第29日目 『アルハール砂漠』での戦闘 <隠しキャラ登場 >③
う~ん・・・。なかなか眠れない・・・。
考えてみれば一応テントの中とは言え、野宿する等私にとっては現実世界ですら経験したことが無かった。
こんなテントの中で眠れず、ごろごろしてるくらいなら・・・外に出てみようかな?
確か砂漠の夜空はとても綺麗だと聞いたことがある。
ごそごそとテントの中を這い出すと、空はまるで広大なプラネタリウムのような美しい夜空が広がっていた。
「うわああああ・・・・。な、なんて綺麗な星空なの・・・・。」
思わず感嘆の声を上げてしまい・・・慌てて口を閉じた。あまりにも感動してしまったので大きな声を出してしまったのだが・・・幸い5人の眠っているテントの中では彼等の寝息が聞こえていて、誰一人起きてくる気配が感じられなかった。
「ふう・・危ない危ない。」
胸を撫でおろすと、今度は夜の砂漠を少しだけ歩いてみたくなった。
夜空には巨大な満月も浮かんでいるし、私の陰がくっきり砂漠に写っている。
「なんて綺麗な景色なんだろう・・・。昼間は酷い目に遭ったし、砂漠でウィルス駆除なんて憂鬱でたまらなかったけど・・こんな景色を見ると砂漠に来れて良かったかな。」
ウキウキ気分で砂漠を散歩していたその時・・・。
背後でザザザザッと砂をかき分ける大きな音が聞こえた。
え?今の音は・・・?
そして私は振り向き・・・そこには私の背丈よりもはるかに大きい巨大な虫が立っていたのだ。
あ・・・あの姿は・・昆虫図鑑で見た事がある・・い、いや、それ以前にきっとあれは・・・そこまで思った時・・・あまりの恐怖で私は本日2度目の気絶をしてしまった―。
サラサラサラサラ・・・・・。
何かが上から降って来る音が聞こえて来る・・・。
「う・・・。」
何度か瞼を振るわせた私は気が付いてみると見た事も無いだだっ広い洞窟のような場所に倒れていた。
天井は遥か高くそびえ立ち、とても抜け出せる高さでは無かった。
ところどころに穴が空いているのか、そこから夜空が見えている。そしてサラサラと聞こえていたのは天井から降って来る金色に輝く砂漠の砂だった。それが天上の至る所から細かく地下に降って来ていたのである。
「え・・?こ、ここは・・・?」
身体を起こすと、背後で声を掛けられた。
「女。ようやく目が覚めたようだな?」
え?誰かいるの?
慌てて振り向くと、そこには床に座った男性の姿があった。
浅黒い肌に真っ白なターバンを巻いた頭からは黒髪が見え隠れしている。そしてその顔は恐ろしいほどに整った美しい若者が私の近くに座っていたのだ。
彼は真っ白な装束に身を包み、その装束には宝石のような飾りや金糸の見事な刺繍が施されている。一目見ただけで、相当身分が高い相手だと言う事は『アルハール』についてド素人の私でも見て取れた。
「あ、あの・・・。あ、貴方は・・・そ、それにここは何処ですか?」
い、いかん・・・声が震えてしまう・・・。
「何だ?無礼な女だな?人に物を尋ねる時はまず、自分から名乗るべきだろう?」
男性は溜息をつくと言った。
「あ、す・すみません。私はエリス・ベネットと申します。実は仲間と一緒にここ、『アルハール』へモンスター討伐にやって来たのですが・・・・夜、1人で砂漠の散歩をしていた所、巨大な虫に襲われ・・気付いたらここに倒れていたんです。」
どうだ?我ながら完璧な回答だ。
「何?ひょっとすると・・・お前達は『エタニティス学園』からやって来たのか?」
男性の顔つきが変わった。うん?しかも・・・何だか怒った顔していない?
「は、はい・・そうですが・・?」
「信じられん・・・何で女が混じっているのだ?やってくるのは『白銀のナイト』と呼ばれる者達と聞いていたが・・?」
男性は腕組みしながら言う。
「え・・?あ、あの・・私達の事を知っているのですか?」
「知ってるも何も・・・今回のモンスター討伐を依頼したのはこの俺だからな。その依頼主の事を・・お前は知らないと言うのか?」
男性はジロリと私を睨み付けながら言った。え?嘘・・。依頼主はホテルのオーナーじゃ無かったの?!だ、だけど・・・。
「で、でも私は依頼主の事なんか誰からも一切教えて貰っていないんですよ?無理言わないで下さい・・・。」
言いながら上目遣いで男性を見た。すると男性は片手で頭を押さえるとため息をつく。
「いいか、俺の名は『タリク・カウィ・アルハール』だ」
そして男性はまるで鷹のような鋭い目で私を見ると初めて名前を名乗った。
「タリク・カウィ・アルハール・・・え?アルハール・・?」
待って・・この名前には・・聞き覚えがある。確か・・・この名前の人物は隠しキャラで・・ある一定の条件を見たさなければ出現せず、しかも・・・必ず現れるという訳でもない・・・レア中のレアで・・・ユーザーからは幻の攻略対象と言われている・・・『アルハール』の王子様だっ!!
「こ・・・これはとんどご無礼を!あ、貴方様がこの国の王子様だとは露知らず・・・!」
思わず土下座をして頭を地面にこすり付ける。
さて・・・何故私がここまでこの王子様にへつらっているかと言うと・・とにかくこのタリクという王子は気性が激しい。それはフレッドの比では無いのだ。タリクに比べればフレッドなどは頬ずりしても良いぐらいの可愛さがある。
さてタリク王子と言えば、この人物はとんでもない位の暴君で気に入らない人間がいれば、権力でみぐるみ全て剥がして二度と自分の前に現れくなるぐらいに痛めつけて追い払ったり、何か些細な悪だくみを働こうものなら、地下牢に閉じ込め、白状するまで鞭打ち刑にする・・と言われているほどに凶暴なのだ。(最もこれはあくまでも噂の話に過ぎない)
だけど・・・何故タリク王子がここに?というか一体此処は何処なのよっ?!慌てて辺りを見渡しても、こんな場面はゲーム中でも一度も見覚えが無いんですけどっ?!
「エリス・・・と言ったか?先程から何をお前はキョロキョロしているのだ?」
タリク王子が不思議そうな目で私を見る。
「い、いえ・・・。一体此処は何処なのだろうかと思いまして・・・。」
するとタリク王子は腕組みをして目を閉じると言った。
「ここは・・・アリジゴクの巣だ。」
「え・・・?い、今・・・何と仰いましたか・・・?」
「何だ?エリス。お前ひょっとしてその若さで耳が遠いのか?仕方が無い。もう一度言ってやる。ここは・・・アリジゴクの巣だ。」
「え・・・・ええええええっ?!」
アリジゴクの巣に私の叫び声が響き渡った―。
「全く・・・何て煩い女なんだ。今の叫び声は一体なんだ?奴に気付かれたらどうするんだ?」
タリク王子は両耳を指でふさぎながら私を見た。
「お、王子様・・・どうして平然としていられるのですか?ここはあのアリジゴクの巣なんですよね?と言うか・・・何故王子様がこんなアリジゴクの巣にいるのですかっ?!」
「煩いっ!誰のせいだと思っているのだっ?!」
すると、突然タリク王子が怒鳴りだした。
「いいか?そもそもお前達がここへ来るのが遅いからだっ!一体何頭の家畜がアリジゴクにやられたと思う?この砂漠に現れたアリジゴクは貪欲だ。恐らく今に家畜だけではなく人の被害も出るかもしれない・・・だから俺は国民を守る為に1人、砂漠へ赴いたのだ。しかし・・・俺が未熟だったために逆にアリジゴクに捕まり・・・もうやられるかと思った矢先、何故か奴はここに俺を置くと、又地上へと這い上がり・・・次にお前がここへ連れて来られたのだ。」
「・・・・。」
私はその話を呆然と聞いていたが、やがて我に返った。
「そ、それでは・・・そのアリジゴクは今何処に・・・。」
言いかけた時・・・タリク王子の顔色が何故か真っ青になるのを私は見た。
そして・・・恐る恐る背後を振り返ると・・・そこには先程よりもさらに巨大化したアリジゴクが背後に立っていたのだった—。
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