都市伝説

第1話

何気ない、何もない日常だった。



勉強も、恋も、部活も、

何をしても普通以上の何にも

なれやしない、平凡な人間。



退屈な日常に飽き飽きして、

でも変わるのは怖くて。



何も出来ぬまま、高校2年生になった。





クラス替えをしてからは、クラスに知っている人はほとんどいなくなってしまった。



見渡す限りの知らない人。



クラス替えから一か月経った今でも、

ほとんど顔と名前は一致していない。



アウェイな空間だな、とつくづく思う。





でも、少しだけ。



嬉しい奇跡があった。




「瑞季~お弁当食べよ!」




親友の安藤美咲あんどうみさき

同じクラスになれたことだ。



友達の少ない私にとって、

中学から同じな美咲と離れずに済んだことは喜ばしいことだった。



フレンドリーな美咲といれば、

このアウェイな空間にも

馴染むことが出来る。



友達は増えないけれど、美咲がいればそれでいいとまで思っていた。




「いいけど、そろそろ自分の椅子持ってきてよ。二人で座るのしんどい。」



「やだよ~。安藤と渡辺じゃ遠すぎて、椅子持ってくるの面倒くさいんだもん。」




そう言って、

美咲は私の椅子に半分腰かけた。



一人掛けの椅子に二人で座るのは、

片脚が攣りそうになるくらいに疲れる。



でも、美咲と一緒にいれるなら、

その疲れも苦痛ではなかった。




……なんて、自分の心の中の言葉に寒気がする。



決してこの感情は恋とか、

そういった類のものではないのだけれど。



美咲は誰よりも特別で、

他に変えようのない存在だ。



中学からずっと一緒にいると、友情と愛情はほとんど同義な気がしてくる。



美咲は、家族も同然だ。





私の狭い机の上で、

美咲は巾着からお弁当を取り出す。



それを見て、私はふと思った。




「美咲さ、今日って

放送当番じゃないの?」



「え?……あ、」




美咲は思い出したように

あんぐりと口を開ける。




「やっぱそうじゃん、早く行きなよ!」



「やだやだやだ!ここで食べる!」



「委員会変わってから今日が初仕事なんでしょ?初回からサボってどうすんのさ。」



「それはそうだけど……」



「分かったならほら!行った行った!」




そう言って私が美咲のお尻を椅子から追い出すと、美咲はあからさまに不機嫌な顔になりながら巾着に弁当を戻した。



委員会に友達なんてとっくにできているだろうに、美咲は私といたいらしい。



少し、口角が上がりそうになる。



美咲は自分の椅子に広々と座れるようになった私をキッと睨んで、重い足取りで教室から出て行った。




美咲がいなくなった教室は、

まさに嵐が過ぎ去ったような静けさだ。



ああは言ったけど、

美咲がいなくなると私は一人だ。



美咲がいればそれでいい、なんて、友達が出来ない言い訳でしかないのだろう。




私にとって美咲は特別で、

きっと美咲にとっても私は特別だ。



けれど、他にもたくさん友達がいる美咲にしてみれば、私とは少し特別度が違うのかもしれない。




放送当番だって、

気付かなきゃよかったな……



そう思いながら、私は一人寂しく

卵焼きを口に放り込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る