで2人から6人に増えるんだ!!」


 そっかーと、オレの反応は薄かった。それはそうだ。第2層実装とイベント開催の知らせの次には…なんとも規模が小さく感じたのだから。


「だから、ギルドを設立してから、そのギルドのメンバー同士でパーティー組んで、ダンジョンだって行けるんだぜ!?パーティー組んだ時の経験値配分はまだ分からんがな!?」


 今クラウドから告げられた経験値の配分…オレにはそんな無駄な経験値だなんてどうでも良かったが、複数人でのダンジョン攻略ともなれば難易度が相当…今までより楽に攻略出来る事になるのだ。


「それは魅力的だな!?」

「そうだろう!?まあともあれ…どの道強化はしないといけないな!?」


 オレにはある考えが浮かび上がってきた。あの【エスゴール氷山】の先の【辺境の地】に隠されてるっていうダンジョン…それを攻略出来ればイベントランキング上位だって夢じゃ無いかもしれない。はたまた新しい強力なスキルだって…それにあわよくば装備だって……


 そして、咄嗟にクラウドへと口を走り出す。


「オレさっ…もう一度あの【辺境の地】挑戦してみようかなって思うんだけどさ!?クラウドは……!?」


 クラウドはなんだか悪そうに頭を掻きむしりながら答える。


「オレは…この前クロユキたちに言ったアイツ…マスター・スミスで生産職の奴からさ、装備作製の素材収集一緒に頼まれちまってて…当分はアイツと一緒に狩だわ!!」


 これを聞いたオレは呆気にとられて、なんだか気恥ずかしくなってしまった。


「そっか…じゃあオレは当分の間ソロプレイだな!?隠しダンジョンでも探し当てるよ!!んで、めっちゃめっちゃ良いスキルだって、装備だってオレの物にしてやるさ!!」


 悪そうにしているクラウドへの気遣いで、軽く微笑みながら気にしてないと言うように告げた。


「これも聞いた話だがな…あのダンジョンを探し当てた奴は、これまでに誰1人とて居ないらしいぞ!?探す場所が悪いのかもしれないけどな!?」


 うんうんと軽く頷きながらクラウドの話に耳を傾ける。


「それとな!?クロユキ…あの隠しダンジョンの奥…ボスなんだけど、でっけぇドラゴンが居るらしい!!確か…噂だと『毒』を吐くブレスだったっけか…?それも猛毒な!!」


「ドラゴン!?それに猛毒を吐くブレスって……」


 ドラゴン…これだってオレの野望の中の一つではあるが…見てみたい!そう高揚が押し寄せてくるが、果たしてレベル1でカンストしてるオレが攻略出来るのかどうか……それに【VIT】はゼロだしな!?死ぬ訳にはいかないし!!……取り敢えず行ってみて…ダメなら戦略的撤退をと……ダメ元で挑戦してみっか!?生活掛ってるし!


「あぁ、クロユキが隠しダンジョン探し当てて攻略…討伐出来たら初回クリアになるから、きっと…報酬だって……」


 困惑の中懸命に探した答えだろうか!?クラウドは暗雲が差し掛かったような表情を向けていた。そんなクラウドを見ては余裕さながらの面々で答える。


「そうだよな!?そのダンジョンをクリア出来たら…イベントランキング上位だって見えてくるし!!そこに行ってみるよ!!」


 やる気、気合い満々で席を勢い良く立ち上がって見せた。手には握り拳を作ってだ。

 途端、クラウドが止まるように手を差し伸べてきた。その手はオレの肩へと伸ばされる。


「まぁ待てよ!!今日はもう遅いからよ、ここでたらふく食って、飲んで…んで宿にでも泊まってから明日の朝にでも間に合うだろ!?」


 そう言ったクラウドは、後ろのカウンターに立つ綺麗な女性店員NPCを呼び、注文を口にするのだ。


 コイツと出会った時のように、オレはこのクラウドの男気だろうか?それに吸い込まれるように再び席に腰を掛ける。


 クラウドの注文から数分経ち……


 目の前のテーブルには沢山の皿…料理とあの『シュワシュワ』が並ぶのだ。勿論、あの時ここで口にした『ダークラビットのもも肉のステーキ』も並ぶ。激励なのかそれとも、はたまた最後の晩餐……になってしまうのか……



 今の先端技術は凄い…と改めて痛感する事になる。それは数時間経った時だ。この時の記憶は定かでは無いが、オレはクラウドに介抱される形で隣に並ぶ宿屋へと入り、その部屋の中で泥酔状態で寝るのだ。

 エフェクトだけだと思っていたのだが、これはさながらリアルと同じようである。この脚元のぐらつき…そして嘔吐間…これが現在の先端技術かと思い知らされる。


 オレは全てを忘れ去って、眠りに入る事ができたのだと思う。

 これだけは何となくだが、オレの記憶に残ってる。きっと持ってこれはオレに降り注がれた言葉だと……


『早く、シズが戻って来て欲しいよな!?』


 それ以降の記憶はオレには無かった。


 深い眠りを終えて何とも愉快な夜は通り過ぎて、陽の光が差し込む。


 これが新たな冒険へと駆り出される合図だった。

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