スキル収集

 朝8時を知らせるアラームが鳴る。すんなりと起きれたわけでは無かった。初めての事が多く襲った昨日は、思った以上に疲れになって身体と心に大きく響いた。ログアウトしてから、飲まず食わずで寝落ちてしまったのである。


 ゲームの攻略法をと考えが、頭の中に湧き出てくる。この攻略が出来ないと、生活の危機に陥ってしまうのである。そう考えながらシャワーを浴びて、二切れほどの食パンを嚙り、歯を磨いてはこれでスッキリとログインの準備をするのだ。


 なんぼゲームと言えども、これがオレの仕事には変わりない。だから、以前となるべく変わらない出勤時間に、ログインする事だけは心がけようとする考えでもあった。


「さぁ、今日も頑張りますかぁ?」


 そこで思うのだ–––。


「やっぱり、このままじゃあダメだな!?強いモンスターを討伐出来れば、もっと報酬も上がるかもしれないけど、でも今のままじゃあ、到底無理な話だし…金も無いなら力も無い!」


 しかし、考えてみても…以前の仕事しているオレよりかは、今の方がもっともオレらしく生きているのではと…そう思えるのだ。決してノーストレス!とまでは行かないが、何かに解放されたとでも言えよう。そんな気持ちに襲われては、以前のオレの姿を思い浮かべてみると恐怖が過(よぎ)るのだ。


「にしても…やっぱりステータス強化だよな!?スキルだってもっといるだろうし!宿に泊まれるくらいの金あれば、この面倒臭さいログイン、ログアウトだっていちいちしなくて良いし…こっちに帰ってくるのは週1か週2くらいで十分な気もするし…問題は風呂だよ!宿で風呂入れたとして、リアルのオレはどうなんだろう?髪ボウボウで髭ボウボウは嫌だし!取り敢えずは強化だな!?」


 そう言って、己自身にこの道を選んで正解なのだと言い聞かせながら、またあの世界に戻るのであった。



≪≪ログイン≫≫



「ここって…昨日と同じとこだよな?【森と泉】だったっけ?見覚えもあるし……」


 深い森に囲まれて、茂みが広がるフィールドに立っていた。リアルと同じく、朝の太陽は眩しく気持ちも良かった。


「取り敢えずはマップ見るか…マップ!!」


 マップが鮮明に記載されたパネルが現れると、うんうんと改めて自分が立っている場所を確認し、ここは【森と泉】だと認識した。


「先ずは、少し先に進むかな?モンスター狩りと……」

 

 フィールド【森と泉】の奥を目指す事に–––。


 次第に辺りは暗くなり、揺れる木々たちは音を立てて笑っているようだ。そして、湿り気が漂う。

 すると、何やら茂みから草木をなぎ倒す…そんなガサゴソと音が鳴り響く。そして木と木間をすり抜けるように走り抜けるウサギの群れに遭遇……その動きは素早かった。

 オレの中ではウサギとは檻の中で飼育されている…いや、そのウサギは…この世界においてモンスターにもステータスがあるのだろう!?それを疑わせるほどの俊敏さを見せつけられた。


「ウサギ?今のウサギだよな?うん?それに結構いたような…」


 気付くと数頭のウサギの群れの中にいたのだ。リアルのウサギとは少し容姿が違う…耳は縦に長く先は尖っている。目には殺気を感じてしまうほどの威圧感だ。何度か二足歩行を目にした。

 そして、二本の脚を軸にし支えながら立ちつくし…オレを睨むウサギ達の目は光っていた。


「1、2、3……やべぇ、10頭くらいはいるよ!【VIT】0だから1発即死もあり得るし、マジでやべぇな!」


 なり振り構わず、「ちょー初心者用ダガーナイフ」を手に持つ。

 するとだ、まず1頭目が突っ込んでくる。そのウサギは俊敏性に長けている。そしてオレよりかは小さく…その所為もあり、やたらと素早くオレの目を阻害させる。


「もうかよ!?ぜってぇ、回避してやる!んでもって、このオレのちょー初心者用ダガーナイフで…」


 その時だ、ウサギはオレの前までやってきて飛びかかる。

 オレの身体はそれに反応し、右にステップを踏み込み、回避を試みた。


「あれ?めっちゃ今の早いじゃん!?流石【AGI】150だわ!意外とこれ行けんじゃねぇ?」


 と言いつつもう1頭、そして2頭とさらに攻撃を仕掛けてきた。先程の1頭と合わせ攻撃を仕掛けてくるのだ。

 気付けば5頭同時攻撃であった。


「流石に5頭は無理だよ!ムリ、ムリ、ムリィー」


 とっさの判断か分からないが、オレは5頭のウサギが飛び上がって攻撃する時、真ん中をすり抜けて行ったのか、立っていた場所よりも遥か先に立っていたのだ。


 そして後ろには5頭のウサギ達の姿だ。


「あれ?今オレ…いっぺんに5頭の攻撃交わしたって事?やれば出来んじゃん!?オレ!!」


 得意そうに笑っている。


「ピィーン」


 聞き覚えのある音が頭の中で響くと、白い半透明のパネルが現れる。


『スキル【電光石火】を取得しました』


【電光石火】

回避能力・回避成功率上昇する。【AGI】〈+ 40〉

取得条件

モンスター3体以上を対峙し全ての攻撃を回避、尚且つ被ダゼロを保つ。


「ヨッシャッー、スキルゲットー!!ふむふむ…取得条件がモンスター3体以上の攻撃を回避して、被ダメゼロと…さっきの攻撃を回避したから取れたんだな?でもなぁ【AGI】ばかり上がっても仕方ないんだけどねぇ…」


 しかしその油断が招き、オレを餌の如く立ち竦(すく)み逃さまいと睨み付けていた、残りのウサギ達も攻撃に加わろうとしていた。


「ギャギャー、ギャギャー」


 この雄叫びが合図のようで、ウサギの群れでの全体攻撃を繰り出そうとしているのだ。オレを凝視するなり、ウサギの群れは既に視界を向けた者を捕らえているのであろう。


「よーしっ、みんなまとめて回避!してやるよ」


 それは見事に成功したのであった。ウサギ達の攻撃を縫うように避けつつ、前進しながら群を突破した。


 すると…また頭の中で通知音が響きパネルが現れたのだ。


『スキル【無双回避】を取得しました』


【無双回避】

回避能力・回避成功率共に大幅に上昇する。【AGI】2倍

取得条件

モンスター10体以上を敵にし同時に回避成功、尚且つ被ダメゼロであること。


「【AGI】2倍!?めちゃめちゃ良いんじゃねぇか!?よしっ!!」


 オレは目の前に現れたパネルを眺めながら、再度のウサギ達の攻撃を軽々しく回避し続けるのであった。


「ウサギさんよぉ、悪いんだが全然攻撃あたんねぇわ!!」


 余裕の笑みで回避し続ける光景は、側から見ると、摩訶不思議な光景であろう。


 そして、白い半透明のパネルが閉じた瞬間であった。


「ひっさーつ!カウンターこーげきー!!」


 厨二病らしからぬ奇声を上げつつ、手にしたダガーナイフで1頭ずつ攻撃を回避し、首の下から喉元目掛け、ダガーナイフの先を入れ込む。


「グシャ、グシャ、ガリっ」


 音を立てながら、首を貫通する。それは呆気なく、素晴らしいほどにダガーナイフを突き刺し、素早くとどめを刺す。


 ウサギ達は前のイノシシ狩りの時と同じく、ポリゴンの欠片となり飛び散っていくのと同時に通知音…そしてパネルが現れる。


『スキル【大物残滅(ビッグ・イーター)】を取得しました』


【大物残滅(ビッグ・イーター)】

HP、MPを除くステータス項目のうち4つ以上が対峙相手よりも値が低い場合に(装備上昇値除く)全てのステータスを2倍にする。

取得条件

HP、MP以外のステータス項目のうち4つが対峙相手よりも半分未満でプレイヤー単独での討伐成功時に獲得出来る。


「このスキルっ…オレのステータスは【AGI】極振りだから…って事は……ステータス上昇値はスキルを取得した順番で反映されるから…【AGI+380】の2倍…これって【AGI】が常に760って事なの??すげぇー!!!760はすげぇーよっ!!!」


 だが、ゲーム内においての生命線でもある【VIT】はいっこうにゼロのままだ–––。

 1回の攻撃をも受けてしまうのであれば、今のステータス状態だとHPバーはゼロに近づくだろう。

 否、ワンパンでHPがゼロになる得る可能性だって……

 

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