第21日目 海辺の町の攻防 前編

・・・・朝、目覚めて目の前の液晶画面の表示を眺めた私は思わず絶句してしまう。

は?

<『ロメリア』の町でウィルスが発生しました。>

それが一体何なのよ?


<明日、駆除に向かって下さい。>

今日も仕事はお休みなんですけど・・・・。


<よろしくお願い致します。>

な・に・が、よろしくよ~っ!!


すると、途端に液晶画面がピロリンと表示される。


『おはようございます。21日目の朝がやってまいりました。本日はお休みの処、害虫駆除を依頼してしまい、申し訳ございません。今から2時間以内に『ロメリア』へ向かって下さい。現地に着きましたら、迎えの者が参ります。

尚、今回の駆除に向かっていただきますのは、こちらで好感度を考慮致しまして、今現在、最も好感度の低い3名の白銀のナイトを向かわせることに致しました。どうぞよろしくお願い致します。』


うん?今一番好感度が低い白銀のナイトと言えば・・・。


アドニス・ブラットリー  20

エディ・マクレガー   -50

エリオット・レーン   -30


だったかな・・?よし、彼らの好感度を上げる事が出来れば、きっとこのバーチャルゲームの世界から抜け出すことが出来るに決まっているっ!


よし・・・では着替えて行きますかっ!!



『クロレンス』の駅から電車1本で行ける『ロメリア』。乗り換えなしで行けるのはいい事だけども、所要時間が約2時間。長い・・・・。


「いいや、電車の中で寝ていこうっと!」


駅のホームで待っていると、やがて、海辺の町『ロメリア』行きの電車がホームに滑り込んできた。


空いているボックス席に座り、ボストンバックを抱えると私はすぐに眠くなり・・コックリコックリ舟を漕ぎ始めた

・・・どのくらい経過しただろうか?

誰かが私を揺すっている。


「・・ス、エリス。ねえ、エリスってば!もうすぐ駅に着くよっ!」


え?な・何?!

慌ててガバッと起き上がり、見渡すと・・何と同じボックス席にアドニス、エディ・エリオットが座っている。そして私はアドニスに寄りかかるように眠っていたのだ。


「あ・・・!な、何故皆さんがここに・・・?!」


慌てて飛び起きる私。眠気なんかどこかに吹っ飛んでしまった。


「ああ、たまたま電車に乗っていたら見かけた人物が乗っていたからな。」


エリオットが言う。


「それに今日のモンスター討伐隊に・・・エリス。再びお前の名前がメンバーに上がっていたんだ。」


エディが腕組みをしながら私を見た。


「この発表があった時はね、すごかったんだよ。フレッドにジェフリー、アベルに・・・・そしてあのアンディまでが、ものすごい剣幕で反対したんだからね?何故エリスをそんな危険な任務につけるのだって。挙句にどうしてもエリスが討伐隊から除外されないなら、代わりに自分をメンバーに入れろって、誰もが騒いで譲らなったんだから・・・。それで公平性を期す為にって、名乗りを上げなかった僕たちが選ばれたんだよ?」


アドニスが丁寧に説明してくれた。まさか・・・そんな経緯があったとは・・・。


「あの・・・皆さん・・・本当に申し訳ございませんでした・・。私のせいで討伐隊に選ばれてしまったようで・・・。」


くうう~っ!こういう経緯があったと言う事は・・・彼らの好感度は下がっているに違いない。

私はこっそり腕時計を操作して、彼らのステータスを表示してみた。


すると・・・・


アドニス・ブラットリー  70

エディ・マクレガー   0

エリオット・レーン   20


え?嘘でしょう?目をこすって彼らの好感度を何度も確認してみても、同じ数値を表している。

な・・何故・・・?


あまりにも3人の頭上を凝視していたものだから、彼らが不審な目で私を見た。


「な・・・何だ?エリス。」


咳ばらいをしながらエリオットが声を掛けてくる。

ま、まずい・・・・。何とかごまかさないと!


「い、いえ。何でもありません。あの、私・・・足手まといにならないように頑張りますのでどうかよろしくお願いしますっ!」


そして頭を下げる。


「大丈夫、モンスターが現れても僕たちが相手にするからエリスは安全な場所に隠れているといいよ?」


アドニスはニコニコしながら私に言う。おおっ!流石好感度が70にもなると親切にしてくれるなあ・・・。


「・・・・そろそろ到着するな。よし、降りる準備をしよう。」


エリオットの言葉に私たちは立ち上がった・・・。




「エリスーッ!」


『ロマリア』の駅に到着するや否や、誰かがものすごい勢いでこちらへ向かって駆けよって来る。

え・・・?もしやあれは・・・?


「ニ・ニコルさんっ?!」


するとあろう事か、ニコルは私に駆け寄るや否や、いきなり抱きしめてきたのだ。


「「「ええっ?!」」」


その様子を目の当たりにしたアドニス、エディ、エリオットが同時に声をあげる。

いやいや・・一番驚いているのはこの私だから・・。


「ちょ、ちょっとニ・ニコルさん・・・。」


慌てて彼を引きはがそうとするも、ますますニコルは力を込めて抱きしめてくる。


「ごめん!エリスッ!昨日・・・海辺の洞窟にモンスター達が現れたから、急いで学園側に連絡を入れたんだ。そしたら明日、討伐隊を学園に送ると言われたから安心していたんだけど・・・そのメンバーの中にまさか・・・エリスが含まれていたなんて・・ごめんっ!エリスッ!」


そして肩を震わせてながらニコルは言った。

ああ・・・なるほど、そういう事だったのか・・・。


「ニコルさんっ!落ち着いて下さいってば!」


ニコルに強く呼びかけると、彼は顔を上げた。


「ニコルさん、私の実力を忘れたのですか?私には数々の武勇伝があるじゃないですか。ダンゴムシの害虫駆除をやったり、以前にもモンスター討伐に他の白銀のナイト達と行ったじゃないですか。それに巨大な蜂や食虫植物の駆除もやりましたよね?」


「た、確かにそうだったけど・・・。」

ニコルは顔を私に向けた。


それを聞くと、ギョッとする白銀のナイト達。


「だから、心配しなくても大丈夫です。さあニコルさん。そのモンスターが現れたと言う洞窟まで案内して下さい。」


「う、うん・・・。分かったよ・・・。ついてきてくれるかい?」


ニコルは私の顔を見た。そして次に白銀のナイト達にも言う。


「皆さんも・・・一緒にお願いします。」


そして私たちはニコルに連れられて、モンスター・・・もといコンピューターウィルスが現れたと言われる洞窟へと案内された。


「それにしても・・本当に素敵な処ですねえ。『ロメリア』って。」


被っていた麦わら帽子を風に飛ばされないように抑えながら私は笑顔でニコルに言う。


「・・・。」


しかしニコルは何故か私の顔をじ~っと凝視したまま答えない。


「ニコルさん?」


「あ、エ・・・エリス・・・。あの・・・さ、モンスター退治が終わったら・・・。」


その時、エリオットが声を上げた。


「おい!あれじゃないのか?海辺の洞窟というのは・・・?」


彼が指さした先には・・・白い砂浜の近く崖がそびえたち、そこに巨大な横穴が開いている洞窟が私の目に飛び込んできたのだ。




「それで、洞窟の中にはどんなモンスターが現れたんだ?」


洞窟の中に入る前にエディがニコルに尋ねた。


「はい、クラゲのモンスターです。」


「「「「クラゲ?」」」」


私達は声を揃えてニコルに尋ねた。


「そう、クラゲです。」


「クラゲ・・・とは、海に浮かんでいるあのクラゲか?」


エリオットが眼鏡を上にあげて尋ねる。


「はい、そのクラゲです。」


「あの透明で・・・フワフワ漂っている?」


アドニスの質問にニコルは言った。


「はい、彼らは空中を漂っています。」


「刺されると・・・痺れちゃうあのクラゲ・・・?」


私が尋ねると、ニコルはものすごい速さでこちらに振り向き、私の両手をガシイッと握りしめると言った。


「そう!あの痺れるクラゲだよっ!ああ・・・。エリス。俺は心配でたまらないよ。もしもエリスに何かあったらと考えると・・・。」


すると、そこへエリオットが現れて、ニコルから私の手を払うと言った。


「心配するな。我ら『白銀のナイト』たちが一緒なんだ。エリスにはモンスターに近寄らせない。よし、それでは・・・行こうか?」


そして私達一行はクラゲ退治?に洞窟の中へと足を踏み入れた―。








































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