第5話 婚約者のお披露目

俺とシーラの婚約が正式に決まったので社交界デビューも兼ねて夜会でお披露目することになった…。他国からもたくさん来賓が来るし奇跡の王子の婚約者は誰かと興味深い奴もいるだろう。


しかも俺はシーラにドレスを贈らないといけない。婚約者としての決まりだから仕方ない。とりあえず蒼い色のドレスにした。シーラの金髪なら蒼がいいだろうし?一応俺の瞳の色だ。赤いドレスは目立つだろうしな。赤いアクセサリーだとドレスとちぐはぐで何かおかしくなるから蒼と赤の中間色の紫色のアクセサリーを贈っといた。


俺は女のドレスやアクセサリーにさほど興味がない。あるのはやはり父上の前世の物でそれを想像して形にする…つまり工作みたいなことが好きだった。カメラもスマホもそれだし。父上の言う前世での電気とかは光の精霊のウィルとを呼んだら大体何とかなる。


まぁそんなわけで俺が服装に頓着してボケーっとしてるとお披露目の夜会の日は近づいて来た。学院の帰りに馬車でシーラと向かい合い


「ヴィル…あの…ドレスありがとう!ヴィルの瞳の色素敵…アクセサリーは…紫色だったね?赤じゃないのね?」

やはりそこか。


「だって蒼いドレスに赤いアクセサリーだと色彩感覚的にどうかと思うから中間色にしたんだよ。紫色嫌なら自分でなんか選べよ」

と俺はプイと横を向いた。


(嫌じゃない…ヴィルがくれたもの嫌じゃない…ヴィル私の為に一生懸命考えてくれたのかな?はぁ、好き)

と心の声が聞こえる。やべえ。別に一生懸命じゃねぇし!結構適当にデザイナーに任せきりだったから俺デザインあんまり見てねーし!や、やべえ薄情だったかな…。今作ってる自転車とか言うのに夢中だったからつい…。


「と、とにかく明日の夕方からだから…お前遅れんなよ!?婚約者が遅刻なんて恥だからな!馬車は王家から迎えを出す。それにファーストダンスも踊らなきゃいけないし…大丈夫か?」

するとちょっと涙目になるシーラはいきなり制服の白ニーソをずり下ろした!


「ぎゃっ!お前何こんなとこで脱いでんだ!あほ!」

俺は赤くなり目を背けたがシーラは


「練習でいっぱいこけちゃって痛いけどなんとか大丈夫…」

とよく見ると両膝が青痣だらけの内出血だ!どんだけこけまくったんだこいつ!

俺はため息をつき、シーラの膝に手をかざして治して痣一つない綺麗な膝になる。


「あ、ありがとうヴィル!」


「怪我をしたなら我慢しないで言え!全く!!」


「ご、ごめんね、でもヴィルも何か作ってて忙しそうだったし、私も練習や言葉遣いとかマナーとか覚えたり忙しくて…」


「ああ…そうだな…でも痛いのを我慢したままなのは悪化したりする可能性もあるんだ。病気だってそうだろ?」


「うん、今度から言うね」

(ヴィル!私を心配して!!す、好き好き好き好き…)


だああ!こいつわざと心読まれるの判ってて言ってねぇ?こっちが照れるし!くっそ!絶対俺の心は読ませないようにしよ!


シーラはもじもじしながら


「明日楽しみだね…ヴィルと踊るし…」

ダンスかあ、あまりそれも興味ないけど俺も一応王子なのでその辺りはさらっと練習してマスターしたんだよな。俺天才ですから。だがなぁ、シーラとの身長差が悔やまれるな。笑われたらやだなあ。


そんなことを思っているとあっという間に当日を迎える。


俺は黒い隊服に金の刺繍模様の施された正装をし相変わらずボヘーっと早く終わらないかなぁってまだ始まってないのに思っている。来賓の挨拶をしていると下が騒がしくなる。


「王子!シーラ様着いたみたいですよ!迎えに行って!」

とザシャに言われる。


「シーラなんか毎日会ってるのに。ドレス着てるだけだろが」

と言うとザシャは


「はあ…この王子は…」

と呆れる。何だよ。俺はシーラを迎えに階段を降りるとそこには…


蒼いドレス…胸元は控えめにデコられた蒼薔薇が飾られフリルとともにフンワリさせた可愛らしいデザインで首や耳に紫色の宝石のアクセサリーを付け、金色の髪はアップにされてほんのり化粧をしたとびきりの美少女がいて俺は固まりかけた。一瞬心のシャッターが開きそうになり慌てて制御した。


やべえ!!も、物凄い可愛い!誰だこれ!?シーラだ!俺の婚約者だ!何だこれ!こんなの他の男が見たらヤバイ!

だが既に見られている!!


(おいなんだ?誰だあの美少女!!)

(かっ可愛い!!踊りたい!!いや俺と婚約してほしい!)

(ぐはあっ!!惚れた!!連れて帰りたい!)

(これは運命に違いない!)

という男共の声に対し


(何あの女…ちょっと可愛いからって調子に乗って!)

(ふ、ふん!私の方がギリギリ勝ってるわ!)

(くっ悔しい!!そ、そうだ!あの女にジュースでも引っ掛けてドレス汚してやればいいわ!)

と嫉妬する女共の声。


はあ。人って奴はよぉ…。


シーラは俺に気付くと


(ヴィル…ああ…何てこと!?どうしよう!!す、すすす凄く素敵!王子様みたい!!あっ!王子様だった!!ど、どうしよう好き!)

と赤くなっている。

俺もちょっと赤くなり


「シーラ…ようこそ…ホールはあっちだぞ…」

と言うとザシャがヒソヒソ突っ込んだ。


「王子!褒めんかい!!」

くっ!褒めろだと?くうっ!!


「えっとまぁ…その…似合ってんじゃねぇの?良かったな…」


「あ…うん、ありがとうございます…」

とシーラはカーテシーをした。


(綺麗にしてきたけどやっぱり私はダメだな。ヴィルには綺麗に見えないのかな…)

と心の声にたまらなく


「綺麗だ!今日は!!」

とだけ言った。

後はプイと横を向き腕を差し出しエスコートする。


(ヴィルが今綺麗って…言った!!あ!何てこと!?スマホとか持ってくれば良かった!!)


「ヴィルも凄く素敵ですわ!今日はよろしくお願いしますね」

とシーラは礼儀正しい口調で言う。鍛えてきたな。


廊下を歩くと視線が痛かった。シーラや俺に向けられる視線だ。


お披露目会が始まり父上の適当な挨拶も終わり

シーラを紹介した。ザワザワと会場内が騒がしくなった。


(あの美少女が!ヴィルフリート王子の婚約者だと!?)

(くっそー!お似合いすぎる!!でも踊れるかなぁ!?)

(あ、あの女がヴィルフリート殿下の婚約者ですって!?きいいいいっ!)

(次の夜会では毒と魅了の薬を盛らないとダメね!)

とどっかの令嬢やら令息やらの心の声が聞こえるが音楽が鳴り始めた所で


「い、愛しい婚約者様…お、俺と踊っていただけますか?」

ととりあえず形式に乗っ取り手を差し出すとシーラは赤くなり手を取り


「喜んで!ヴィル様!」

と思わずうっとりする微笑みで俺は内心死にかけた。だが気を強く持ち1曲目を優雅に踊る。身長差が少しあるが完全に見つめ合い俺はシーラから目が離せなかった。こんなことは初めてだ。いつもと同じだと思ってたのに…。


綺麗だ。シーラ…。何だこれ。なんなんだ。そりゃいつもシーラのことは好きだ。だけどなんだこれ?まるでもう一度恋に落ちたみたいに。そんなことあるか俺のあほ!二回も同じ相手に恋に落ちるとか。


曲がとうとう終わり指が離れた。

男たちは目をぎらつかせて次は絶対に俺が踊るとスタンバイしてるようだ。

まずい。


「シーラ!!」


「?何でしょうかヴィル様」


「もっ…もう一曲!!」

それに周囲がまたざわつく。


(ええええー!王子ズルイ!!)

(くっそー!何で俺は王子に生まれなかったんだ!?)

とか聞こえるざまあみろ。


「よ、喜んで!!ヴィル様っ!!」

シーラは


(ヴィル!優しい!慣れない夜会で私がとちらないよう付いててくれるんだ!嬉しい!好き!ダンスもヴィルとなら踊れる!!)

と喜んでる。いや、そうじゃない…シーラ…俺はずっと踊ってたいお前だけと…。


2曲目が始まり俺はまたシーラと見つめ合い踊った…。

心の中が熱かった。

シーラが…好きだ…。


それから何とかシーラに近づこうとする男や女の嫉妬からシーラを守りとにかく俺はシーラと一緒にいた。父上はニヤニヤしながらそれを見ていてちょっとムカついたが。


夜会がやっと終わりシーラも帰る為に馬車へと送った。はぁ、やっと終わるな…。しつこく変な男がシーラを自分の馬車へ乗せてしまおうと言う奴もいたので公爵邸まで俺はそのままシーラを送ることにして馬車に同席した。


「一人で帰れるよ?」

と首を傾げるが


「いや…まぁ父上が送ってけってうるさいんだ!」

ととりあえず父上をダシにした。


「ジークヴァルト陛下もお優しいね!」

とシーラは笑う……。はぁ、あほめ。お前を狙ってる男がどんだけ今日で増えたと思ってんだ!


「シーラ!ちょっとは警戒しろよ?お前見た目はその…」

と言いかけて詰まる。可愛いなんて言ったら!!


「何?ヴィル…」

(もしかして可愛いと思ってくれてる?…うう、そうだったら嬉しいのに…)


その時ガタンと馬車が揺れて俺はシーラの胸にダイブしてしまった。ひいいっ!


「すみませーん!道が悪くてー」

と御者の声がした。気を付けろ!馬鹿やろおおお!


「ヴィル…大丈夫!?」

俺は真っ赤になり上を見上げてシーラにキスしていた。


(はうっ!?)

シーラは驚いて思考が停止した。俺から自発的にこんなことは無かったから。俺もよくわからない。

結局それからすぐ離れて俺はプイと横を向いたまま公爵邸に着くまで黙っていた。シーラは思考停止したまま固まったままだった。

公爵邸に着きペイっと馬車から下ろして俺は


「じゃあなっ!」

とだけ言って帰ったのだった。

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