第29日目 『アルハール砂漠』での戦闘 ①
「まずは砂漠に行く為のエリスの服と靴を用意しなくちゃね~。」
嬉しそうに人混みの中を歩くアドニスは私の右手をしっかりホールドしている。
「あの~・・・アドニス様の買い物はいいんですか?」
うう・・出来れば1人でゆっくり買い物したいんだけどな・・。
「うん。僕達はね、砂漠でモンスターと戦った事は何回もあるんだ。だから砂漠を歩く為の服や靴なんかは全て揃っているからね。」
アドニスはニコニコしながら説明してくる。
「はあ・・そうですか・・・。」
「それにしてもどうしようかな・・・。ただラクダに乗って砂漠を進むだけならサンダルで十分なんだけど・・・。」
「ええ?!サ・サンダルで十分なんですか?!」
驚いてアドニスを見上げる。
「うん。だけどモンスターと戦う訳だからサンダルじゃ絶対駄目だな・・・ここはやっぱりトレッキングブーツかな。よし、早速買いに行こうっ!」
アドニスに言われて、傍と私は気が付いた。
「ちょ、ちょっと待って下さいよっ!わ、私・・・無一文ですけどっ?!買物なんて出来ませんよ!」
だから砂漠に行かなくていいよね?!『白銀のナイト』達だけでウィルス駆除に行って下さいッ!
と言う気持ちを込めて、目をウルウルさせてアドニスを見るも・・・。
「ああ、お金なら大丈夫だよ?ちゃんと前払いされてるから。」
「へ?前払い・・・・?」
はて?何の事だろう?
「嫌だなあ・・・。僕達がタダでモンスター討伐を引き受けるはず無いだろう?だって命を懸けるんだらから。それに今回は前払い報酬を相当貰ってるんだ。何せこの国はダイヤが掘れるお金持ちの国だからね・・・。遠慮なく好きなだけ買い物できるよ?」
アドニスは爽やかな笑みで答えているつもりのようだが・・・最早私には腹黒い微笑み?にしか見えなくなっていた。
し、知らなかった・・・。彼等は真の英雄でそれこそRPGの勇者たちのように無報酬で旅の先々でモンスターに苦しめられている人達を救って来たかと思っていただけに・・・私の中でまたしても『白銀のナイト』達のイメージがガラガラと崩れていくのであった—。
そして2人で靴屋へ行き、奇妙な靴を買う事になった。
あ~退屈だ・・・。
先程からアドニスと店主はかれこれ2人で30分近く私の履く靴について相談している。肝心の履く本人を除外して。
アドニス曰く、僕は砂漠の事なら慣れっこだから、全部僕に任せておけばいいよ、との事だったので、私は欠伸を噛み殺しながら2人の様子を伺っていた。
やがて―
「あの・・・これって靴下のようにみえるのですけど・・・?」
店主の男性から靴?を手渡された私はアドニスと店主の顔を交互に見た。
「いえいえとんでもありません。お客様。これは立派な靴ですよ。伸縮性抜群で、絶対に砂が中に入って来ない素材です、しかも、靴底を見てください、足裏には頑丈なゴム素材が張り付けてあるので砂の熱さも尖った石ころを踏んでも痛くもかゆくもありません!何せ特殊な保護魔法が掛けられているのですからっ!」
という訳で靴下もどき?の靴を買った後は洋品店へ。
そこでも私は蚊帳の外。
またもやアドニスは私をそっちのけで、若い女性店員と私の砂漠へ行く為の服を選んでいるのだが・・・ねえ、アドニス。貴方気付いていますか?
どう見ても店員の女性は服を選んでいるというよりも、アドニスの顔ばかりぽ~っと頬を赤く染めて見てばかりで、ちっとも私の服を選んでいる素振りが無いって事を!
かと言って、私が2人の側へ行って服を手に取ろうとすれば、まるで邪魔者はあっちへ行ってろ!と言わんばかりの敵意を込めた目で睨み付けて来るし・・・。
「はあ~・・・。全く・・・。自分の買い物なのに・・私いる意味ないじゃない。」
本日8回目の欠伸をしたところで、ようやくアドニスが私の元へとやって来た。
「エリス、おまたせ。さあ、この服だよ。早速試着してみなよ!子供用サイズだからきっと問題なく着れるはずだよ!」
手渡されたのはシーツのようにダボッとしたワンピースにブカブカ過ぎるズボン?にフード付きのマントである。
それを見て思った。
これはもうサイズ等関係ない服だと・・・。
買い物が無事終了し、ホテルに着くと既に他の4名の『白銀のナイト』達は到着していたようでカフェで優雅にお茶とケーキを食べていた。
おおっ!これは何と美味しそうな・・・・。考えてみれば今朝はセクシー衣裳騒ぎで朝ご飯を食べ損なっていたんだよね~。
「ああ、意外と時間がかかったようだな。アドニスにエリス。」
エリオットがコーヒーカップをカチャンと置くと言った。
「うん。少し手間取っちゃったかな。何せ女性用の砂漠用の服を買うのは初めてだったからね。」
アドニスとエリオットの会話を他所に、私もウキウキと椅子に座ると・・・。
「さあ、エリス。早く着替えて来いよ。」
ジェフリーが私を見ると言った。
「え”?!あ・・・あの、今すぐですか・・・?」
嘘だよね?もう11時になるのに私朝ご飯すら食べていないんですけどっ?!
「ああ、『アルハール砂漠』は午後1時を過ぎると酷い暑さになるんだ。だからすぐに出発しないといけないんだ。」
アンディが説明をする。
言われてみれば・・・・『白銀のナイト』達はいつもとは全く違ういで立ちをしていた。
全員がターバン?を被り。頭からすっぽり覆うマントを被っている。
「さあ、エリス。早く着替えておいで。何なら・・・着替え手伝ってあげようか?」
さり気なく耳元で恐ろしい事を言うアドニスに鳥肌が立ってしまった。
「だ、大丈夫ですっ!ひ、1人で着替えられますから皆さんは絶対にここから動かないで下さいね?!」
そしてアドニスが買ってくれたまるでカーテン?のような服を抱えると急いで自分の泊まっている部屋へと向かった―。
「うわ?この服・・・どうやって着るのよ・・?・・・ええ・・っ?!本当に子供用なの?これ・・・。」
独り言を言いつつ、悪戦苦闘する事20分。ようやく着替えが終わって皆の元へ戻ると、何とアドニスまで紅茶にケーキを食べているでは無いか。
ず・ずるい・・・っ!
思わず恨めしい目で彼等の前で現れると、ナイト達が私を見て立ち上がった。
「う。うむ・・・。エリス。まるでカーテンを着ているようで・・・そ、その凄く良く似合ってるぞ?」
エリオットが顔を赤らめながら私に言う。
「うん、まさに・・布にぐるぐる巻きに包まれたような・・・その着こなしは・・・素敵だよ?」
アンディは口元を手で隠しながら照れている。・・というか、何故照れる?!
「エリスはスタイルがいから何を着ても良く似合うな?」
ジェフリーは言うが・・・こんなの布切れで全身を覆われているのにスタイルも何も分からないと思うのだけど・・・?
「エリス・・・。やっぱりお前は背が低いから・・な、何を着ても可愛いぞ?」
ようやくアベルは二日酔いが納まったのか。私の右手を取るとうっとりとした目つきで言う。
が・・・『白銀のナイト』達に中で一番背が低いアベルに言われてもねえ・・・?
そして最後にケーキを食べ終えたアドニスが私の前にやって来ると言った。
「うん、やっぱりこの衣装を選んで正解だった。エリスにぴったりだ。」
そして笑顔で言うが・・・。そんな事よりも今の私はお腹が空いて堪らない。
「あ、あの。私お腹が空いて・・・。」
しかし、言い終わる前にエリオットが私の正面にやって来ると言った。
「さあ、エリス。行くぞ。お前は俺のラクダに一緒に乗るんだ。」
「は、はい・・・。」
フレッドの次におっかないエリオットに言われては、私は素直に返事をするしか無かった。
こうして・・・私はすきっ腹のまま『アルハール砂漠』へ連れて行かれる事になるのだった。
く~っ!
こ、こうなったらさっさとコンピューターウィルスを駆除して、町へ戻ったらお腹一杯にご飯を食べてやるんだからねっ!
しかし、この後とんでもない目に遭ってしまうとはこの時の私にはまだ知る由も無かったのである—。
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