第28日目 死の砂漠から呼ぶ者は ④
「ベソッ!ノッポッ!いるんでしょう?!」
管理事務局の入口をドンドンとノックしながら中にいる2人に呼びかける。
待つ事約1分―。
「エリスさん・・・またですか?今度は一体何の用なんですか?」
ガチャリとドアを開けて顔を出したのはベソ。露骨に嫌そうな顔を隠しもしないベソを見て思わず1発引っぱたいてやりたい衝動に襲われたが、イケメンなので許してやろう。
「ちょっと中に入れて貰うわよ。」
ベソの許可を得られないまま、スルリと部屋の中へ入りこむ私。
「うわああっ!何を勝手に入って来るんですかっ?!」
中へ入るとそこにはノッポが朝食を食べている姿が目に入った。しかも食べていたのは・・・・。
「ああっ?!そ、それは横田屋の『納豆焼き魚定食』じゃないのっ!ずるいっ!私も食べたいっ!あ・・・ベソッ!貴方のは『麦飯とろろサバ定食』!ど、どうやって手に入れたのよっ!」
「エ、エリスさん・・・・。ず・・・随分『横田屋』のメニューに詳しいんですね?常連さんだったんですか・・?」
ノッポが顔を引きつらせながら箸を置いて私を見る。
「胡麻化さないでっ!貴方達・・・今までずっと日本の定食屋の朝ご飯を食べて来ていたのね?!こっちはずっと白米生活から離れ・・・最近は親子丼を追いかけている夢まで見たばかりだって言うのに・・・っ!」
ずるいっ!この世界にやってきてもうすぐ1カ月。どんなに私が銀シャリに夢を抱いて来たか・・・ベソとノッポに私の気持ちなど理解出来まい。
「そ、そんな・・親子丼を追いかける夢なんて・・・。もしかして好きなんですか?親子丼ぶりが?」
ベソが恐る恐る声を掛けてきた。
「ええ、好きよ。好き。大好きよっ!夢に見る程に・・・っ!」
「誰を夢に見る程に好きだって言うんだい?エリス・・・。」
背後から何やら恨めしい声が聞こえてきた。一方ベソとノッポは青ざめた顔でこちらを見ている。うん?誰が後ろにいると言うのだろう・・?
私は背後を振り返り・・・・。
「ウキャアアアアアッ?!」
そこに立っていたのは恨めしそうな顔をしたトビーであった—。
「えっと・・・つまりはエリスさんが心配だから、今回の危険な任務を取り下げて欲しいと我々に進言しに来たわけですね・・・?」
ノッポが青ざめた顔のトビーと向かい合わせで椅子に座り、話をしている。
すると無言でコクコクとうなずくトビー。そしてそんな2人を私とベソは少し離れた場所から見守っていたのだが・・・・・。
「ねえ・・・・ちょっと・・・こんなPCだらけの部屋にトビーを入れても大丈夫なの?」
私はベソに耳打ちしながら尋ねた。
「あー。それなら大丈夫ですよ。彼等にはこの部屋の文明機器は全てフィルターを掛けて見え無くしているので何の問題もありません。ほら、例えばあそこに置いてあるPCですけどね、きっと彼には積み上げられた本にしか見えていないはずですから。」
「へえ~。それじゃ、あそこに置いてある冷蔵庫は・・・って何で冷蔵庫があるのよっ!ひょとしてあの中にはアイスとか入って・・・モガッ!!」
そこまで喚いた時、ベソに口を塞がれてしまった。
「モガ~ッ!モガモガッモガッ!!」
(こら~ッ!離してよっ!!)
「しーっ!エリスさんっ!落ち着いて下さいッ!どうするんですか?今の会話をあの彼に聞かれたらっ!ご自分の口で彼に説明出来るのですかっ?!」
うう・・・。確かにトビーは面倒臭い人物だ・・・。仕方が無い、ここは心を落ち着けて我慢してやろう。
私が大人しくなると、やっとベソは私の口から手を離して、囁いて来た。
「わかりましたよ、ポイントで手に入れられるアイテムで冷蔵庫を増やしておくので、後はご自分の判断で冷蔵庫と交換するかどうか決めて下さい。」
「ちょっと、タダでくれない訳?」
「無茶言わないで下さいよっ!そもそもこの世界はファンタジーな世界なんですよ?何処のファンタジー世界にヒロインの部屋に冷蔵庫があるんですか?」
「いいじゃないのよ、冷蔵庫位あったって。私だってたまに部屋でキンキンに冷えたビール飲みたい時だってあるんだから。」
「エリスさんっ!乙女ゲームの世界をぶち壊すような発言しないで下さいよ。我々の仕事は皆さんに夢を売る仕事なんですから。」
等と2人でボソボソ小声で言い争いをしていると・・・。
「おいっ!お前達・・。随分と仲が良さそうだな・・・?」
再び背後から殺気が込められた気配がして、私とベソは恐る恐る振り向く。
するとそこにはまるでベソを射殺さんばかりの鋭い目で睨み付けているエリオットの姿があるでは無いか!
「ヒイイイイッ!!ご、誤解ですっ!お、俺とエリスさんは貴方が考えているような間柄ではありませんっ!!で、ですから命だけはお・お助けを・・・っ!」
おおっ!ついにベソが本気で泣いてしまったっ!!
しかし・・・。エリオットは今度は何故か私を睨み付けている。
「エリス・・・・。こんな所で一体何をしていたのだ・・・?」
「あ・・・えっと、それはつまり・・・。」
助けを求める意味合いで私はノッポとトビーの方をチラリと見ると、なんと先程座っていたはずのソファに2人の姿が消えている。え?!一体何処に・・・?
慌てて視線を泳がせると、何と2人は机の陰に隠れて震えながら私とエリオットの様子を伺っているではないかっ!
クッ・・・あ、あいつ等~!
「おい、エリス。キョロキョロしていないで答えるんだ?お前はこんな所で一体何をしていたのだ?どれだけ皆でお前を探していたと思う?」
背の高いエリオットにジロリと睨まれるのは恐怖以外の何者でもない
「あ、あのですね・・・。じ、実は・・・討伐隊に参加するのが・・・こ、怖くて・・何とか・・メンバーから・・そ、その外して貰えないものかと・・お、お願いに・・・・。」
冷汗をかきながら口から出まかせを言う私。
すると・・・。
「な、何・・・?エリス・・・。そこまでお前は討伐隊に加わるのが不安だったのか・・?でも大丈夫ッ!安心しろッ!」
突然エリオットの態度が豹変した。
「エ・・エリオット様・・・?」
「安心しろ、エリスッ!何があっても俺が・・・お前を一番に守ってやるっ!エリスには髪の毛一本として触れさせないからなっ?!」
ガシイッと私の両手を握りしめるとエリオットが言う。
「は、はあ・・・。あ・ありがとう・・ございます・・。」
「よし、そうと分かれば出発だっ!お前達・・・邪魔したなっ!」
エリオットはベソと隠れているノッポとトビーに声を掛けると私の右手を握りしめたまま管理事務局を後にした―。
「あ、あのっ!まさか・・・もう出発するんですかっ?!」
エリオットに手を引かれながら尋ねてみた。
「ああ、そうだ。全員もう駅でエリスの事を待っているぞ?さっきエリスを見つけたと『白銀のナイト』の討伐メンバー全員に連絡を入れてあるんだ。」
そうか・・・彼等が指にはめている指輪は確か通信機能が付いた魔石が埋め込まれた指輪だったっけ・・・。等と考えている場合では無かったっ!
「ちょ、ちょっと待って下さいよっ!わ、私・・・何もまだ準備出来ていないんですよっ?!メイド服のまんまだし、着替えの準備どころか・・・手ぶらなんですっ!」
しかしエリオットは歩く速度を緩めずに言う。
「大丈夫だ、安心しろ。『アルハール』の駅に着いたら、エリスの必需品を全員で買ってあげる事に決めているんだ。この間お前の服を俺達が燃やし尽くしてしまっただろう?そのお詫びの印だ。」
「ええええ~っ?!」
そんな・・・せめてメイド服位着替えたかったのに・・。こうして私は何故かメイド服のまま、砂漠の国『アルハール』へウィルス駆除に行く羽目になるのだった—。
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