人形列車 鉄亜鈴城1
列車旅行の途中で意思のある人形リニスと出会った私は、最初の目的地でクラスメイトの望さんと同じ列車に乗っていた乗客のマリアさんと一緒に事件を無事に解決し、次の乗車駅へと向かうのでした。
「…………んっ…………し、忍さん、そんな事したらプロゲーマーの大安売りになっちゃいます!? …………………………およ?」
心地よい汽笛の音で目を覚ますと、そこはガタガタと揺れる列車の中でした。
「まさかあんな夢を見るなんて…………」
大きくアクビをしながらベッドから体を起こそうとしましたが、どういう訳か全く体が動きませんでした。
それに何だか体全体が重いような気もします。
―――――そう。
これはまるで重力を操る能力者に動く事を封じられたかのような感覚。
どんどん私を押し付ける力も強くなり、このままでは息をする事すら困難になってしまいそうです。
そんな絶望的な状況を脱出する為に、私が取った行動は―――――。
「…………あの。望さん、そろそろどいて欲しいんですが」
「…………ふぁああ。…………あれ? なんで桜ちゃんが望の部屋にいるの?」
「というか、どちらかというとここは私の客室なんですけど」
「…………あれ? そうだっけ?」
「そうなんです」
望さんもアクビをしながら寝ぼけた頭を整理すると、2分くらいしてようやく今の状況を理解してくれたみたいで、体を半回転させて私の上からコロリとベッドの端っこへと転がって行きました。
「じゃあ、おやす~」
「二度寝!?」
そのまま望さんは眠りに落ち、幸せそうな顔ですやすやと寝息を立てながら再び夢の中に。
「さて、では私ももうひと眠りっと…………」
掛け布団を深めにかぶり、目を閉じてさっきまで見てたよく分からない夢の続きを見ようとしたのですが。
「はーい。起きる時間ですよー」
と、ピピピという耳障りなアラーム音と共に夢の世界に行くのを阻止する存在がありました。
「ああああーーーー! もう、うるさいです!」
私はバッとベッドから起き上がり、完全に目が覚めてしまいました。
「桜がお寝坊さんにならないようにお願いされてるからね~」
「むぅ。もうちょっとくらい寝かせてくれても良かったのに」
望さんとリニスもさっきので起きただろうと横を見てみると、2人はまだ寝ているみたいでした。
「あれ? さっきので起きてない?」
「桜が一番嫌がる音声パターンのアラームだから、2人にはそうでも無かったんじゃない?」
「…………無駄に高いスペックを、全力で嫌がらせに使わないでください」
2人を起こさないようにベッドから出た私はそのまま鏡の前までいくと、そこにはボサボサツンツンヘアーで半目状態になっている自分の姿が――――。
「…………えっと、ドライヤーはっと」
少しぼやけている視界で洗面所に向かうと、向かいにあるシャワールームの入り口が見えました。
「そういえばシャワールームがあるんでした」
せっかくだし朝からシャワーを浴びる事にしました。
服を脱いでシャワールームに入り、お湯が出てくるシャワーヘッドの場所を確認したのですが、何故かどこにもシャワーヘッドが見当たりませんでした。
シャワールームの中にあるのは、お湯を出すボタンと温度を調節するボタンのみ。
「…………これは? あっ!? もしかして最近話題の電子シャワーかも!?」
電子シャワーとは最近開発された新しい規格のシャワーで、微弱な電磁波を上部にある装置から放出して体の汚れを落とす事が出来る物です。
水を使わないので使った後にタオルで体を拭く必要は無く、シャンプーも必要無いので髪が痛む心配もありません。
唯一欠点があるとしたら設置費用が少し高い事。
まだ開発されたばかりなのでそんなに安く製造する事は出来なくて、一部のホテルなどでしか導入されていないのですが、まさかここで新商品を試す事が出来るなんて凄く運がいいです。
温度を適温に調節してからボタンを押すと、シャワールームの上の方から光の雨の様な物が降り始めました。
手で触れてみると、確かに暖かくて本当にお湯みたいな感じです。
最初はちょっぴり怖かったですが、すぐに楽しくなってしばらく電子シャワーを浴びていると。
「さくら~。いつまでシャワー浴びてるのさ~」
と私を呼ぶ声が聞こえてきたので時計を確認してみると、どうやら20分くらいシャワーを浴びていたみたいです。
「そろそろ、でま~す!」
返事をしてからすぐにシャワーのボタンをオフにするとすぐにシャワーは止まり、電磁波を中和するための風のような物が下から吹き上げてきて、体に付着した余計な電気を飛ばしてくれました。
ちなみに、こっちも凄く気持ちがいいです。
「ふぅ。予想以上に良くて中々抜け出せませんでした」
数秒後。安全が確認されてからシャワールームのロックが解除され、私は外に出て鏡を覗き込むと、ワシャワシャになっていた私の髪の毛は電子シャワーによって見事ストレートパーマをかけたかのように真っ直ぐになってました。
――――そう。
ゴンさんやデーモン閣下と同じくらい真っ直ぐな感じに!
「って、さかだってる!?」
電気を帯びた私の髪の毛は、下敷きで頭をこすった時みたいに重力に逆らって天を目指してます!?
流石にこのまま外に出たらロックミュージシャンだと勘違いされちゃうかもしれないので、急いで最大風速のドライヤーを使って全力で髪の毛を重力の支配下へと戻す事に成功しました。
「…………ふぅ。これでよしっと」
なんとか元通りになって一安心。
「…………それにしても電子シャワー恐るべしです!」
シャワールームの入り口を見ると光に反射してキラリと光り、またいつでも来なと私を誘っているように見えました。
「今度使う時はちゃんと時間を見て長時間使わないようにしないと」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます