第29話 ユストゥスの年上婚約者

 1学年の教室では噂が飛び交っていた。


「今日、新しい男子剣術指南の先生が来るんだってさ!」


「ああ…王子が前の剣術授業で前任のフロイント先生に軽く相手したら骨折しちゃったもんね…」


「フロイント先生の治療はヴィル王子がその場で治療したけど、教師として自信なくして辞めちゃったんだよな」

 という噂にグサグサくる。す、すいませんフロイント先生!!ついテオドール叔父さんとの違いに手加減忘れたりこないだシーラの誕生日プレゼント考えてボーッとしてたからなぁ。子供に負けるなんて屈辱だったよな。


「王子、次の新任の剣術先生には手加減を」

 とザシャは釘を刺す。


「わかってるさ」

 するとユストゥスは


「いいなぁ、ヴィルさんは…赤髪の一族なんて憧れます。それに奇跡の力もあるし女性にはモテるし!!」

 訓練場に男子3人で向かいながら話す。


「ユストゥスは肌も白いしもうちょっと鍛えろよ」


「はぁ…まぁ僕、上に2人姉がいるんですが意地悪で子供の頃女装させられたりしたんですよー…。嫌な思い出ですけど」

 とユストゥスは暗くなった。


「わ、悪かった…ユストゥス…気にすんなよ。俺たち成長期だろ?これから伸びるって!」

 と言うとユストゥスは


「こないだ僕起きたら髭が一本生えました」


「あ、生えてましたね、ふふ」

 とザシャは笑う。


「そっかそっか良かったな…」


「ええ?ヴィルさんもザシャくんももう生えてるの?何その温かい眼差し!辞めてくださいよぅ!」

 と恥ずかしがるユストゥス。


「俺もザシャもそんなに濃くねえからな…起きても全然目立たない。ウブ髭だよ、レオンは…ボーボーだよ」


「「えっ!!ボーボー!!?」」

 ザシャとユストゥスは驚いた。一応レオンはヘルマの皇子だし一応イケメンなのにボーボーと言われて驚いている。


「まぁちょっと考えれば判るがあいつは超ドスケベだからな。やらしい奴ほど濃いらしいぞ」


「それ僕がやらしいってことですかぁ!?」

 と涙目になるユストゥス。いやお前はそれなりにむっつりだろ。


「まぁ王子は赤髪の力で髭剃るのめんどくさくて伸びないようにコントロールしてるんですよ。髪の毛が伸縮自在ですからね。髭でもそういう便利なことも出来るんですよ。フェイト様も似たようなものです」

 とザシャが説明すると


「ええっ!!?いっいいなぁ!!そんな便利なことしてんですか!」

 いや髭剃りがめんどくさいのは事実だけどな。もう便利とか通り越して当たり前になってるから朝起きても楽である。


「と話してるうちに訓練場に着きましたよ。とりあえず新任の先生待ちましょう」

 と生徒達が集まってる中に俺たち3人も向かった。レオンも来ていて友達と女の落とし方について話していた。


(あれがボーボーか…)

 とまだユストゥスはレオンを見て考えていた。


 すると向こうから訓練服を着た女性が歩いてきた。その胸は物凄くでかい!乳が歩いてんじゃないかってくらい揺れていてザシャと俺以外の男子は一斉に


(デカイ!!!)

 と心の声が聞こえた。思春期男子の刺激凄えな。俺はもうそういうのいいわ。精神大人だし。


 その先生は薄い白茶の髪の毛は男子のように短くて日焼けした浅黒い肌でパッチリとした黒目の活発な女性訓練教師だった。左手には剣を持っていた。


「皆さんよろしく。今日から男子の訓練教師になる、マルグレート・シュッツェだ!よろしくな!私は騎士の家系で幼い頃から剣をー…と貴様何をしている?」

 とシュッツェ先生にひざまづいているレオンが綺麗な顔で誘惑した。


「私はヘルマ帝国の第三皇子レオン・イヌマール・イーヴォ・トール・ディットリヒと申します。貴方のようなで…魅力的な方と出会えて良かった!是非個人レッスンを申し込みたい!!」

 と早速ナンパしている。


(デカイ!デカイな!顔埋めたい!!よしっ埋めよう!!)

 とレオンは欲望剥き出しだが、他の男子も似たようなものだった。

 しかしユストゥスは…


(ん?シュッツェ?あれれ?いやまさか…そんなことはないよね…先生だし…)

 とちょっと怯えたように先生を見ていて先生はレオンから離れて生徒を見渡した。


「えー、この中にユストゥス・ケストスくんはいるかっ!?」

 と言った!


「!!」

 ユストゥスはビクっとした。

 それに先生はキラリとユストゥスを見て彼の前に移動して見下ろした。


「君かい?私の婚約者は?」

 と言ってユストゥスも皆も目を丸くしてしまった。


「え?あ…あの…ひひひ人違いでは…」


「いや、君だろう?スマホなんて便利なものができてね、実は君の姿は確認済みだったのさ!」

 と先生はユストゥスを見つめた。その表情は恍惚で


(可愛い可愛いなおい!私の可愛い婚約者!やっと会えたぞ!うおおおおおお!!撫でくりまわしたいいいい)

 と心の中で吠えている。何だこの先生。


 対するユストゥスは


(ひっ!やっぱり僕の婚約者なのか?シュッツェ家って聞いたからもしかしてって思ったけど…くっ!胸デカイな!!)

 と最後はやはり胸デカイとか考えてたわ。


 するとシュッツェ先生は


「ユストゥス!君にだけは私をマルと呼ぶことを許そう!私もユシーと呼ぶ!いいね!?」


「ええっ!?ユシー!?ですか?」

 途端に赤くなるユストゥス。

(そんなっ、いきなり愛称呼び?)


「そうだよユシー!私達は婚約者なんだからっ!!」

 ユストゥスは恥ずかしくて堪らなくなった。全員ユストゥスと先生を見てたからこの後噂になることは間違いなかった。


 そしてシュッツェ先生の訓練は激しかった!!男勝りもいいところというか流石騎士団の娘というか女にしては強くて俺も手加減を辞めて本気で勝てる相手だった。


 剣を弾き飛ばされた先生は


「やるな!ヴィルフリート王子!!流石赤髪の一族の血を引いている!これは私でも勝てんな!はっはっはっ!」

 と豪快に笑う!本当に女かっ!?

 ちなみにユストゥスは…隅っこにちょこんと座っていて周りにレオン含め先生に倒されたものは地面で呻いていた。

 先生は剣を置いてユストゥスに駆け寄ると


「やあ!ユシー!どこか怪我はないかい!?血は出ていない!?君の白い肌に傷がついたら私はもう生きていけない!!」

 と言った!何だそれは!?過保護か!?過剰愛か!?

 ユストゥスも赤くなり


「あの…先生…いえ、マル先生…あの僕まだ剣を持ってないんですけど…」

 と言うと先生はユストゥスの肩に手を置いてにんまり笑った。


「ユシー!君はこんな重い剣を持たなくていいよ?大丈夫!剣の成績は私がいいようにしておくからっ!」


「えええっ!?いいようにって…」

(何だこの人ー!おかしいよ!絶対におかしい!!)

 流石にユストゥスも引いたな。

 だが先生は


「任せておきなさい!私に全て!君は私が全身全霊をもって守ろう!!君は…可愛い君は!!私のプリンセスなんだからねーーーー!!!」

 と恍惚な表情で叫び、ユストゥスはブルリと青くなった。


 ザシャと俺は顔を合わせて


「ユストゥスもヤベエ婚約者に狙われてんな…」


「最近の女性はグイグイ来るんですかね?それに比べてミリヤム様はほんと可愛いです」


「いや、今ミリヤムのこと言ってねえ」

 その後、学院内で何かとユストゥスがシュッツェ先生に追いかけ回されるのを何度か見ることになった。

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