第16日目 攻略対象からの呼び出し 前編

『おはようございます。16日目の朝が始まりました。昨日はコンピューターウィルスの駆除にご協力頂き、ありがとうございます。お礼に2000ポイントを贈呈させて頂きます。今後もコンピューターウィルスの駆除のご協力を何卒宜しくお願い致します。それでは本日も頑張って下さい。』


「・・・。」

やれやれ・・・私の予感は当たった。今後は定期的にコンピューターウィルスの駆除の依頼が入って来ると言う訳か・・・。出来ればその時は好感度の低い攻略対象者に同行をお願いしたいな。そうだ、後で時間が取れれば運営管理局・・?とかいう急ごしらえで作った部署にいる『ノッポ』と『ベソ』を訪ねてみよう。彼等に次のモンスター討伐の際は好感度の低いキャラを選抜して欲しいと・・・。


時計をチラリと見ると、後10分程は時間に余裕がありそうだ。ここで一度各キャラの好感度を確認しておこう。


フレッド・モリス    180

アベル・ジョナサン   130

ジェフリー・ホワイト  125

アドニス・ブラットリー  20

エディ・マクレガー   -50    

アンディ・スチュワート -90

エリオット・レーン   -100  


だ、駄目だ・・・。エディにアンディ、エリオットは最未だにマイナス。エディはまだ何とかなるとして・・・最悪なのがアンディにエリオットだ。

アンディにはオリビアが常に張り付いているし、エリオットに関しては相手にすらされない

そして、モブキャラの方は・・・


オリバー・ヒューストン  20

トビー・ウッド      115

ニコル・ストーン      50 

ダン・スナイダー     110


う~ん・・・この際、アンディとエリオットの好感度はもう隅へ置いておいて、他のキャラ達の好感度をオリビアよりも上げればOKって事にはならないのだろうか?


「よし、今日の仕事の合間に『ノッポ』と『ベソ』の所に話をしに行って来よう!フフフ・・きっと美味しそうなランチでも持って訪ねれば・・・うまくいくはずよ・・。」


そして私は高笑いをするのだった―。




「お早うございます!」


今朝もいつものように最初の朝の仕事である厨房へ行き、元気よく挨拶をするとガルシアが声を掛けてきた。


「よう、おはよう。エリス。今朝も元気だな。所で昨日の「モンスター討伐」大活躍だったらしいな?お前みたいなか弱そうな女が大したもんだって仲間内で褒めてたんだぜ?」


ニヤリと笑みを浮かべながらガルシアが言う。


「ほ、本当ですか?それじゃ・・・皆さん、ようやく私を認めてくれたんですね?!」


「ああ、当然だろう?と言うか・・・この間の害虫駆除で、お前の株は上がってるんだぜ?」


「そうだったんですか・・・?」

何だ。ちっとも知らなかった。そういえば、今まで挨拶をしても無視されていた他の従業員達から挨拶をすれば返事が返って来るようになっていたっけ・・・。


「それじゃ・・・皆さん、ようやく私を仲間として認めてくれるようになったって事ですかね?」


「ああ、そうなんじゃないか?もっと自信持った方がいいぞ。ほら、今朝の仕事だ。トマトを洗ってヘタを取ってくれ。その後はジャガイモの皮むきだ。」


「はい!了解ですっ!」


大袈裟に敬礼すると、早速トマトの皮を洗いはじめ・・・まだアンが来ていないので尋ねてみた。


「ガルシアさん。今朝はアンの姿がまだ見えない様なんですけど?」


「ああ・・。実は昨夜・・・アンの奴・・カゼを引いちまったんだよ。かなり高い熱で・・・今日の仕事は休みになったんだ。だから悪いけど、エリス。今日はアンの分まで頑張ってくれよ。」


ガルシアは申し訳なさそうに言う。


「ええ、それ位お茶の子さいさいですよ。それより・・・アンが心配だな・・・。仕事が終わったら夕方、様子を見てきますよ。」


「ああ。悪いな。そうしてくれると助かるよ。」


ガルシアがほっとした表情を見せる。

うん・・・アンは・・・ガルシアに愛されているんだなあ・・・。

私の心は少し、ほっこりした気分になった。


 

 厨房の仕事が終わり、朝食を食べに久しぶりに職員食堂へと向かった。

今迄はアンが一緒だったので、ガルシアと3人で厨房で食事をしていたのだが、アンがいないのなら職員食堂で食べた方が良さそうだと思ったからだ。

それに・・・最近は職場の皆が私の事を認めてくれているらしいから、多分・・・問題は無いだろう・・・。

しかし、それは失敗だとすぐに思い知らされる事になった・・・・。




「エリス。君の為に今朝もスペシャルなドリンクを用意したんだよ?今度はちゃんと君のアドバイス通りにミントの葉を冷たい水のボトルに入れて、香りを一晩馴染ませておいたんだ。どう?美味しいかい?」


猫なで声の甘ったるい声、潤んだ瞳でトビーはグラスに入った水を差しだしてきた。


「は・・・はい・・・。どうもありがとうございます・・・。」

私は引きつった笑みを浮かべながら水の入ったグラスを受け取る。

そしてそれを黙って見ていたダンが突然立ち上がると、皿にフルーツを乗せて持って来ると私の前に置いた。


「エリス。朝のフルーツはとても身体にいいんだ。今日も大変な仕事が待っているだろうから、これを食べて力をつけろ。きつい仕事があれば俺に言え。出来る限りお前の力になってやるから。」


するとトビーが口を挟んできた。


「おい、ダン。お前の今日の仕事は牧場に行って、新しい柵を作って来る仕事だろう?朝から夕方までずっと牧場にいるんだから、お前がエリスの力になれるはずは無いんだ。いい加減な事を言うな。」


「何だと?」

「やる気か?」


ダンとトビーが私の隣の席で激しく睨み合いをしている。・・・どうでもいいけど喧嘩なら他でやってくれないかな?他の人達がドン引きした目でこっちを見てるじゃ無いの。

チラリと2人を横目で見ると、未だに激しい睨み合いをして私の事等眼中にないようなので、自分の食事のトレーをこっそり持って席を移動した。


 一番端っこの目立たないテーブルで食事をしていると、向かい側に誰かが座って来た。顔を上げるとそこにいたのはニコルだった。


「おはよう、エリス。初日以来じゃないか?お前がここで食事するのは。」


「おはようございます、ニコルさん。そうですね。私はここにきて15日目だから・・丁度2週間ぶりですかね?」


すると神妙な面持ちでニコルが言った。


「なあ、エリス・・・。お前、アンとガルシアが付き合ってるのは知ってるか?」


「はい、知ってますよ。」


「そうか・・・なら・・恋人同士の2人きりの時間に・・・お前がそこにいるのはどうだろう?」


「へ?」


「い、いや・・だから、朝の時間くらいはアンとガルシアを2人きりにさせてやったらどうかなと思ったんだが・・・。」


ニコルは俯きながら言う。

うん・・・。成程・・・。

「確かに・・・言われてみればそうかもしれませんね?」


「だろ?そう思うだろう?」


「はい。それじゃ私、今日からは朝食は別の場所で取る事にします。」


「へ?」


「食事が済んだら、すぐに学生食堂の食器の後片付けに行かないとならないので・・・朝食をバスケットにでも詰めて、学食の厨房で食べますよ。そしたらすぐに仕事に取り掛かれますしね。」

うん、ナイスな考えだ。


「いやいやそういう意味じゃ無くて・・・出来れば朝食はここで・・・皆で一緒に食べないかと思って・・・だな・・・。」


「はあ・・・・。でも迷惑じゃないですかねえ?ほら。あそこでトビーとダンが睨み合ってるじゃないですか・・・。」


「あ、ああそうだな。」


「何か私が原因みたいなんですよ。」


「うん・・・。」


「職場の雰囲気を壊したく無いので、だから私はここにいない方が良いのかなと。」


「ば、馬鹿な事言うなよっ!エリス。よ、良し、分かった。俺からあの2人に言っておく。喧嘩はするなって。」


「あの、それではこう言って貰えますか?『お互いに争いを避ける為に不必要にエリスに近付くなって。』」


「ああ、それは確かにいい考えだな?よし、あの2人には良く言っておくからお前は安心して食堂に食べに来いよ。」


そしてニコルは意気込み勇んで睨み合いを続けているトビーとダンの方へと向かったのである・・・。

ふう・・・これで落ち着いて食事出来るかな・・・。


 食事を終えた私は急いで学生食堂の厨房へと向かった。

そう言えばここの所、レベルは上がったけど、スキルポイントを割り振っていなかったから、大分ポイントがたまっていたっけな・・・。何か食器洗いに有効なレベルが無いか厨房に着いたら調べてみよう。

等と考えていたら・・・運が悪い事に前方からオリビアが2名の友人と歩いてくる姿が見えた。

げげっ!ま・まずい・・・っ!まさかこんな時間に厨房に向う廊下で会ってしまうとは思わなかった。てっきりとっくに食事が済んでいるかと思っていたのに・・・。

下を向いて通り過ぎようと思ったが、そうはいかず・・・。


「あら、エリス・ベネットさんじゃありませんか?」


わざとらしくフルネームで私を呼び止めるオリビア。


「え?まさか・・・あのエリスさん?」


大人しそうな女子学生が意外そうな声を出した。うん、知らない顔だ。よしモブキャラだな。


「まあ・・・噂には聞いていましたけど・・・本当にメイドになっていたんですね?」


もう1人は少し釣り目の女性だが・・やはりゲーム中では見た事が無い。


「ええ、そうなんですよ。エリスさんは爵位を剥奪され、家族から縁を切られてしまいましたが・・白銀のナイト様達の温情でメイドとしてこの学園に置いて貰える事になったんですよ。」


「まあ・・・。そうなんですか。でも・・凄いですわね。私だったら・・・恥ずかしくてこの学園にいられませんけど・・・。」


「ええ。そうですね。ある意味尊敬に値しますね。」


女子学生A,Bは私を見下ろしながら何処か小馬鹿にした目で話しかけて来る。


「あの、それより急いでいるのでそろそろ良いでしょうか?これから食堂に食器を洗いに行かなくてはならないので。」


私が平然と言うと、不機嫌になる女子学生達。


「ま・・まああ・・・。私達が暇だと言いたいのですか?」


「爵位を剥奪された身分のくせに・・・。」


「おちついてください、2人とも。食器洗いは確かに卑しい身分の者達がする仕事ですが・・・この学園に残る為に頑張る姿勢は偉いと思いませんか?」


オリビアは友人2人に言う。後半部分はまともな事を言ってるようにも聞こえるが・・・結局それってメイドの仕事を馬鹿にしているようにも聞こえるんですけど?


「あの、食器洗いは必要な仕事です。誰かがやらないとならない大事な仕事ですよ?

全く卑しい仕事だとは思いませんけど?」


すると背後から男性の声がした。


「俺も別に、食器洗いは卑しい身分の仕事だとは思わないが?」


オリビア達は私の後ろに立つ誰かを見て驚いている。

うん?誰だろう・・・?振り向いてみると、そこに立っているのはエリオットだった。


「エリオット様!!」


オリビアが口元を押えた。


「久しぶりだな、オリビア。最近ずっとお前に会えなかったから、どうしていたか気になっていたんだ。」

 

そうか・・・最近はオリビアはアンディとばかりデートしていたからね。


「それは申し訳ございませんでした。色々忙しかったものですから・・それでは今度の休暇はご一緒しませんか?」


オリビアは笑顔で言う。


「いや、結構だ。それよりベネット。」


「はい?」

う!!何故そこで私の名を呼ぶ?


「昼休み・・・何か用事でもあるか?」


「い、いえ・・・。特には・・。」 


「そうか、なら昼休みに風紀委員室に来てくれ。」


「「え?!」」


私とオリビアが同時に声をあげた瞬間だった・・・。

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