オンナの一撃は怖いです(汗)
オレたち2人は隠しダンジョンのボス部屋までたどり着き、無事?ではなくHPのゼロが見えつつもそりゃあもう頑張って、必死で戦ってきました。
【AGI】極振りのオレは、【STR】極振りのクソど変態ビッチオンナとパーティーを組んで、この隠しダンジョンである洞窟の奥へと向った。行き着いたそこにはボス部屋らしき扉が……
ボス部屋の重くて固い扉を開けて恐る恐る進んでみた。そこは暗く闇で覆われて、薄明かりの中見える両端に松明(たいまつ)がずっしりと並び立っている。
「おいっ、行くぞ!足引っ張んなよな!?」
そうシズに嘆き、引っ張りながらさらに奥へと進む事にする。相変わらずのアヘ顔っぷりには呆れた物だ。
しかし、そんな事に構っている余裕は消え去ったのであった。それを見た瞬間オレたちの歩みは止まった。否が応でも危険を察知出来るほどの……
「パッ、パッ、パッ」
音を鳴らせながら並ぶ松明に火が灯されて行く。そして次第に辺りは明るくなると……
「ウォーーーン!ウォーーーン!」
獣の叫び声。明るくなった部屋の奥には体長約10メートルは有るだろうか。まるでオオカミが巨大化した獣の姿が先に見える。
それを見てオレは、腰が退けてしまった。
そんな中で、後ろにいるシズはまるで正反対の態度を示すのだ。
「アッ、これはなんとも力強そうな身体だこと…そんな身体で私を襲うとなれば…アハァン!?快楽ですわ!!」
「ゴンっ」
オレはあまりにもこの状況を読めていないシズの言動に苛立ち、そのフラフラと動かす頭にゲンコツを喰らわせた。
「ごっ、ご褒美ですか?」
「良い加減にしろ!状況見ろよ!ボスですよ、あちらに見えるのはボスでござますよ!」
2人して静止して?その迫力に圧倒されて、ただボスを眺めるしか無かった。
「でっ、デケェな!?きっとツェんだろうな!?あぁ、何でこんなとこ来ちまったんだよ!?」
我に帰ったのか。そんな筈は無い!こいつに限って発情をとると何も残らん。だが、シズの目は真剣そのものだ。
「クロユキさん、どうしますか?取り敢えずさっき取得したクロユキさんのスキルで…」
先程のシズの態度とはとって変わって…オレは慌ててシズの言葉に答える。
「あぁ、そんな事は分かってるよ!でも…あいつこっちめっちゃ睨んでね?って…あっ、やべぇ、向かってきやがったぞ!?」
巨大オオカミはありとあらゆる物を蹴飛ばしながら、こちらに猛スピードで突進をしてこようとしているのだ。
「くそぉー、どうにでもなれっ!!ちょっと格好良く言ってみたいから…スキル【天使の施し】!!」
「それは少し余計だと思いますが…」
こんなにも意外と真剣になるシズに少しの苛立ちを感じ……いや、これが本来のシズの姿なのではと思ってしまうくらいに…真剣な眼差しを送っているのだ。
「うっ、うっせぇよ!!良いじゃねぇかよ!?言わせろ!!」
シズはオレの後ろにしがみ付き、オレの片隅から巨大オオカミを眺めている。
するとスキル詠唱をした瞬間に、オレを中心として地面が黄色く輝きを放ち、それは魔法陣の様で円を描きながら上へと昇り、オレとシズの2人を覆い……
その光の輝きはまるで天使のような優しい温もりで覆い尽くされた。
だが、油断はできない–––。
オオカミは突進し、こちらに突っ込んで来るのだ。
その表情は憎しみと憎悪に駆られているように見える。
「ガシューーン!!」
クロユキが唱え出た防御壁に、巨大オオカミの頭を捻り込む音が響き渡る。
「やっぱりだ!このスキル最強過ぎる!全然びくともしねぇよ!」
オレは今まで以上のドヤ顔をして見せた。そして、後ろにしがみ付いてるシズの顔に目を配らせる。
その間、巨大オオカミの攻撃は絶え間無く続く。
割れることも無いこの防御壁に向かって何度も頭突きを食らわせる。
「で、でもどうするんですか?クロユキさん…これで攻撃は当たらないですけど、こっちだって攻撃出来ないんですよ!?何か考えがあるんですか?」
その声はオレの耳元で囁かれた。オレの背に蹲(またが)るその腕には改めて力が込められた。
「うーーん、考えね…無いっ!考えなんて無い!逆にどうすれば良い?」
そうシズに尋ねるが、答えは早くは返ってこなかった。
「はっはっはっー、オオカミさんよ?全然当たんねぇよ!!これがある限りまーったく当たんねぇよ!!はっはっはっー!」
挑発するかのようにオレは罵倒するのであった。
まだまだオオカミの攻撃は止まない!
それから大分時間が経った頃であろう–––。
俺たち2人を中心に、円を描いていた防御壁はフワァっと消え去ったのだ。それはなんとも儚いものであった。
「えっ?えっ?なっ、なんで??」
シズの口走りは早かった。
「クロユキさん、時間制限になったんですよ!」
「なっ、なんだって??」
すかさず、スキル詳細に書かれていた文章を思い出していた。
「あっ、そうだ。忘れてた!時間制限があったのか!?15分だけだったよな!?だからか?」
「恐らくはそうだと…思います!!」
しかし、そうのんびりと話してられない!が、防御壁が消えるタイミングが良かったのだ。
巨大オオカミの攻撃は防御壁によって跳ね返されたその瞬間であった為、反動で一時的に動きが固まっているところであったのだ。
だが、そう悠長なことは言ってられなかった。
即座に巨大オオカミの態勢は整えられ、次の攻撃へと移ろうとしていたのだ。
「これはヤバイ!!来るぞ!」
またもや猛スピードで襲い掛かろうとする姿が見受けられる。防御壁も無くなった今、オレは目を瞑り、もう終わりだと言わんばかり下を向く。
その瞬間であった–––。
かん高く、大きな声がオレの目を覚ます!
「スキル【修練の一撃】!!」
「うおっ!!」
シズの手に持たされた片手剣が大きく振り被さられ、そしてこちら目掛けて突っ込んでくる巨大オオカミに対し、一刀両断に刃を刺し向けたのだ。
それは見事な一振りであった。
風切音がオレの耳に響き、そして刀身から風圧の様な物が巨大オオカミの頭上まで届くと、たちまち地面まで振り落とされた。
「すっ、すげぇー、やっぱ【STR】極振りだけあって威力は半端ねぇな!?」
いつの間にか、オレの背に隠れていたシズは、オレの目の前に立っていたのだ。はぁはぁと息を切らしているシズ。
巨大オオカミは地面にひれ伏し瀕死の状態だ。
「ガウゥ、ウゥ、ガウゥ」
先程とは大いに違った弱々しい姿であった。
だが、まだ討伐していない–––。
ここぞと言わんばかりに、オレは手に持つダガーナイフを振り上げ、地面にひれ伏しているオオカミの元にまで駆け走り、脚と脚の間に顔を出す心臓目掛けてとどめを刺す。
それからだ。見慣れた光景の割れたガラスの様に舞い散って、上へと昇り消えていく。
辛くも、2人はなんと被ダメゼロにて、この隠しダンジョンボスを討伐できたのだ。
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