1章-18話 おもかげ



「シンヤ様は、アルベルト様に似ていらっしゃいます」


 少し考えるような顔をした後、セラはゆっくりと呟いた。


 シンヤは話を聞こうと、クロエを起こさないよう気をつけながら、痛む身体を起こす。


「……クロエ様にはもう一人、御兄弟がいらっしゃいました。アルベルト様といって二つ年の離れたクロエ様の弟です」


「クロエが言っていたアルって……」


 魔物に襲われて意識を失う前、シンヤの記憶にうっすらと残るクロエが叫んだ名前だ。


「はい、アルベルト様です。アルベルト様はとてもお優しく、人の為に自分を顧みないような方でした」


「弟さんがいたんだ。……その人は?」


 一瞬、悲しそうな顔をしたセラだったが、すぐにその表情を消すと話を続ける。


「三年前のあの日、あの廃村に住んでいた頃……。リュート様達、戦える者の多くが出払っているのを狙って、野盗が襲ってきたのです。……野盗の数は多く、アルベルト様達、残っていた人員では対応出来ずに、多くの人が殺され、クロエ様の母君もその犠牲になりました」

  

 クロエの母親が野盗に殺されたのだと聞いて、驚きに目を見開いた。そんなシンヤの様子を気にしながらもセラは先を紡ぐ。


「幸い。今いる村を開拓している最中でしたので、アルベルト様は、残った村人をこちらに逃がしました。……ですが、道中で魔物に襲われ、村人を逃がす為、アルベルト様が一人残られたのです。報告を受けたクロエ様が助けに入った時にはもう……」


「……そう、ですか」


「クロエ様はお優しい方。五年前の大襲来の日からずっと自身を責め続けています。……三年前のアルベルト様や母君の事も、自分が間に合っていればと」


「でもそれは……。クロエの責任じゃあないでしょう」


「そうです。それでもこの方は自分を許していない。……ですがシンヤ様が現れたあの夜、クロエ様は嬉しそうに、話をしてくれたのです。弟に似ている人がいたと、良い人だったと、久しぶりに本当の笑顔を見せてくれました」


 シンヤはクロエが自分に弟の姿を重ねていたのだと悟る。弟に似た雰囲気を持つシンヤを、助けたかったのだと。


「シンヤ様が子供達を助ける為に大怪我をされ、運び込まれた時の取り乱し様は、それはもう大変でした。リネット様に治して頂いた後もずっと……」


 そう話すセラの、クロエを見つめる瞳には、親愛の籠った優しさが宿っていた。その瞳を見て、この村の人達に救われて本当に良かったのだと、シンヤは心の中で強く思う。

 


「アルベルトさんとおれは、そんなに似てるんですか?」


「申し訳ありません。お顔は……アルベルト様と比べてしまうと、シンヤ様がかわいそうになってしまいますので……」


「おれの顔、そんなにかわいそうなのっ!?」


「……雰囲気、でしょうか?」


「あれ? 顔の話は流すんですね……」


 見た限り美形の多いこの世界では、シンヤの顔の造りは、美形と呼ぶには少々どころか、かなり足りない。


「どうせ平凡な顔ですよっ」


「大丈夫です。シンヤ様は愛嬌のあるお顔をされていますよ。……ピードルのような」


「ピードルがなにかはわかりませんけど、ペットか何かですよね、その生き物」


 褒められているのかいないのか、シンヤは頭の中で、犬のような生き物を想像する。


「いえ、ペットではありません。バンティナル湿原に生息する魔物です」


「魔物って、ほんとに愛嬌あると思っているんですかっ?!」


 魔物と聞いて頭の中の犬は、シンヤが見た魔物達のようなグロテスクな生き物にすり替わった。


「ふふっ、面白い方ですねシンヤ様は、本当にアルベルト様にそっくりです」


 シンヤの反応を見て、懐かしむようにセラは笑顔を見せる。


「……んっ」

 

 騒がしくしすぎてしまったのか、ベッドに寄りかかり眠っていたクロエが、目を覚ましたようだ。


「……シンヤ?」


「おはようっていうには暗いけど、おはようクロエ」


「……おはようシンヤ」


 少し寝ぼけた様子のクロエだったが、シンヤの顔を見て安心したのか、目尻に涙を溜めて微笑んだ。


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